生活保護から考える (岩波新書)

著者 :
  • 岩波書店
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レビュー : 23
  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004314592

作品紹介・あらすじ

すでに段階的な基準の引き下げが始まっている生活保護制度。社会保障制度の、そして生きるための最後の砦であるこの制度が、重大な岐路に直面している。不正受給の報道やバッシングのなか、どのような事態が起ころうとしているのか。当事者の声を紹介するとともに現場の状況を報告、いま、何が問題なのか、その根源を問う。

感想・レビュー・書評

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  •  湯浅誠らとともに自立生活サポートセンター「もやい」を運営してきた著者が、長年貧困問題の現場で活動してきた経験をふまえ、生活保護をめぐる問題を論じた一冊。

     「はじめに」で、「(本書は)いわゆる『中立的』な立場から書かれたものではありません」と宣言しているとおり、著者は明確に生活保護受給者の側に立っている。
     生活保護基準の段階的引き下げに踏み切った安倍政権を批判し、世にあふれる「生活保護バッシング」に反論し、一方で受給者たちのつらさに寄り添う――著者のスタンスはきわめて明快だ。

     たとえば、こんな一節がある。

    《社会保障費削減へと突き進む政治の動きに自らの生存そのものを否定されたように感じ、絶望の末に抗議の自死をした生活保護利用者の女性を、私は知っています。
    (中略)
     生活保護制度の本当の意味とは何でしょうか。それは人間の「生」を無条件で保障し、肯定することだと私は考えています。「生」というと、最低限の生存が維持できている状態だという意味に受け取られがちですが、ここで言う「生」とは衣食住だけでなく、健康で文化的な生活、つまり「人間らしく生きる」ことを意味しています。》

     そうしたスタンスゆえ、生活保護バッシングに共鳴する人は本書を手に取ろうとも思わないだろう。が、そういう人にこそ読んでもらいたい。生活保護に対する世間一般の見方がいかに偏ったものであるかが、よくわかるから……。

     盟友・湯浅誠の著作同様、大局的視点から生活保護行政の問題点を衝く冷静さと、個々の困窮者と共闘する熱い現場感覚が、絶妙に同居している。

     安倍政権の生活保護行政を批判するとともに、歴代自民党政権が生活保護に向けてきた視線の歪みをあぶり出す著者の筆鋒は鋭い。いわく――。

    《「家族の助合い」、「自助」を最優先に置き、「公助」の役割を最も後回しにする発想は自民党の「党是」とも言えるものです。》

     読みながら、「福祉の党」をもって任ずる公明党が自民党と連立政権を組んでいることは、やはりどうしようもなく「水と油」だと改めて思った。考え方の根幹がまるで相容れないのだ。

     本書の圧巻は、第3章の「家族の限界」だと思う。
     この章では、一連の生保バッシングを契機に進められた生活保護法の「扶養義務強化」が、家族との間に決定的な亀裂を生じている一部の困窮者にとっていかに過酷な足枷となるかが、具体的事例を通して論じられている。
     
     その中で紹介される生活保護世帯の女子高生からのメールは、涙なしに読めない。
     高校の学費も(要返済の)奨学金でまかなっているという彼女は、メールに次のように記す。

    《「専門学校も奨学金で行けばいいと言われますが、専門学校卒業後、高校の奨学金と専門学校の奨学金を同時返済しさらには親を養えと言われる」
    「私はいつになれば私の人生を生きられるのですか。いつになれば家から解放されるのですか」
    「子が親を養うことも当たり前のように思われていますが、それは恨んでいる親を自分の夢を捨ててまで養えということなのでしょうか。成績は充分であるにもかかわらず進学は厳しいというこの状況はおかしいのではないでしょうか」》

     重箱の隅つつきを一つ。「はじめに」に、言葉の誤用がある。

    《この本はそうした社会や政治の「流れに棹さす」ことを目的として書かれています。》

     「流れに棹さす」は、「その流れをさらに加速させ、勢いを増す」という意味。生活保護削減の「流れに棹さ」したらマズイだろ。
     天下の岩波の本なのだから、編集者か校閲者が誤用を指摘してあげるべきだったと思う。 

  • 先ずこの本を読んで欲しいのは、この間に生活保護受給者に対して人前で何回も攻撃的な言説をしたり、ネットに一回でも書いたことがある人である。その人たちは根拠を持ってそう言っているのだろうし、それが社会の「空気」を作り、引いては先日成立した生活保護法と生活者自立支援法に結実し、更に社会保障の切り下げに繋がったのは確かなのだから、ここに書いている著者の「根拠」に対して、きちんと「反論」する(少しきついけど)社会的責任があると思うのです。

    法案成立に関わった議員や役人にその責任があるのは当然です。

    読んだ上で、反論が出来るのであれば出来たら教えて欲しい。

    もし、その反論が人としての価値観に関係するのだとしたら、私は特に著者が書いた以下の部分を強調したい。

    生活保護制度の本当の意味とはなんでしょうか。それは人間の「生」を無条件で保障し、肯定することだと私は考えています。「生」というと、最低限の生活が出来ている状態という意味に受け取られがちですが、ここでいう「生」とは衣食住だけでなく、健康で文化的な生活、つまり「人間らしく生きる」ことを意味しています。
    現代社会において「人間らしく生きる」ためには経済的な基盤が不可欠です。その基盤を支えるための制度はさまざまありますが、どんな人に対しても最後のラインで「生」を防衛しているのが生活保護制度だと言えます。その意味で、生活保護制度は「人間らしく生きたい」という人として当然の願いを無条件で肯定している制度だと思います。
    「生」を支える生活保護をパッシングしている人びとは、私から見ると他者の多様な「生」のありようを肯定出来ていない人たちに見えます。そして、他者の「生」を肯定出来ない人は、実は自分自身が「人間らしく生きる」ということをも無条件で肯定出来ていないのではないかと私は感じています。(204p)

