アメリカ政治の壁――利益と理念の狭間で (岩波新書)

著者 : 渡辺将人
  • 岩波書店 (2016年8月31日発売)
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004316169

アメリカ政治の壁――利益と理念の狭間で (岩波新書)の感想・レビュー・書評

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  • 緻密なアメリカ政治の分析とは言い難い。著者は、議員事務所や選挙事務所に勤務したことのある政治学者である。現場を「体験」しているため内部の事情を把握していると言って良いだろうが、著者にとって現場は「取材」の対象でもあった。つまり、テレビ東京の記者であったという経歴を一見すれば明らかなように、研究者である以前にジャーナリストである。そのせいだろうか、現代のアメリカ政治の力学を網羅する一方で、構造を整理することには失敗しているように思われた。同じくアメリカ政治を専門としていた政治学者の砂田一郎に依拠して「利益」と「理念」とを頼りにリベラルの政治が直面する障害を明らかにしようとしているが、取り上げられる話題はさながら新聞のように体系性の欠片もなかった。もちろん、オバマ政権を念頭にリベラルの政治を網羅することは、一方で評価すべきなのかもしれない。しかし、「利益」と「理念」とを効果的に用いていると言えないばかりか、そもそもなぜリベラルに着目するのかすら見えてこない(経歴から推測できるのだが)。現代のアメリカ政治にある程度の理解がある者が読めば以上のようには考えないかもしれないが、やはり政治学者が書いたとは到底思えない。

    内容としては、『見えないアメリカ:保守とリベラルのあいだ』(講談社現代新書、2008年)での主張と同様に、「リベラルvs.保守」や「民主党vs.共和党」といった単純で雑な二項対立的な理解を破断している。豊富な事例から複雑な政治力学を例証しているように、この点では(スッキリしているとは言い難いが)成功しているのではないだろうか。また、「大衆迎合主義」と訳されがちなPopulismをアメリカに固有の文脈に位置づける理解は、注目されつつある今こそ参照すべきである。

  • ○この本を一言で表すと?
     アメリカ政治が紆余曲折する要因について述べた本


    ○この本を読んで興味深かった点・考えたこと
    ・アメリカ下院議員、ヒラリー・クリントンの選挙に関わった後でテレビ東京に入社し、オバマ評伝を書いた若手の著者の内部で経験した者に分かる空気、感覚に少し触れられたように思いました。

    ・「利益の民主政治」「理念の民主政治」という2極と言えるほど異なる民主政治について、それぞれの特徴やミックスされた状況などが述べられていて、読み解くのが困難なアメリカの政治について考える軸が一つ得られたように思えました。

    ・コラムでアメリカのテレビ番組や映画などを取り上げて、その中で何がクローズアップされているか、表現されているかを通して本書の主題である民主主義について触れているのは面白い視点だなと思いました。

    ・著者はアメリカの政治に重要なのは「玉・風・技」の3要素と考えているそうです。「玉」は候補者の資質・経験・物語、「風」は政治環境の条件、「技」は周囲のブレーンや資金を表すのだそうです。候補者の特徴や主張がかなり大きな要素で、その要素が選挙時の環境にマッチしていない限りは当選できない、というのはその通りだなと思いました。(Ⅰ 揺れ動くアメリカの民主政治)

    ・建前と本音の問題で、表明しやすい内容(有色人種の大統領でも女性の大統領でも構わない)と実際の投票が大きく異なること、その本音部分に配慮するようにイメージ(黒人だが熱心なクリスチャン、女性リーダーだが母性的)を作っていくことが重要で、オバマが成功してヒラリーが失敗した点などが直接的ではないですが、触れられていました。(Ⅰ 揺れ動くアメリカの民主政治)

    ・自動車産業等の特定の業種、労働組合や消費者団体等の特定の団体などが、貿易自由化・保護貿易化などの論点で自分たちの利益が実現される方向に政治を動かそうとすること、キリスト教内の宗派による考え方の違いや「プロチョイス・避妊」や同性愛の容認・否認等の問題にひっかかりを覚えると他の点で賛成でも反対派に回ることなど、大統領・政党選択が容易でないことが述べられていました。あくまで複数の選択肢の組み合わせである政策ミックスであり、単独の選択肢をそれぞれ選べない二大政党制の特徴が逃れられない困難な壁を築いていて、政策ミックスである限り選挙結果・政策実施結果に100%満足できる者がほとんどいないことが、問題を難しくしていそうだなと思いました。(Ⅱ アメリカ政治の壁<1>)

    ・オバマが受賞したノーベル平和賞が、アメリカの他国への人道的介入を避けえない枷となっていることは、なかなか興味深い話だなと思いました。そのせいで他の実施したい政策を進められなくなるのはある意味で外圧に妨害されていることと同様で、直接的でないことですら政治に影響を与えてしまうというのは、思い通りに政治を執り行うことの困難さが伝わってくるように思いました。(Ⅲ アメリカ政治の壁<2>)

    ・ハワイで沖縄系の日系人「オキナワン」が多く住み、そのオキナワンのダン・イノウエが、年次が進んでいる者が優位である上院で要職についてハワイ州に利益を与えていたことは初めて知りました。そのダン・イノウエが亡くなった後に後継者として指名された者がその後継につけなかったことなど、州においても政治の複雑さがあるのだなと思いました。ハワイ出身のオバマがその状況に介入できなかった(しなかった)ことの理由として、「アフリカ系の大統領」というアイデンティティを「太平洋出身の大統領」というアイデンティティで塗り替えることが立場上許されなかったと考察されていて、それだけが理由ではないとしても、政治上重要なイメージというものがあり、多くのものに優先されるという不自由さは、確かに政治の「壁」だなと思いました。(Ⅲ アメリカ政治の壁<2>)

