政治的思考 (岩波新書)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004314028

作品紹介・あらすじ

政治への不信感が高まる今こそ、政治をどうとらえ、いかにそれとかかわるかが問われている。決定・代表・討議・権力・自由・社会・限界・距離という八つのテーマにそくして、政治という営みの困難と可能性とを根本から考えていく。私たちの常識的な見方や考え方を揺さぶり、政治への向き合い方を問う全八章。

感想・レビュー・書評

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  • 十人十色の考え方や意見の相違を調整するのが政治の営みである。ゆえに誰もが政治から逃れることはできない。政治の問題は、すべて自分自身の問題に帰するのである。

  • 決定・代表・討議・権力・自由・社会・限界・距離という8つのテーマを通して、政治の捉え方、関わり方を記す。
    政治は皆のことについて決める営みである。納得はいかないが、受け入れなければならないこともある。政治に不愉快さ、押し付けがましさがつきまとうのはこのことによる。何を問題とするかを決めた時点で、責任を誰に問うかもある程度決まっている。したがって、いつ何を問題とするか決めることは慎重であるべきである。
    代表制が必要な理由には、規模の問題、専門性の問題がある。しかし、それだけではなぬ、政治家がそれぞれ意見を主張することで、知識の乏しい人々が争点や対立軸を理解するという政治劇(演劇)的な装置として代表制が存在していると考えられる。
    討議することは民主制において重要であり、消滅してはならない。政治に正しさを過度に導入しようとすると、人々による話し合い、複数性が排除され、全体主義体制になりうる。
    主権的な権力だけでなく、監視の権力、市場の権力等について、我々が支えているといえよう。その権力が排除されていないのは、我々が望んでいるからである。したがって、不都合な問題に対して、外部の人に押し付けるポピュリズム的な考え方をするのは妥当ではなく、権力の責任者はここにいることを自覚するべきである。
    自由は権力と対義されやすいが、社会権のように自由の条件整備のために権力が必要な場面もある。すなわち、自由な状態とは政治的な秩序の不在ではなく、むしろ権力や政治によって実現しなければならない点もある。
    今では経済のグローバル化と主権国家の相対化により、国民という単位で政治的な決定をしても、その効果が限定的になっている。政治の複雑性や不透明性が拡大している今日、当事者として関与しながらも、過度な期待を持って早期解決を求めない距離を保ち、中長期的・俯瞰的な視野を持つことが必要なのである。

    政治との関わり方を一般人に分かりやすく示した書である。また、政治が我々の生活の至る所に不可分のものとして存在していることを理解させてくれる書でもあり、政治に詳しくない初学者向けの良書であろう。
    しかし、政治と関係するあらゆる分野について(例えば、メディア、官僚制、教育)、そこに存在する課題の全ての要因を我々に帰着させている点が強引すぎるように感じた。確かに、民主主義国家でにおいては民意を反映させた政治がなされるが、そのことをもって政策の全てを直ちに自分たちの一部とする(当然そこに責任も発生する)のは、我々の範囲を広く捉えすぎているのではなかろうか。

