現代秀歌 (岩波新書)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004315070

作品紹介・あらすじ

「今後一〇〇年読まれ続けて欲しい」と願う、現代の秀歌一〇〇首。大きな変化を経た時代に、歌人たちは何を言葉に託してきたか?自ら歌人として活躍する著者ならではの視座から、歌の現在を、そして未来を語る。大好評を得た『近代秀歌』の姉妹篇。

感想・レビュー・書評

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  • 私には難しいかなと思って読み進めましたが、私にもこの本が大変な名著であることはわかりました。
    姉妹編の『近代秀歌』も読んでみたいと思いました。


    私も今、自分の健康面をしみじみ考えていたので、第10章の「病と死」、著者の永田和宏さんの奥様の河野裕子さんのことを綴られた「おわりに」が心に響きました。

    <一日が過ぎれば一日減っていくきみとの時間 もうすぐ夏至だ>  永田和宏

    この歌を永田さんは奥様の前で発表すべきか迷ったそうですが、発表されたそうです。


    あとは、作歌する時の心構え(ヒント)として
    第3章「新しい表現を求めて」
    当たり前のことを当たり前に詠む。

    <茂吉像は眼鏡も青銅(ブロンズ)こめかみに溶接されて日溜りのなか>  吉川宏志

    <次々に走り過ぎ行く自動車の運転する人みな前を向く>  奥村晃作

    よく考えてみれば、ただ当たり前のことを当たり前に詠んでいるだけなのですね。


    第5章「日常」より

    <大根を探しにゆけば大根は夜の電柱にたてかけてあり>  花山多佳子

    歌ではなにか深遠な思いや深い感動を詠まなければならないと思っている人々からは顰蹙を買いそうな歌である。なんてつまらないことを歌にしているのだと叱られそうでもある。しかし、こういうおもしろい歌を許すのも現代短歌である。現実の生活のなかにはこんな滑稽なシーンは数えきれないほどある。(中略)
    そんな笑いがあるからこそ続いている現実の世界なのかもしれないのだ。そのようなことに少しでも思いが向かうとするならば、この一首の存在価値はとても大きい。




    私は、この本の自分の作歌に役立ちそうなところだけ抜き書きしましたが、この本の内容はもっと深いところにあります。
    著者の永田和宏さんはこの本と姉妹編の『近代秀歌』を日本人の常識として読んで欲しいとおっしゃられています。私はこの本は随分前から積んでいましたが(2021年からです)、短歌を始めたので読みました。日本人の常識とされるものがやっと今読むことができて非常によかったと思います。

    • アテナイエさん
      まことさん、こんばんは!

      この本、とても面白くて勉強になりますよね。永田さんの的確な指摘が素晴らしい本です。何度読んでも飽きません。
      ...
      まことさん、こんばんは!

      この本、とても面白くて勉強になりますよね。永田さんの的確な指摘が素晴らしい本です。何度読んでも飽きません。

      <茂吉像は眼鏡も青銅(ブロンズ)こめかみに溶接されて日溜りのなか>

      おお~まことさん、書かれているのでこの歌はお好きなのでしょうね。ほんとに日常の一コマなのですが、人工物のブロンズの冷ややかさが、日溜まりという自然の温かさに包まれて、斎藤茂吉というのもほっこりして、情景が見えるような歌ですね。

      「大根」の歌の滑稽さにはほんとに感心しました。人によっては、なんとつまらないことと言われるかもしれないけれど、あまりにも真面目すぎるとかえって滑稽になって、それが笑いにつながり、ふっと肩の力が抜けるという『ドンキホーテ』風のユーモアが好きです。
      永田さんの『近代秀歌』も的確でおもしろいのでお薦めです♪
      2024/01/16
    • まことさん
      アテナイエさん、こんばんは♪

      こちらにお返事ありがとうございます!
      斎藤茂吉の歌は当たり前のことを当たり前に詠むという、勉強になりました。...
      アテナイエさん、こんばんは♪

      こちらにお返事ありがとうございます!
      斎藤茂吉の歌は当たり前のことを当たり前に詠むという、勉強になりました。茂吉像が青銅(ブロンズ)ならば、眼鏡も青銅(ブロンズ)なのは当たり前ですよね。それをわざわざ歌に詠むというのが、凄いです。

      『近代秀歌』も、私には難しいかもしれないけれど、読んでみたいと思います。
      2024/01/16
    • アテナイエさん
      まことさん、こちらにも返事いただきありがとうございます。

