百年の手紙――日本人が遺したことば (岩波新書)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004314080

作品紹介・あらすじ

田中正造、寺田寅彦、宮柊二、端野いせ、吉田茂、中島敦、横光利一、山田五十鈴、室生犀星、管野すが…。恋人、妻・夫、子どもへの愛、戦地からの伝言、権力に抗った理由、「遺書」、そして友人への弔辞…。激動の時代を生きぬいた有名無名の人びとの、素朴で熱い想いが凝縮された百通の手紙をめぐる、珠玉のエッセイ。

感想・レビュー・書評

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  • 岩波「図書」6月号に、梯さんは若松英輔との対談の中でこう言っている。「手紙でも日記でも原稿でも、手書きの資料や遺品には時間が蓄積している。たくさんの人の人生の時間です」。ましてや、手紙は相手に届けられるまでが大仕事であり、しかもそれが他の人が目にすることができるまで多くの想いが蓄積されるのである。

    この新書は、2011年の7-8月、そして翌年の同月に地方新聞に連載された。作家、政治家、無名の兵士、女性の20世紀の百年間の手紙が百通選ばれている。

    2011年、書かれた年のこともあり、原発事故を告発しているようだとも言われた田中正造の天皇への直訴状から始まり、大逆事件で死刑執行を覚悟している菅野すがの幸徳秋水の冤罪を訴える手紙、逮捕虐殺される前日の伊藤野枝が関東大震災で夫の妹の子供が行方不明になっているのを心配した手紙。これらは著者が現代との相似性を訴えているのは明白だが、抑えた筆致で簡潔に書れていて、読者の胸を打つ。また、宮沢賢治は昭和三陸地震の後、近況を心配してきた友人宛に返事をしたためる。つい最近見つかった書簡だ。「被害は津波によるもの最も多く海岸は実に悲惨です。私どもの方、野原は何事もありません。何かみんなで折角、春を待っている次第です」岩手県内陸部の花巻市は、2011年もそんな状況だった。

    7-8月、書かれた月のこともあり、戦場から、又は戦場へと書かれた手紙も多く採用された。映画監督山中貞雄の遺書の一節「『人情紙風船』が山中貞雄の遺作ではチトサビシイ。負け惜しみに非ず」『人情ー』は戦前が産んだ大傑作だと私は思っている。戦争は残酷だ。『硫黄島 栗林中将の最期』は梯の代表作だが、それとは別に市丸利之助少将が部下の腹巻きに持たせ死んだ時にルーズベルト大統領に届くようにした書簡がある。冷静に戦況と米国の戦術を批判した、同等の立場からの手紙である。それが米国では直ぐに報道されて、今は彼の国の博物館にある。岸壁の母のモデルになった母親に宛て息子の手紙がある。「我慢できずに川に向かって、母さん、母さん、母さんと三回も大きな声で呼びました」。ところが2人は養子縁組みの関係だったとは、初めて知った。昭和天皇から11歳の皇太子への昭和20年9月の手紙がある。「敗因について一言いはしてくれ」と書き、かなり冷静な分析をした後、「(終結を決断したのは)戦争をつづければ、三種の神器をまもることも出来ず、国民をも殺さなければならなくなったので、涙をのんで、国民の種をのこすべくつとめたのである」。著者は「歴史的な書簡」と評価している。

    もちろん、ラブレターも友愛の手紙も数多く紹介される。手紙がおおやけになるまで、多くの時間と人の手が費やされている。それを私たちに見事に手渡してくれた著者の名は梯(かけはし)久美子という。

  • 有名人から一市井の人までいろんな人がいろんな人に宛てた手紙が紹介されています。
    一つの手紙がだいたい2ページほどで紹介されているのですがそれぞれの重みがずっしり。
    恋文から遺書まで、シチュエーションはいろいろですが、人間の想いがこんなに凝縮されているのは手紙ならではでしょうか。ほっこりしたり胸が締め付けられたり…。
    いろんな方にお勧めしたい本です。

  • 読んでよかった。
    実は本屋で探しても見つからなかったので、図書館で借りた本です。
    でも読み終えて、これは手元に置いておくべき本だと思いました。

    20世紀の100年の、著名人から一般の人まで、いろんな人のいろんな状況での手紙を紹介。
    でも、その手紙を書いてからまもなく亡くなった人のが多かったかな……。
    足尾銅山鉱毒事件の田中正造や、芥川賞が欲しかった太宰治、他にも特攻で亡くなった人のや、サハラ砂漠で亡くなった人、いじめを苦に自殺した中学生の遺書など、ホントに様々な手紙をこの一冊で見ることができます。

