トラウマ (岩波新書)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004314042

作品紹介・あらすじ

様々な要因と複雑に絡み合い、長期に影響を及ぼす「心の傷」。その実際は?接し方は?そして社会や文化へのかかわりは?研究者として、また臨床医として、数多くのケースをみてきた第一人者による待望の入門書。

感想・レビュー・書評

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  •  この本は図書館で借りて読んだ。トラウマについての説明、事例、乗り越えて生きている人の話などが紹介されていた。「トラウマ」というだけあって読んでいて精神的にきつかった。
     印象に残ったのは作者がトラウマを環状島をモデルにして説明しているところだ。これは作者オリジナルのたとえでトラウマ専門家のなかで特に知られているわけではないのだが、被害者が簡単に口にできないようなトラウマをこうしたわかりやすい形で説明されるとありがたい。同著者の本に『環状島=トラウマの地政学』という本があるのでそちらも読んでみたい。

  • トラウマとはどのような状態のことを示すのか、誘発される病気は何か、どのように向き合うべきか、などを知りたかった。今現在トラウマのようなものにとらわれているが、それに関して一般的な知見を得たり言語化したりすることで回復の糸口がつかめればいいなと思った。

    世間には自分よりもっと過酷な状況、深刻な症状の人がいて、それに比べれば私は軽いほうなんだ、と感じた。これぐらいの症状で精神病だなんて言っていて、本当に苦しんでいる人に対しておこがましかったかも。

    p44の環状島の説明、わかりやすかった。

    自分にとってなんでもない言葉が相手にとってそうであるとは限らない。自分が加害者の側に無意識のうちにならないように注意しないといけないと思った。

    また、悩みを抱えた人に対する接し方についても記述があり参考になった。

  • トラウマという言葉は、「PTSD」で有名になったが、逆にこのことで「医学化」されてしまい、問題が矮小化されすぎてしまっているきらいがある。何か大きな問題が起こると、すぐに「こころのケア」が叫ばれるが、いつも微かな疑問を感じてしまう。この著者の本を読むと、いつも何故かホッとする。いろいろな意味で幅広い臨床経験と、幅広い視野から「トラウマ」をとらえておられるからだろう。依存症の問題、ジェンダーの問題、マイノリティの問題、など勉強になった。沖縄の問題では蟻塚先生の記述も見られ、更に親近感を持った。

  • トラウマという語は最近では気軽に使われるけれど本来は言葉にできないことなのだろう。読み進めていく内に誰もが被害者にも加害者にもなり得ることに気付かされて辛かった。またこの本では割愛されているものの被害者の加害者性や加害者の被害者性についても何時か読んでみたいと思った。最終章で語られた創作という過程を通しての回復はとても人間的で希望を感じる。

