キャスターという仕事 (岩波新書)

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  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004316367

感想・レビュー・書評

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  • 国谷裕子(1957年~)氏は、大阪府生まれ、聖心インターナショナルスクール、米ブラウン大学卒。父の勤務に伴い、幼稚園から中学校まで、ニューヨーク、サンフランシスコ、香港、日本を行き来しながら過ごした。P&Gジャパンに就職するも1年で退職し、その後、知人の紹介でNHKに仕事を得、「NHKニュース」英語放送の通訳者、ニューヨーク総局のリサーチャー、「ワールドニュース」駐米キャスター、「NHKニュースTODAY」の国際コーナー担当等を経て、1993年4月から2016年3月まで23年間、「クローズアップ現代」のレギュラーキャスターを務めた。現在は、東京藝大理事、国連食糧農業機関(FAO)日本担当親善大使、等として幅広く活躍。菊池寛賞(国谷裕子と「クローズアップ現代」制作スタッフ/2002年)、日本記者クラブ賞(2011年)等を受賞。
    私は、国谷さんの少し下の世代だが、若い頃から「クローズアップ現代」は好きで、その看板である、知的で凛々しい国谷さんのファンでもあったが、昨年末の「クローズアップ現代・放送30周年 年末拡大スペシャル」に、ゲストとして出演した国谷さんを久し振りに見て、本書のことを思い出し(本書のことを知ってはいたが、読んではいなかった)、早速入手し読んでみた。
    本書は、基本的には、国谷さんがNHKに仕事を得てから、「クローズアップ現代」のキャスターを降板するまでの、キャスターとして成長していく過程、「クローズアップ現代」制作の舞台裏、印象に残る放映やインタビューの相手、更には、キャスターとはどうあるべきか等を、率直に綴ったものである。
    その中で特に印象に残ったのは、テレビ報道の持つリスクと、それを踏まえてキャスターはどうあるべきかという部分である。
    テレビ報道は、その映像の力により、当該事象を端的にわかり易く伝える強力なツールになり得るし、加えて、メッセージがシンプルな方が視聴率を稼げるともいう。しかし、世の中の事象の多くは、実際にはそんなシンプルなものではなく、安易にわかり易くすることは、当該事象の深さ、複雑さ、多面性をそぎ落としてしまうことになる。そして、更に危ういことは、視聴者がそのようなシンプルなメッセージに慣れてしまうことにより、わかり易いものにしか興味を持てなくなることである。そのようなテレビのデメリットを補うために、キャスターは、テレビに映し出された映像がいかなる意味を持ち、その背景に何があるのかを、言葉にして視聴者に伝える必要があり、それはときには、難しい問題を難しい問題として、視聴者に受け取ってもらうということでもあるのである。
    翻って、昨今は(本書の出版から5年ほどしか経っていないのだが)、テレビすら見ることなく、インターネットやSNSで自分の知りたい情報・わかる情報にしかアクセスしない人が増えており(そもそも、閲覧履歴からそのような情報ばかりを提示するようにプログラムされている)、それが、社会の分断を煽る原因のひとつとなっていることは周知の通りである。
    そう考えると、国谷さんが提示する、「テレビ報道とは、キャスターとは、どうあるべきか?」という問いは、我々の民主主義の将来につながる重要な問いでもあるのだ。
    また、終章では、「ここ二、三年、自分が理解していたニュースや報道番組での公平公正のあり方に対して今までとは異なる風が吹いてきていることを感じた。その風を受けてNHK内の空気にも変化が起きてきたように思う。」と書き、特定秘密保護法案や安全保障関連法案について(十分に)取り上げられなかったことを指摘しているのだが、それが何らかの巨大な意思によるもので、また、国谷さんの降板とも関係があるのだとすれば、由々しきことである。
    ともあれ、本書は、テレビ報道とキャスターに焦点を当てて書かれているが、「クローズアップ現代」が扱ってきた様々なテーマについての国谷さんの思いも聞いてみたいと思う。
    (2024年1月了)

