(株)貧困大国アメリカ (岩波新書)

著者 :
  • 岩波書店
4.03
  • (132)
  • (152)
  • (73)
  • (14)
  • (7)
本棚登録 : 1371
感想 : 173
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004314301

作品紹介・あらすじ

「1%vs99%」の構図が世界に広がるなか、本家本元のアメリカでは驚愕の事態が進行中。それは人々の食、街、政治、司法、メディア、暮らしそのものを、じわじわと蝕んでゆく。あらゆるものが巨大企業にのまれ、株式会社化が加速する世界、果たして国民は主権を取り戻せるのか!?日本の近未来を予言する、大反響シリーズ待望の完結編。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 【感想】
    アメリカで貧困がまん延している。貧困状態にある人の数は、2019年から2022年のあいだに約150万人増加し、およそ4,100万人に達した。貧困率は12.3%から12.6%に上昇し、なかでも子どもの貧困率は12.4%で、前年(5.2%)から倍増している。

    では、アメリカの貧困はいったい何が原因で起こっているのか?それを「大企業による行き過ぎた資本主義」だと断じるのが本書、『(株)貧困大国アメリカ』である。貧困の要因は多々あるが、本書ではそのうち企業による経済活動にスポットを当て、国を牛耳る巨大資本(=株式会社)がいかに市民を搾取しているかを暴いていく。政治がもたらした自由競争・自由貿易によって大企業の寡占化が進行した結果、価格競争によって中小零細企業が駆逐され、徹底した利益追及によって経済の地盤が破壊される、というあらすじである。

    大企業による経済破壊について、わかりやすく、そして極端な例が本書で示されている。イラクへの多国籍企業の進出だ。
    アメリカによるイラク戦争が終結したあと、主権を握ったのはイラク国民ではなくアグリビジネス(農産複合体)だった。
    バグダッド陥落後のイラクで、CPA(連合国暫定当局)が100本の法律を施行した。CPAはまず、国内法で強固に守られていたイラクの経済と産業を解体した。国営企業200社は民営化され、外資系企業に100%の株式所有と40年の営業権が与えられた。オーナーが外国法人に変わると、従業員の労働条件は「グローバル市場における価格競争力強化」に合わせ、大幅に切り下げられる。イラク人失業者の急増とコスト削減で急速に拡大した収益は、1ドルたりともイラク国内に残らなかった。外国企業が国内で得た売り上げの一部を政府に還元するという通常規定が撤廃され、利益はすべて国外に送金されたからだ。
    さらに、外資系企業が参入しやすくするために、CPAは40%だった法人税を15%に削減、イラクを出入りする物資にかかる関税、輸入税、ライセンス料などもすべて廃止した。これによりイラク国内に大量の外国製品が流れ込み、イラクの国内産業を次々に破綻に追いこんだ。

    イラク農家は、一万年もの間、毎年地域の気候に合わせた小麦を多種多様な選択肢の中から選び、翌年のために保存した種子を最適な形で交配させ、進化させてきた歴史を持っている。しかし、アメリカ政府は「近代化」の名のもとに、生産高が倍増する「アメリカ製GM種子(モンサント社製)」を農家に無償提供した(イラクの農業は経済制裁や干ばつで崩壊寸前であり、受け入れないという選択肢は実質なかった)。そしてこのGM種子および関連する製品の特許を取得し、前年の種子を保存したり、隣近所の農家同士で交換や交配させたりする行為を違法とした。そして、提供されたGM種子と農薬、新技術を一度でも使用したイラク農民は、自動的に提供元大企業のテクノロジー同意書に署名させられた。その後は毎年、使用料とライセンス料の請求書が送られてくるしくみだった。
    同意書には、
    ・自分の農家で採れた種子を翌年使用することは禁止
    ・毎年種子はモンサント社から購入
    ・農薬は必ずモンサント社から買う
    ・毎年ライセンス料をモンサント社に支払う
    ・何かトラブルが起きた際はその内容を他者に漏洩しない
    といった条項が並ぶ。これに半強制的にサインさせられ、すべての種子を強制的にアメリカ企業から買うことを余儀なくさせたのだ。

    以上は一例だが、この「規制緩和政策+国際法」という組み合わせは、世界のどの国でも見られる光景となっている。インドやアルゼンチンなど、産業の地盤が弱い発展途上国の政府を押さえてアグリビジネスが実権を握る、という構図は鉄板であり、知的財産権を濫用した大企業によって、農民を依存関係にからめとり搾取する仕組みが構築されているのだ。

