フォト・ドキュメンタリー 人間の尊厳――いま、この世界の片隅で (岩波新書)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004314714

作品紹介・あらすじ

独裁政権と闘うジャーナリスト、難民キャンプで暮らす少女、配偶者から硫酸で顔を焼かれた女性、震災で家族を失った被災者、誘拐され結婚を強要された女子大生-。世界最大規模の報道写真祭で最高賞を受賞した気鋭の写真家が、世界各地で生きぬく人びとに寄り添い、その姿を報告する。カラー写真多数。

感想・レビュー・書評

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  • 著者の林典子さんは、写真とジャーナリズムに、意図せずある日出会ってしまった人のように思えた。

    世界の片隅に、ニュースにならない、目を背けたくなるような現実が溢れていること。
    それを写真に撮り報道しても世に知れ渡り変わっていくには多くの時間を要し、その被写体となった人達は直接には救われないというジレンマ、それでも写真を撮ること、そのような人達に寄り添い、生活を共にし、写真を撮ることはしかし一見すればこのような人達に大きなカメラを向けて付き纏う冷たい日本人と見えることを常に肌で感じながら、身を削りながら取材を続けているのだろうと感じました。

    このような信じ難い現実を知ることとともに、林典子さんの思い、姿勢、成長も読み取ることができる、単なるフォト・ドキュメンタリーではない一冊でした。

    震災の、あるご夫婦の一節には、ジャーナリズムとはまた違う、深い感動がありました。

  • 第一章、ガンビアの独立新聞社で命懸けで新聞記事を書く若い記者達の描写が1番印象深く残る。
    意義の為に危険を冒してまで職務を全うし、実際に命を奪われた者。その道を諦めざるを得なかったもの。


    第1章 報道の自由がない国で―ガンビア
    第2章 難民と内戦の爪痕―リベリア
    第3章 HIVと共に生きる―カンボジア
    第4章 硫酸に焼かれた女性たち―パキスタン
    第5章 震災と原発―日本
    第6章 誘拐結婚―キルギス

  • テーマが定まっておらずいまいち深みに欠ける内容。 
    戦争も虐待も、こういう理不尽なことは結局、貧困からくる無知からくるものなんだと思う。犠牲になるのはいつも弱い者たち。

  • 何年か前に、タイトルが気になり買ったものの、読まずにそのままになっていました。読んでみて、あらためてまだまだ知らないことばかりだと…全世界がコロナに右往左往し、一方でオリンピックで一喜一憂…でも個人レベルでは想像もつかないような人生を送っている人たちがいる。「尊厳」にも格差があるのでしょうか。実際何もできなくても、このような現実があることから目をそらしてはいけないと思いました。それにしても、著者の行動力はすごい。突き動かす情熱を感じました。

  • 林典子のフォトドキュメンタリー

    ガンビア〜報道の自由がない国で

    リベリア〜難民と内戦の爪痕

    カンボジア〜HIVと共に生きる

    パキスタン〜硫酸に焼かれた女性たち

    日本〜震災と原発

    キルギス〜誘拐結婚
      信じられない伝統、本当に伝統なのか疑問

  • ☆特に、女性の被害。

  • 「こういう仕事をしたい」と思って、その道にまい進する人もいれば、
    些細なきっかけで思ってもみなかった仕事に就く人もいる。

    本書の著者は後者のタイプか。アメリカに留学していた大学3年
    の時に研修で訪れた西アフリカのガンビア。

    研修中にガンビアで開催されたアフリカ連合の人権問題に
    ついての会議でのガンビア人ジャーナリストの発言がきっかけ
    だった。

    アフリカの小国の多くが独裁国家だ。ガンビアもその例に漏れない。
    独裁国家には言論の自由も、報道の自由もない。そんな国でも
    権力を監視するメディアは存在する。勿論、せいめい・身体の危機
    と隣り合わせの仕事だ。

    著者は研修期間を延長し、ガンビアの独立系の新聞社で記者たち
    について仕事をする。たまたま持っていたカメラが、その後の彼女
    の進む道を決めた。

    このガンビアでの出来事をはじめ、内戦の犠牲となったリベリアの
    難民たち、カンボジアでは母子感染したHIV感染者の少年、男の
    身勝手な理由で硫酸をかけられたパキスタンの女性たち、東日本
    大震災と原発事故の被災者たち、誘拐結婚の横行するキルギス
    を、写真と文章で報告している。

    特に衝撃だったのは、硫酸に焼かれた女性たちだ。正直言って
    掲載されている写真からは目を背けたかった。塞がった目、
    引き攣れた皮膚。美しかったであろう女性たちは、何度移植
    手術を繰り返しても元の姿には戻らない。

    それでも、女性たちは苦しい手術に耐え、自分の姿を受け入れ
    生きていくしかないんだよな。一部地域で行われている女子割礼
    もそうだが、何の咎もないのにこんな酷い行為が世界の片隅で
    は実際に起きているんだ。

