袁世凱――現代中国の出発 (岩波新書)

著者 :
  • 岩波書店
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レビュー : 16
  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004315315

作品紹介・あらすじ

無学で無節操な裏切り物、「陰険な権力者」と、日本でも中国でも悪評ばかりの袁世凱。しかし、なぜそんな人物が激動の時代に勢力をひろげ、最高権力者にのぼりつめ、皇帝に即位すらできたのか。褒貶さだまらぬ袁世凱の生涯を、複雑きわまりない中国のありようを映し出す「鑑(かがみ)」として描きだす。

感想・レビュー・書評

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  • 100年前の1914/5/9袁世凱政権は対華21ヶ条要求を受け入れた。袁世凱はこの弱腰な態度に加えその翌年に自ら皇帝になろうとしたことなどから中国でも嫌われている。著者の岡本氏にしてから「まだ若いころ、少し知って、嫌いになり、立ち入って調べて、いよいよ嫌いになった。」と述べている。

    当時の日本から見た一般的な袁世凱の見方はこうだ。辛亥革命で清から寝返り中華民国の臨時大統領となり要求を受け入れながら、その日を国恥記念日に指定し排日運動を裏でけしかけた信義なき俗物と。ではなぜそんな人物が皇帝に即位するところまで登りつめたのか。その時代背景を描写しながら、「日本人こぞって嫌中の時代である。嫌いなのは自由だが、嫌いなものをほんとうに嫌うべきか知るためにも、接してみなくてはならない。」と現代の日中関係に何か役に立てばと言う思いで書かれている。その中国人の一典型である袁を描いた結果はやはり嫌いなままだそうだ。

    袁は科挙に3度落ちたところで早々と21歳で諦めた、名家の子弟としては出世を諦めるかなり思い切った決断だった。養父のコネで李鴻章の淮軍に入り、手下の有力武将呉長慶が率いる山東省登州の慶軍の参謀になる。挑戦で壬午変乱が起きた際まず先発隊として派遣されたのがこの登州部隊だった。この際袁は清朝側代表の馬建忠と呉長慶の連絡役だったらしい。

    同じく進軍した貧弱な日本軍との交渉で属国の朝鮮に賠償金を払わせてまで講話をすることは無かったと馬を罵ったのが袁である。実態は呉と馬の主導権争いだったようだが。馬は失脚し朝鮮は相変わらず安定せず、改革派が起こしたクーデターの甲申政変を自ら1500の部隊を率いて王宮を攻め、国王を奪取したのが袁世凱の出世のきっかけとなった。

    日清戦争が始まるまでの約10年「総理朝鮮交渉通商事宜」と言う朝鮮の対外交渉窓口となり、朝鮮に対する高圧的な政策を進めた。要するに朝鮮と外国に清国の威厳を見せつけるという役割だ。そして何とか朝鮮が清国の属国であることを認めさせようとしかけた。袁のミスは東学運動につけ込み出兵した際に日本軍は国内がまとまらず派兵できないと読んだことだ。日清戦争のきっかけを作ったのも袁なのだ。

    清国末期には中央政府の力が弱まり、地方政府の独自性が増していた。ここに列強による勢力争いも重なり、権力構造はさらに変わりだす。改革派が西洋を規範にした日本モデルを取り入れ科挙を廃止し新しい学校制度を作り、中央と地方の重複する役職を廃止しようとした。これを進めたのが光緒帝である。

    日清戦争で李鴻章の影響力が弱まると、一度つまづいた袁は軍事と外交のトップであった栄禄に近づき庇護を受けた。するとこんどは光緒帝が袁を抱き込みにかかる。未だに影響力を持つ西太后と西太后の影響で天津の直隷総督に赴任した栄に対するクーデターを起こそうとしたのだ。このときは袁が栄に報告し西太后が光緒帝から権力を取り上げた。

    民衆の中からは排外、攘夷の機運が高まり太平天国や義和団などの軍事化した結社が生まれていく。対抗して西太后の北京政府は直轄軍を抱え、袁は宰相格の栄に変わりまず天津総督を代行し、ついで山東省を任された。袁の主張は義和団を制圧し外交を重視することだったが、義和団が北京周辺で外国兵と衝突しだすと西太后はついに列強に宣戦した。結果は惨敗だったが。ここでも義和団の本拠地山東省を任された袁の責任は重いはずだ。しかし失脚した栄に変わり袁が直隷総督、北洋大臣を継ぐ。ついに中国最強軍を率いるところまで登りつめたのだ。そして日露戦争後には軍事・外交のトップになった。

    ここまでの袁はミスはあっても後世の悪評を受けるほどではない。所詮は清国内の権力闘争でどちらについたかでしかない。問題はこの後辛亥革命で各省が独立した際に共和制を目指す孫文に対し立憲制であれば良しと判断し、真の皇帝を排し新たな立憲君主として自らがついには皇帝になろうとしたところだろう。国のあり方を変えようとした孫文に対し、衣だけ変えれば良いとした袁、しかし現代の中国は袁世凱の系列にあるようにしか見えない。