    ――「ずっと昔、農場は私のなかで甘いイメージでした。緑が広がる牧場や、動物たち、良きアメリカの時代の象徴のような風景ですね。テキサスで小さな農場をやっていた私の祖父は、動物たちを愛情こめて育て、充実した日々を送っていました。でも今私がやっているのはなんなんだろう。ここにあるものは、みんな誰か他の人のものなのです。私たちは場所と安い労働力を提供するだけの契約社員で、大企業への莫大な借金を返すために、延々と働き続けるだけなのです。これではまるで、現代版農奴制でしょう」

    ―――――――――――――――――――――――――――――
    【まとめ】
    1 アメリカを取り巻く貧困の現状
    アメリカの貧困率と失業者の数は、リーマンショック以来増え続けている。
    4人家族で年収2万3,314ドルという、国の定める貧困ライン以下で暮らす国民は現在4,600万人、うち1,600万人が子どもだ。失業率は9.6%(2010年)だが、職探しをあきらめた潜在的失業者も加算すると実質20%という驚異的な数字になる。16歳から29歳までの若者の失業率を見ると、2000年の33%から45%に上昇、経済的に自立できず親と同居している若者は600万人だ。
    SNAP(元フードスタンプ)受給者は2012年に約4,667万373人と、過去最高となった。


    2 大規模奴隷農場
    アメリカで食の政策が大きく方向転換し始めたのは、「規制緩和」という言葉で国全体の構造改革を実行した、レーガン政権からだ。
    石油価格急騰と異常気象による農業壊滅によって70年代に起きた世界食料危機は、アメリカに大きなチャンスをもたらした。当時世界の穀物貯蔵の95%は、アメリカ民間企業6社が押さえていたからだ。ここからアメリカ政府にとって食料の位置づけは、「自国民の腹を満たすもの」から「外交上の武器」に変わり、石油に続く新たな長期戦略となってゆく。この新しい目的に沿って、アメリカ国内の農業政策は、急激に自由貿易仕様へと舵を切っていった。そして「最大限効率化された大規模農業」を目指すようになり、農業従事者は株式会社経営の下で低賃金・福利厚生なしで雇われる、パートタイム労働者となった。

    最大限効率化された工場式農場は、システマティックで無駄のない利益拡大方式だ。
    牛たちは牧場でタンポポを食べる代わりに、生後半年で何千頭という他の牛と共に移動させられ、コンクリートで囲った柵の中に、身体の向きも変えられない状態で詰め込まれる。豚が押し込められているのも同様の密度と環境だ。太陽光も、新鮮な空気も土も干し草もない。鶏は薄暗いケージや鶏舎にぎゅうぎゅう詰めに立たされている。
    劣悪な環境による動物の虐待、家畜廃棄物による周辺環境への衛生的な被害については、政府が企業への免責を行っている。それも全て寡占化によって規模が大きくなった企業が、政府に影響をおよぼし始めたためだ。

    効率化により、農家の収入には大きな変化があったのだろうか。アイオワで養鶏場を家族経営しているジャックは首を振る。
    「寡占化は株主至上主義です。その最大の特徴は、末端の農家の取り分をより少なく、客が払う分はより大きくなり、中間業者である大企業群にのみたっぷり利益が出るしくみです。たとえばケンタッキーフライドチキンで、12ピースのチキンを買うと、客がレジで払うのには26ドル。ここからケンタッキーフライドチキン社に21ドルが入り、その下にいる加工業者に4ドルが入る。うちのように実際鶏を育てている養鶏場には、30セントしか入りません」
    ジャックの実家の養鶏場に入る年収はわずか1万5,000ドル。大手と契約するこの種の工場式養鶏場の中では、平均値だという。
    それでも、大手のブランドや食品加工業者と契約しなければ、採算が合わず廃業に追いこまれるため、農家は黙って続けるしかないのだ。

    USDAの報告によると、1989年から2005年の間に食肉処理のスピードが50%上昇する一方で、労働者の賃金や人数はまったく追いついておらず低いままにされているという。


