戦争と検閲――石川達三を読み直す (岩波新書)

著者 : 河原理子
  • 岩波書店 (2015年6月27日発売)
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004315520

作品紹介

「生きている兵隊」で発禁処分を受けた達三。その裁判では何が問われたのか。また、戦後のGHQの検閲で問われたこととは?公判資料や本人の日記、幻の原稿など貴重な資料を多数駆使して、言論統制の時代の実像に迫る。取材し報道することの意味を問い続けて来た著者が抑えがたい自らの問いを発しながら綴る入魂の一冊。

戦争と検閲――石川達三を読み直す (岩波新書)の感想・レビュー・書評

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  • 湯ぶねより雨よと妻に呼ばわりて 板びさし打つ音に聞き入る 
     石川達三

     1935年、第1回芥川賞を受賞した「蒼氓【そうぼう】」の作者である。出生地秋田県の新聞で、「一無名作家の栄誉」と紹介されたが、その「栄誉」たる受賞作が、「文芸春秋」掲載時、編集部によって伏字をほどこされていたことを、河原理子の著書「戦争と検閲」で知った。

     伏字は何カ所もあったそうだが、ブラジル移民船に乗った若い男性たちが、徴兵逃れのために移民を決意したのでは、と互いに真意を探り合う場面が印象深い。「逃げで来たべや」(略)「馬鹿あ!(略)××がおっかねえ様な俺だと思うか」の、二字の伏字は「兵隊」である。

     予言のように、その後日中戦争が始まり、石川達三は中国大陸で従軍取材をし、日本兵の実態を長編「生きている兵隊」で描いた。その「実態」とは―日本兵による中国の一般市民の殺害、現地での強制的な略奪、慰安所に出かける話題、等々。掲載予定の「中央公論」誌面は、あっという間に伏字だらけになってしまった。

     しかも、印刷所段階での変更もあり、伏字のパターンは複数存在したという。その複数パターンの存在が、検閲担当者の印象を悪くさせ、石川達三と編集長は、新聞紙法違反で「禁錮四カ月執行猶予三年」の有罪判決を受けた。

     敗戦後も、新作が連合国軍総司令部(GHQ)検閲で公開禁止にされるなど苦難は続き、息子に、「戦前も戦後も、検閲でやられた。俺はぶれてない」と語っていたという。掲出歌、そんな作家を支え続けた「妻」の姿があたたかい。

    (2015年11月29日掲載)

  • 石川達三の「臍曲り」さが少し強調されている。石川のその性格をよく知らなかったのでいつか他の本を読むつもりでいる。図書館本。 41

  • ◎石川達三を読んでみたくなる。いったいどんな本を書いたのか?

    そんな時代もあったのか。

    小説『生きている兵隊』で発禁処分を受けた石川達三を追った本。
    石川達三(1905-1985)は芥川賞作家で、戦前・戦中に新聞紙法違反の罪で有罪判決を受けました。新聞紙法は、公序良俗に反する出版物を制限・禁止できる法律です。
    『生きている兵隊』は、石川が日中戦争に同行して書いた小説ですが、反戦小説というよりは、現地で闘う兵士たちの姿や変化、生活実態を生々しく描きました。しかし当局が発禁処分とし、回収する騒ぎに。この出来事だけでも、当時の政府は、戦争の生々しさを知らせることで疑問を持つ国民を増やしたくなかったのだろうと推察できます。

    この本から考えると、反戦を表していなくても不都合な言論を封じる力が当時の政府にはあった、ということではないかと考えます。苦労して書いた原稿を伏せ字などで隠し、検閲を通るよう調整することが多々あったのですから、石川はとても辛かったのではないでしょうか。

    言論封殺の中戦争へ突き進んでしまった過去は、どのように反省されてきたのでしょうか。あまり日常生活の中では気づくことができませんが、石川のいたような世の中になってしまったら、いま普通に享受できている自由はどこまで保障されるでしょう。

  • 2015年9月新着

  •  先日、河原 理子 氏 による「戦争と検閲―石川達三を読み直す」を読み終えました。
     夏になると「戦争」に関する本を1冊は読もうと思っています。そんな中、いつも行っている図書館の新着本の棚で目についたので手に取ってみました。
     著者の川原さんは朝日新聞の記者とのこと、ある取材で石川達三氏の子息でる石川旺さんと出会ったのが本書を記すきっかけになったそうです。発禁処分を受けた「生きている兵隊」という達三氏の作品を材料に、当時の言論統制の実態を顕かにしていきます。

  •  2013年に朝日新聞で石川達三関連記事を連載した著者による新刊。『生きてゐる兵隊』事件の検討にあたって、清水文二の「意見書」「聴取書」を本格的に用いたところが目玉になるのだろうが、率直に言って内容に目新しさはない。ただし、石川の遺族から見せてもらったという資料は、凄く気になる。

     石川は日記をつけていて、少なくとも本書は(1)1936年1月から1938年3月までの日記 (2)1941年12月の記述を含む「徴用日記」 (3)1945年10月の記述を含む「戦後日記」の3点を参照している。また、どうやら武漢戦従軍時の従軍手帳(メモ)もあるとのこと。
     筆者は、ジャーナリズム研究者だった石川旺(達三長男)との個人的な関係からこれらの資料を借覧したとあるが、火野葦平と比較する意味でも、これらの資料はやはり公共化すべきだろう。遺族の決断に期待せざるを得ない。

     本書の「あとがき」で著者が、高校教員時代の黒羽清隆氏の授業を受けていたと書いている。「先生の専門である、満洲事変以降の“十五年戦争”のころには時間切れになりそうで、冬休みに補講が行われた。そのときは、本来は先生の授業をとっていない他のクラスからも生徒が来て、教室の後ろに鈴なりになって「立ち見」で授業を聴いた。あんな授業は、そうそうなかった」という記述が、本書の中で最も光っていたように思う。

  • 言論が暴力で制限されることの大変さがわかります。
    こんな時代に人生の一部でもなかったことを感謝。
    そして・・・・言論の自由は守られなければ・・・・。

  • 配架場所 : 新書
    請求記号 : SHIN@070@K101@1
    Book ID : 80100016120

    http://keio-opac.lib.keio.ac.jp/F/?func=item-global&doc_library=KEI01&doc_number=002476965&CON_LNG=JPN&

  • 910.268||Is

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