  • 政治的な思考の上で大切にすべき事が、分かりやすく書かれた著書でした。特に、政治の問題は自分の問題でもあるという考え方を基盤として書かれています。第1章から第8章まで、「決定」「代表」「討議」「権力」「自由」「社会」「限界」「距離」の8つのワードをテーマに、政治的なるものの考え方が書かれています。本書は、何か一つの答えを提示するというコンセプトで書かれたものではなく、むしろその様な一つの答えを求める態度、与えられた答えを信じる事の危険性が述べられています。極論の問題点、極論に走らないように気をつけるべき事など本書から学べる事が多くてタメになりました。
    第1章、第2章は、個人的には本書の中ではあまり面白くない内容でした。特に、第1章で突然憲法の話が出てきて、話の繋がりが切れてしまっている様に感じました。憲法についての内容に異論はないのですが、第1章で触れるべきだったのか疑問です。他の文脈でも良かったのではないでしょうか。第2章では、国会のねじれなどの「決められない政治」はむしろ、一側面として現代の政治で決める事の困難さを表していると捉える考え方にはなるほどなと思いました。
    第3章以降はなかなか面白いです。第3章では、社会契約論が「話し合いを過去の時間に閉じ込め、実はそれを打ち切る論理」であるという側面を持つ事を明らかにし、一度成立した契約を自明の前提とする事の危険性と、話し合いの大切さが述べられています。また、一つの正しい答えを求める学問の議論、とりわけ自然科学や政治哲学の議論に対し、現実の政治には多様な意見が存在し、一つの正しさを追求する事は少数派に酷な結果をもたらしかねないとも述べられています。
    第4章では、権力には抑圧的な面だけでなく、権利の保障という積極的な面もあり、自由と正面から対立する様な捉え方が必ずしも正しくないことが説明されます。この章では、特に本書の骨子とも言える考え方が明らかにされる点で重要だと私は感じました。その考え方を表しているのが、「権力への抵抗は自分への抵抗だと考えるべきだ(p101)」という部分。これでもって、主に第5章で自由と権力を対立する概念として捉える傾向の強い自由主義を批判するのですが、それに先立ったこのフレーズがまさに本書の骨子の一つであると私は読み取りました。つまり、何かを批判するときは、批判すべき政治や社会の中に生きる自分にも、批判すべき対象が内在化されている部分が必ず存在するので、必要なのは敵を見つけて攻撃する様な事ではなく、他者批判を通じた自己批判にも意識を向けるべきであるという事だと思います。更には、第8章で詳しく述べられる事ですが、自分が批判する意見にも、別の側面にはある意味での正しさがあり折り合いをつけなければならない意見でもあるという考え方にも通じるところです。自由主義者が権力批判を持ち出す事でむしろ、自身の政治や権力への関与を隠してしまうという本質をついた内容であり、自由と権力の境界線を引く事の難しさから目を背けている点を鋭く指摘しています。また、ここから市場主義批判にも繋がります。また、市民社会論についても、国家、市場、社会の三領域に境界線を引き、国家でも市場でもない社会の大切さを述べる利点もありつつも、国家批判ばかりに傾倒し、市民社会論がむしろ市場主義に呑まれてしまう事があると指摘して、国家にも、市場にも、社会にも、それぞれ重なる部分があり、切り分けて批判すれば良いものではないという事を明らかにしています。線引きや対比は、何かを明らかにすると同時に、何かを隠してしまう作用もあるという事ですね。
    第4章、第5章で触れられた権力観と自己批判、当事者としての自覚の考え方をベースにすれば、残り3つの章はスムーズに読めるかと思います。何か取り上げるとすれば、第8章のまとめ部分で、政治的思考の注意点が3つ挙げられているところですかね。政治を考える上で大切な事は、第一に、多様な価値観に基づいた多様な意見を調整する事が政治であり、一つの統一された意見を目指す事が目的ではない事、第二に、他人を否定して自分と他人との同質化を目指す事をせず、他人との適度な距離感を保つ事、第三に、政治は複雑で不透明な世界の中にある事を意識し、「おそれ」を持って政治から距離を取り、単純な敵対関係や二元論を避ける事だと言います。
    本書は、巷で流布される様な単純で分かりやすい二元論や解決策から距離を取り、政治を自分の問題として捉える事の大切さを知る上で有益です。特に個人的に大切だと感じたのは、第3章、第4章、第5章、第8章です。ここだけでも充分な価値があるかと思いますので、是非オススメします。

  • 杉田敦『政治的思考』岩波新書 読了。八つのキーワードを元に政治的に考えることについて議論していく。多様な価値観を前提に物事を調整していくこと。絶対的な正否や善悪などなく、多面的で相対的であること。「私たち」が泥臭く考え抜き、手探りで行動することが、今をよりよくする道筋なのだろう。

  • 792

    政治の向き合い方へのスタンスって学校で習えないけど重要なことだと思った。社会で生きていくために大事なことはほとんど学校で教えてくれないことだけどね基本。化粧の仕方とか人との付き合い方とかもそうだけど。政治っていうのは社会の最大公約数の妥協点を探ることで個人の理想を追求するものではないという事が書いてあった。政治というものにはある種の押し付けがましさ不愉快さが付きまとうもの。過度の期待は政治への絶望に繋がり、政治そのものへの興味を失うから気をつけた方がいいらしい。


    杉田 敦(すぎた あつし、1959年4月30日 - )は日本の政治学者。 法政大学教授。 専攻は、政治理論、政治思想史。 群馬県伊勢崎市生まれ、東京育ち。 みんなで決めよう「原発」国民投票の代表を務める。 [略歴] 筑波大学附属駒場中学校・高等学校卒業 1982年 東京大学法学部卒業 1982年 東京大学法学部助手 1986年 新潟大学法学部助教授 1993年 法政大学法学部政治学科助教授 1996年 法政大学法学部政治学科教授 2003年 - 2007年 放送大学教養学部客員教授 [関係者] 制度的な指導教官は福田歓一。 1期上の兄弟子に川崎修がいる。