  • 切り口が面白いクローズアップ現代のキャスター
    番組を面白くしているのは編成もさることながら、徹底した掘り下げと、ネガティブなキャスターの視点だと言う。
    それが視聴者のwant を引き出しているのだとある。
    番組作りの過程やキャスター個人の成長を読んでいると、生き生きして仕事しておりとても羨ましい。
    成功する人は真剣だ。手を抜いてる所がないか?自問して仕事に向かっていると感じた。
    しかし筆者のネガティブが強調され過ぎて、明るい所が見当たらなかった。23年もするのだから立派だが、なんか暗い

  • NHKクローズアップ現代のキャスターであった国谷裕子氏が23年に渡る番組を振り返りつつ、キャスターという職業への矜持を述べる1冊。著者が地に足のついた国谷氏、しかも出版が岩波新書という組み合わせ。内容は期待を裏切りません。
    原稿を忠実に正確に伝えるのがアナウンサー、伝える言葉を自ら探し出すのがキャスターという明確な区別から始まり、キャスターとして守り続けた事を番組制作の裏側を紹介しつつ述べています。平日に毎日4日間連続で放映された「クローズアップ現代」の舞台裏は非常に興味深い描写でした。
    国谷氏が述べるキャスターの仕事とは1.視聴者と取材者との橋渡し、2.自分の言葉で語ること(自分の主観を表現するのではない)、3.新しい価値観を持った事象に的確な言葉を探すこと、4.インタビューの4つです。それぞれへのこだわりが明確に理路整然と述べられています。
    「人気の高い人物に対して批判的に切り込んだインタビューをすると想像以上の反発があるが、それでも訊くべき事は聞かなければならい」、「安易に視聴者の感情に寄り添うばかりに問題の複雑さを切り捨て、”分かり易さ”ばかりを追い求めていないか」等々、示唆に富む文章が満載です。
    民放が芸能人ゲストを集めてクイズ形式みたいなニュース解説番組を放映し続ける昨今、改めて報道番組とはどうあるべきかというテーマについて正面から切り込んでいるのが非常に好感を持てました。

  •  2017年後半は怒涛の日々で、本と向き合う時間がまるでなかった・・・というより本と向き合う心の余裕がなかった。そんな日々も終わり、2018年は取り戻すぞー!な気分で手にしたのがこれ。
     同業というのはおこがましいけど、放送の現場を知る人間にとって、読み応えのある内容で付箋だらけの1冊となりました。
     放送開始が平成5年のクローズアップ現代。私の入社が平成4年。報道に関わる人間としてリアルタイムで放送を見てきた。いつも泰然としてしなやかに切り込んでいく、そんな印象を持っていたけど、キャスターとして挑んだ国谷さんの強い思いを知り、その姿勢を知り、勉強になることばかりだった・・今さらだけど(笑)

    〇インタビューは自分の能力と準備の深さが試されるものであり、それがさらけ出されるもの。入念に準備して、その準備とおりインタビューしようとすると大失敗につながりかねない。実際のインタビューの場になったら、準備してきたものをすべて捨てなければならない。
    〇キャスターの役割は自分の言葉で語ること。それは個性を打ち出すことや、「個人の主観」「私見」を語るということではない。
    〇テレビ報道の3つの危うさ
    ①事実の豊かさをそぎ落としてしまう
    ②視聴者に感情の共有化、一体化を促してしまう
    ③視聴者の情緒や人々の風向きに、テレビの側が寄り添ってしまう

     なんとなくぼんやり感じていたことを言葉にしてもらえるスッキリ感・・・天童荒太さんにも感じた感覚で読了。

  • 政権にぶっこみ過ぎたことでクローズアップ現代のキャスター降板となったと巷では言われている国谷さんが、テレビの仕事に携わり始めてから、クローズアップ現代のキャスターとして番組が終わるまでを振り返った本。
    結局、現政権にだけ批判的だったというわけではなく、聞くべきことを聞くという彼女のスタンスを貫いたっていうことだけだよな。忖度せずに。
    「聞く」と「聴く」のスタンスは、キャスターだけでなく、我々も人の話をきく際には意識するべき点だと思った。

  • 著者はNHKで「クローズアップ現代」のキャスターとして
    23年間勤めた。
    その現場での経験した生の声と、スタッフ達との番組製作に奮闘する
    姿がカッコイイ。

