アホウドリを追った日本人――一攫千金の夢と南洋進出 (岩波新書)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004315377

作品紹介・あらすじ

明治から大正にかけ、一攫千金を夢みて遙か南の島々へ渡る日本人がいた。狙う獲物はアホウドリ。その羽毛が欧州諸国に高値で売れるのだ。密猟をかさね、鳥を絶滅の危機に追い込みながら、巨万の富を築く海千山千の男たち。南洋進出を目論む海軍や資本家らの思惑も絡んで「帝国」日本の拡大が始まる。知られざる日本近代史。

感想・レビュー・書評

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  • 非常に興味深かった。今まで浅くしってはいたものの、目を背けていた”アホウドリ撲殺事業”と南洋進出について、色々と資料をまとめてくれていて、簡潔に学ぶことができた。ただ、naive(日本語のナイーブとは意味が違う)に、忌避するのではなく、時代背景や色々な要因を総合的客観的に読むというのは必要であると思う。複雑な心境ではあるが、冷静に受け止めねばならぬよ。

     アホウドリ、というと小学生の頃に吉村昭の『漂流』を読んで、ものすごく衝撃を受けたのがいまだに鮮やかな記憶があるんだが、『漂流』のあとの時代とはいえ、そんなに年数の離れていない時期ということを考えると、本当に激動。

  • 日本近代史における南洋進出の中に潜むのは、
    アホウドリで一攫千金を目論む者たち。
    将来の国境問題にも絡む、歴史の一面を探る。
    プロローグ 絶海の無人島に、なぜ、日本人は進出したのか
    第1章 アホウドリを追って-「海の時代」の到来
    第2章 鳥類輸出大国「帝国」日本と無人島獲得競争
    第3章 糞を求めるアメリカ人・鳥を求める日本人
    第4章 アホウドリからリン鉱へ
           -肥料・マッチ・兵器の原料を求めて
    エピローグ アホウドリから始まった
    カラー口絵2ページ。参考文献、アホウドリ関連年表有り。
    明治から大正への激動の時代。
    鎖国から放たれた冒険者が持て囃された時代・・・憧れの南洋。
    国民の関心が海に向かった時代・・・求むるのは、富と名声。
    だが、集うのは有象無象の、政治家、軍人、山師たち。
    どす黒い事実は、何時しか暴かれる。
    TVのの映像か、画像だったかは忘れたけれど、
    過去のアホウドリ捕獲を見た記憶は衝撃でした。
    棒を空中で振り、逃げ惑うアホウドリを撲殺している。
    その悲劇の源ではありますが、その時代ならではの、
    需要と供給というものが絡んでくるから、問題は複雑。
    フランスのファッションでの羽毛関係の流行。
    ヨーロッパ内では鳥の捕獲禁止等の条約があるから、
    他の国から輸入するので、日本からのアホウドリの羽毛は
    バカ売れになる。必要なのは棒と袋、網だけ。
    アホウドリを探した無人島は、領土拡張を図る国の需要。
    羽毛だけでなく、グアノ(糞)、リン鉱石の需要と供給。
    その権益に絡む人々の、権利獲得競争の凄まじいこと。
    幻の島に振り回される人々の狂騒曲。そして「帝国」日本。
    政治家や軍人の思惑と行動は、国同士の争いを生み、
    戦争への道が導かれる。現在にも続く、国境問題への道も。
    多くの死に合掌・・・アホウドリ中心の鳥類と、出稼ぎ労働者とに。

  • 夢と富を南洋の島々に追い、小舟に身を預け大洋を押し渡り、無人島を占拠し独立国の紛い物をでっち上げて(無許可♪)帝国政府を引きずり回して平然と、外交問題に発展し後始末を祖国に押しつけ右往左往させても本人は1ミリも動じない、そんな戦前日本人の強めなバイタリティに圧倒される本書です。
    この手の厨ニ病な活動は欧米肉食系イケイケ民族の独壇場なはずが、我らが御先祖様もどうやら超イケイケで、思えば大日本帝国は正真正銘の列強だった訳で、むしろ誇大妄想スレスレの壮図を企てる特別に危険な連中こそが我々のお仲間な訳だな。
    温厚な令和日本と地続きな時代とは信じ難い、ヤバめキワモノ系の行動原理はもはや異星人的なほど。
    むしろ毛皮を追っかけてシベリアを制したロシア人のメンタリティに近いのか?アホウドリを追って太平洋に帝国拡大とかねぇ(-_-;)
    でも、ボク的には野鳥好きなんでアホウドリの撲殺はダメ絶対♪

    今の日本に比べれば遥かに脆弱だった明治日本で、ここまで無茶苦茶やっても特に問題無かったのだから、強大な現在の日本でボクらがどんな暴挙暴走したって大丈夫だなって妙な安心したの覚えてる。ヤバいよねぇ。

