適正技術と代替社会――インドネシアでの実践から (岩波新書)

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  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004313830

作品紹介・あらすじ

地球の未来は、現在の技術文明の延長上には描けない。先進国の技術転換とともに、途上国の状況に適した"適正技術"が必要だ。それは、近代科学技術の問題を乗り越える使命をも帯びている。インドネシアにおける排水処理やバイオマスエネルギー開発の実践をふまえて、今後の望ましい技術のあり方と、それを含む代替社会の方向性を探る。

感想・レビュー・書評

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  • 石油会社で生成部門などの仕事をしながら、NPO法人でインドネシアでの技術提供に尽力してきた筆者がその体験から、それぞれの社会状況に応じた「あるべき技術」と、持続可能な消費社会の姿を提言する。

    「途上国」と言われているインドネシアの人々の生活ぶり、特に「自分で作れるものは自分でなるべく作る」様子に触れることで、先進国の人々が失ったものを再認識させられる。ひとたびインフラが止まれば生活全般がストップしてしまう世の中と、不便(本人達はそう思ってない)な中でもある程度自分達でなんとかできてしまう国を比較し、豊かさの尺度の違いを思う。

    SDGs流行りだが、単なるブームや「意識高い」だけの取り組みとは違う次元で、生活に根差した持続可能な社会の一つの理想系を示してくれている。「質素な生活でも心の豊かさ」などと月並みな考えではなく、考え方を替えることで次の世代へ向けた豊かさの形を考えようという気にさせてくれる。

  • 信州大学の所蔵はこちらです☆
    https://www-lib.shinshu-u.ac.jp/opc/recordID/catalog.bib/BB09933973

  • 適正技術とは
    ○Appropriate Technology:先進国の技術を条件の異なる途上国に単純に移転するような試みが失敗してきた反省をふまえて、現地の社会的・経済的あるいは文化的条件に即した、現地に受け入れ可能で、そこにおけるニーズを効果的に充たす技術
    ○Alternative Technology:一九六〇年代後半から、一九七〇年代初めにかけて顕在化した、公害や再生不可能な資源の浪費、人間疎外などの、近代科学技術がもたらしたさまざまな問題を念頭に、それらを解決する技術的代替をなす技術群

    今ではあまり使われない言葉。。。上記2つの意義がごっちゃにされてきたと言うが、著者自らもなぜこの2つがリンクするかを十分に明らかにせず議論しているようにも思う。前者は面白いが、後者の文脈に持ってくると若干の飛躍があるような。そこらへんも、あまり使われない言葉になってしまった一因では。

    <blockquote>星野芳郎は、AT(オルターナティブ・テクノロジー)やエコロジストたちの社会構想を批判しつつ、今後の産業社会のあり方を論じた論考で、「大工場は技術的に、かつ政治的・経済的に必要ではあるが、それは中小工場の大海に浮かぶ島のような存在となるであろう。」と述べているが、それは正しいと思う</blockquote>ふむふむ。


    著者自身が経験したインドネシアでの排水処理(主に家庭)事業と、バイオマス・ボイラー開発の2事例が取り上げられている。

    廃品利用がとにかく盛んな点と、ベンケルという工場(こうば)に代表されるDIY的モノつくり文化がインドネシアの特徴。地震・津波の後の復旧には、そうしたロバストな技術が活躍した。著者が活動していたベンケルのスタッフは、小型トラックに発電機とポンプを積んで、壊れた井戸を修復して回った。吉村昭『東京の戦争』で、空襲後に電柱を掘り返して燃料にした人たちが描かれているが、現代の日本にはこの手の力はもうないだろうな。

    <blockquote>製作図なるものは、およそ日本で作られる精密な図面とは対極をなす、いわばスケッチのごときものであった。主だったところのサイズは入っているのだが、細部は現場の人にまかされる。配管などは、ほとんどが現場合わせで長さや配置が決まる。要は、まずつくってみて、問題があれば直すというやり方</blockquote>しかし、そのために複数の仕事を平行しておこなって最後に組み立てると言うやり方はできない。順々にやるのでどうしても時間がかかる。簡便さと時間のトレードオフ。

    排水処理で活性汚泥法は大量の排水をきれいに処理するのに威力を発揮するが、運転管理が難しいし電気を食う。インドネシアでは暑い気候を利用したローコストの嫌気式の処理が多いが、あまりきれいにならない。著者らは嫌気式で前処理をして、シンプルな回転円盤式で後処理をする方式を導入。発想は浄化槽と同じか。
    →とにかくできるところから小規模に始めるには著者らの方式は優れているのだろう。その意義も認める。しかし、ジャカルタ全体の排水を先進国並みのレベルで処理しようとしたら、もっと大規模な方式に優位性ができるのでは。とすると、Appropriate Technologyとしては○でも、Alternative Technologyってのはふかしすぎ。

    バイオマスボイラはタールの削減がミソ。流動炉に挑戦する。あまり前処理していないバイオマスの投入を気密を破らずにどうするかが難しい。バイオマスのガス化技術は、高度に専門化されたエンジニアリング会社やプラントメーカーにしか立ち入ることのできない領域であったが、5分の1程度のコストで実験炉を作る(まだ実験炉だが)。まだ石油との競合はコスト的に無理(いま勝負しているのはブラジルのエタノール車くらい?)だが、化石燃料と違って薄く広く散在するバイオマスの利用のためには小型・簡便な設備が有利になるだろうと。