      >斎藤茂吉の歌は当たり前のことを当たり前に詠むという、勉強になりました。
      ...
      まことさん、こちらにも返事いただきありがとうございます。

      >斎藤茂吉の歌は当たり前のことを当たり前に詠むという、勉強になりました。

      当たり前のことを当たり前に詠むことが難しいですよね。
      斎藤茂吉のよさをわかりはじめたのは最近です。ということで、茂吉の歌集をちらほらながめているところです。

      『近代秀歌』はたしかに少し難しいところもありますが、そういうところはこだわらずに飛ばしてもいいと思いますよ~。繰り返して眺めればいいので、素晴らしい歌と永田さんの書評や解説を眺めてみてくださいね。
      2024/01/16
  • 名著だ。今まで現代短歌は難解なものだと思っていたが、この本を読むとこんがらがっていた毛糸がするすると解けるようにその解釈も分かるし、その良さもびんびんと分かるのだ。現代の様々なことにどう短歌が関わって来るのかということもよく分かる。著者の解説は上手い!
    「現代の共有財産として遺された歌の数々にふれてほしい」「日常会話の端々で、あるいはある場所や風景に出会った折に、私たちが受け継いできた歌が、ふと人々の意識と唇の端にのぼる」-こういう気持ちで著者はこの本を書いたそうだ。そう、事象に対する新しい見方、感じ方を示してくれるのが現代短歌なのだ。100人の歌人が紹介されている。

    • ☆ベルガモット☆さん
      goyaさん、あけましておめでとうございます。
      多くのいいねをくださりありがとうございます。
      解釈や新しい見方、感じ方を学びたいので読み...
      goyaさん、あけましておめでとうございます。
      多くのいいねをくださりありがとうございます。
      解釈や新しい見方、感じ方を学びたいので読みたい本登録しました。
      本棚のカテゴリーわけが魅力的ですね。
      これからもよろしくお願いいたします。
      2022/01/02
    • goya626さん
      ベルガモットさん
      明けましておめでとうございます。コメント、ありがとうございます。この本には、目を開かれることがたくさんありました。いい本...
      ベルガモットさん
      明けましておめでとうございます。コメント、ありがとうございます。この本には、目を開かれることがたくさんありました。いい本ですよ。
      こちらこそよろしくお願いします。
      2022/01/02
  • goya626さんのレビューでの「名著」に惹かれてお取り寄せ。
    「心のもっとも深いところに発する感情を定型と文語という基本の枠組みに乗せる歌」という短歌の魅力、「歌の力は誰かに読まれることによって、さらにいきいきとした力を発揮する」、「日常生活の場のいろいろな場面において思い出す」ことでほんとうに生きてくるという意識で、テーマごとに短歌の紹介と作られた時代背景や歌人の人生などを交えた解説がなされている。特に「青春」「社会・文化」「旅」の章の歌が印象に残った。巻末に歌人の一覧、歌索引が50音順に示されている。

    「さまざまな読みを許容するのがいい歌の条件」「歌の読みに正確はない」「他の人の<感性の方程式>とでもいったものに触れる喜び」「読者のもののみかたを一新」「どう読めば、自分にとって歌がいちばん立ち上がってくるか、魅力的に映るかが大切」「上句と下句が合わせ鏡」のように互いに「問と答」をかけ合うことによって、立ち上がってくる顔が短歌における「私」であるとのこと。読み方の視点について参考になった。

    穂村弘の「終バスにふたりは眠る紫の<降りますランプ>に取り囲まれて」の解説は、「不思議な童話のなかの出来事のように懐かしい」「正式名より、見たままのイメージを幼く表現したことが成功の秘密」

    「サバンナの象のうんこよ聞いてくれだるいせつないこわいさみしい」については、「従来の短歌の短歌らしさをいとも簡単に遠くへ放り投げてしまった」 「青春はときにこのような破天荒な歌をもたらす」などの評が歌の世界を広げる。

    一日が過ぎれば一日減つてゆくきみとの時間 もうすぐ夏至だ(永田和宏)
    さみしくてあたたかかりきこの世にて会ひ得しことを幸せと思ふ(河野裕子)
    相聞歌として家族としての葛藤や残された時間を歌い上げ素晴らしいと思った。

