ことばの力学――応用言語学への招待 (岩波新書)

著者 : 白井恭弘
  • 岩波書店 (2013年3月20日発売)
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004314196

作品紹介

ことばは知らない間に人間の行動を左右する。標準語と方言、英語と現地語など、複数の言語が関わる状況では、優劣を生み出す無意識の力学が働く。問題を科学的に解決するための言語学-応用言語学の最新の研究から、外国語教育、バイリンガリズム、異文化との接し方、法言語学、手話、言語障害など幅広い話題を紹介。

ことばの力学――応用言語学への招待 (岩波新書)の感想・レビュー・書評

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  • 事例が面白い。よくある言語学紹介本よりも、関心を持ちやすい(はず)。現存する言語がらみの問題に対しては、著者による提案が付されているのもポイント。


    【目次】
    プロローグ 問題解決のための言語学 [i-v]
    目次 [vii-ix]

    第I部 多言語状況 001
    1 標準語と方言 003
    標準語とは何か/英語(フランス語、日本語)は世界一美しい言語か/言語はすべて平等/標準語の価値はどこからくるのか/関西弁はなぜ強いのか/アメリカの方言/方言とは何か/「方言」と「言語」の線引きは難しい/標準英語とAAE/エボニクス論争/二言語(方言)併用主義/「なまり」について/幼児は人権よりもなまりに敏感/集団帰属の証としての言語/スタイルシフト/標準語イデオロギー/言語による差別/「ラ抜き」現象の問題/なまりとステレオタイプ
    2 国家と言語――言語政策 029
    言語政策とは/言語政策の三つの側面/明治政府の言語政策/方言撲滅運動/外国語に関する政策/アメリカにおけるイングリッシュオンリー運動/日本におけるモノリンガル主義/危機言語/言語学習とコミュニティのギャップ/危機言語を救う言語政策/瀕死状態のアイヌ語/瀕死状態の方言/言語政策には言語習得理論が必要
    3 バイリンガルは悪か 047
    バイリンガルのイメージ/母語を子どもに話せないフィリピン人の花嫁/バイリンガルは頭が混乱している?/バイリンガルの認知的優位性/根強いモノリンガル主義/言語の価値とバイリンガリズム/どうすればバイリンガルになれるか/学習言語能力の習得には時間がかかる/ダブルリミテッドの危機性/世界を見ればモノリンガルは少数派
    4 外国語教育 063
    言語学の応用としての「応用言語学」/第二言語習得(SLA)の誕生/効率のよい外国語学習法とは/正しさ至上主義の呪縛/英語公用語論/英語帝国主義とWorld Englishes/日本人英語の利点と問題点/規範主義から現実主義へ/エンパワメントという考え方/学問のマルチリンガル化/平和のための外国語教育/アラビア語を学ぶイスラエル人の子どもたち
    5 手話という言語 081
    手話とは何か/手話はジェスチャーか言語か/世界の手話言語/ホームサインから手話言語へ/言語を奪われる子どもたち/手話による大学での討論/なぜ手話言語がひろまらないのか/口話法/もうひとつの「手話」/あるべき手話教育とは/手話言語と日本語のバイリンガルをどう達成するか/日本手話と日本語対応手話の位置づけ/ろう者の権利

