村上春樹は、むずかしい (岩波新書)

著者 : 加藤典洋
  • 岩波書店 (2015年12月19日発売)
3.68
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004315759

作品紹介・あらすじ

はたして村上文学は、大衆的な人気に支えられる文学にとどまるものなのか。文学的達成があるとすれば、その真価とはなにか-「わかりにくい」村上春樹、「むずかしい」村上春樹、誰にも理解されていない村上春樹の文学像について、全作品を詳細に読み解いてきた著者ならではの視座から、その核心を提示する。

村上春樹は、むずかしい (岩波新書)の感想・レビュー・書評

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  •  ずっと読んできたのに、『1Q84」が読み切れない。なぜか知りたくて、本書に助けを求めました。青豆の造形につまずいていたのでした。初期の作品から、デタッチメント(距離をおくこと)なる主人公の行動にどれだけ影響を受けたでしょう。そして、村上春樹は深化(進化)しつづけているのが、納得できました。そのことについていけず、または、誤解を加えて、違和感を持っていたのでした。今、あらためて、初期から読み直してみたいと思っています。春樹氏は、自分の評論を読まないと発言していますが、読者の道案内に本書はありがたい。

  • 加藤典洋の村上評本。頭の中にあった漠然としていたものに、言葉を与えてくれるので、村上春樹を自分がどう読んでいたかを整理してくれる。「村上春樹の短編を英語で読む1979~2011」ですっきりさせてもらった。

  • 仮定することと殺し直すこと
     村上春樹の作品を発表時期で区切って論じている。初期は1979〜82年。前期は1982〜87年。作品の特性としては点(個の世界)であり、デタッチメントである。中期は1987〜99年。横軸(対の世界)であり、コミットメントが作品の根幹をなす。後期は1999〜2010年。縦軸(父との対峙)が作品に見られる。2011年以降が現在とされており、3.11以降に書かれる作品についても言及する。
     著者の本は「村上春樹イエローページ2」などを読んだこともあるし、有名な文学批評家だと思うが、作家論的な言及はあまり好きになれない。村上自身が文壇から離れていたことと作品世界はあまり関係がないように思われる。
     私がいちばん好んでいる「海辺のカフカ」を論じている部分には好感をもてた。もっとも損なわれた存在としての田村カフカの「回復」はどのようにしてなされるのかという点、佐伯さんの役割について言語化しているところに感動した。

  •  今までにも村上春樹に関する文章を手掛けてきている著者による、最新の村上春樹論。
     著者の「村上春樹イエローページ」は各村上春樹作品の謎解き的な面白さがあったのだが、本書では村上春樹自身の作家としての変遷を通して、これからの彼に何を期待しているかで終わっている。
     確かに本書を読んでいると、村上春樹作品というのは実は凄くむずかしく、簡単に手に取って読み進めることが出来ない作品だと思わせてくれる。
     また同時に、何故自分は村上春樹を読み続けているのか、といった自問に対する答えのヒントなようなものも見出せるように思える。
     初期のデタッチメントでマクシムだった姿から現在は大きく変貌しているにも関わらず、新作が発表されれば必ず購入して読み続けているのは、何故なのか。
     そんなことを漠然と考えながら読み進めることができたのも、面白い読書体験だった。

  • 『村上春樹は、むずかしい』というタイトルであるが、ここまで読み込むのであれば、むずかしいというのも頷ける。

    例えば、初期短編『中国行きのスローボート』については、初編からの細かな改変部分に目配せされていてその意図についての解釈が解説される。これまで、村上春樹の父と中国に対する一種の集合的な罪の意識についてはほとんど意識することもなかったのだが、言われてみるとノモンハン事件をひとつのテーマとして含む長編『ねじまき鳥クロニクル』など、村上春樹が、中国との過去の戦争に対して特別な思いを抱えていることは確かなのだと思う。中国との関係においては『アフターダーク』で描かれた中国人女性への暴力にもその流れとして触れられている。『アフターダーク』を自分の最初の短編である『中国行きのスローボート』への返歌として書かれたという読みは鮮やかである。村上春樹本人はその辺は読者にゆだねられていて、自分はそうだったかどうか覚えていないと言うのかもしれないが、こういう謎解きを提示されると、文芸批評もひとつのエンターテイメントであると感じる。とにかく『中国行きのスローボート』は比較的好きな短編だが、そこに新しい意味を見つけることができた。そして、もう一度『アフターダーク』と『ねじまき鳥クロニクル』を読んでみたくなったのは、加藤さんの文芸批評の力だと思う。


