戦国と宗教 (岩波新書)

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  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004316190

感想・レビュー・書評

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  • 戦国武将の神仏信仰、一向一揆、キリスト教、天道思想といった切り口から、戦国期の宗教について考察した著作。

    非常に興味深い内容だった。

  • 戦国時代における信仰のありかたを、合戦・一向一揆・キリスト教といった事例を検討しつつ、当時の社会に存在した「天道」という観念に注目して読み解く内容。特にキリスト教がいかに受容され、また何が受け入れられなかったのかという点が象徴的。

  • 戦国時代、宗教(主に仏教とキリスト教)がどのように武将達や社会と関わってきたかを、数々の文献から研究、分析している。

    大前提にあるのは、度々言及されている「命を懸けた戦いにあたって祈願する」といった行動から、宗教心自体はかなりあったということがある。現代に比べてはるかに、自然災害や戦などで理不尽に命を失う危険性が高かった時代に神や仏に祈りたくなるのも無理はない。しかし、必ずしも全てを祈願に委ねていたわけではなく、「日々の努力+α」の祈願だったのは現代と同じようだ。

    数々の武将と宗教との関わりが紹介されているが、豊臣秀吉の伴天連追放令のくだりはなかなか面白かった。双方の主張が真逆であり、どちらが言ってるのが正しいのかわからない。あるいは両方正しいのかもしれない。ただ、立場の違いで見方が変わるのかもしれない。そんなことを思った。

    そしてこれも現代と通じる、というより人間の普遍性というべきか。自分と異なる考え方の相手を否定し、自分を正当化したがる故に対立が始まるという図式だ。

  • Q. なぜキリスト教は受け入れられた? / 仏教は力を失っていたのか?
    A. 複数の理由
    ・主君の改心
     貿易の利益
     宣教師の軍事支援
     純粋な信仰
    ・慈善活動
    ・神仏の教理との親和性
    ・多神教的な思想

    MEMO:バテレン追放令
     伊勢神社からの要請
     多神教的思考枠組み(登る方法が違うだけ)

    MEMO:天道
     自然の摂理
     神仏と等価
     現世利益的
     内面の信仰(5常と信仰)

    大村と有馬は、宣教師の支援なしに家の存続が不可能だったので、家臣も入信した。
    他の大名の場合、神仏が戦争において大事なので、難しい。
    宗派の違いは、山の登り方の違い。
    だから宗派ごとで競争はするが、排斥はしない。

  • 【目次】(「BOOK」データベースより)
    第1章 合戦と大名の信仰(川中島合戦と宗教/戦争の呪術・大名の信仰)/第2章 一向一揆と「民衆」(加賀一向一揆の実像/石山合戦の実像/共存の信仰世界/本願寺教団と民衆)/第3章 キリスト教との出逢い(宣教の始まり/宣教師のみた日本人の信仰/織田信長とキリシタン)/第4章 キリシタン大名の誕生(大友宗麟の改宗/家中のキリシタン信仰)/第5章 「天道」という思想(「天道」と諸信仰/統一政権の宗教政策/秀吉の伴天連追放令)

  • 日本の中世における日本人の宗教観について述べられているのが本書である。結論を先に云えば、日本の中世の人々は「天道」という概念を持ち、伝来したキリスト教を含めた多種多様な宗派が社会で共存共栄していた。三十年戦争のような大規模な宗教対立は起きず、織田信長、豊臣秀吉といった時の権力者も宗教には一定の配慮をせざるをえなかった当時の様子が描かれている。内容は多岐に渡るが、とくに印象に残ったのは中世における浄土真宗本願寺派の動向についてだ。

    浄土真宗本願寺派について。一向一揆勢が加賀を実行支配して時の権力者の織田信長、徳川家康と戦った歴史的事実と、浄土真宗の開祖である親鸞が現世の権力を否定して内面の信仰を重視したことから、「浄土真宗(真宗)は反権力傾向が強い」と従来は言われてきた。しかしこのイメージは明治期に入ってから作られたものである。明治時代のプロテスタントである内村鑑三や植村正久が日蓮、法然など鎌倉仏教の指導者をルターに喩えた。特に親鸞の教義はルターの信仰義認論と重ねられた。後世において「真宗のプロテスタント化」が行なわれたというべきか。(P.45~P.49)

    加賀一向一揆については、「百姓の持ちたる国」という言葉から、本願寺門徒が当時の権力体制から完全に離脱してあたかも「独立国家」を建設していたかのように語られることが多い。しかしこの認識は完全に間違っている。当時は応仁・文明の乱の最中であり、加賀領国内では東軍と西軍に分かれて争っていた。そこに真宗本願寺派と高田派の宗旨対立が重なり、本願寺は一方に肩入れしたに過ぎない。武士層を相手にした「百姓」の階級闘争であったとは断言できないようだ。事実、当時の一向勢は加賀守護の富樫政親に対抗して、代わりに守護家一族の富樫泰高を擁立している。時代は下り、永正三年(1506年)に時の管領の細川政元が河内畠山氏討伐を行った。政元は本願寺に出兵を要請して、本願寺は加賀の門徒を動員した。この戦いの功績により、本願寺は室町幕府公認で加賀支配を認められるようになったとされる。室町幕府から本願寺は加賀の守護に準ずると見なされており、段銭を幕府に納めたりもした。また幕府には本願寺担当の奉行も存在した。

