文庫解説ワンダーランド (岩波新書)

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  • 岩波書店
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  • / ISBN・EAN: 9784004316411

感想・レビュー・書評

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  • 文庫解説に目をつけるとは!なかなか斬新な批評だった。文庫解説は誰のものというと、当然読者のためのはずだが、作者のためや自分のための解説が多いという。その取り上げ方、切り捨て方がなかなか痛快!作者の個人史に引きずられた解説や与太話に過ぎない解説も困ったものだが、こうやってこの本に取り上げられて読んでみると面白い。
    作品の社会的背景を捉え、読書の指針となる、あるいは視野を広げる解説が優れているということらしいが、これが結構難しいことらしい。だめな解説や優れた解説の書き手の名前が挙げられていて、なかなか厳しいね。
    松本清張のアリバイトリックの不備を突いた批評家がいて、「ええー、これじゃ作品自体が成り立たないじゃないか」とあきれてしまった。あの有名な「点と線」や「ゼロの焦点」ですよ。小林秀雄の文も解説もわけがわからんと切り捨ててあるのも留飲を下げる感じかな。

    • goya626さん
      nejidonさん、コメントありがとうございます。その通りです。今度、図書館へ行ったら、絶対にこの人の本を借りますね。ちゃんと作品を自分で読...
      nejidonさん、コメントありがとうございます。その通りです。今度、図書館へ行ったら、絶対にこの人の本を借りますね。ちゃんと作品を自分で読み解くことができるこそのバッサリとツッコミだと思います。ただ、その考え方は違うんじゃないかなあ、と思うところもあります。
      2020/10/29
    • nejidonさん
      goya626さん。
      はい、その通りだと思います!
      私も全面的に賛成なわけじゃありません。
      偏向が過ぎると思うところもあるのですが、そ...
      goya626さん。
      はい、その通りだと思います!
      私も全面的に賛成なわけじゃありません。
      偏向が過ぎると思うところもあるのですが、それでも読んでしまいます。
      それで困っております・(笑)
      「本の本」と「名作うしろ読み」が面白いですよ。
      2020/10/29
    • goya626さん
      「名作うしろ読み」またまた変な目の付け所をして、このこの!って感じですね。ふむ、読みたいですね。
      「名作うしろ読み」またまた変な目の付け所をして、このこの!って感じですね。ふむ、読みたいですね。
      2020/10/30
  • 斎藤美奈子さんが岩波の小冊子『図書』に連載した文庫解説の批評集。著者らしい毒舌やユーモアに満ちていて、軽快に読める。本領発揮だなぁ。

    文庫解説はどうあるべきかに正解はない、というのが本書の最後に書かれているが、著者自身は、国語(文学の鑑賞)よりも社会科(地理的歴史的背景)を重んじている。本が書かれた時代的背景は、十数年もすれば忘れ去られてしまうからだ。実際、本書でも、『小公女』の背景にある階級差と植民地の問題や、1940年に書かれた『走れメロス』を日本の戦時体制のパロディとして読む視点など、後世の読者にとって有益な指摘がたくさんある。

  • この840円の本を書くため、斎藤さんがどれほどたくさんの本を精読したか考えると、本当にすごいと思う。そして、本当に面白かった!
    わかりやすいところでは、例えば、「走れメロス」の解説。角川文庫のカバーの紹介文みたいに、「メロスがんばれ!」と、私は一度も思ったことはないが、太宰治を知らない純粋な小中学生なら思うのだろうか、そしてそういう「読み」が正しいのか、とずっと疑問に思ってきたが、それを否定するような解説もなく、太宰作品の中では最も嫌いな一つとなっていたのだが、

    「<メロスは激怒した>ではじまり<勇者はひどく赤面した>で終わるテキストは、心身ともに「裸」だった若者が「見られている自分」に気づいて最後に「衣」を手に入れる物語である。この瞬間、メロスはコドモ(赤子)からオトナ(赤面を知る)に変わるわけで、『走れメロス』は「裸の王様」ならぬ「裸の勇者」の物語とも言えるのだ。」(p35~36)

    という斎藤さんの「読み」に初めて納得できる「メロス」の解説を読んだ気持ちになった。心から納得した。
    難解と言われる小林秀雄については

    「小林秀雄はかつて「試験に出る評論文」の代表選手だったのだ。試験に出る評論文の条件は名文であることではない。「論旨がわかりにくいこと」だ。」(p148)

    で、また納得。そして

    「そうだった、思い出したよ。コバヒデの脳内では、よく何かが「突然、降りてくる」のである。こういった箇所を読むと(少なくとも私は)鼻白む。しかし、小林にとってはこの「突然、降りてくる」が重要で、こうした一種の神秘体験を共有できるかどうかで、コバヒデを理解できるか否かが決まるといっても過言ではない。」(p150)