    第II部 社会の中の言語 101
    6 言語と文化 103
    言葉が思考を決める?/主語を言わない日本語/言わない主語は推測で補う/日本人の子どもは「心の理論」の発達が早い?/心の理論の発達と言語/思考がことばを決める?/察しの文化/KYという排他主義/異文化間コミュニケーション/ステレオタイプ/ステレオタイプはどこから来るか/男女の差/よりよい異文化間コミュニケーションのために
    7 無意識への働きかけ――政治・メディアのことば 127
    メタファーとは/湾岸戦争のメタファー/メタファー思考にひそむまやかし/3・11以後の原発報道/ニュースの作られ方/「除染」ということばのまやかし/言語は強制的に範疇化する/カテゴリーの難しさ/視聴率を上げるために/無意識の影響力――プライミング効果/潜在する偏見/「調査結果」の意味/政治・メディアに対する批判的な姿勢を
    8 法と言語 151
    法言語学/金田一春彦と吉展ちゃん誘拐事件/ヨークシャー・リッパー/無実の容疑者を救った言語学者ラボフ/方言の特定/アメリカ英語で歌うビートルズ/人物特定に使われるその他の言語学的証拠/なぜ法律用語は難解なのか/目撃証言にバイアスをかける/法における証拠
    9 言語障害 167
    多様な原因/話せなくても理解はできる場合が多い/ディスクレシア(失読症、読字障害)/発達障害と言語/自閉症とバイリンガリズム/高齢者の言語機能/認知症でも言語能力は最後まで残る/言語能力は基本的には手続き的知識/言語障害への対応
    10 言語情報処理はどこまで来たか 181
    コンピューターと言語/自然言語処理/「偶然だぞ」と言われた福留のメジャーデビュー/音声認識/カウンセリングをしてくれるイライザ/なぜ自然言語処理は難しいのか/チェスのディープブルーからクイズ番組のワトソンへ/コンピューターに知性はあるか/障害者を助けるコンピューター

    あとがき(二〇一三年一月 東京 白井恭弘) [197-199]
    参考文献 [4-8]
    用語索引 [1-3]



    【抜き書き】
    □64頁
     “外国語教育に言語学が本格的に応用されたのは、主に第二次大戦からその後の冷戦時代で、「戦争」「冷戦」という現実がきっかけでした。つまり、敵国の情報を効率よく集めるためです。なお、このような動員は言語学にかぎりません。原子爆弾を作った物理学のマンハッタン計画は有名ですが、文系の学問で特筆に値するのは、文化人類学です。ルース・ベネディクト(コロンビア大学)は、戦時中、日本で現地調査ができないため、文献調査と、日系人や日本人捕虜などに対する聞き取り調査などにより、『菊と刀』という驚くほどの洞察にみちた日本人論を書いたのです。(彼女の議論には批判もありますが。)
     戦時下に言語学は、暗号解読のために利用されました。”

    □86頁
    “〔……〕ですから、ここで手話をその子どもの「母語」として習得させることが、耳の聞こえる子どもにとっての音声言語の母語の習得と同じ意義を持つのです。言語の習得は、人間の認知発達にも非常に重要な役割を果たします。
     手話を習得させないということは、母語を習得させないということであり、まったく理不尽なこととしか言えません。実は、現在でもそのような「母語を習得させてもらえない」子どもは日本を含め、世界中に多数存在しているのです。”

    □88-89頁
     “さて、前者の母語習得に関する臨界期仮説
    は、「一定の時期までに、母語を習得しないと、その後は習得が不可能になる」という仮説です。アヴェロンの野生児や虐待により社会から隔離されたジニーなど、幼児期に母語を習得しないで育った事例がいくつも報告されています。〔……〕そして、それと同じように、幼児期に手話言語を習得する機会を奪われた聴覚障害を持つ子どもたちも研究されています。〔……〕この手話習得のケースも臨界期仮説の証拠としてとりあげられています。
     では、なぜ手話言語を習得する機会を与えられなかったのでしょうか。

       なぜ手話言語がひろまらないのか
     実はアメリカでも、手話言語の地位が高まってきたのはわりと最近のことです。また、ろう学校でも、手話言語を使って教育が行われるとはかぎりません。手話言語による教育を禁じていたケースも多数あります。日本でも同様で、手話言語を使うと罰を受けるということもありました。〔……〕なぜ手話言語が禁じられたのでしょうか。
     背後には、モノリンガル主義があるといえます。つまりアメリカ人は英語を習得しなさい、日本人なんだから日本語を習得しなさい、という考え方です。もうひとつの問題は、聴覚障害児の大多数は、耳の聞こえる親から生まれるということです。親は子どもに音声言語を習得してほしいと思いがちです。手話を教えようにも、自分にはできないし、習得しようと思ってもそれは簡単なことではない。さらに、社会のさまざまなリソースへのアクセスが手話言語だとどうしても限られてしまうので、積極的になれないということもあります。”