    でも、21世紀が終わって、誰かが梯さんと同じように「百年の手紙」という本を作ろうとしても、もう無理なんじゃないかって気がする。
    だってもうメールの世の中で、手紙を書く人って激減したと思うから。
    メールだって残るけど、機種変したら見れなくなって、充電器とかもどんどん変わってくから、誰かが不意に「遺されてたのを見つけた」って状況には、もうならないんじゃないかと……。
    寂しいなあ。

  • 同じ著者による「世紀のラブレター」というご本が
    大変感動的だったので、このご本も手に取りたく、読みました。
    率直な心のこもった手紙は、なんと美しいのでしょう。
    このアンソロジーを読んで感動したなら、
    出典の方も是非読みたいところです。

    この本の良い点は、出典の手紙を執筆した人物の背景を
    有名無名に関わらず同じように精密に調べ、
    簡潔にまとめた上で、情を尽くし寄り添うように書いている点。

    描写に人によっての軽重が無いので、誠実なのと
    どんな人の人生にもドラマがあって、
    真情は人の心を動かすことを伝えている点。

    だからこそ、ここを入り口に、いろんな人生の扉を開けて
    もっと深く知ることで、私たちも豊かになる気がするのです。

    書簡集は、大人になって読むと、真に滋味深い記録であり
    文学作品だと思います。

  • 「手紙は個人の心情を綴るものでありながら、書かれた時代を鏡のように映し出す。もっともプライベートな文章が、激動の時代にあっては、貴重な歴史の証言となるのである。」(あとがきより)
    「時代の証言者」「戦争と日本人」「愛する者へ」「死者からのメッセージ」の4章からなる本書。
    ふたりとも大正生まれだった亡き父母が話してくれた事に重ね合わせながらひとりひとりの手紙を読了。
    「どんな状況にあっても、死ぬほど辛いと思っても、人間死ぬまでは生きなきゃいかん」
    世界中が混沌としてる今だからこそ、先人たちの姿勢に学ぶ事や気付くことも多く、私にも「必要なことばたち」でした。

  • 手紙の一部、著者の大事だと思ったところのみ引用。できれば何らかの形で全文がわかるとよいのだが、著作権とか新書媒体の形式などで無理なのだろう。それでも十分日本近代の人々がどう考え行動してきたかがすべてではないにせよ読み取れる。そしてやはり戦争関係が一番考えさせられる。「生きのびるための岩波新書」の一冊に選ばれており、その中では読みやすい本だとは思うが、かなり重い内容を含む本。

  • 「あとがき」から引用
     本書は、2011年の7月から9月、および翌年2012年の同時期に、東京新聞と中日新聞に連載した「百年の手紙」がもとになっている。
     連載が始まったのは東日本大震災から4カ月しか経っていなし時期であり、震災後の状況が、特に第1章の内容には色濃く反映されている。
     ひとりの市民として、また文章を書いて発表する立場の人間として、どにょうに考え行動すればいいのか。そんな迷いの中で、近い過去を生きた日本人のことばに手がかりを求めようとする自分がいた。いま起こっていることを正しく見つめるために、時をへてなお色あせることのない、血の通った先達のことばを切実に求めていたのだと思う。
    となっていて、内容ですが
    Ⅰ 時代の証言者たち
     1権力にあらがって
     2かららが見た日本
    Ⅱ 戦争と日本人
     3戦場の手紙
     4女たちの戦争
     5敗戦のあとさき
    Ⅲ 愛する者へ
     6恋人へ
     7妻・夫へ
     8親から子へ
     9友情のことば
    Ⅳ 死者からのメッセージ
     10夭折者たち
     11遺書と弔辞
    あとがき
    明治維新から昭和の戦争まで激動の時代のなかの日本人が遺した数々のメッセージ、真摯に読み進めました。

  • 言葉の威力を感じる。この本に動いた方はぜひ知覧特攻記念館に行って欲しい

  • ノンフィクション
    歴史

  • 尾崎秀実の言い回しを借りると、
    戦争は人としてどうしても必要なのかもしれませんが、人をけっして幸福にはしない。
    愛は人を幸福にはしないかもしれませんが、人としてどうしても必要です。
    ・・というようなことを感じた。

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著者プロフィール

ノンフィクション作家。1961(昭和36)年、熊本市生まれ。北海道大学文学部卒業後、編集者を経て文筆業に。2005年のデビュー作『散るぞ悲しき 硫黄島総指揮官・栗林忠道』で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。同書は米、英、仏、伊など世界8か国で翻訳出版されている。著書に『昭和二十年夏、僕は兵士だった』、『狂うひと 「死の棘」の妻・島尾ミホ』(読売文学賞、芸術選奨文部科学大臣賞、講談社ノンフィクション賞受賞)、『原民喜 死と愛と孤独の肖像』、『この父ありて 娘たちの歳月』などがある。

「2023年 『サガレン 樺太/サハリン 境界を旅する』 で使われていた紹介文から引用しています。」

梯久美子の作品

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