    まして政治は、みなのことについて決める営みです。複数の人びとの間の集合的な決 定にかかわるわけで、そのために、政治は個人的な決定とは別の水準の理不尽さをもた らすものとして、私たちに意識されることが多い。複数による決定ですから、自分の意 のままにはいかないことも少なくないのです。全体を称する多数派の都合のために、 分が損をすることだってある。だからといっていつも従わなければ、決定すること自体 が無意味になってしまいます。この世に自分一人だけで暮らしているわけではないです から、集合的な決定は避けられるものではありません。納得はいかないけれども受け容 れないわけにもいかない。このあたりから、政治というものにはある種の不愉快さ、押 しつけがましさがつきまとうことにもなるわけです。

    一般的にいって、政治に過度に期待することはあまりいいことで はありません。過度な期待は絶望と紙一重です。期待が裏切られる と、政治そのものへの絶望につながります。そして、政治などなく てもいいのではないかという話になってしまう。 ただし、政治との問に距離をとるべきだといっても、それは、政 治をなくせばいいという話とは違います。逆説的ですが、政治を活 かすためにこそ、政治に距離をとるべきなのです。政治に距離をと ることで、政治は活きるのです。政治的思考にとって大切なことを 以下にまとめてみましょう。 第一に、政治はさまざまな価値観にかかわるものであり、多様な 価値観の間の調整こそが政治だということを理解する必要がありま す。

    よくいわれることですが、ユーモアとは自分に対して距離を置く ことができるような態度と関係しています。深刻な問題であって も、少し距離を置いてみれば、たかだかこの程度の問題だというこ とで、気持ちが少し軽くなる。それがユーモアでしょう。そう考え てみると、実は政治や外交にはユーモアが必要なのかもしれませ ん

    政治は、利害関係を異にする生身の人間たちの対立を前提とし て、調整する作業をしなくてはならない。これは簡単な話ではあり ません。自然を相手にしているわけではないですから、すっきりし た結論が出ないのも当然です。政治は複雑な活動です。

  • 今の政治システムは完全なものではない。全員の意見を汲み取ることは不可能だし、構造上の欠陥があるのは事実である。だからといって、闇雲に制度を批判したり、政治参画を放棄しても良いわけではない。そもそも政治から逃れることは不可能で、どのように向き合っていくか、問題に対してどのようにアプローチをするのか、深く考えることができた。

  • 政治哲学の本。
    10年くらい前に刊行されているが、今読んでも古びていない。

    誰が、いつ、政治的な決断をするのか。
    誰かが誰かを代表するとはどういうことか、可能なのか。
    権力の源泉は。そして自由とは権力をなくすことか。

    アトランダムに書き出したが、こんな原理的な問題が検討されていく。

    いま、ここにある問題を外部化するのは危険なことだという話が印象的だ。
    政治家のせい、官僚のせい、外国のせいとすれば、気持ちは楽になるが、問題は解決しない。
    自分(たち)の中の、変化を嫌う何かを見極めなければならない、というのだ。

    その通り、とも思うが、難しいだろうな、とも思う。

  • 前半おもろい。
    後半は難しくておもんなかった。

    政治をどう理解すればいいか、
    政治へどう接したらいいか書かれた本。

  • 平易な文章で書かれており、大学で政治学を学ぶ前、政治とは何だろうと考える際に一読するのが良いのかもしれない。柔らかい文体ではあるが、ところどころ思い切り突き刺してくる。

    読みおわってなるほどなと思った後に、あとがきを読んで思わず笑ってしまった。

  • 政治とはなにか? という入門の第一歩的内容。
    「政治」とは関わりたくないなぁと思って生きてきたけれど、社会で生きていく以上大なり小なり政治と関わらなくてはならないので、これからはちゃんと向き合っていこうと思います。

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著者プロフィール

1957年生まれ。名古屋大学理学部物理学科卒。素粒子物理学専攻。東京工業大学像情報工学研究施設に研究員として2年間在籍。コンピュータ・ヴィジョンの研究に従事。科学哲学、人工知能、美学に関する評論活動。著書『メカノ──美学の機械、科学の機械』『ノード──反電子主義の美学』(いずれも青弓社)。

「年 『メカノ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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