    3 垂直統合される中小企業
    レーガン政権下の独占禁止法規制緩和がもたらした急速な垂直統合プームは、その後数十年で、アメリカの農業・食の業界を大きく変えていった。垂直統合とは、生産工程の異なる企業による提携・合併・買収などによって、競合者がいなくなり、市場が統合されてゆくことを指す。かつては巨大企業の産業独占を阻止するためにアメリカでは禁止されていたが、ここに来て大きく緩和されてしまう。
    その結果、大手の食料品店が、地域の小売業者や、競争相手である郊外の会員制大型ディスカウントショップなどを次々に買収、傘下に収め始めた。
    その勝利者がウォルマートだ。
    流通コンサルタントのスティーブ・ワーゼルは、ウォルマートの成功戦略についてこう説明する。
    「同社は、商品の仕入先や物流企業に対し、厳しいコスト削減、品質向上、工程期間短縮など、契約した供給者にはすべて自社独自のやり方を導入させます。これについて交渉は一切できません。物流部分のコスト削減が、同社の高い競争力を維持する鍵だからです。人件費削減のために下請け企業の導入も積極的に進めています。競争率は高いし、選ばれて契約してからも大変ですが、みな必死に合わせますね。世界でもトップクラスのウォルマートの棚に商品を並べることは、小売業者にとって、成功への階段ですから」
    ――契約してからは何が大変なのですか。
    「流通に関わる不具合を非常に厳しく取り締まるのです。商品の受注ミスや売り上げ不振などは、すべて納入業者側へペナルティが科せられます。商品が決められた日時より遅れて到着するのはもちろんのこと、早く到着しても倉庫代が余分にかかる分ペナルティですね。しかしここを徹底するからこそウォルマート社は、「毎日低価格」で「毎日手に入る」という顧客への約束を守り続けられるのです」

    もし同社の要求を満たせない企業は、つぶれていくことになる。

    『ネイション』誌の編集者で食関連のノンフィクション作家のアンナ・ラッペは、ウォルマ―トが全米の地域社会に及ぼす影響についてくりかえし問題提起を続けている。
    「ウォルマートがその地域に来ると、中小規模の生産者は一気に価格競争にさらされます。食品を始め、衣服も家電もすべてウォルマート一店舗で安く手に入るようになるからです。生き残るには自分たちも質か人件費を下げてコスト削減で対抗するしかなくなるので、大抵は倒産していきますね。シャッター通り化した地域社会は多様性を失い、そこで受け継がれていた文化や伝統、共同体が消滅していくのです」

    垂直統合による食と農業ビジネスの巨大化を誰よりも歓迎したのは「ウォール街」だ。大手銀行や投資銀行、資本家、ヘッジファンドらは、食の業界における吸収・合併に積極的に関与し、資金融資から入札のための有価証券発行、新規株式公開手続きや戦略的アドバイスにいたるまで、あらゆる金融サービスを提供して後押しした。数十億ドル市場の農業ビジネスと食品加工業界は、銀行にとってはトップクラスの大口優良顧客だ。

    マンハッタン在住の証券アナリスト、マーク・ブラウンは言う。
    「ビジネスは大規模になると、ウォール街にとってのドル箱になります。規制緩和と寡占化で巨大化した『食』と『農業』が優良投資商品になる条件が揃ったところで、金融業界は強力なロビー活動を行い、政府に対し一気に法改正の圧力をかけました」


    4 薬物まみれの家畜たち
    2013年に発表された国立食肉年次報告書は、多くのアメリカ国民にとって背筋が凍る内容だった。
    検査対象となった七面鳥のひき肉の81%、牛ひき肉の55%、豚の骨付きロース肉の69%、鶏肉の39%から抗生物質に耐性を持つ細菌が検出されたのだ。鶏肉に関しては53%から大腸菌や、毎年アメリカ国内で数百万人の食中毒患者を生むサルモネラ菌とカンピロバクター菌も見つかっている。CDC(アメリカ疫病予防管理センター)によると、1980年代には全食中毒患者の1%にも満たなかった抗生物質耐性菌感染者数は急増しており、さらにサルモネラ菌の治療に使われる抗生物質も、年々効かなくなっているという。

    すでに1990年末までに、全米製薬企業の販売される抗生物質の7割が、人間ではなく家畜に投与されていた。家畜が工場でなく農場で育てられていた1950年代には年間230トン家畜に使用されていた抗生物質の量が、2005年には約80倍の1万8,000トンになっている。

    USDA内の農業バイオ研究機関職員であるキャロライン・チャン博士は言う。
    「抗生物質や成長ホルモンのような薬剤は、大規模家畜工場の拡大につれて、なくてはならない必需品になったのです。たとえば妊娠中の牛は1日に7リットルの牛乳を出しますが、特殊な薬剤を混ぜた餌や成長ホルモンを与えれば、出す牛乳の量は30リットルまで増やすことができる。その分寿命は短くなりますが、経営者にとっては「魔法の抗生物質」と呼ばれ重宝されました。生産効率を優先する家畜工場の経営者や株主たちにとってはメリットの方がずっと大きいので、家畜用薬剤の需要は年々伸びる一方なのです」


