小さな建築 (岩波新書)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004314103

作品紹介・あらすじ

強さをめざして進化してきた大きなシステムは、大災害の前にもろくも崩れ去る。大きな建築にかわる小さく自立した「小さな建築」は、人間と世界とを再びつなげられるだろうか。小さな単位を「積む」、大地に「もたれかかる」、ゆるやかに「織る」、空間を「ふくらます」。歴史を振り返りつつ最新作を語り、斬新な発想から建築の根源を問う。

感想・レビュー・書評

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  • 「小さな建築」隈研吾(著)
    東日本大震災によって、建築物がいかに弱く、脆いものかを実感させられた。自然の猛威に破壊される。これまでの建築の考え方では通用しない。大きな災害が建築の世界を変えてきた。1666年ロンドン大火、1755年リスボン大地震、1871年シカゴ大火、1923年関東大震災、20世紀に入って、インドネシアの津波、アメリカのハリケーン、イタリア、中国、ハイチの大地震、そして東日本大震災。「強く、合理的で、大きく、高い建築」から「小さな建築」へ転換するときだ。
    大火による多数の死者が出たことで、木造建築から石やレンガに変わり、鉄とコンクリートによって高層ビルが作られるようになる。高さ制限のないアメリカでは、高いビルが続々とたった。1930年クライスラービル 、1931年エンパイアステートビル381m、1972年世界貿易センター411m、2004年台湾101ビル508m、2010年ドバイBuriKhalifa828m。高さを競い合っていた。
    超高層ビルは、金持ちの自己顕示欲にすぎないと言われるようになってきている。
    小さな建築とは、大きな建築を縮小したものではない。みじかな材料を使って、自分の手と足で作り出すものである。自分の空間を認識して、自分で取り扱える単位が基準となる。
    レンガは、自分で組み立てることができるサイズであるが、結局塗り固められてしまうので、小さな建築に向かない。そこから隈研吾は、水のレンガ、ポリタンクの活用、そしてウォーターブロックで家を作り始める。ふーむ。どうも、方向が、行き詰まっていく。屋根もウォーターブロックでつくる。まぁ。これは、日本の建築基準法では却下でしょうね。
    模様替え、柱を入れ替える、取替え可能というのが、ポイントになる。
    「積む」ウォーターレンガ。
    「もたれかかる」竪穴住居はもたれかかることでできる。テントもそんな風だ。
    「織る」木を織る。日本の伝統技術「千鳥」の応用。
    「ふらます」東京ドーム、そして傘の家、空間を広げる。
    ふーむ。小さな建築が、様々なアイデアが出されるが、どうも住みたい家にはならない。
    隈研吾の頭の中では、小さな建築が重要だとわかっていても、自分で組み立てるような小さな家は、建築家として、総工費が少なくて、建築設計料が取れず、「建築家としてのビジネス」が成り立たないというジレンマがあるのでしょうね。結果として、大きな合理的な建築しか仕事はできず、趣味としての小さな建築づくりになる。その思考の始まりとアイデアは重要だ。
    「組み立てやすく、移動性があり、軽くて耐震性があり、安い」という「小さな建築」を作るには、もっと工夫が必要だと思う。今 作ろうとしている特許を取った、ハニカムパネル建築が今後の展開になるのかな。

  • 通常の建築はラーメン構造なり壁構造なり、依存されるモジュールと依存するモジュールからなる。リスボン地震以来、災害に遭うたびに人類は自然に負けない強い建築を作るべく「大きな建築」を作ってきた。それは依存されるモジュールの強度を高めるものであった。

    この本で隈氏が提唱しているのは、殆ど単一のユニットからなる建築で、つまりモジュール同士が依存する/されるの構造を持っているのではなく、共依存する関係である。4つの章のうちでは「織る」がもっとも分かりやすいであろう。縦糸と横糸が互いに折り重なることで強度を生じさせている。これを3軸、4軸にすることで3次元に応用し、パビリオンだけではなく太宰府前のスターバックスのようなパーマネント建築を実現している。

    思想としては、共依存する構造というのは民主主義らしさを表現している。また、モジュールから構成され、またモジュールに分解できる可塑性は、柔をもって剛を制すアプローチであり、坂茂氏の一連の紙管の仕事とともに21世紀の建築構造として興味深い。

  • だまされて家というゴミを買わされている。
    住宅の大きさが人を不幸にする。
    その不幸はリーマンショックに繋がりアメリカ文明の限界を示した。

    ばっさりと評する部分が印象に残ります。

    自然に依存する弱さが生物の本質であり、自分ひとりで扱える大きさが面白い。
    建築的道具ならフスマとか障子とか移動式の畳とか。
    臓器より細胞単位、というものの見方。

    薄っぺらな表面に貼り付けるだけの意匠は大嫌いで、構造と意匠が一体化していて、構成している単位が小さい方が良いとか。

    原宿にあるパイナップルケーキ屋さんの建築の意匠兼構造はこの様な考え方がありそうですね。
    木の構造アイデアの大元は飛騨職人の千鳥が発祥だった!