  • 日本が近代国家を目指していた明治時代、日本人は太平洋や東シナ海の無人島へ進出していた。その多くは、国家主導の領土拡大ではなく、民間人がアホウドリの捕獲を目的とするものだった。

    無人島に生息するアホウドリは人間を知らないため、人を見ても逃げることがないし、飛び立つには長い助走を要する。そのため、人間は地表で歩いているアホウドリを棍棒で撲殺することができ、その羽毛は高値で取引された。当時の日本人は南洋の小島でアホウドリを乱獲し、その島でアホウドリが絶滅するや、次の島を探すことを繰り返した。その露骨な活動はやがて、アメリカや清国との領土問題にまで発展する。

    ルール、ルールで縛られている現在社会において、こうした日本人の海賊的行為はある意味、痛快だ。その代表が、玉置半右衛門。アホウドリがカネになることにいち早く目をつけ、次々と無人島を見つけては、島の開拓を名目にして日本政府から補助金を分捕る。安い労働者を島に送り込み、ひたすらアホウドリの羽をむしらせて、莫大な財産を築いた。

    ところで、鳥島のアホウドリで思い出すのが吉村昭の小説「漂流」だ。本書とセットで読むとおもしろい。

  • 離島を巡っていると、どうしてこんなところに人が住み着いたのだろうかと思うような島がある。断崖絶壁に囲まれ舟を着けることもできない島、台風や高潮に襲われ定住できそうもない島、伝染病や寄生虫が蔓延している島、、様々なところになぜ我々の先祖たちはリスクを冒して進出したのだろうか。

    江戸時代から明治時代に替わる頃、日本という国の境界が形成されていった。その時代に帆船で太平洋を駆け巡った人々がいた。玉置半右衛門、八丈島で大工をしていた人が江戸幕府の小笠原諸島開拓に参加し、その後に南方諸島の開発に人生を捧げるようになった。

    別にチャレンジ精神や使命感があったわけではない。そこにお宝が眠っていたからだ。何百万羽ものアホウドリを撲殺し、その羽毛をヨーロッパに輸出することで玉置は巨万の富を築き、数年で長者番付に名を連ねるようになる。それとともにアホウドリは激減し、新たな鳥の棲み処を追って鳥島、沖ノ鳥島、南鳥島といった鳥の名が付く日本の国境離島が開拓されていった。

    鳥がいなくなった島にはまだお宝があった。何千年もの間、鳥が住んでいたことで糞が堆積し、リン鉱石が採れるとしてそれらがまた金になった。尖閣諸島などは、それらを採掘するために何百人もの労働者が寝泊まりし、定住するための家屋が建設された。その後近年になって天然ガス油田があるとして中国や台湾に目を付けられることになるが、それ以前から強欲な日本人が住んでいたのだ。

    この歴史は決して冒険譚や浪漫譚ではない。人間の際限ない欲望が鳥類の楽園たる離島を侵略し、密猟によって絶滅寸前まで追いやった黒歴史だろう。アホウドリという名前自体が、それまで人間に出会ったことのなかった大型鳥類を蔑み、狩りの対象としてきた負の遺産である。当然末端には、伝染病や火山の噴火によって命を落とした離島住民もいた。ほんの100年ほど前まで、このような阿呆なことをしていた日本人がいた。

  • 明治から大正にかけ、一攫千金を夢みて遙か南の島々へ渡る日本人がいた。狙う獲物は、その羽毛が欧州諸国に高値で売れるアホウドリだった。アホウドリに焦点をあてながら、日本人の太平洋進出の原点を解き明かす。【「TRC MARC」の商品解説】

    関西外大図書館OPACのURLはこちら↓
    https://opac1.kansaigaidai.ac.jp/iwjs0015opc/BB40224201

  • 明治から大正にかけて絶海の孤島に繰り出した日本人たち。彼らが狙ってたのは鳥。豪商たちの欲望が日本の領土拡大に一役買っていた事実を掘り起こす一冊。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/687661

  • 日本とアホウドリの関係がよくわかる一冊。楽して儲けられる話があればそりゃ飛びつくわな。それで生物が少なくなったんじゃ人間はどしがたいという話になってしまう。宮崎駿的な感性だ。そんな人間を規制するための生物保護に関する法の変遷も是非調べてみたい。

  • 2021年8月読了。

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著者プロフィール

1949年 広島県呉市に生まれる
1978年 関西大学大学院文学研究科博士課程修了
現在 下関市立大学経済学部 教授
専門 人文地理学・島嶼地域研究
《主要著書》
『離島研究Ⅰ~Ⅳ』(編著 海青社,2003~2010年)
『離島に吹くあたらしい風』(編著 海青社,2009年)
『地図で読み解く 日本の地域変貌』(編著 海青社,2008年)

「2012年 『アホウドリと「帝国」日本の拡大』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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