    5 切り売りされる公共サービス
    全米の自治体では、歳出削減によって市の職員・警官がリストラされ、公共サービスが削られた結果、治安が急速に悪化している。結果犯罪率が上昇し、住人の流出が加速している。

    ミシガン州では、2011年6月に「非常事態管理法」が議会を通過した。非常事態管理法は、財政難に苦しむ州の自治体に代わって、選挙ではなく州知事が任命した「危機管理人(Emergency Manager)」に財政健全化の指揮権を与える法律だ。管理人は債務を減らしバランスシートを調整する目的で、自治体の資産売却、労働組合との労使契約の無効化、公務員の解雇、公共サービスの民営化などを、一切の民意を問うことなく行使する権限を持つ。

    真っ先に支出削減のターゲットになったのが公教育だった。
    財政難によって公立校が強制的に閉校され、その後にチャータースクール(営利学校)が建てられた。銀行家や企業が経営するチャータースクールは、7年で元が取れることから、投資家にとって魅力的な商品なのだ。ただし公的なインフラではなくあくまでも教育ビジネスなので、生徒にとって入学のハードルは高い。高い授業料を払えるだけの経済力と一定以上の学力が要求されるため、デトロイトでは教育難民となった子どもたちが路上にあふれ、失業した教師たちは州を出るか、食べていかれずにSNAPを申請することになった。その恩恵を受けたのは、教育ビジネスで利益を得た投資家と大企業、SNAP拡大で売上が伸びた大型スーパー、SNAPカード手数料が入る大銀行だけだった。

    2009年以来、アメリカ国内では30万人の教師を含む約70万人の公共部門労働者が職を失い、学区では約4,000校の公立学校が閉鎖されている。ニューヨーク、ワシントンDC、フィラデルフィア、シカゴなどの大都市では数百という公立学校が廃校にされチャータースクールに置き換わっている。教育を市場化させるのが目的だ。

    自治体の財政を健全化するのは大切だが、問題は数字をもとに戻すことだけを目的にした過剰な財政緊縮だ。危機管理人の独断で、市の職員の大半は解雇または勤務日数を減らされ、動物園や美術館、公園、図書館などは廃止、清掃業者や上下水道は民営化された。消防署や警察は統合された。効率だけ追求して自治体行政をやるとこうなるというお手本のような方法だった。


    6 政治すら購入する
    米国立法交流評議会(ALEC)は、州議会に提出される前段階の法案草稿を、議員が民間企業や基金などと一緒に検討するための評議会だ。ALECはフォーチュン500の上位100企業の半数がメンバーになっている。
    評議会で出される法案は、どれも企業にとって望ましい内容になっている。税金、公衆衛生、労働者の権利、移民法、民間刑務所、刑事訴訟法、銃規制、医療と医薬品、環境とエネルギー、福祉、教育などテーマは多岐にわたり、それぞれ業界ごとに後押しするしくみだ。ALECで承認されたモデル法案は、州議会議員たちが自分の法案として議会に提出している。たとえば傷害致死事故における企業の過失責任を免責する法律や、有権者の投票行動を著しく制限する法律、組合の団体交渉権を剥奪する法律、大規模農業の規制緩和や、工場の二酸化炭素排出規制廃止、刑務所民営化、教育のバウチャー制度など、企業にメリットのある法案も少なくない。ALECには左派右派の概念はなく、企業に有利な法案を可決させるために党派を超えた支援を行う。

    2010年には、企業献金の上限が事実上撤廃された。アメリカ国民にとっての選択肢は、大金持ちに買われた小さい政府か、大金持ちに買われた大きい政府か、という二者択一になった。大手テレビ局はこの決定に対して沈黙している。企業の参入によって選挙広告費が42億ドルまで跳ね上がり、巨額のCM収入が得られるようになったからだ。一回の選挙で148万本のCMが流れるという。

    2010年の中間選挙で、カリフォルニア州の第3党から州議会議員に立候補したジル・スタインは言う。
    「赤と青に分断されたアメリカ、そのとおりです。国民の意識は保守対リベラルにひきつけられる。けれどそれはバーターで、今のアメリカ民主主義は『1%』によってすべてが買われているのです。司法、行政、立法、マスコミ……、『1%』は二大政党両方に投資し、どちらが勝っても元は取る。テレビの情報を信じる国民は、バックに巨大企業がいることなど夢にも思わずに、いまだに敵を間違えているのです」