    好きな歌抜粋
    ごろすけほう心ほほけてごろすけほうしんじついとしいごろすけほう(岡野弘彦)
    きみに逢う以前のぼくに遭いたくて海へのバスに揺られていたり(永田和宏)
    するだろう ぼくをすてたるものがたりマシュマロうくちにほおばりながら(村木道彦)
    カレンダーの隅24/31 分母の日に逢う約束がある(吉川宏志)
    さみしさでいっぱいだよとつよくつよく抱きしめあえば空気がぬける(渡辺松男)
    ときにわれら声をかけあふどちらかがどちらかを思ひ出だしたるとき(岩田正)
    涙拭ひて逆襲し來る敵兵は長き廣西學生軍なりき(渡辺直己)
    通訳の少年臆しつつ吾に訊ふ吾が教へたる日本語あはれ(前田透)
    ガス弾の匂い残れる黒髪を洗い梳かして君に逢いゆく(道浦母都子)
    大正のマッチのラベルかなしいぞ球に乗る象日の丸をもつ(岡部圭一郎)
    ものおもふひとひらの湖をたたへたる蔵王は千年なにもせぬなり(川野里子)
    曼珠沙華のするどき象夢にみしうちくだかれて秋ゆきぬべき(坪野哲久)
    時間をチコに返してやらうといふやうに父は死にたり時間返りぬ(米川千嘉子)

    • まことさん
      ベルガモットさん、おはようございます♪

      短歌教室のご友人と行かれたのですね!
      三列目で視聴されたのですね。
      永田和宏さんもいらした...
      ベルガモットさん、おはようございます♪

      短歌教室のご友人と行かれたのですね!
      三列目で視聴されたのですね。
      永田和宏さんもいらしたんですね!
      この本を読まれて行かれてよかったですね。
      このシンポジウムの写真は吉川宏志さんがツイートしていたので、短歌の垂れ幕や、近隣の海の写真を見ました。
      本当に短歌を始めたら、歌人は芸能人みたいなものですよね!
      私は来年度、穂村さんが地元にいらっしゃるかもしれないので、ドキドキしています。
      お知らせありがとうございました!
      2023/09/10
    • ☆ベルガモット☆さん
      まことさん、お返事ありがとうございます!
      まさしく「歌人は芸能人」同感ボタン押しまくりです♪
      吉川宏志さんのシンポジウムの様子ツイート私...
      まことさん、お返事ありがとうございます!
      まさしく「歌人は芸能人」同感ボタン押しまくりです♪
      吉川宏志さんのシンポジウムの様子ツイート私も見直して、何だか嬉しくなりました!吉川さんはいろんな方との談笑でも優しく誠実な人柄がだだもれでした。ますますファンになりましたよ。永田さんもとてもダンディで、娘さんの永田紅さんとさっそうと登場する場面はジーンズ姿でもオーラがでていてかっこよすぎでした♡
      穂村さんは、(以前お話したかもしれませんが)熊本で角田光代との対談イベントにてお見掛けしたときに、思ったよりもとても背が高く大人の色気ありまくりでした。著書にサインをもらう時に少しお話しできて心臓が止まるかと思いました。
      来年度穂村さんとお会いできるといいですね!!!
      推し短歌楽しそうですね~ 皆さんの投稿を眺めるだけにしておきまーす
      選ばれたらぜひお知らせくださいませ!(^^)!
      2023/09/13
    • まことさん
      ベルガモットさん、おはようございます♪

      シンポジウムの様子詳しくおしらせくださってありがとうございます!
      こちらまで、参加した気分が...
      ベルガモットさん、おはようございます♪

      シンポジウムの様子詳しくおしらせくださってありがとうございます!
      こちらまで、参加した気分がちょっとだけ味わえました。
      ベルガモットさんも、穂村さんにお会いしたことがあったのですね!
      それは初めてお聞きしました。
      私が初めてお会いしたとき(1回目の講座に参加した時)は、それ程短歌に興味はなかったので、そんなに感動はなかったんです(^^;
      一応、穂村さんの御著書は何冊か拝読してから臨んだのですが。
      次回がもしあったら、感動の嵐ですね。
      5552さんが穂村さんの推し短歌を作られるのもうなずけますね。
      2023/09/14
  • あわただしく今年も過ぎていきますが、また来年に希望をもちつつ、心の洗われるような素敵な歌を紹介してみます(ほんの一部ですが)。歌人の永田和弘さんが選んだ現代秀歌の100首は、どれも余韻を残す歌ばかりです♪

    ***
    「たとえば君 ガサッと落葉すくふようにわたしをさらって行ってはくれぬか」(河野裕子)
    これぞ青春!(青春は実年齢ばかりではかるものではありません…笑)なんだか焦燥感の漂うようなかわいらしさ。落ち葉を舞い上げる一陣の風を感じます。

    「積みてある貨物の中より馬の首しづかに垂れぬ夕べの道は」(玉城徹)
    貨物列車にのせられた馬が夕焼けの空をながめているのでしょうか。牧歌的で静寂な情景が目に浮かびます。

    「大根を探しにゆけば大根は夜の電柱にたてかけてあり」(花山多佳子)
    買い物袋からするり落ちてしまったのか? それとも自転車の後ろにのせていたのが落ちた? 家についてみれば、夕飯の大根はどこ? 大根を紛失するというだけでも可笑しいのに、それをまた探しに行くという滑稽さ。暗闇のなかに仄白く浮かぶ大根との邂逅に、私まで歓喜します。いつにもまして美味しかっただろうな、その大根!