  • 積む、もたれかかる、織る、ふくらます。をキーワードとして、氏の小さな建築に焦点を当てて語る。
    311以降、大きな建築への批判も込めているのだろう。
    今後の氏の建築にも注目していきたい。

  • 建築はこれまで、より高く、より大きくあろうと発達してきたものです。
    けれど、隈さんは震災以降、人々は建築の脆さを痛感し、自立可能な小さな建築へと目を向け始めた、と書いています。
    小さな建築とはなんなのか。
    それは人間一人で扱える『小さな単位』を見つけ、それによって構築された建物だと隈さんは定義しています。
    本の中ではこれまで隈さんが行ってきた仕事についてその視点に基づいて書かれています。

    例えば、レゴブロックのように積み上げて、中に水を入れることで飛ばされないだけの重さを得ることができるウォーターブロック。
    ポリタンクなので水が入っていなければ軽く、組み立ても解体も楽。
    ある程度の大きさができるので家にもなる。
    あるいは、つなぎ合わせることでドーム型の家ができる特殊な傘。
    これも傘という日用品を紐で結び合わせて作っているので、身近で、扱いやすい大きさのものから建築物ができあがります。
    今までの建築のイメージからはほど遠いと感じてしまうような新しい建築だと思いました。

    そういう新しい建築の実例を見ていると、建築ってなんなんだろうと感じます。
    私たちが住んでいる家って一体なんなんだろう。
    建築物の中に住んで暮らしているのが当たり前ですが、生きるためには本当は建築物なんて不要なのかもしれない。
    自立可能な建築物について語りながら、この本ではインフラに頼らない自立した生活についてのビジョンを示しているような気がしました。

  • 一気に読了。

    東日本大震災をきっかけとして、大きなシステム、強大な建築に対しての疑問を持った。

    人間が取り扱える程度の大きさのユニットで出来上がる「小さな建築」を拠り所とすれば、エネルギー依存の社会を変えることができるかもしれない。

    ・・・というような、震災後にワラワラと出てきたいかにも岩波らしい考えはどうでもいいです。

    ただただ著者のアイディアに感動。
    そしてその土台となっている、日本的な感性にも。
    (利休の茶室について、もっともっと知りたくなりました。)

    読みやすく、そして非常に美しい本です。

  • 法律やら、利害関係者やら、なにやらが絡まってくる「大きな建築」に左右されてたまるか、という叫び。
    合理的な大きな建築、というのは原子力発電に通じる。小さな建築は、オカミから独立して、自分で成立しようとする。構造、意匠、設備と専門がわかれたら、もう「大きく」なっちゃう。
    小さな住宅でさえも、大きいんです。小ささのユニットと、その寿命がうまくマッチしていないと、小ささも活きない。

  • 建築は災害と共に変化してきた。

  • 東日本大震災を機に、建築の在り方を再考した隈さんがたどり着いたのが「小さな建築」。
    単にサイズが小さい建築ということではない。
    人間と世界のつながりを絶たず、衣服のように人を包み込むような建築。
    鉄筋コンクリートやガラスを素材とし、電気、ガスや水道などのインフラという大きな構造に依存しないと成り立たない、近代建築へのアンチテーゼである。

    もちろん、近代建築は、人間と災害との闘いの中で考えられてきたものであることは、冒頭にしっかり確認されている。
    3・11は建築家に対して、その建築の歴史をも否定するほどのインパクトをもったということだ。

    水を入れたポリタンクのブロックを積んで作る家。
    紙製のハニカム構造の両側を、ガラス繊維強化プラスチックでくるんだ壁面で構成された「ペーパースネーク」。
    傘の骨と防水性のある布を組み立てて作る、携帯できる家、「カサ・アンブレラ」(これは日本人にしかわからないダジャレだ)。
    フランクフルト工芸美術館から依頼された茶室は、なんと木や土のような自然素材を使うなとの注文がつく。
    そこで、膜に空気をいれたものを構造としたピーナッツの殻のような茶室が出来上がる。
    こうした隈さんの「小さな建築」への挑戦が紹介されていく。

    こうした作品の一つ一つを追っていくことも、本書を読む楽しみではあるのだが、もう一つはこの本は建築批評であり、建築史という思想の本という側面もある。

    自分に刺さったのは、エンゲルスを援用した住宅を私有することへの批判の部分だった。
    労働者が住宅を私有しても、家は老朽化してやがてゴミになり、資本を生むことはない。
    重い借金を抱え、土地に縛り付けられるだけだ、というのだ。
    では、人間はどこに、どのように住むべきか。
    残念ながら、まだ「小さな建築」が普及していない。
    政府が「小さな建築」、小さな住宅を奨励したり、あるいは住宅を買わずに住み続けられる政策にシフトするとも思えない。
    これは、きっとこれからも問い続けられる問題なのだ。

  • あとがきが素晴らしいと思ったし、あとがきを読んでから読んだらまた違った印象になるなと感じた。

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著者プロフィール

1954年、神奈川県生まれ。東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修了。コロンビア大学建築・都市計画学科客員研究員などを経て、1990年、隈研吾建築都市設計事務所設立。慶應義塾大学教授、東京大学教授を経て、現在、東京大学特別教授・名誉教授。30を超える国々でプロジェクトが進行中。自然と技術と人間の新しい関係を切り開く建築を提案。主な著書に『点・線・面』(岩波書店)、『ひとの住処』(新潮新書)、『負ける建築』(岩波書店)、『自然な建築』、『小さな建築』(岩波新書)、『反オブジェクト』(ちくま学芸文庫)、他多数。

「2022年 『新・建築入門 思想と歴史;ク-18-2』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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