    章が進んでいくごとに、著者がフォト・ジャーナリストとして成長
    していく過程が伝わって来る。そうして、私たちが知らない出来事
    が今も世界のどこかで起こっているんだと考えさせられる。

    本書で報告さているような出来事を知ったからといって、何が
    出来る訳でもない。もしかしたら、知らなくてもいいことなのかも
    知れない。知ってしまったら、辛くなるから。哀しくなるから。
    怒りがこみあげて来るから。

    でも、著者のように写真で、文章で伝えようとする人がいる限り、
    世界のどこかで起きていることを、私は知りたいと思う。知って、
    泪することだけでは何も変わらないのは分かっている。それでも、
    これからもこのジャンルの作品には手を出し続けるだろう。

  • なんというか、まだ、問題の核心に迫っていないもどかしさがある。社会問題のつまみ食い感しか残らない。問題だけでなく、個々の当事者の生き様にも迫りきっていない。ダメな本ではないが、不全感が強く残った。

    他の方の評判が良いから手に取ったが、わたしは当事者のことを知りすぎているのかもしれない。

  •  結婚や交際の申し込みを断られた腹いせに硫酸を顔にかける。

     どうしてそんなひどいことができるのだろう。どうしてそんなひどいことをした人間が罪に問われないのだろう。


     パキスタンでは年間150人から300人くらいの女性が、硫酸をかけられる事件が発生しているらしい。それも氷山の一角で、地方の村では警察に被害届けを出さずに隠れるように生きている女性も多いという。


     男のプライドを傷つけた報いとして、生き地獄を味わえという理屈らしい。
     
     全くわからない。殴るとか、刺し殺すとかは日本でも頭のおかしい幼稚な奴はやるが、顔を焼くんだから、これはたぶん宗教観からくる報復なんだろうと思う。


     ペットでもなく・・・虫でもなく・・・なんだ? 女性は人形か? 所有物だから壊してもいいということか?


     男の馬鹿な頭を矯正するより、これはまず国家が厳罰化して男の頭を殴らないと、この犯罪は無くならないと思う。


     
     被害を受けた女性の写真は衝撃だ。被爆者の写真のようだ。被写体になった女性たちも本当は写真を撮られたくないのかもしれない。
     しかし同じ女性として被害女性に寄り添うように取材した著者の意図が通じたのだろう。取材に応じ、このあまりにひどい現実を世界に発信することに協力する。


      被害女性たちの生活も詳しく取材している。化粧をしたり、おしゃれをしたり、と女性らしい姿もとらえるが、それは家の中でのこと。外に出るときは顔全体を覆って、けっして顔を出さない。家の中での姿をとらえることができたのは、やはり著者が女性だからだと思う。


     シリアで亡くなったジャーナリストの山本美香さんも戦火の犠牲になっている女性を取材し続けていた。女性にしかできない取材というのは確かにある。


     
     あと、たぶんこの著者が日本に報道して有名になったんだと思うけど「キルギスの誘拐婚」の章がとても興味深かった。


     長くなるから詳細は省くが、誘拐婚で結婚した80過ぎの老夫婦の話がこの不可解な伝統を一刀両断しているところが面白かった。
     「いまの誘拐婚はただの流行だ」


     相手の気持ちも考えず、強引に相手を攫うなんてことはしているのは今の若者だけだという。昔は親が決めた許嫁と結婚するしかなかった。愛し合っている二人の気持ちより、家のほうが大事だった。それが嫌で男は女を許嫁と両家から「攫った」 要するに駆け落ちみたいなものだったらしい。


     それがどうしてこんなひどいことが”伝統”と思われるようになってしまったのか。
     もし、これを昔から伝統として報道、紹介している媒体があったら、それはがセです。


     誘拐婚は犯罪として重い量刑が課せられるようになったらしいので、早く無くなればいいと思う。

  • 出会えてよかった、と思える本。想像を絶する理不尽なことが、今この瞬間にも起こっているかもしれないことを思い起こさせてくれる。

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著者プロフィール

学校法人ソニー学園湘北短期大学生活プロデュース学科講師。独立行政法人国立病院機構相模原病院臨床研究センター特別研究員。2006年より国立病院機構相模原病院臨床研究センターアレルギー性疾患研究部に勤務。2016年に修士号(家政学)取得。同年4月より現職。著書に『子供が喜ぶ食物アレルギーレシピ100』(栄養監修・成美堂出版)、『厚生労働科学研究班による食物アレルギーの栄養指導の手引き』(2011、2017年版 共著)、『食物アレルギーの栄養指導』(共編・医歯薬出版)、『食物アレルギーのつきあい方と安心レシピ』(栄養監修・ナツメ社)など。

「2018年 『林先生に聞く学校給食のための食物アレルギー対応』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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