    「ひきよせて寄り添ふごとく刺ししかば聲(こえ)もたてなくくづをれて伏す」(宮柊二)
    日中戦争の凄絶な体験。鬼気迫る情景を、研ぎ澄まされた三十一音で表現する宮柊二はやっぱりすごい。

    「夕光(ゆふかげ)のなかにまぶしく花みちてしだれ桜は輝きを垂る」(佐藤佐太郎)
    幽玄な能の世界のようです。陽光の魔法で、しだれた桜は綺羅星のように見えたのかな。それにしても「輝きを垂る」うぅ~すごい言葉です。そのような風景はきっと身のまわりに、年も明ければすぐそこに。春の兆しを探してみようかな。

    「まつぶさに眺めてかなし月こそは全き裸身と思ひいたりぬ」(水原紫苑)
    いつもそこにあって浮かんでいる月を、こんなふうに眺める豊かさ、いいですね~妖艶な月。

    「鶏ねむる村の東西南北にぼあーんぼあーんと桃の花見ゆ」(小中英之)
    詩人中原中也もまっ青、しかも三十一音のなかに閉じ込めたオノマトペの大胆さ。手毬のような桃の花があちこちで跳ねているようです。

    短歌をながめていると、ついついその意味を探ってしまいそうになります。でも筆者の永田さんは「意味読みをしないということを心がけてほしい」と言います。クールで温かな批評眼を持つ彼の深い言葉です。あまりに意味や解釈にこだわると、ぐっと矮小化され、説明調になり、たしかに歌の力や幻想性も損なわれてしまいそうです。

    でも……言葉というものをとおしてなにがしかの意味が伝わらなければ、読み手はその一首に参加することはできないはずです。これは小説も同じかもしれません。
    読み手が参加できる磁場の創出、そこで遊んだり、笑ったり哀しんだりする共有の空間。その作品に触れた先達から今にいたるまで、大きくゆるく繋がった空間の心地よさ。そんなぎりぎりのところまで切りつめ研ぎ澄まされていく三十一音の短詩を、永田さんはわかりやすく、易しく解説してくれます。興味のある方にぜひお薦めします♪(2021.12.31)

    • まことさん
      アテナイエさん、こんばんは♪

      いいね!ありがとうございます!
      私もやっと読むことができました。
      永田和宏さんの解説いいですね。
      花山多佳子...
      アテナイエさん、こんばんは♪

      いいね!ありがとうございます!
      私もやっと読むことができました。
      永田和宏さんの解説いいですね。
      花山多佳子さんの歌はやっぱり引かれてましたか。
      私も引きました。
      河野裕子さんの歌、河野裕子さんへの歌は切なかったです。
      『近代秀歌』も読んでみたいと思いました。
      2024/01/16
    • アテナイエさん
      まことさん、こんばんは!

      コメントまでいただき、ありがとうございます(^^♪
      ちょうど入れ違いで、さきほどまことさんのレビューにコメ...
      まことさん、こんばんは!

      コメントまでいただき、ありがとうございます(^^♪
      ちょうど入れ違いで、さきほどまことさんのレビューにコメント
      させてもらいました。素敵な歌をチョイスされていましたね~。
      言われるように永田さんと河野裕子さんの歌は切なすぎて涙なしには読めないかな。
      2024/01/16
  • この歌が好きだ。

    海を知らぬ少女の前に麦藁帽のわれは両手をひろげていたり
    寺山修司『空には本』(昭33、的場書房)

    スペイン語で海はel marと男性名詞だが、この短歌は海が男性名詞だと容易に想像ができる。
    大海のようなでかい男になりたいと思ってはいるが、いつも失敗する。そして、いつまでもla marと女性名詞で呼びたくなるような女性に憧れるのは、私が大人に成りきれていないからだろうか。もうアラサーも過ぎさってしまったけれども。