  • (株)貧困大国アメリカ
    著:堤 未果
    岩波新書 新赤版1430

    アメリカ

    アメリカの貧困の原因に迫る書
    多国籍企業が、ロビー活動を通じてアメリカ政府を通じて、国民をそして、取引国に浸透していく、必要であれば、貿易協定もそして戦争さえも引き起こすことすらできる

    失業率は9.6%(2010年)だが、職探しをあきらめた潜在的失業者も加算すると実質20%という脅威的な数字になる
    問題は、仕事の空き自体が少ないことよりも、まともに暮らせる賃金の仕事が見つからないことなんです。

    ■奴隷農場

    SNAP:アメリカ政府が低所得層や高齢者、失業者などに提供する食料支援プログラムだ。
    SNAP受給者にとって、抜けられないループを作りだしているのです。貧しい者はさらに貧しく、富める者はますます資産を増やす、という構図ですね。
    1992年にカナダ、メキシコとの三か国間のNAFTAを結んだとき、政府は農業生産と雇用が拡大し、経済成長で国が豊になると宣伝した。
    だが、実際、安い人件費と規制緩和でうなるように設けたのは、労働者ではなく、農産複合体、と製薬業界だった。

    マーガレットたちは、アメリカの契約養鶏業者のほとんどが、たどる道をすすんでいった。
    一度契約したら抜けられず、一方的な契約で雪だるま式に膨れ上がる借金にからめとられていく。
    この国の養鶏業者の間で、デットトラップ(借金の罠)と呼ばれるパターンだ。
    どんなに理不尽な要求をされても契約者は途中で抜けられなくなり、利子だけでも毎月帰さねばと自転車操業にはまりこんでいきます。
    大学生が借金漬けになる学資ローンと同じですね。

    伝統的な農業は、時代遅れ、非効率、と批判され、世界をリードするために、強い農業を目指すべきだという論調が国全体を覆っていた

    工場式農業はシステマティックで、無駄のない、利益拡大方式だ。

    1980年代以降、アメリカ国内の牧場主と農業従事者の自殺率は急激に増えている

    アメリカ国内では、30年で30万軒の農家が消滅している

    GM:遺伝子組み換え
    GMトウモロコシを与え続けたラット群が次々に発病し始める、そのGMトウモロコシは、モンサント社によって全米で栽培され、家畜飼料の他、人間が食べる朝食シリアルやコーンチップとしても広く流通している

    ■GM種子で世界を支配

    イラク侵攻が終わりをつげたあと、主権をにぎったのは、イラク国民ではなく、多国籍企業であった
    多国籍アグリビジネスは、政府を味方につけて大規模化を阻む、国内法の改正を繰り返し、ウォール街の後押しで、寡占化、市場を独占した結果、株主の顔ぶれも、市場も生産地もあらゆるものが国境を越えた

    モンサント社のGM種子を使用する農家は、アメリカ、カナダをはじめ、世界中どこでも同様のライセンス契約を結ばされる
     ・自分の農家でとれた種子を翌年使用することは禁止
     ・毎年種子は、モンサント社から購入
     ・農薬は必ずモンサント社から購入
     ・毎年ライセンス料をモンサント社へ支払う
     ・何かトラブルが生じた際はその内容を他者に漏えいしない
    中小企業は、インドの貧農と同じ運命をたどり、特許使用料と通常の倍必要になった高い農薬代の支払いに押しつぶされていく

    食料は武器だ というアメリカ政府の主張は、この間ずっとぶれることはなかった。
    諸外国に、民主主義、強い農業、財政再建、人道支援、などの理由に介入、集約させた広い農地で輸出用GM作物の大規模単一栽培を導入させ、現地の小規模農民を追い出した後は、株式会社アメリカが動かしていく
    インド、イラク、アルゼンチン、ブラジル、オーストリアなど、その勢いはとどまることをしらなかった

    等々

    目次
    プロローグ
    第1章 株式会社奴隷農場
    第2章 巨大な食品ピラミッド
    第3章 GM種子で世界を支配する
    第4章 切り売りされる公共サービス
    第5章 「政治とマスコミも買ってしまえ」
    エピローグ グローバル企業から主権を取り戻す
    あとがき

    ISBN:9784004314301
    出版社:岩波書店
    判型:新書
    ページ数:240ページ
    定価:860円(本体)
    発売日:2013年06月27日第1刷