    アナウンサーとニュースキャスターの違いって分かりにくい。
    簡単に言うと、アナウンサーは原稿どおりに正確に読み伝えること。
    一方、ニュースキャスターは話し言葉で送り手と受け手のパイプ役に
    なり、その個性が発揮できる。

    その反面、客観性の高いニュースを私見という目線が入ることで厄介なことも
    起きる。
    その厄介な事が色んな人に誤解を招いてクレームに繋がるらしい。

    その際たるものが、「出家詐欺」ねつ造放送騒動だ。

    寺院で「得度」という儀式を受けると戸籍の名義が変えられるのを悪用した
    「出家詐欺」が広がっているという報道で、「やらせ」とか「過剰演出」があったと
    クレームが付き、クローズアップ現代の汚点になってしまった。

    現場での人材育成に最適なものがこの番組にはある。
    それは、試写が二回あることだ。
    若い担当者が作成したレポートを他のスタッフと議論してダメ出しをされて、
    自分の視点との違いを知り、さらに深く突っ込んだ議論になる。
    前日に一回目、そして当日の昼に二回目の試写を行い、生放送本番に向かう。
    クローズアップ現代は試写が一番面白いと言う関係者もいる位に熱を帯びる。

    その試写2回を得て本番という流れを23年間続けてきた
    著者は改めて感じるという。

    クローズアップ現代の役割は、物事を「わかりやすく」して伝えるだけでなく、
    一見「わかりやすい」ことの裏側にある難しさ、課題の大きさを明らかにして
    視聴者に提示することだと。

  • 『キャスターという仕事』(国谷裕子)
    読むきっかけは「久米宏のラジオなんですけど」にゲスト実演していたのを拝聴してこの本の存在を知りました。
    【クローズアップ現代】は21:30〜の頃は食卓で頻繁に見ていた記憶がありましたが、19:30〜に移ってからは、まだ帰宅していることが少なく、通っていたジムのサウナで何度か見ることがある程度でした。

    当時、番組を観ていて「意外と小さな社会の問題でも拾い上げ、しっかりした意見を提示する番組だなぁ」というのが印象でした。

    この本を読んでその印象が変わったということはありませんでしたが、そういう印象を受けた番組の、キャスターである国谷裕子さんが与えていた知的で隙のなさのようなものの、背景をよく理解できました。

    では、簡単に紹介します。
    この本は国谷裕子さんが『クローズアップ現代』及びそれ以前の仕事も含めて振り返りながら「キャスターとしての国谷裕子」と「キャスターとしてのあるべき(めざすべき)姿」を綴ったもの(だけれど、メッセージは別のところにあるります。)
    そしてその切り口として用意したのは必ずしも時系列に並べられていない。『クローズアップ現代』で経験した印象に残る制作番組を、社会が流動する起点に配してその底に映し出されるものと、テレビ(メディア)のあり様を自分の私見を交えながら紹介しています。
    (オマケ)番組制作の現場のイメージも緊張感も伝わってきて、ニュース番組の見方に深みが増すようにしてくれます。


    これを読んでいて感じたのは、国谷裕子さんがここで紹介されている挫折や苦悩をすべて彼女が成長のステップしているということ。
    失敗、挫折を不運と捉えるのではなく、試練と捉える。
    (優れたリーダーたちが共通してもつ心の習慣を育んでいたこと)

    それらをもう少し具体的に、その環境も踏まえて観ていきます。
    ①制作現場のスタッフの情熱に応える。
    放送前に行われる二回のVTRリポート試写に二回とも参加して、作り手の意図や熱意を感じとり、自らのなかで視聴者に‘伝える型’のイメージ作りに早い段階から関わる。
    これは、リーダーがチームを牽引していくうえで欠かせない情熱の共有の手段。

    ②「前説」に込める思い。番組冒頭の1分半〜2分半に、現場スタッフから引くついできた情熱を、視聴者のひとりに向かって自分言葉で伝える。(何を、何故、どうやって伝えていくかを表明する重要な時間)
    この姿がチームメンバーの心に響く。絆を深め、信頼感の醸成につながる。