  •  袁世凱と言えば、本書にもあるように「陰険な権力者」、西太后と組んで戊戌政変を潰し、辛亥革命後は孫文に代わって総統となり、ついには帝位に就く、とおよそ良いイメージはなかった。しかし、20代の時は朝鮮で壬午変乱と甲申政変を潰したこと、戊戌変法を試みた康有為と光緒帝はいずれも「軽躁」であったこと、西太后が義和団を支持しても彼は弾圧したこと、そして辛亥革命時には公職追放から呼び戻されて革命派討伐を命じられたものの却って結果的に革命派と協力したこと、を翻って見ると、常に勝ち組の側におり、また時には彼の選択が大きな役割を果たしたことがわかる。彼自身どこまで主体的に選択していたかはともかく。
     また、辛亥革命以降は中国におよそ中央政府と呼ぶに足る存在がなかったわけだが、実は19世紀半ば以降から各地方官が力を持ち、中央はそれをせいぜい追認するだけだったことが繰り返し本書で語られている。曲がりなりにも清という大国があったのだから中央政府という今日的な視点で見がちになってしまうが、この時期の中国史はその前提で見ていく必要があろう。
     清朝末期に改革を図った李鴻章は科挙エリート、その後継者と目された袁世凱は科挙からドロップアウトした軍人肌。いずれも、生まれる時代と特性が合っていたからこそそれぞれ高い地位に上ることができたんだろう。

  • 袁世凱という人物については当然あまり良い印象がなかったのだが、この本を読んで好き嫌いは別に中国現代史の「鑑」であることがよくわかった。つまり、本書は袁世凱その人の評伝というよりは、袁世凱を通じて見た激動の中国現代史の本であり、非常に面白い本だということ。勉強になった。

    2箇所、キャスティングボートと書かねばならないところがキャスティングボードになっていた。よくある間違いだが、ちょっといただけない。

  • 岡本氏が前に出した『李鴻章』で言及されなかった部分を補完した内容となっている。

    特に「督撫専権」や朝鮮問題、日清戦争など『李鴻章』では深く記述されてなかった部分が記されている。

    しかし、いくつか引用している史料は「意訳」をしてると思われる箇所が何カ所かあり、実際の史料を読まないと、記述の正確性が検証できなであろうと思われる部分があったのが残念。

  •  積み重ねたキャリアは日清戦争でリセットされたが軍隊建設に邁進してこれを西洋化し、変法派を見限り義和団を虐殺し、首都防衛のため軍制改革に着手し、局外中立を保った日露戦争が終結すると一大軍事演習を挙行して外敵に対しその威を示した。武漢三鎮陥落寸前で兵をとめ話し合いを呼びかけると独立を宣言した南方各省軍政府は中華民国臨時大統領を選出した。

    『だとすれば、先駆者とはつらいもの、袁世凱だけを責めるわけにもいくまい。統一への希求という時代思潮と、現実の政治経済構造との乖離、その程度を洞察して、永続する有効な政策をとりえた人物など、果たしていただろうか。壁にぶつかっては、挫折をくりかえしてきたのではないか。蒋介石しかり、毛沢東しかり。さらには現在の習近平も、どうやら例外ではなさそうだ。』211頁

  • 袁世凱というと、辛亥革命の結果を簒奪したということぐらいの知識しかありませんでしたが、彼がどのようにしてその権力を握るに至ったかの過程を知ることが出来て面白かったです。
    もう少し、袁世凱という人物の性格まで掘り下げて知りたかったという点でマイナス1点ですが、新書という形式上これ以上のページ数は難しいというところもあり、致し方ないところですかね。

  • 中国近代史について何も知らなかったことに愕然とした。現代の中国と日本の関係の根っこにあるこの時代の両国の出来事をなぜこれほどまでに無関心で無知であったのか。

  • 2015年5月新着

  • 袁世凱を通した清末民国初期史として非常に秀逸。文章も格調高い。中国での中央と地方のせめぎ合いという現代にもつながる問題がよくわかった。ただ、実直な官僚だったという著者の指摘にはうなずくものの、袁世凱自身が結局どういう人物だったのかというのはあまりよく伝わってこなかったという読後感ももった。

  • 勉強になりました。

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著者プロフィール

1965年生まれ。京都大学大学院文学研究科博士課程満期退学。現在、京都府立大学教授。専攻は、近代アジア史。主な著書に、『近代中国と海関』(名古屋大学出版会、大平正芳記念賞)、『属国と自主のあいだ』(名古屋大学出版会、サントリー学芸賞)、『中国の誕生』(名古屋大学出版会、アジア・太平洋賞特別賞・樫山純三賞)、『世界のなかの日清韓関係史』『中国「反日」の源流』(いずれも講談社選書メチエ)、『李鴻章』『袁世凱』(いずれも岩波新書)、叢書「東アジアの近現代史」第1巻『清朝の興亡と中華のゆくえ』(講談社)など多数。

「2018年 『近代日本の中国観 石橋湛山・内藤湖南から谷川道雄まで』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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