  • 1986年以降、アメリカの鶏加工工場では、加工前の鶏の死亡及び病気に関する審査を義務ずけられてない。
    成長促進剤が注射された鶏は内臓や骨の成長が追いつかず、大半は足の骨が折れたり、肺疾患になってしまう。効率とビジネスの成功という観点わ見れば、これはすごい発明ですよ。42頁

  • 本書を読むと、アメリカという国がそら恐ろしくなった。アメリカの政治、行政、マスコミの全ては、富の集中する多国籍企業に買収され、操られている。多国籍企業はには公共のためという発想がないから、ひたすら営利を追求して富の蓄積を図り、その資金で徹底的なロビー活動を行うから、益々富めるようになり、その代わりに没落していく中間層。自由の国アメリカ、民主主義の旗頭、平等のチャンス、アメリカドリーム等はすべて幻想になってしまっている、という。
    自国のみならずメキシコやアルゼンチン、インドなどの国々で中小農家を種と農薬で支配するアグリビジネス、教育への競争原理の導入と民営化によるコストカット、軽犯罪を含めた犯罪の厳罰化と囚人を使った刑務所ビジネス等、本書が描いている事は真実とは思えないほど余りにもえげつない。
    NAFTAは、結局投資家や多国籍企業を利するだけだったとのこと。とするとTPPもその恩恵に与れるのは、一部日本企業を含む多国籍企業と富める投資家だけということになる。推進役であるはずのアメリカの国内でTPP反対論が喧しいのもよく分かる。
    アメリカをこのように悲惨な状況にしてしまった背景には、何といっても、湾岸戦争やイラク戦争の戦費負担による財政破綻と規制緩和・民営化・市場原理の導入による徹底した効率化が利にさとい営利企業を太らせてしまったことや、不法移民による治安の悪化などがあるんだろう。それにしても、こんな状態で国が長く維持できるのだろうか? 中国のことを心配している場合じゃないのかも。
    著者は、世界中でコーポラティズムが進行しているという。日本も例外ではないだろう。大企業と国民の利害が対立する時代にあって、日本の先行きも益々不安だなあ。

  • あとがきで著者は謂う。

    貧困は「結果」だ。
    現象だけではなくその根幹にある原因を探っていくと、いまのアメリカの実体経済が、世界各地で起きている事象の縮図であることがわかる。
    経済界に後押しされたアメリカ政府が自国民にしていることは、TPPなどの国際条約を通して、次は日本や世界各国にやってくるだろう。
    2013年2月28日。安倍晋三首相は、所信表明演説の中で明言した。
    「世界で1番企業が活躍しやすい国を目指します」
    いま世界で進行している出来事は、単なる新自由主義や社会主義を超えた、ポスト資本主義の新しい枠組み、「コーポラティズム」(政治と企業の癒着主義)にほかならない。
    (略)
    コーポラティズムの最大の特徴は、国民の主権が軍事力や暴力ではなく、不適切な形で政治と癒着した企業群によって、合法的に奪われることだろう。
    本シリーズに登場する〈独占禁止法〉〈グラススティーガル法〉〈消費者保護法改正〉〈おちこぼれゼロ法〉〈農業法〉〈医療保険適正価格法〉〈モンサント保護法〉といったこの間の法改正を見るとよくわかる。これらが実施されるたびに本来の国家機能は解体され、国民の選択肢が奪われてきたからだ。(274p)

    本書では特にSNAP(補助的栄養支援ブログラム)により生活保護財源がウォルマートに吸い取られてゆく仕組みや、遺伝子組み換え食品の保護法(モンサント保護法)、遺伝子組み換え種子で世界を支配する仕組み、切り売りされる公共サービス、政治とマスコミが見事に金で買い取られている仕組みなどが展開されている。

    このシリーズはアメリカの暗部を紹介することで、その拡大再生産である日本の未来の姿が想像出来るように常に描かれてきた。そういう意味では、日本の市民運動に大きな示唆と励ましを与え続けている書物だと言っていいだろう。

    私は、この本で度々言及されるマスコミによる国民操作は、既に日本でも完成形に近づいているように思う。しかし、貧困大国にはまだアメリカほどにはなっていないと思うし、教育や農業や医療や環境や自治体などはまだ大企業の言いなりにはなっていない、と思う。もっともこれも、TPPが成立すれば一挙に変わるかもしれない。

