自治体のエネルギー戦略――アメリカと東京 (岩波新書)

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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004314240

作品紹介・あらすじ

一部産業界や中央官僚OBの作る「壁」を突き崩し、東京では省エネとCO2削減を徹底する「都市型キャップ&トレード」が、福島原発事故の3年前に実現していた。世界が注目する制度は、いったいどうやって出来たのか?東京都政策担当者が、東京、および同時期に同様の政策を実現したアメリカの都市・州の例から、エネルギー政策の転換に必要な戦略を具体的に示す。

感想・レビュー・書評

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  • 東京都環境局において、東京都版キャップ&トレード制度の創出にかかわった筆者が、その経緯を含めて、自治体が環境・エネルギー施策を実行していくために必要なことを論じている。

    前半は、ニューヨーク市、アメリカ北東部10州、カリフォルニアというアメリカの3地域で取り入れられている省エネルギー、低炭素化に対する施策の概要とその導入プロセスを紹介している。

    後半では、東京都の環境施策の歴史と、東京版キャップ&トレード制度である「温室効果ガス総量削減義務と排出量取引制度」の制度設計や導入までのプロセスを詳しく紹介している。

    低炭素化に向けた施策は、大気環境といういわば公共財に対する改善を目指した施策であり、政策効果の計測やフリーライダーの抑止など、様々な面で難しい課題があると思われる。

    施策の適用対象のしぼり方や目標値の設定方法など、個々の詳細についてはいろいろな議論があると思われるが、東京都ができる限り合理的で公正な形で削減義務を設定し、それを実効性ある形で制度化するということを目指して努力したことが、伝わってきた。

    東京都のキャップ&トレード制度が、それに先行する「地球温暖化対策計画書制度」での政策形成の蓄積のもとにつくられたこと、制度策定プロセスにおいて、「ステークホルダー・ミーティング」という公開の形で政策議論をこなしていったことなどは、政策形成の実践の場における貴重な経験談であると感じた。

    恐らく筆者も、本書の前半で述べられているアメリカにおける政策形成プロセスの実態を、かなり深く調査していたのであろう。

    筆者自身がこの制度設計の当事者ということで、やや行政サイドの目線からの分析が多いように感じたことは事実であるが、このような政策立案プロセスの報告が早い段階で出されること自体、今後の取組みの参考になるために非常に意義深いことであると思う。

  • 信州大学の所蔵はこちらです☆
    https://www-lib.shinshu-u.ac.jp/opc/recordID/catalog.bib/BB12486057

  • 本書を読むまでは、ICAPなどの国際協力組織に東京都といったサブナショナル政府が参加していることを知らなかった。アメリカではサンフランシスコが突出しており、州政府、市政府の活動の進展が、政府の施策を牽引している。

    気候変動対策は国が担うものと考えがちであるが、そこには地方自治体としての都市戦略が垣間見える。

    震災により大規模集中型電源への依存が危ぶまれる中、分散型供給システムの比重を高め、分権化を進めるべきとしている。

    環境問題における自治体の役割の大きさを認識することができる。

  • 東京都の先進的エネルギー政策について紹介する。
    ここでは東京都のキャップ&トレードについて述べている。アメリカの事例も参考にしながら、東京都は中央政府以上に先進的な事例を実現できた。

    →つまり持続可能な都市インフラを維持するためには、環境に負荷をかけないインフラを想像することが不可欠。

    ・政策自体はボトムアップによって政策が提起され、それをトップが支持しリーダーシップを発揮する。
    ・一時的には経済的負担を与える可能性はあるが、将来的なビジネスチャンスを与えることも十分にある
    →カルフォルニアの州投票において、排出権取引を否定する条例にたいしてシリコンバレーの企業群が反対した背景にはグリーンビジネスを目指した投資が行われたから。

    →政策に落とし込む有能なスタッフの存在。
    →実践的なノウハウを有する企業群、団体、NGO、専門家による政策ネットワークが必要(知と信頼のネットワーク)

    分権型エネルギーシステムの構築
    →電力の供給よりも需要管理に重きを置いたシステム


    こうした政策を実現するためには

  • アメリカの諸都市と東京都のエネルギー政策(どちらかというと地球温暖化対策)の事例を分析。成功要因として、政策アントレプレナーの存在が指摘されていたのが興味深かった。

  • 気候変動問題が絡まったエネルギー問題の解決のヒント。それは国レベルではなく地方自治体によるリーダーシップにある。都庁の政策担当者がアメリカ、日本における例を交えながら語ってくれてわかりやすかった。

  • 自民党が政権を奪回してから、エネルギー問題の熱気はトーンダウンしているが、分散型電源の普及に地方自治体が果たす役割は変わらず重要であると思う。
    ただ、自治体は決して先頭に立つべきではなく、民間企業と住民が主役となる政策支援に注力する立ち位置を理解していれば、分散型電源の着実な普及と温暖化問題解決の一助になるだろう。
    って、拙文で七年前にレポートしたのと同じです。

  • 東京都が取り組む「気候変動対策」が、これほどまでに先駆的だったとは思いませんでした。
    日本全体として遅々として進まない環境対策・・・・と思っていたので、自治体が率先してこれほどのことができるのであれば、大阪、名古屋も続いて、地球的視野で行政に取り組むべきでしょう。
    もちろく、国としても・・・・・。

  • 東京都が、いかにして国の壁を打破して排出権取引制度を創設したか、という本。

    大学院のゼミで、環境関連の書籍を読む機会があったので、そのことを思い出した。近くにこのような先駆的な事案があったことも、新たな驚きであった。

    ただ、難点を挙げるとしたら、一つには玄人向きの本であること。環境政策の用語が多用されていて、馴染みのない読者にとっては読みづらいかもしれない。いま一つは、東京都の取り組みや環境政策の全体像や流れが把握しづらいことである。このことは、簡便な図表を使えば克服できると思った。

    難点もあるが、国の壁に阻まれて政策実現が難しかったが、その壁を乗り越えて実現したという事例の紹介であるので、閉塞感に苛まれている自治体職員にもオススメである。

  • 501.6||On

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著者プロフィール

1953年生まれ。東京都環境局理事(地球環境担当)。
東京大学経済学部卒業。1979年東京都に入る。下水道局、港湾局、都市計画局、政策報道室等を経て、1998年より環境行政に携わる。「ディーゼル車NO作戦」の企画立案・実施を担当した後、気候変動対策を所管。2009年7月より現職。現在、2008年6月東京都環境確保条例の改正で導入されたわが国初のキャップ&トレード制度などの気候変動対策諸制度の施行準備などに取り組んでいる。
著書に『都市開発を考える』(共著、岩波書店、1992年)、『現代アメリカ都市計画』(学芸出版社1996年)など。

「2010年 『低炭素都市 これからのまちづくり』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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