  • 回復の道のりが新たなストレスをもたらすこともある。
    安全な場所で、共感性をもったよい「聞き手」に話を聞いてもらうことで、気持ちの整理がついてくる。
    とまどいながらそばによりそい続けることには、計り知れない価値がある。
    自己尊重感や試行錯誤の経験抜きには人間は成長していけません。
    安心できる場所とは、自分がそのままでいていい場所、存在証明から解放された場所でもある。
    ただ誰が、誰を、誰から救済しようとしているのか、救済されるべき人たちはそのことを望んでいるのか、ということを考える必要があります。
    トラウマも「耕す」ことによって、豊かになっていく。柔らかく混ぜ返し、外から空気を入れれば、ふくよかになっていくのでないか。重く凝り固めるのではなく、水分を含んだ、ほぐれるようなものになっていく。「耕す」とは、〈内海〉の揺らめきに目を凝らしたり、波打ち際のざわめきに耳を澄ますことと重なっている。言葉にならないもの、見えないものがそこにあると気づくこと、時には水を掻き出し〈水位〉を下げ、時には網を投げて沈みかけていたものを引き上げること、時にはそっと足を踏み入れ、貝殻のような何か足裏に触れたものを拾い上げること。そんなイメージ。
    トラウマは、人間の弱さと不完全さを認識させてくれる。圧倒的な外力に対して、「同じ人間として」「人が傷つくのは同じ」という事実は、何があろうと揺らぎません。たとえ個人の気質や体力の差や、周囲の反応や使える資源によって、傷からの回復の程度が実際には変わるとしても、人間の存在自体の脆弱性は、誰もが共通して持つもの。
    人間は皆、不完全です。弱さだけでなく、愚かさや身勝手さを抱えています。そもそも、人は皆、人生の初心者です。すべて人生は一回目です。たとえ人間社会で知識が蓄積され伝達されるとしても、学び、成長していくには時間もかかるし、努力も必要です。
    トラウマは、人間の持つ復元力への信頼と尊重をも学ばせてくれる。つらい経験をしながらも前向きに生きて行く力、困難を適切に切り抜け、乗り越える力です。つらい体験をしても、それと向き合い乗り越えることで、成長につなげ、人間としての豊かさを広げること。こういった考え方は、外から押しつけられると、つらくなってしまいます。
    トラウマは創造力や理想像、知恵の源になる。
    表現者として自ら発信するとき、人は力を取り戻します。「私はここにいる」と発信する行為なのです。
    自己を表現する手段を持たないために、社会に受け入れられず失敗することを繰り返してきた。自分の思いを表現することは、自己イメージの回復にもつながります。
    あなたが何を言っているのかは分からない。でもあなたが何を言いたいのかは分かる。
    何かを作ってみようという気持ちになること、何かを表現してみようという意欲が出てくること、自分が何かを表現してもいいと思えること、何か表現すべきものを自分が持っていることに気づけること、誰かが受けとめて興味を持ってくれるかもしれないという希望を持てること、そこの部分が重要なのです。
    「何者」にもならなくていいということ。それがトラウマからもたらされる想像力や創造性の帰着点です。そして、それがまた新たな想像力や創造性の原点となるのです。

  • トラウマは特別な人が負っているものではなく、実はとても身近なもので、社会問題とも根深く繋がっているということがもっと広まれば良いと思う。
    著者が「環状島モデル」と名付けたトラウマの構造図がとてもわかり易くて良い。
    トラウマを受けた人=社会的マイノリティ が戦う方法が生き延びることだった、という記載が印象的で、トラウマとの向き合い方を示している。トラウマを耕すことで表現や発信をし、豊かさを生み出すことが出来るというのも。

  • DV
    暴力ではなく、親密な間柄の支配-被支配の関係。

  • 著者:宮地尚子

    通し番号:新赤版 1404
    刊行日:2013/01/22
    9784004314042
    新書 並製 カバー 282ページ

    様々な要因と複雑に絡み合い,本人や周囲にも長期に影響を及ぼす「心の傷」.その実際は? 向き合い方は? そして社会や文化へのかかわりは? 研究者として,また臨床医として,数多くのケースをみてきた第一人者による待望の入門書.著者は究極の心のケアとはとまどいながらもそばに居続けることといいます.きっとそのヒントを得られる一冊です.
    https://www.iwanami.co.jp/smp/book/b226191.html


    【目次】
    はじめに [i-xi]
    本書の構成/「心のケア」について
    目次 [xiii-xv]

    第1章 トラウマとは何か 001
    1 トラウマという概念 003
      心の傷と三要素
      ‎トラウマ体験
      ‎トラウマ体験の分類
      ‎事件の最中と直後の反応
    2 トラウマ反応とPTSD 013
      PTSD
      ‎PTSDの四症状群
      ‎回復の障害
      ‎PTSD以外の反応や症状
      ‎解離
      ‎喪失・悲嘆
    3 何がトラウマで、何がトラウマでないか 029
      線引き問題
      ‎トラウマのメカニズムの解明と「心のモデル」の問い直し 
    4 なぜトラウマか 033
      拷問
      ‎いじめ

    第2章 傷を抱えて生きる 039
    1 埋もれていくトラウマ 041
      〈環状島〉というモデル
      ‎震災とトラウマ
      ‎孤独に抗う
      ‎語られにくいトラウマ
      ‎秘密にするということ
      ‎語られないトラウマはどうなるか
    2 子どものトラウマ 061
      子どもへの虐待
      ‎アタッチメントの問題
      ‎虐待の長期的影響
    3 恥と罪の意識 068
      依存症
      ‎自傷
      ‎サバイバーギルト