    これらの動きの根幹はコーポラティズムだと彼女は云う。言い方は違うが、やはりマルクスが警告していた「資本主義」の最終形態なのだと、私は思う。

    彼女の著書はいつも最後にわずかな希望を描く。もちろんネットの力にも言及している。しかし、不良債権を買い取る運動や、企業献金を一切受け取らない候補者を応援する運動など、多様で具体的な「智恵」を出すこと、そのことの重要性の方を強調していると思う。そして、1%のグローバル化に対して99%のグローバル化、「個のグローバリゼーション」、つまり「市民運動」の世界的な連帯に希望を見出している。

    それはこの本では具体化されない。具体化するのは、私たちの課題だからだ。

    「貧困大国アメリカ」シリーズは終わるそうだけど、著者は同じ仕事をこれからも続けてゆくに違いない。アメリカの動向についてこれからも私たちはきちんと知ることが出来ると信じている。
    2013年8月22日読了

  • ブックオフで目についたので読んでみた。

    私はダイエットの為に安い外国産の鶏胸肉やオートミールをよく食べていた。それに対して私の兄は「そんなもの食べてもいいことはないぞ」と言っていた。当時は「何を言っているのだ、栄養的に絶対いいだろ」と馬鹿にしていた。

    しかし本書を読んで、兄が言っていたのはダイエットのことではなかったのだと気付かされた。米でこれほどGM作物が扱われていることやその危険性を学べた。

    また、本書全体を通じて「大きさ」の強さを学んだ。お金の数然り、99%の人数の力然り、積み重ねた知識然り。

    もう一年もしないうちに私は社会人になる。そんな私にこれからの社会を生きていく上での危機感を与えてくれた。

  • 【由来】
    ・前作2つとも面白く読んだので。

    【ノート】
    ・食品、GM種子、製薬会社、農家の隷属とそのグローバリゼーション。「ロボコップ」で描かれていた世界を地でゆくデトロイト、公共サービスの消失、刑務所の労働力化、企業に都合の良い法案を作成するALECというクラブ。

    ・アメリカはとんでもないことになってる。加えて、国内だけでなく国外においても、例えばパキスタンで無人機が一般市民を巻き込んでターゲットを殺害しているというニュースを聞くと、本当のテロ国家は一体どこなんだという気がしてくる。

    ・大きな戦争の火種は消えた代わりに、紛争やテロが盛んになった。その一方で、戦争の形態を取らない搾取構造の侵略が始まっている。大規模な戦争で人が死ぬよりはいいのか?その一方で、テクノロジーによって兵士と兵器の管理が可能になり、そうなると戦場の制御が可能になり、そうなると戦争が合理的ビジネスとなり、行き着くところ、戦争が普遍的になる、というのがメタルギアソリッド4で描かれていた世界。

    ・だが、本書は、単に「アメリカではこんな恐いことになってて、このままだと日本もこうなる」ということを煽っているわけではなく、エピローグでは、市民が、巨大企業に対して、どのように、敵対することなく対抗しているかというエピソードが紹介されている。それを読んでいると、「本気で渡り合う」気持ちを持てるかどうかの問題なのだと感じた。相手は(あえて、敵、とは言わない)プロで、資本主義の原則に立って、利益を最大化するべく本気で取り組んでいる。手段を選ばないが、合法の範囲(法律すら操作して作っちゃうわけだが)。ならば、こちらが、本気で対抗手段を考えて実行できるか。例えば預金額を全て地方の信金に、とか。

    ・この辺りの話は著者自身が「ラジオ版学問ノススメ」というPodcastでも言及していた。相手は、単なる悪者というわけではない。「情熱と信念を持って」利益を最大化するためにやっているというだけの話で、それに対抗するには、我々も、相手の考え方のパターンや弱点についての研究をして、相手と同等以上のエネルギーを注がなくてはならないということで、果たしてそれは現実問題として可能なのだろうか?その鍵となるのが情報共有・伝達手段としてのネットだったり、体系的なな研究や、アクションプランを企画・立案・実行するNPOのような組織だったりするのかも知れない。

  • 著者のシリーズ完結編なのだが、三部作のうち二作目を読んでいない
    ことに気が付いた。完結篇の本書を先に読んでしまったわ。

    1%の富裕層と99%の貧困層。その本家本元が唯一の超大国である
    アメリカ。本書では食をはじめ、アメリカの政治までもが一握りの大
    企業に左右されている現実を抉り出して行く。

