戦争と検閲 石川達三を読み直す (岩波新書 新赤版1552)

  • 岩波書店 (2015年6月26日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (272ページ) / ISBN・EAN: 9784004315520

みんなの感想まとめ

作品は、戦争と検閲の厳しい現実を描いたもので、特に作家石川達三の苦闘を通じてそのテーマが浮き彫りになります。彼は、日中戦争の実態を生々しく描いた小説『生きている兵隊』により、発禁処分を受け、新聞紙法違...

感想・レビュー・書評

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  • 湯ぶねより雨よと妻に呼ばわりて 板びさし打つ音に聞き入る 
     石川達三

     1935年、第1回芥川賞を受賞した「蒼氓【そうぼう】」の作者である。出生地秋田県の新聞で、「一無名作家の栄誉」と紹介されたが、その「栄誉」たる受賞作が、「文芸春秋」掲載時、編集部によって伏字をほどこされていたことを、河原理子の著書「戦争と検閲」で知った。

     伏字は何カ所もあったそうだが、ブラジル移民船に乗った若い男性たちが、徴兵逃れのために移民を決意したのでは、と互いに真意を探り合う場面が印象深い。「逃げで来たべや」(略)「馬鹿あ!(略)××がおっかねえ様な俺だと思うか」の、二字の伏字は「兵隊」である。

     予言のように、その後日中戦争が始まり、石川達三は中国大陸で従軍取材をし、日本兵の実態を長編「生きている兵隊」で描いた。その「実態」とは―日本兵による中国の一般市民の殺害、現地での強制的な略奪、慰安所に出かける話題、等々。掲載予定の「中央公論」誌面は、あっという間に伏字だらけになってしまった。

     しかも、印刷所段階での変更もあり、伏字のパターンは複数存在したという。その複数パターンの存在が、検閲担当者の印象を悪くさせ、石川達三と編集長は、新聞紙法違反で「禁錮四カ月執行猶予三年」の有罪判決を受けた。

     敗戦後も、新作が連合国軍総司令部(GHQ)検閲で公開禁止にされるなど苦難は続き、息子に、「戦前も戦後も、検閲でやられた。俺はぶれてない」と語っていたという。掲出歌、そんな作家を支え続けた「妻」の姿があたたかい。

    (2015年11月29日掲載)

  • 現代日本に生きる私たちは文字にしろ音楽にしろ絵画にしろ写真にしろ、そして昨今賑わっている動画でさえも好きに表現できる事に慣れてしまっている。いや、それが当たり前だという感覚を誰もが持っていると思う。とは言え誰か他人を傷つけたり猥褻なものであったり、誰かの利益を損なうようなものについてはダメであるという感覚も一般的な感覚の持ち主であれば、理解できるだろう。最近、ネット動画サイトにバイトテロだの回転寿司の客皆んなが使う醤油差しを直接舐めるといった動画が出回って問題になった。一般的な感覚が欠如した人間(悪いと思っても、これくらいなら楽しいから構わないだろうは、立派に欠如した方々)の仕業であるが、これも楽しむ側の人間や育てた親、社会にも問題が潜んでいると感じる。
    ただそうした極端な場合を除いては、何を描こうが基本的には表現の自由として日本では守られている。
    ただしこれは日本だからであるとも言える。お隣中国ではこんな事は無いだろう。政府に批判的な記事を書けばすぐに当局が削除してしまうし、社会を混乱させた罪になり最悪(日常的に?)牢屋にぶち込まれてしまう。その様な国はいくらでもある。
    本書は日中戦争から対アメリカに戦いを挑んだ太平洋戦争の最中に描かれた石川達三の「生きている兵隊」を題材にあげ、我が国でも当然の様に行われていた検閲の歴史を振り返っていく。同書は私も検閲された文字を再表現した完全版なるものを読んだことがある。その際の感想としては、何故その部分が消されてしまったのか、消される理由がよくわからないものばかりだった。
    削除(伏字にされる)には相応の理由があり、何が消されたのかわかる様にわざわざ印まで入っている本だったが、期待していた様な「復活した内容」はそこには無かった。寧ろそれが余計に恐怖に感じる点ではある。
    現代社会の人間の感覚からすれば、理由がよくわからないものは、逆にそれでも消すべきと判断する国家や軍部の権力の大きさを表していると言える。中には消さないと仕事にならないといった不純な理由もあったであろうが、深く深く考えると消された理由との繋がりが徐々に見えてくる。言ってみれば、ジグソーパズルのほんの一ピースがやがては絵全体の一部に見えてくる感覚だ。
    石川達三もこの消された感覚については、何故という疑問があったであろうが、当時の戦争一色の時代背景なら理解も早かったであろう。そうした時代に潜む暗い一面を想像しながら読み進めていくと楽しめる一冊である。

  • ◎石川達三を読んでみたくなる。いったいどんな本を書いたのか?

    そんな時代もあったのか。

    小説『生きている兵隊』で発禁処分を受けた石川達三を追った本。
    石川達三(1905-1985)は芥川賞作家で、戦前・戦中に新聞紙法違反の罪で有罪判決を受けました。新聞紙法は、公序良俗に反する出版物を制限・禁止できる法律です。
    『生きている兵隊』は、石川が日中戦争に同行して書いた小説ですが、反戦小説というよりは、現地で闘う兵士たちの姿や変化、生活実態を生々しく描きました。しかし当局が発禁処分とし、回収する騒ぎに。この出来事だけでも、当時の政府は、戦争の生々しさを知らせることで疑問を持つ国民を増やしたくなかったのだろうと推察できます。

    この本から考えると、反戦を表していなくても不都合な言論を封じる力が当時の政府にはあった、ということではないかと考えます。苦労して書いた原稿を伏せ字などで隠し、検閲を通るよう調整することが多々あったのですから、石川はとても辛かったのではないでしょうか。

    言論封殺の中戦争へ突き進んでしまった過去は、どのように反省されてきたのでしょうか。あまり日常生活の中では気づくことができませんが、石川のいたような世の中になってしまったら、いま普通に享受できている自由はどこまで保障されるでしょう。

  • 2015年9月新着

  •  先日、河原 理子 氏 による「戦争と検閲―石川達三を読み直す」を読み終えました。
     夏になると「戦争」に関する本を1冊は読もうと思っています。そんな中、いつも行っている図書館の新着本の棚で目についたので手に取ってみました。
     著者の川原さんは朝日新聞の記者とのこと、ある取材で石川達三氏の子息でる石川旺さんと出会ったのが本書を記すきっかけになったそうです。発禁処分を受けた「生きている兵隊」という達三氏の作品を材料に、当時の言論統制の実態を顕かにしていきます。

  • 言論が暴力で制限されることの大変さがわかります。
    こんな時代に人生の一部でもなかったことを感謝。
    そして・・・・言論の自由は守られなければ・・・・。

  • 910.268||Is

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