  • 近代秀歌と違い、本書は一人一首、全部で百首紹介されている。昭和初期~三十年代頃生まれの歌人が多い。31文字に閉じ込められた感情はシンプルで強く、共感できる歌が多かった。感情の土台は今も昔も変わらず、これからも変わらないんだろうと思う。

  • 年の暮れからゆっくりゆっくり読んでいたわりにはあっという間に1カ月経ってしまった。
    あまりに豊潤、芳醇なことばの海から感じられるリズムにゆらゆら揺られながら、心はただぷらぷか(ぷらぷら、ぷかぷか)浮いていた。こんな歌もあるんだ、こんな歌人もいるんだ、が正直なところ。
    ことばにこだわっていることが意識されると、あれ、ここにはこう書いてあるけど、こうじゃないかな?と、永田さんの解釈と違う自分の些末なひっかかりが心の中に浮かんでくるのがわかり、これまたおもしろい。
    短歌にもう少し接近してみたいな、そう思うことができた。ひっかかりがとっかかり。ということは、また別の役目があるかな。ぱらぱらとページをひっくり返してみたい掌編になった、ともいえる。

  • 歌うは「訴う」に通じる。
    和歌に親しみの無い自分は、よくわからないまま読み進めた。それでも、その背景を知ったり、解説を聞くとわかった気になり、感動も覚えた。
    和歌アレルギーを廃し、これからはしっかりと目にとめていこう。

  • 現代の歌人たちが身を削るようにして生み出した作品を残していきたい、という思いを込めた本である。この本によって多くの魅力的な短歌と歌人に出会うことができた。そして、感動的なのは「おわりに」で書かれた著者・永田和宏と妻・河野裕子の物語である。歌はこれほどに思いを伝えることができるのだ。

  • 自分には短歌の鑑賞眼がないなあとよく思う(他のものについてならあるのか?という痛い問いは置いとくとして)。何故というに、私がいいなと思うのは、どう見てもセンチメンタルな歌ばっかりだからだ。散文なんかだと、感傷的な気分がダダ漏れになっているものは忌み嫌っているくせに、短歌だとすぐにぐっとくる。泣いちゃったりする。そもそも短歌というのが、そういう湿った叙情によく合う性質を持っているのだろうが、それにしても、我ながらこの「女学生趣味」はちょっとどうかと思う。

    本書の「はじめに」には、日々の暮らしの中で大切なことを大切な人に日常の言葉で伝えるのは絶望的に難しいが、歌でなら伝えられると書かれている。「歌を表現の手段として持つということは、そのようなどうにも伝えにくい、心のもっとも深いところに発する感情を、定型と文語という基本の枠組みに乗せて、表現させてくれるものなのである」と。

    そうであるならば、やっぱり私はつくづく、ロマンティックでセンチメンタルなものが好きなんだろうなあ。この歳になってそうなんだから、こりゃもう仕方がなかろう。

    ここでは「近代秀歌」以降の百人の歌人が紹介されている。正直言って、解説を読んで「ふーん」で終わってしまう歌も結構あったのだが(不勉強で面目ない)、女性歌人を中心に心ひかれるものも多かった。馬場あき子さん、栗木京子さん、中条ふみこさん、道浦母都子さん、そして、美智子皇后。やはり私は、どうしてもその実人生と重ね合わせること抜きに歌を読むことはできない。三十一文字の向こうに垣間見える「その人のありよう」が胸を打つ。著者は、過剰に内容や背景に寄りかかった「<意味読み>をしない」と読者を戒められているが、うーん、それはとても難しい。

    心に残った歌をいくつか。

    「退屈をかくも素直に愛しゐし日々は還らず さよなら京都」 栗木京子

    「てのひらに君のせましし桑の実のその一粒に重みのありて」 美智子皇后

    「かきくらし雪ふりしきり降りしづみ我は眞實を生きたかりけり」 高安国世

    「階段を二段跳びして上がりゆく待ち合わせのなき北大路駅」 梅内美華子

    「死の側より照明(てら)せばことにかがやきてひたくれなゐの生ならずやも」 齋藤 史

    「一分ときめてぬか俯す黙禱の「終わり」といへばみな終わるなり」 竹山 広

    「夜半さめて見れば夜半さえしらじらと桜散りおりとどまらざらん」 馬場あき子

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著者プロフィール

永田和宏(ながた・かずひろ)京都大学名誉教授、京都産業大学名誉教授。歌人・細胞生物学。

「2021年 『学問の自由が危ない』 で使われていた紹介文から引用しています。」

永田和宏の作品

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