    怖いのは食だ。工業化された農場が家族経営の中小農家を駆逐し、
    家畜はまさに工業生産品と同じ。身動きも出来ない畜舎に詰め込まれ、
    抗生物質と成長ホルモンを投与され、次々に出荷されて行く。

    日本ではスナック菓子の包装にも原材料欄に「遺伝子組み換えでは
    ない」と表示されているが、アメリカでは遺伝子組み換え食品の表示
    義務がない。

    人体にどんな影響があるか不明な遺伝子組み換え食品だが、科学
    雑誌にその危険性を指摘する論文を書こうものなら様々な攻撃に
    晒される。

    そして、餌食にされたのが戦争後のイラクの農業だ。戦後の復興支
    援の名の下、無償提供されたのは遺伝子組み換え小麦の種子だ。

    食ばかりではない。教育も、公共サービスも、大企業にとっては
    投資先に他ならない。利益が生み出されるとなれば、なんにでも
    手を出し、自分たちに都合のいい法案を提出させる為には多額の
    政治献金を行う。

    そうして利益が見込めなくなれば、他へと移って行く。置き去りにされる
    のは誰か。言うまでもない。一般市民である。

    現在、日本が推し進めようとしているTPP参加。関税撤廃を主軸に
    工業vs農業の面でばかり語られがちだが、ちょっと考えてみて欲しい。

    アメリカから大量に安価な農作物や食肉が入って来る分、食の安全
    も脅かされるということを。自由化、効率化を進めたおかげで、国内
    の市場は頭打ちだ。だからアメリカとしては海外に市場を求めたい。
    それがTPPの正体じゃないのか。

    成長戦略、規制緩和。自由化。民営化。口当たりのいい言葉ばかりが
    並ぶが、それは誰の為のものなのか。庶民の為ではないのは確かだ。

    思い出すのは小泉政権だ。製造業への派遣労働を解禁した結果が、不
    況時の大量派遣切りではなかったか。

    これは対岸の火事ではない。TPPなんか参加しなくたっていい。日本は
    ガラパゴスでも構わない。ここはアメリカの準州ではないのだから。

  • 完結編の今作では、アメリカのみならずイラクやメキシコ、アルゼンチンといった諸外国をも飲み込んでいったアグリビジネスを中心に、切り売りされ、市場原理の野に放たれてしまった自治体と公共サービス、政治家やマスコミを巨額の資金で傘下に収めることで世論を支配することに成功した巨大企業などについて、その内情を暴いていく。国際貿易協定で合法的に進められていく「1対99」のグローバル化。TPPの当事者である日本もまた例外ではない。結びで登場する、ITの力で巨大企業に立ち向かう市民の姿が唯一の希望だった。

  • カテゴリ:図書館企画展示
    2015年度第1回図書館企画展示
    「大学生に読んでほしい本」 第1弾!

    本学教員から本学学生の皆さんに「ぜひ学生時代に読んでほしい!」という図書の推薦に係る展示です。

    木下ひさし教授(教育学科)からのおすすめ図書を展示しました。
        
    開催期間:2015年4月8日(水) ~ 2015年6月13日(土)
    開催場所:図書館第1ゲート入口すぐ、雑誌閲覧室前の展示スペース

    ◎手軽に新書を読んでみよう
    1938年に岩波新書が創刊されたのが新書の始まりです。
    値段も分量も手ごろな新書は「軽く」見られがちなところもありますが、内容的に読み応えのあるものも多くあります。気に入った著者やテーマで探してみるとけっこう面白い本が見つかるものです。広い視野を持つために、興味や関心を広げるために新書の棚を眺めてみましょう。刊行中の新書を多様な角度から検索できるサイトもあります。(「新書マップ」)

    ◇女性ジャーナリスト堤未果の本
    良質のルポルタージュはマスコミが伝えないできごとを教えてくれます。堤氏の一連のアメリカルポはその好例でしょう。アメリカという国の現実はそのまま日本につながります。英語を学ぶだけではアメリカを知ったことにはならないのだと気づかされます。

全173件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

堤 未果(つつみ・みか)/国際ジャーナリスト。ニューヨーク州立大学国際関係論学科卒業。ニューヨーク市立大学院国際関係論学科修士号。国連、米国野村證券を経て現職。米国の政治、経済、医療、福祉、教育、エネルギー、農政など、徹底した現場取材と公文書分析による調査報道を続ける。

「2021年 『格差の自動化』 で使われていた紹介文から引用しています。」

堤未果の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
佐々木 圭一
ヴィクトール・E...
シーナ・アイエン...
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×