    思うに携帯電話って、いま新興国にとって最大の適正技術だよな。

  • 先進国と途上国との間に横たわる埋めがたい技術格差。今、求められているのは、先進国の技術を途上国にそのまま移転するというものではなく、近代技術の反省を十分に踏まえた途上国それぞれの条件に応じた開発。著者はインドネシアにおいて嚇々たる実績を残しており、まさに論より証拠を実践している。非西欧社会でありながら高度な科学技術を有する日本の貢献のあり方を問いかける貴重な一冊。

  • インドネシアでの実践を例に、途上国での適正技術、あるいは先進国での代替エネルギーなどを論じている。個人的には、研究や専攻の関係から、第4章が琴線に触れる部分が多かった。

    ①「適正技術を考える」(p38)

    現在世界を悩ます社会問題の多くは、先進国の達成してきた発展の仕方がもたらしてきた。そして、その発展を支えてきたのが先進国の近代科学技術である。そのため、先進国を後追いする形で途上国を引き上げようとする従来の発想でいると、途上国も同じような問題を抱えることになる。
    新たな発展の在り方として、技術やエネルギーを考えていくべきである。

    ②適正技術≒中間技術(第1章 インドネシアと日本の落差から)



    先進国の技術(1000ポンド技術)は巨額であり、伝統産業を破壊して仕事を奪う。途上国の技術(1ポンド技術)は、金は少ないが豊かになれない。そこで、求められてくるのが100ポンド技術とも言うべき「中間技術」(p30)である。先進国の技術を途上国に持ち込むのではなく、より多くの雇用を生み、貧困を緩和する技術とはどのようなものかを意識しながら、新しい技術開発に臨むべきである。

    ③先進国と途上国 共通の理想(第4章 代替社会に向けて)



    我々は便利な製品を消費することに慣れ、躊躇なくエネルギーを使う。だが、その生活がもたらした豊かさは我々をそれなしではいれないようにし、消費を拡大させる。社会問題を引き起こし、専門性は一般人からさらなる壁を作り出す。途上国に合った適正技術、代替社会を考える機会は、先進国のこれからを見直すことにつながる。これからの途上国の発展は、先進国の消費スタイルではなく、持続可能な、代替社会を目指すべきなのである。

    発展途上国の援助に先進国の技術を単に輸入するだけでなく、途上国に合った持続可能な技術を考えていく中で、先進国や地球環境の発展にもつながる。この適正技術や代替社会の話を通して、もう一度、そういったことを先進国は考えるべきであろう。

  • 【入手前のコメント】2012/10/4
    最近インドネシアに投資する人や会社が多いと話題になっている。BRICSに入っていなかったけど、さらにその後に続く発展途上国ということなのかな?この本は適正技術というのが興味深い話題。

  • 田中氏の取り組みがベースの報告で、説得力もあるし、教条主義的でない点に好感がもてると思う。
    ただなあ、それこそ80年代に適正技術が言われ出して以降、それが社会全体に取り入れられていけるのか、となると別問題だろう。

  • 先進諸国で築き上げられてきた技術体系、産業組織、規制制度などを前提としたエンジニアリングをそのまま途上国でも適用するのではなく、技術の根本に立ち返って最適な方法を模索するという考え方は、知っておくべきものだと感じた。

    決して安普請を薦めているのではなく、現地で管理運営できて現地のニーズに合った手法を考えるべきであり、その中で経済的にも従来の数分の一程度のコストで達成できるものがあるということである。

    ・自分たちでやること
    ・小規模分散型の発想
    ・技術の根源まで立ち返ると代替手法が見つかってくること

    などが、重要なポイントであると感じた。

    筆者が実際に取り組まれた排水処理プラント、バイオマスエネルギープラントの取り組みが非常に印象深い。

  • シューマッハの「スモール・イズ・ビューティフル」は学生時代にこれをメインにした講義があって、本も読んだから懐かしい。本書でもシューマッハのことが取り上げられている。
    筆者のインドネシアでの実践をもとに、適正技術とは何か、先進国と途上国とは何かといったテーマが論じられている。
    しかし幸福って何だろうなぁ。

  • 自分にとっては新しい概念「適正技術」と「代替社会」についてよくわかった。
    先進国と後進国という概念がそもそも間違った見方、見誤った将来のあり方を示唆しているともいえる。
    単純に後進国には適正技術をというのではなく、先進国といわれる国々の今後のあり方などが根本的に問われている。

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著者プロフィール

1976年、東京大学工学部卒業。石油会社にて、石油精製プロセス管理、排水処理の技術開発などに従事する一方、1987年より、国際協力NGO、APEX代表、1999年より専従。理学博士。現在、特定非営利活動法人APEX代表理事、適正技術フォーラム共同代表。著書に『適正技術と代替社会-インドネシアでの実践から』(岩波新書)、編著に『転換期の技術者たち-企業内からの提言』『第三世界の問題を考える』(以上、勁草書房)、『エネルギー問題-工業化社会における自然と労働』(社会評論社)、『暮らしと技術を変える』(亜紀書房)他。

「2022年 『現代適正技術論序説』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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