    村上春樹のクロノグラフィを追うに当たり、『ねじまき鳥クロニクル』の第一部/第二部と第三部の間に起きた1995年の二つの事件「阪神淡路大震災」と「オウム真理教サリン事件」は明らかに大きな影響を与えた事件として捉えられる。加藤さんは、そこでの変化を『めくらやなぎと眠る女』のオリジナル版と1995年に朗読のために短縮した改作版を比較することで語っている。この比較的有名な短編から『ノルウェイの森』との関係性とその変化を語るのは謎解きとして非常に面白いし、著者にしかできないことではないかと思う。『めくらやなぎと、眠る女』に出てくる女の子と友人が、直子とキズキに当たるというのは目からウロコであった。また、そこでは『ノルウェイの森』の冒頭でも描かれた、喪失についての後からの気づきによる悔恨というものが繰り返されているのである。

    もちろんオウム事件の直接的な影響は『アンダーグラウンド』と『約束された場所で』を書いたことである。この経験は言わずもがな大きなものであったはずだ。丁寧に両者の声を拾ったこの本を自分はとても大事な本だと思っている。『神の子どもたちはみな踊る』や、これまでの自分の中ではベストの長編と思っている『1Q84』にも通じるものである。ちなみに同じように第三部が別の時期に遅れて出版された『1Q84』と『ねじまき鳥クロニクル』の対照比較も面白い。

    ノーベル文学賞の話で、2013年にスベトラーナ・アレクシェービッチ『チェルノブイリの祈り』が候補として出てきたときに、加藤さんはぜひにノーベル賞をとるべきだと思い、同時に『苦海浄土』の石牟礼道子との対談を実現させるべきだと書いている。この後、2015年にアレクシェービッチは実際にノーベル賞を取るのだけれども、加藤さんが持った思いに自分も同感である。加藤さんは村上春樹の中に「大きな主題」を求めているわけだが、『1Q84』以降の『色彩をもたない多崎つくると、彼の巡礼の年』や『女のいない男たち』には「小さな主題」に引きずられたまま、水中深く沈んでいこうとしていると指摘する。著者によると次の大きな主題をめぐる長編は2017年ごろになるのではないだろうかというが、その2017年に出た『騎士団長殺し』について、著者はどう語るのだろうか。

    手際鮮やかで、村上春樹好きならば手に取ってほしい本。

  • 伝統的な日本の純文学の系譜と対比的に捉えがちな村上春樹を、日本の近現代の文学の伝統の上に位置づけるという批評的企ての書。村上作品の変遷を主要な作品を通して見ていく。

    『風の歌を聴け』
    近代の原動力となってきた否定性を否定しながらも、その没落を悲哀に満ちたまなざしで見送るという斬新さ。

    初期短編3部作
    ・従来の否定性から遠く離れ(ディタッチメント)、それにいま手も触れられず何も言えない。そういう躊躇いの場所になお新しい否定性が見出されようとしている(コミットメント)
    ・否定性がもはやほとんど空転し、自壊し、意味を失い、誰からも見捨てられたなかで、その没落の奈落までつき合うこと、寄り添うこと、ほとんど聞こえない否定性からの絶望しきった呟きに耳をすますことである。

    パン屋襲撃
    消費社会の到来によってそれ以前の反体制的な否定性が巧みにポストモダニティにからみとられる、そのえも言われぬ感触が上手に捉えられている。

    パン屋再襲撃
    否定性の回復がどのように滑稽なほど錯綜したプロセスを経なければならないかをアイロニーに満ちた筆致で私たちに教える

    世界の終わりとハードボイルドワンダーランド
    否定性の素が失効し、人に見捨てられた時期には、せめて自分用のルールを作り、それを墨守すること=内閉性・マクシムが、少なくとも世間のニヒリズムに染まらないための抵抗の砦となり、モラルとしての否定性を仮死のままになお生き延びさせる唯一の方途となりうる。

    ファミリーアフェア
    しかしマクシムの生き方は腐敗することを思い知らされる。

    という感じで作品の本質を次々と言い当てていくその切れ味は快感。どう読んだら、あの作品からこういった主題を抽出できるんだろうと素朴に思った。そして、村上春樹の自己更新の姿勢、変わり続ける姿に感銘を受けた。