    でさらに納得。
    『少年H』については

    「もしかして、妹尾河童も「こうありたかった少年像」を描いたのではないか。戦争の欺瞞を鋭く見抜き、母を雄々しく守り、敗戦の日に天皇の戦争責任に思いを致すような少年を。このような物語は読者に歓迎される。「日本人はみな本当はHのように戦争に反対したかったのだ」という気分を共有することで、庶民の戦争責任は免責されるからである。」(p234~235)

     当時を生きた人でないとわかりにくい安保闘争やバブルの頃のベストセラーの読み解きも面白いし、もちろん渡辺淳一の部分は笑える。
     納得しないまま読んできた作品やその解説を、この本で初めて納得できた。
     こんなに面白くて中身が濃くて840円か。30分で読めて中身スカスカで、他の文献を当たったのか大いに疑問の本が倍の値段することもあるんだから、大いにお買い得の本。
     今度は翻訳読み比べをやってほしいなあ。
     ついでに言うと、この本のあとがきに引用されている、著者の恩師、浅井良夫の文章がまたわかりやすくて面白く、この師にしてこの弟子ありってことだなと深く感心したのであった。

  • 子どもの頃から本の虫を自認していたのだけれど、人生も後半に入って最近は「こんなに本ばかり買って置いておいたら自分がいなくなったあと子どもたちにどれだけ迷惑かけることになるんだろうか」とか思い始めてしまい、仕事で書籍を買わざるをえない現状も手伝って専ら電子書籍を買うことにしていたのだけれど、美奈子さんの本だけは(いや"だけ"ではないんだけど)店頭にあったら反射的にレジに持って行っちゃうよ!

    驚くような角度から本の読み方を見せてくれる美奈子さんだけど、なんと今回は文庫解説についての本。最初から最後まで全部、解説について書かれている。それでもってこれが滅法面白いのですよ。

    古典的な日本文学の解説合戦(戦ってないけど)に始まり、著名人による謎解説を斬り、返す刀でそもそも解説にすらなってないエッセイもどきが一体どこから生まれてきたのかを解体してみせる。
    さらには、これぞ読者のための解説でしょ!という"お手本"もちゃーんと紹介してくれています。

    美奈子さん曰く、解説とは結局端的にいうと「これって、あれでしょ」である、と。
    他にも、作品を貶すためだけのものであってはいけないが、読み込んだからこそ発見できる瑕疵についてきちんと考察できている解説にはお得感がある、とも。なるほどなあ。

    とにかく、最初から最後まで面白いです。好きすぎる。

  •  現在活躍中の文芸評論家のうち、いちばん文に「芸」があるテクニシャン・斎藤美奈子――。本書も、彼女らしい技巧が冴え渡る一冊だ。
     
     文庫本の巻末に付される、評論家や作家などの筆になる「解説」。そのうち、おもに有名文学作品の解説を俎上に載せ、批評していくコラム集である。
     
     ダメな解説は完膚なきまでにメッタ斬りにし、素晴らしい解説は「どこが素晴らしいのか?」を鮮やかに腑分けして称賛する。
     また、ロングセラーとなり、多数の文庫化がなされている名作については、解説の変遷の中に、その作品についての評価の変遷をも浮き彫りにする。

     文庫解説という狭いフィールドを素材に、これほど多彩で知的興奮に満ちた評論が成り立つとは、私には想像すらできなかった。企画の勝利、柔軟な批評眼の勝利である。
     
     私がいちばんスゴイと思ったのは、川端康成の『伊豆の踊子』と『雪国』を取り上げた回。
     三島由紀夫などの大家が書いた文庫解説がいかにダメであるかをズバリと解説したあとで、著者は『伊豆の踊子』『雪国』の「正しい」解説の手本を示してみせるのだ。

     ほかにも、『走れメロス』を取り上げた回、『智恵子抄』を取り上げた回などは、作品を見る目が一変するほど驚きに満ちている。文庫解説を批評するというフィルターを通して、斎藤美奈子ならではの名作解題の書にもなっているのだ。

     斎藤自身がこれまでにかなりの数の文庫解説を書いているし、これからも書いていくのだろうから、既成の文庫解説にケンカを売るような本を書くこと自体、ものすごい勇気の要ることだと思う。

     全23編のコラムの中には調子の出ない回もあるが、それでも、ここまでの「芸」を見せてくれれば十分。
     斎藤美奈子は、相変わらずバツグンに面白い本の書き手だ。