    ・封建制が存在しなかったために、その対抗として生まれる社会主義が生まれなかった、という考えは初めて知りましたが、なるほどと腑に落ちるものがありました。(Ⅳ リベラルの混迷と出口探しの行方)

    ・政治思想的に左に右にと行き過ぎると、穏健な思想が生まれてくるという今までに何度もあったであろう流れでニュー・デモクラット運動が生まれ、更に妥協的なポピュリズム路線にオバマ政権が向かうという流れも、支持されるために苦慮する政権担当者のやむを得ない状況にも思えてきて、本当に大変そうだなと思いました。結論としても、すぐに結果を出すのは難しいということが述べられていました。(Ⅳ リベラルの混迷と出口探しの行方)

    ・オバマが広島に来たことが一時期ニュースになりましたが、オバマがどれだけそれを望んでいて、そのことにどれだけの意味があったのかということはあまり考えたことがなかったので、かなり重要視してそのための準備がなされていたというのは驚きでした。(Ⅳ リベラルの混迷と出口探しの行方)


    ○つっこみどころ
    ・つらつらと書かれている文章で、「要は何が言いたいのか」が捉えづらい本だと思いました。

    ・ところどころに出てくる「玉」「風」「技」という表現が分かりづらく、著者がそれらに意味づけた内容がより感覚的に掴み辛くなったように思いました。

    ・所々で、本の内容にかかわる人物の写真が載せられていますが、写真から受ける印象とその思想や行動があまり一致していないように感じるのは、この本で述べられている典型的な思想・行動以外の複雑なバックグラウンドがあるからかなと思いました。もちろん限られた文章で掘り下げることが難しいのだとは思いますが、ステレオタイプとして紹介されていることに違和感があるところもありました。そういう違和感に気付けるように配慮したのかもしれませんが。

  • 大きな期待とともに始まったオバマ政権は,いつの間にかフツーになった。トランプ氏は?
    アメリカ政治のややこしい背景について書かれています。

  • 【つぶやきブックレビュー】1/20、新大統領就任ですね・・・

  • 「アメリカの「リベラル政治」には、どのような厄介な構造があるのか」(本書はじめにpvii)。本書は、この問題意識を出発点に、オバマ大統領の根源的な抵抗勢力、すなわち「リベラル政治」に焦点を当て、「アメリカ政治の壁」を描き出す。なぜ、「リベラル政治」がオバマ大統領の抵抗勢力なのか? 本書はそれを解き明かすことで「リベラル政治」の混迷の原因を探り、出口を探ろうと試みる。

    本書を読み進めていくと、人々は、そして世界は分裂してゆくしかないのかと暗澹とした気分にさせられてゆく。

    どこにも希望はないのだろうか? いや、まったくないとは言えないだろう。人々が分裂を超えてまとまるための方策は本書でも提示されているが、まずは社会の多様化と分裂のますます進むわたしたち日本人ひとりひとりが、それでも他人とどれだけ歩み寄れるかにかかっているとしか言えない。

    緩慢で漸進的で迂回的であっても、時間とエネルギーをかけるしか道はなさそうである。それがまずわたしたちにできるかどうかを本書は突きつけている。

  • アメリカ政治の特徴をわかりやすく解説している作品。
    理念の政治vs.利益の政治に加えて同じリベラル内・保守派内で対立しているうえに、その立ち位置が分極化している。

  • 主にアメリカの近年〜現代民主党からみた政治のあり方であるが、大変興味深く読んだ。利益の民主政と理念の民主政という二つの政治志向の間で揺れ動くアメリカ政治がわかりやすく解説されている。今回の大統領選挙予備選でもわかったことだが、民主党・共和党支持者共に一枚岩ではないのだなということがよくわかった。トランプとサンダースは同じ現象だったのだ。自分達は虐げられているという思いを抱く層がアメリカには、アメリカにも多くなっているという事だろう。

  • 現在アメリカ政治の抱える様々な問題点が浮き彫りにされた。政治が安易にポピュリズムに走ってしまう懸念あり。

  •  今年のアメリカ大統領選挙は、今までになくいろいろなスキャンダルが出ている。トランプの場合、女性問題、移民に対する態度、税金問題など。ヒラリーの場合、国家機密を自分のEメールを使ってやり取りをしていた問題、クリントン財団に関する問題など。劣悪な候補の中でどちらがまだましかというレベルの選び方をする人も出てくる。



     選挙は11月9日(日本時間だと10日)に行われる。どれだけの人がトランプに投票するのか、そして第3政党の候補者にどれだけの票が流れるのか気になるところだ。



     アメリカ政治は、共和党が掲げる小さな政府で保守と民主党が掲げる大きな政府でリベラルと言われるがいろいろ入り組んでいてそう簡単に区分けできない。



     サブタイトルが「利益と理念の狭間で」とあるように、揺れ動いてきているアメリカ政治。今回は、どちらの方に票が動くのか。後、わずかしかないがアメリカ政治について知っておくのもいいだろう。

  • 我々が今問うているのは、政府が多きするか小さすぎるかではなく、役に立つかどうかということだ。
    アメリカはまだマッチョ信仰が強いから、女性大統領が核兵器のボタンを押すには許せないという男性有権者が多い。
    じぇぶブッシュで決まりというメディアの報道があったので、もうイラク戦争という間違った戦争の家系から大統領を出したくなかったので、伝統的な共和党ではない、非政治家家系の候補を求めていた、それで出て来たのがトランプ。

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