    □91頁
    “   口話法
     歴史的に見ると、もうひとつ複雑な要因があります。一七六〇年にフランスで世界初のろう学校を作ったド・レペは、手話言語による教育を推し進めました。これに対し、ドイツのハイニッケは、読唇、発語、書きことばを中心とした「口話法」を提唱し〔……〕手話対口話の対立では、一九世紀後半まで手話が優勢でした。”

    □92頁
    “   もうひとつの「手話」
     さらに問題を複雑にしているのが、手話言語とは別に、音声言語を手話で表した「手話」が存在することです。これは「日本語対応手話」「手話対応日本語」もしくは「手指日本語(signal Japanese)」と呼ばれ、「日本手話」とは区別されるべきものです。”

    □126頁
     “文化人類学における研究の原則は、文化相対主義、すなわち〔……〕というものです。人間は、自分の文化が正しい、価値が高いと思いがち(自民族優越主義=ethnocentrism)で、これは相手に対する差別感、敵対感などにつながりかねません。〔……〕お互いの文化を尊重し、前提が違うところはことばで調整していくということが大事です。もちろん、文化相対主義にも問題がないわけではなく、普遍的な価値を主張しにくくなってしまうということが言われています(たとえば、さまざまな差別について、その国の文化では認められているのだから仕方がないということになってしむいます)。このような問題点には注意が必要です。”

  • *図書館の蔵書状況はこちらから確認できます。*
    http://opac.lib.kitami-it.ac.jp/webopac/catdbl.do?pkey=BB50099042&initFlg=_RESULT_SET_NOTBIB

  • 社会において言語が果たしている様々な役割や言語が人間に与える様々な影響を、これまで言語学が積み重ねてきた研究や議論をもとに、わかりやすく説いてくれている。2章の「言語政策」、4章の「平和のための外国語教育」、5章の「手話」の話などを特に面白く読んだ。

  • 読了。

  • 社会言語学、手話、言語障害、法言語学、自然言語処理など多岐にわたる応用言語学のトピックが扱われている。新書なので一般向け。無意識・無自覚に言語に影響を受けている、という点はもっと一般に認知されてほしい。

  • 大学の講義で使った教科書。
    言葉にどう私たちが無意識のレベルで影響されているのかなど、言葉に関することを考えさせられた一冊。
    外国語だけではなく、言語障害や手話など多岐にわたったジャンルについて書かれているので、一読する価値あり。

  • 応用言語学って名前はよく聞くけれど実際にはどのような分野を指すのだろうか?という疑問に対して考えるヒントを与えてくれる書。方言について研究している学者が事件の解決の重要な切り札になったという事実は興味深かった。言葉を聞いただけでどこ出身でなどがわかるから驚きだ。コンピュータ言語は今後どのような進化をしていくのかも面白い。カウンセリングが必要な人専用に作られたプログラムもあるということは、今後は話す人がいなくてもコンピュータと会話を楽しめるような時代になっていくのだろうか。。。Siriなどはすでにその域まで達していることを暗示している。

  • 宣言的知識と手続き的知識という知識の二重構造は興味深い。言葉から解るってかなり真実だと思える。手話関連は武居氏監修かな。

  • 言葉というのが社会にも、自分の行動にもずいぶん大きな作用をするのは当然なのだけど、それが何故かということを、剥がしていくような本。方言のこと、バイアス・推測のこと、そしてまさか手話が出てくるとは思わなかったし、コンピュータ処理のことまで。応用言語学への招待、というサブタイトルですが、まさにウマいこと招待された感じです。

  • ことばの持つ力、それが無意識のうちにも様々な影響を及ぼし合いながら社会は動いている。ことばの孕む諸々の社会的な問題を俯瞰した知見を得るのに良い本。

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