  • 普段、文庫の解説は注意して読むことはないが、『こういう楽しみ方もあるんだ』と新発見。読書の別の楽しみ方を教えてもらった。
    ばっさばっさ切りまくる文章は痛快。著者の読書量の凄さも感じることができる。

  • 古くは『坊ちゃん』から、最近の『永遠の0』までの文庫本解説を、著者の独断と思い切りの良さで一刀両断し、まるで凄腕の剣豪小説を読んでいるかのよう。
    楽しく爽快感をもって、たちまち読み終えた。
    解説とは読者のためであるべきはずが、しばしば「著者のため」、あるいは解説者自身の「自分のため」に陥っていると看破する。
    確かに何を言いたいのか理解できない解説や、ちょうちん持ち的解説をよく目にする。
    本文で偉そうに断言した著者が、自分自身も解説を書いていることに思いを致し、冷や汗タラタラ、プレッシャーを感じてしまったと、あとがきで書いているのはご愛敬(笑)

  • 「解説の女王」気分で文庫解説を書いてきた筆者自身が、古今東西の名作の文庫解説を斬りまくった(自戒の念に苛みながら)、文庫解説についての解説新書です。文豪の作品を読んで「よくわからないけど、スゴイ」という無根拠な権威に圧倒され、高尚すぎる解説文で「これが解らぬか」と追い打ちをかけられ「何が言いたいのかわからない」という淋しい感想しか残らないことがあります。最適な解説とは、中途半端な教訓がらみの誘導は無用であり、読者に判断の余地を残す案内を心がけた「お口なおし」となる存在であってほしいと述べてあります。

  • 2020年11月26日読了。文庫本の巻末に付きものの「解説」について批評する本。確かに文庫本は解説に当たり外れがあるとは自分も感じていたところ、こういうネタをこの毒舌で突いてくるあたりがこの著者のセンスなのか。本をもう一度最初から読み直したくなる・本の時代背景を調べたくなる・著者への理解が深まるような解説はよい解説、と理解していたが、「解説が読者を向いているか?著者におもねったり解説者自身の自己満足になっていないか?」という観点で解説の良し悪しは判断できる、というのは面白い。解説者の思いがほとばしりすぎる珍解説や、解説がマッチしておらず本文自体のリーダビリティが損なわれている著者があるなどの観点も興味深い。「解説は焼肉の後のペパーミントキャンディ」という意見には同意するが、それだけでない・本文とケンカするような解説にもそれはそれで読み応えのあるものだと思う。

  • 文庫の解説が大好きだ。
    わけのわからない解説がついているとがっかりするし、本文に劣らぬ輝きのある解説もある。
    そんな解説好きはきっと珍しくないはずだ。
    本書はそんなニッチな、マニアックな、「解説」にスポットライトを当てた珍しい本。

    まずは名作から。
    『坊ちゃん』の解説だ。
    実は読んだことがないが、「痛快な勧善懲悪劇」(13頁)という認識はあった。
    しかし、だ。
    それを覆す悲劇として読んだ解説があるそうだ。
    奇をてらいすぎじゃないか、何でもかんでも本流に逆らえばいいってもんじゃない。
    あるいは、赤シャツがうらなりからマドンナをとったのではなく、マドンナの方から赤シャツに近づいたのだとした解説もある。
    物事というのはここまで違った見方ができるものか。

    太宰の解説をした井伏鱒二。
    智恵子抄の解説をした草野心平。
    信じられない豪華さだが、思い出話に終始する。
    それはわかった、しかしあなたが今すべきは「解説」であって思い出話じゃない。
    背景が主人公でどうする。
    紙幅がそれで占められてしまい、消化不良この上ない。
    結構あるんだ、この手の解説。

    小林秀雄の文章は難解で大学受験の試験問題にも頻繁に使われる。
    教科書にも載る。
    でもいまだに私はよくわからない。
    解説もわかりにくい。
    あれはなぜあんなに難解なままなんだろうか、私の読解力がないのか。
    しかし著者は言う、「権威による権威付け」と。
    なんでも簡単にすることだけがベストではないが。

    奥深い解説の世界。
    著者はそんな解説にエールを送るが、私も同様に声援を送りたい。
    「出でよ、戦う文庫解説!解説は作品の奴隷じゃないのだ。」(238頁)

    蛇足:本書は文庫ではなく新書だ。

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著者プロフィール

1956年新潟市生まれ。文芸評論家。1994年『妊娠小説』(筑摩書房)でデビュー。2002年『文章読本さん江』(筑摩書房)で小林秀雄賞。他の著書に『紅一点論』『趣味は読書。』『モダンガール論』『本の本』『学校が教えないほんとうの政治の話』『日本の同時代小説』『中古典のすすめ』等多数。

「2020年 『忖度しません』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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