- Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
- / ISBN・EAN: 9784004314356
作品紹介・あらすじ
民芸運動の創始者として知られる柳宗悦(一八八九〜一九六一)。その生涯は、政治経済的弱者やマイノリティに対する温かい眼差しで一貫している。それはどのような考えからきたのだろうか。「世界は単色ではありえない」という確信に由来するのではないか。文化の多様性と互いの学び、非暴力を重視し続けた平和思想家としての柳を浮彫りにする。
感想・レビュー・書評
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大ファンである柳宗理氏のお父様。デザインと機能が共存する宗理シリーズの源流がここにあるのかもしれない。
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記録
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【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/687497 -
美術
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柳宗理の父親。民芸の柳だが、実にさまざまな活動をしていたという。
「複合の美」とは宗悦の言葉で、野に咲く花は様々あって美しいさま。 -
民芸運動の旗手という狭い枠から柳を解き放ち、「複合の美」という観点からその平和思想的側面をあぶり出すという軸のもとに書かれた好著。
柳の思想的遍歴を辿りつつ、現代的諸課題への対応についての可能性を、著者は「複合の美」という視点から捉える。またキリスト教、禅宗、そして真宗への傾倒と時代を追って深まる柳の宗教思想家としての側面も大いにクローズアップされており、勉強になった。 -
柳宗悦の著作は未だ読んでいないが、もの作りをする者として知っていなければならぬ人物と思い、そのガイドとなるのではと思って本書を読み始めた。
僭越な言い方をすれば、これほどの人物も西洋に気触れ、日本のアイデンティティの模索を始めている。そこに僕自身の思考過程を重ねることが出来、親近感を持ちながら読んだ。
この本から受ける柳の印象は、論理の人であると思った。西洋に対する日本の論理の構築を目指している人であって、柳自身が民藝の中に見いだそうとしていた無心さえ、論理の西洋vs無心の日本を導こうと必死であった印象を受けた。時代は異なるが岡本太郎のように直観で日本を良さを見いだす人とは真逆であると思った。極端な言い方をすると、西洋コンプレックスから、消去法で民藝を見いだしたようにさえ思えた。
作家性を廃しギルドで手仕事を行うこと、社会主義的、アナーキーなところは今の僕らにはとても理想主義なところがある。資本主義の行き過ぎた社会のなかでは柳の思想はギャップがかなりある。ヒントはこの本を読んだだけでは見いだせない。
ただ少なくとも、柳は思案に留まることなく実践した者なのだから、素晴らしい。この本を入り口として柳宗悦の著作も読んでみて、引き続き自分なりのヒントを探してみたいと思った。 -
伝記的な事柄を色々と勉強させていただきました。ただ、柳という人物を現代にいかに活かすか、という議論はあまりに紋切型で楽観的だったように思う。
肯定的に描くという戦略は意識的に採られたわけなんだが、その結果として論が一本調子になった面はあるだろう。
批判的な捉え方が欲しかったし、そちらの方が、人物の像としてふくらみが出たように思うんだ。 -
なぜ多様性が必要なのか、全部統一した方が効率的でいいじゃないか、という主張に、「多様性のない世界はつまらないでしょう」と反論して納得させるのは難しいけど、それが1番じゃないかと思う。
民芸運動で有名な柳宋悦の主張から紡ぎ出した「複合の美」の思想もそんな所にあるのでは。異なる文化から学ぶ姿勢が大事。
宋悦に傾注しすぎて若干かいかぶり気味な点も多い。
彼は単なる芸術品の評論家の立場からでしかモノを言っていない、と言われればそうだから。
「多民族・多文化の共生が重視されている今日、それを非暴力的方法によって実現していくためには、どのような精神態度が求められるかを示唆している」
クロポトキンの相互扶助的思想
「国民の深玄なる美意識は、自らの源泉より流出してこそ、うるわしく貴い」
「中国や朝鮮の芸術を前にして、日本が誇ることのできる美とは何か、の探求に向かわざるを得なくなる・・・・・・まさにこのことこそ、柳を民芸の発見へと促していった」
「個人作家が自分たちの失ってしまった無心を取り戻すために工人から学び、他方方向性を持てない工人を、個人作家が技術面も含めて導いていくこができれば、両者間に相互扶助が成り立ち、豊かな美を生み出すことができる」
「最もいきいきといまなお確実な民芸品を作っているのは、日本国中で最も貧しいと言われる東北と琉球である」
「地方の人たちは、自分達の文化を都会のものから遅れた価値のない文化とみなして自らを蔑まず、劣等感に起因する不必要な模倣をすべきではない。自己を抑圧せずに誇りを取り戻し、もてるものを十分に発揮することが大切である。むしろ高いところに入りすると自負する中央こそ、地方に学ばなければならない。日本が世界誇ることのできる文化の基盤は、地方にあると認識すべき」
「他力に徹した時、より多く神や神の創造した自然の力が作用し、そこに優れた美が生まれるとの考え」
「強者は弱者を踏み台にし、弱者もまた、自己をあえて強者の踏み台として提供することによって、主流の価値観の中で生きていこうとしている」