    第3章 傷ついた人のそばにたたずむ 077
    1 そばにいるということ 079
      自分自身の傷つき
      ‎代理外傷や燃え尽き
      ‎当事者との関係の変化や葛藤
      ‎ただそばにいることの難しさ
      ‎傍観者
    2 トラウマ治療の実際 088
      トラウマ臨床と専門家の役割
      ‎精神医療におけるトラウマの位置
      ‎効果的な治療?
      ‎医療現場におけるトラウマ
      ‎緩和ケアや緩和医療
      ‎治療共同体や自助グループ
      ‎どんなことが行なわれているか
    3 トラウマを負った人にどう接するか 107
      「語られないこと」を聞くことはできるか
      ‎聞く力

    第4章 ジェンダーやセクシュアリティの視点 111
    1 ドメスティック・バイオレンス(DV) 113
      DVの実態
      ‎支配―被支配の構造
      ‎なぜ問題にされずにきたのか
      ‎加害者の「病理」
      ‎DVの子どもへの影響
      ‎デートDV
    2 性暴力 130
      一番遅れている対策
      ‎性暴力のPTSD発症率はなぜ高いのか
      ‎性暴力被害はなぜ理解されにくいのか
      ‎身体的暴力が伴わない場合
      ‎法の問題点
      ‎加害者が知人である場合
      ‎疑似恐怖
      ‎疑似恐怖と二次被害
      ‎恋愛の中の性的傷つき
      ‎男性、男児の性被害
      ‎子どもへの面接システムの確立
      ‎ワンストップセンター
    3 ジェンダー視点の可能性 150
      ジェンダーとトラウマ
      ‎PTSDの性差の研究
      ‎トラウマ反応の性差の生物学的な研究
      ‎社会文化的な性差
      ‎ジェンダー・センシティブに
      ‎ジェンダーの可塑性

    第5章 社会に傷を開く 165
    1 マイノリティとトラウマ 167
      マイノリティであるということ
      ‎自己の尊厳を奪われて
      ‎二重の差別
      ‎マイノリティと狭義のトラウマ体験
      ‎トラウマに「慣れる」ことはない
    2 「加害」を可能にするものと「正しさ」について 179
      意図しない場合
      ‎暴力や支配を容易にするもの
      ‎正当化の理由
      ‎命令と実行の分離
      ‎正しさのもつ危険性
      ‎開き直りの正当化
    3 グローバル社会の中で 198
      グローバル・メンタルヘルスとトラウマ
      ‎紛争と難民
      ‎トラウマやPTSDへの文化的・社会的批判
      ‎生活文化の中の治療的要素
      ‎精神医療の底上げ
      ‎グローバル文化の変容とトラウマ
      ‎そして日本は?
      ‎沖縄戦とトラウマ
      ‎トラウマと集団との関係
      ‎不在のものを見る

    第6章 トラウマを耕す 221
    1 トラウマから学べること 223
      耕すということ
      ‎人間の弱さと不完全さ
      ‎創造力の源泉
      ‎アートは何ができるのか?
      ‎修復的アート
      ‎現代史の生き証人
    2 トラウマを昇華させる 234
      解離とアート
      ‎アートと社会的メッセージ
      ‎秘密のアート
      ‎詩の言葉
      ‎文学の力
      ‎映画で追体験
      ‎フォトジャーナリズム
      ‎マンガの創造性
      ‎闇を見つめる
      ‎プロセスの重要性

    あとがき(二〇一二年一二月 宮地尚子) [253-256]
    主要引用・参考文献 [1-8]

  • すごく理解りやすく、是非トラウマ患者を見守っている支援者にも読んで欲しい一冊。

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著者プロフィール

宮地尚子(みやじ・なおこ)一橋大学大学院社会学研究科教授。専門は文化精神医学・医療人類学。精神科の医師として臨床をおこないつつ、トラウマやジェンダーの研究をつづけている。1986年京都府立医科大学卒業。1993年同大学院修了。主な著書に『トラウマ』(岩波新書)、『ははがうまれる』(福音館書店)、『環状島=トラウマの地政学』(みすず書房)がある。

「2022年 『傷を愛せるか 増補新版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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