    「本願寺と加賀一向一揆は、将軍を頂点に有力大名や公家、寺社で構成される室町幕府体制の一員だったといえよう。」(P.74)

    と述べられている。

    戦国期では本願寺と織田信長は敵対関係だったが、本願寺は最初から信長に敵対していたわけではない。当時、本願寺は三好三人衆と誼を通じ、朝倉氏とは婚姻関係、浅井氏とは同盟関係にあり、信仰上の理由というより政治関係から蜂起した理由の方が大きい。本願寺が大坂を退去して紀州国鷺森へ退去した後では、信長は全国の門徒の参拝を承認し、通行の安全を保障している。(P.67) 別に信長は本願寺を完全に滅ぼすつもりがなかったのが実情のようだ。

    他にも、ルイス・フロイトが作り上げた「キリスト教に寛容な信長像」の修正、「安土宗論」は、ただの信長による法華宗弾圧ではなく、中世で一般的であった「自力救済行為」を否定する意図があった事、秀吉の伴天連追放令については、その詳細な背後関係などが書かれている。わずか200ページで中世の人々の宗教への接し方、宗教に対する態度を大まかに知る事ができるので大変お薦めである。安価な新書でこのレベルまで書けてしまうのは正直すごい。

    評点:9点 / 10点

  • この本の主題は、といえばやはり最後の章で挙げる「天道」であり、しかし、現代日本と500年前の日本では人としての在り方など多く異なる点もあるかと思うが、個人的には違和感を禁じ得ない。はて天道とは思想なのであろうか。「お天道様が見ている」等という表現は本書でも言及するのだが、これは特定の何かを指すのではなく、自分の良心といった概念的なものを指していると私は解釈する。当時の日本の歴史上、イエズス会視点の日本像というのが論点となるのだが、イエズス会は多分に極端なところのある教派である点は失念してはならない。
    勿論、巷間で囁かれる様々な噂(例えばバチカンを裏で牛耳ってるとか)を全て鵜呑みにするわけではないが、本書が触れている仏教における法華宗に類似した匂いが漂う教派であると感じるのは個人的な偏見であろうか。太陽=太陽信仰=太陽神と関連付けるのは日本人に対して多少乱暴なのではなかろうか。むしろ、山岳信仰的な部分に始まり、先に述べたように自分の内面にある畏れといったものに繋がってくる思想なのではないだろうか。

  • 戦国時代の人々の神仏・キリスト教に対する信仰の様相について、一般に行われている説よりもっと複雑であると指摘。本願寺教団の戦闘は政治勢力への介入が先で狂信的側面が主ではない。本願寺や宣教師・キリシタンに対する信長・秀吉の弾圧も極端ではなく、天道という概念への意識からそれぞれの信仰の共存が志向されていたために、当初は穏便な解決を図るものであった。

  • 戦国時代の宗教とは、といった話。合戦における宗教の果たした役割、一向一揆とはなんだったのか、そしてキリスト教はどう広まってどう禁止されていったか。信長が合理的無神論者でなかったことや本願寺の発祥、キリシタン大名が改宗するまでの困難など知らなかったことも多かった。

  • 本書は、戦国時代を「外から目線」で綴っているキリスト教宣教師が遺したモノ等も多用しながら、詳しいと同時に判り易く「信仰の世界と戦国時代」を語っていて、非常に面白かった。
    戦国時代関係の“宗教”に纏わることを纏めて考察した内容なのだが…或いは現代日本での、「言ってみれば“宗教”…だよな…」という“普通の感覚”の底流を成すモノを見出せる一面も在る話題が詰まっている一冊だ…

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著者プロフィール

神田千里(かんだ・ちさと)
1949年東京都生まれ。東京大学文学部卒、1983年同大学院博士課程単位取得退学。博士(文学)。日本中世史専攻。高知大学人文学部教授、東洋大学文学部教授を経て東洋大学名誉教授。主な著書に『織田信長』(ちくま新書)、『島原の乱――キリシタン信仰と武装蜂起』(講談社学術文庫)、『一向一揆と石山合戦』(吉川弘文館)、『宗教で読む戦国時代』(講談社選書メチエ)、『戦国と宗教』(岩波新書)、『顕如』(ミネルヴァ日本評伝選)など多数がある。

「2021年 『戦国乱世を生きる力』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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