    ノルウェイの森
    ・永沢さん…他人に動かされず、自分のスタイルとルールを持っているという意味での肯定的な指標だった在り方が、ここに来て、自閉の一形態とネガティヴに捉えられている。
    ・僕…かつてのデタッチメントから追放され、スタイルを持たず自分のこと足場を失った格好の悪いよるべない存在。何からも支えられないという文学の原点的な場所に主人公を立たせることに成功した。

    ねじまき鳥クロニクル
    ・磁力の淵源はここでも主人公が徒手空拳の徒であること、ささえのなさ、なのである。
    ・物語性の展開、という前期の小説制作の方法は、この中期に来て物語世界への没入、物語への捨て身の投身ともいうべき新たな強度の段階へ進む。
    ・アメリカに数年住むことによって、自分と日本のむすびつきを、自分の社会的責任を、コミットメントということをもっと考えたいと思うようになった。
    ・そのようにして彼の中に浮かび上がってきた歴史は、絵空事のように描写されたが、現実の持つ現実性が時の経過の中でリアルな意味をすり減らしている場合、現実性はフィクションを通じてしかリアルな意味を回復できないことが分かる。

    めくらやなぎと、眠る女
    デタッチメントという態度の消極性を反省するとともに、弱い他者にこそ、人が助けられうる、そのことの持つ新しい可能性に光を当てる。

    アンダーグラウンド
    ・日本でこの社会でサラリーマンをやっている人たちも自分と変わらない、同じ人間なのだという発見。以降、村上の世界は豊かに、広く、深くなっていく。
    ・稚拙な青春とか純愛とか正義といったものごとが、その稚拙さゆえにいま切実に人々の心に働きかけているのではないかという思考。

    ここまでが第2部です。次の海辺のカフカあたりから更に話が難しくなってくる。

  • 私が読んだ、村上春樹氏の著作は多くない。
    食わず嫌いと言われればその通りである。

    今や、毎年ノーベル文学賞候補として取り沙汰される人気作家。
    「ハルキスト」なる熱狂的なファンを有する。
    読むべき作品は多いはず。

    それでも、私の手が伸びない。
    なぜか。

    私は、本書を読んで1つの答えが導き出された。
    「難しそう」なのだ。

    『海辺のカフカ』を読んで以来、強く感じている。
    それを解消するために、本書を読んだ。

    しかし、著者の洞察は鋭い。
    鋭すぎて、全てが正解ではないかと思う。

    それを疑うことができないから、私は良い読者ではないのかもしれない。

  • 【つぶやきブックレビュー】今年のノーベル賞文学賞にはビックリ。こちらは何度も候補に。

  • [村上さん、引きずり出してみました]人によって好き嫌いが大きく分かれ、文芸界での評判も分裂する傾向にある村上春樹とその著作。デビュー作となった『風の歌を聴け』から直近の『女のいない男たち』までを時系列的に眺めながら、村上春樹の文学史的評価に新たな光を当てようと試みた作品です。著者は、文芸評論家として活躍し、早稲田大学の名誉教授を務める加藤典洋。


    村上春樹論なのか、はたまた村上春樹を借りた加藤典洋論なのかがぼやけるところが散見されましたが、「難解」とされる村上春樹の歩みそのものの中に物語を見出している点で評価でき、そして興味深い作品。村上春樹の作品をかなり読んだ人でないと「?」という状態になってしまうと思いますが、本書を脇に村上春樹の著作を読み進めていくのも刺激的な経験になるかもしれません。

    〜村上は日本の純文学の高度な達成の先端に位置する硬質な小説家の系譜に連なっている。違うのは、彼が同時に大衆的な人気をも、海外での評価、人気をもかちえているという、文学的に無視できないが最重要ではないただ一点だけである。そのことに惑わされるべきではない。村上は野球帽を捨てないからといって何も、「文学ぎらい」ではないのだ。〜

    そして村上春樹の著作を改めて読みたくなるという......☆5つ

  • 言っていることが間違っているとは思わない。難しすぎるわけでもない。村上春樹の歴史的変遷もそれなりに追いかけ、それ相応に真摯に村上春樹に向き合っているとは思う。でも、他の村上春樹に関する言説がそうであるように、結局、村上春樹の小説のまわりをグルグル回るだけ。なぜ村上春樹の小説に魅了されるのかについて(伏線を回収できず批判されている小説ですらそのへんの凡百の小説より魅力的なのだ。とにかく記憶に残る)、腑に落ちる説明にはなっていない。結局のところ、(もちろん最近のは駄作がたくさんあるけど)、村上春樹の小説そもののの方が遙かに豊穣なのだ。

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