    ③良き支援者を巻き込む
    性格やキャラで築いた人脈ではなく、仕事を通じて、信頼で結びついた人脈は硬く強くときに厳しい。だが、彼らは必ず必要な人を必要なときに、支えてくれる。

    ここには、書くことはしなかったけれど、メディアに対する考察や、柳田邦男さんとの最後の番組で語られた若者へのメッセージ、
    隠れている「地雷」や「事情」をいろいろと考えさせられ、想像させてくれる良い本です。
    何より、国谷裕子さんの実直さがよく伝わる文章でした。

    今後の国谷裕子さんの活躍を期待します。
    2017/05/18

  • 番組の印象そのままの本。言葉使いの難しさ、表現の難しさ、決められた枠の中で番組を作ることの難しさ等々、報道の難しさに彼女は立ち向かっていき、最後まで役割を果たした。常に最善を尽くそうとする姿勢はすばらしいし、実際に番組はそうだったと思う。週に1回、年中ずっとではないとはいえ、報道番組の中でも密度の濃いものを作り続けるのは大変。
    番組の製作関係者のほとんどが男性で、男性社会だったがゆえに、社会における女性の役割や立場の変化に関して番組で取り上げる機会が少なかった点に気づいたのが降板後だった、というのは残念だがやむなしか。
    ただし彼女はあの番組の製作スタッフのうち氷山の一角。海上に見える部分でしかない。水面下の人たちの、特にプロデューサーや編責といった方々はどうなのか。そういう人たちの書いた本があれば読んでみたい。
    テレビ局で報道にかかわる人たちは絶対に読むべし。特に局アナ。自分をタレントと勘違いしている女子アナには理解できないかもしれないが。

  • 思ったほどたいした内容じゃなかった。
    国谷さんの半生には興味ないし、クロ現の捏造取材についての言い訳もどうでもいい。
    番組制作の裏話も興味をそそらない。
    第10章の「変わりゆく時代のなかで」をもっと読みたかった。
    23年の間に世界が大きく変わりNHKも変わった。
    国谷さんじゃなく、第三者がクロ現の23年間を客観的に分析して時代を読む、という企画の方が面白かったんじゃないだろうか。

  • NHK「クローズアップ現代」のキャスターだった国谷さんが、その23年間を振り返りまとめた本。発刊されて、すぐに購入しました。

    僕自身はほとんど番組を見たことがなく、昨年の番組終了に関わる様々な状況を見聞きすること中で、恥ずかしながら番組の存在や国谷さんのことを知りました。

    ある事象を伝えるときにテレビという媒体の特性と危うさを理解しながら、視聴者自身に伝え・考える機会を提供していくこと。疑問をそのままにせず、聞くべきことは聞き追求していくこと。わかりやすさだけを求めるのではなく、深く物事を捉えられるようにしていくこと(見えないことを伝えること)等、23年間の歩みの中で積み上げられてきたたくさんのメッセージが本には書かれています。言葉の力を信じそのことを高める努力を続けながら時代を見続けきた番組と国谷さんは、とても大切な仕事をして来られたのだなと思いました。

    不寛容な時代、危機的と言える世界と日本の中でどう生きるかが問われています。長期的に多角的に物事を捉えることに、粘り強く取り組んでいくことが大事だと感じています。この本には、読み手に具体的に考えることを促す力があると思います(番組が目指してきたことですね)

    ぜひたくさんの人に読んでほしい一冊です。

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著者プロフィール

キャスター。1957年、大阪府生まれ。米ブラウン大学卒業。企業勤務を経て、81年「NHKニュース」英語放送の翻訳、アナウンスを担当、報道の世界へ。1993〜2016年のNHK総合「クローズアップ現代」のキャスターを務め、広く共感を呼ぶ。その後、SDGsについて、広く一般に理解してもらうよう、新聞雑誌、講演等の活動を始め、現在に至る。11年に日本記者クラブ賞、16年ギャラクシー賞特別賞などを受賞。著書に『キャスターという仕事』(岩波書店)

「2023年 『「未来の食」から食料危機を考える』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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