    こういう例を引くと、「生活保護受給者をパッシングしている人は人非人だ」という風に短絡的に考える人が出てくると困るので、少し付け加えます。これは私は人としての立ち位置の問題だと思うのです。歯痛は、自らなってみないとなかなかその苦しみはわからない。でも、わからないことを含めて、どういう立場で人を見るか、ということのだと思う。「彼は命に関わるわけじゃないのだから、薬は用法を守って我慢するべきだ」としたり顔で言うのか、とりあえず痛みを和らげるために、定量以上の薬服用含めてあらゆる手立てを取るべきだと考えるのか。薬を与える立場に立つのか、それとも貰う人に寄り添うのか。

    それは答のない人としての選択だと思うのです、
    2014年1月5日読了

  • 確かにおっしゃるとおり・・・・。
    理想はそうでしょう。
    でも・・・・、財源はどうするんでしょう。
    最低限の生活というのは、最低賃金の積み重ねなのでしょうか。
    必ずしも「弱者の正義」でなくても、告発したい利用者はいるでしょう。
    線引きをどこにするかという問題は相変わらず残るのではないでしょうか。

  • 生活保護全般というより生活保護を受ける個人人に焦点をあてた本。生活保護の人達の実状がわかり非常にためになる。一方、冒頭でも書いている通り生活保護を受ける人の立場に身を置いた主張をしているが、気持ちは分かるものの財政難の中これだけでは生活保護の強化を主張するのは難しい。生活保護を強化することで、他に副次的な効果もある、あるいは生活保護を強化した場合に素晴らしい社会をシミュレートできる、などといったことがあればもう少し生活保護の強化に説得力が持てそう。

  • 「生活保護を必要としている人や制度を利用している人の立場に寄り添うことをめざして執筆」されており、著者自身が触れているように、「中立的」な立場から書かれているわけではない。なので、ちょっと性善説に立ち過ぎではないかといった印象をどうしても受けてしまうが、「水際作戦」といった生活保護行政の違法な実態や、生活保護を利用している当事者の声を知ることができるという点で意義のある本だと思う。

  • 生活保護利用者を支援する組織の最前線で働く方の本。生活保護制度の現状、生活保護利用者の考えについて学ぶことができた。
    ただ、著者の目的が「生活保護利用者をバッシングする人に理解を促すこと」だとしたら、不十分である。例えば、生活保護利用者の生活の具体例(生活スケジュール、収入・出費の内訳、世帯構成など)を示すなどして読者にイメージをわかすことが必要だと思う。
    あと、財政難の現状で「制度をより充実させるべきだ」と主張するのであれば、本書で提案している改正案によってどれくらいの予算が必要なのか、また、現状の制限内での改善余地は無いのか、などの分析も欲しかった。悪く言えば、一方的な主張(理想論)に見えかねない。

    もちろん、筆者が主張するような、「人間の生を無条件で保障し肯定する」社会には賛同である。

  • 生活保護基準の引き下げの問題点、「水際作戦」の問題、扶養義務強化の問題点などが詳しく書かれていた。役所や政府のやり方に物申す、といった感じだった。社会福祉士の資格の勉強中なので、この本に書かれているようなソーシャルアクションが参考になった。社会福祉士になれたら、専門性を生かして経済的社会的弱者に関わり、社会の変化に立ち入りたいと強く思わせる内容だった。

  • 生活保護の実態が知りたくて、何冊か読んだ中のひとつ。

  • ・生活保護行政=保護を必要としている人を差別し、スティグマを押しつけているのが現状。ワーキングプア層からのバッシングがなされる
    →しかし本来は「生活保護=必要最低限度の文化的生活を送るための社会保障」であるため、むしろワーキングプア層や全般的な引き上げが必要だ!(最低賃金の引き上げなど)

    ・生活保護=実際の対象者は精神疾患や障害などで働きたくても働けない人々
    ・スティグマを再生産・強化する、メディア報道・世間の目
    →排除された人々を包摂するという視点に欠ける

    ・世代間扶養義務=密接的な家族関係に押しつける事で個人の自立を阻害し、結果として貧困の連鎖から脱出が困難になっている。
     →親と子の生活基盤を分離させる有効な手段としての「生活保護」

    日本の社会保障ー家族による社会保障と企業による社会保障
     →いま企業福祉も解体し、家族も溶解している以上セーフティーネットがそもそも存在しなくなる状態に

  • 「もやい」の理事長で生活保護問題を現場で扱っている人の著書。生活保護問題を学ぶには適切な入門書。生活保護は人が人らしく生きる当たり前の権利を保障している制度。ただ私達自身もその制度へのスティグマから抜け切れてないことを自覚することと、この制度の改悪は社会保障制度全体への改悪の第一歩であることを理解しないといけないだろう。

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著者プロフィール

1969年広島県生まれ。NPO法人自立生活サポートセンター・もやい理事。著書に『鵺(ぬえ)の鳴く夜を正しく恐れるために―野宿の人びととともに歩んだ20年』(エディマン、2014年)、『生活保護から考える』(岩波新書、2013年)、『ハウジングプア』(山吹書店、2009年)など。

「2016年 『貧困の現場から社会を変える』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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