会計学の誕生――複式簿記が変えた世界 (岩波新書)

著者 :
  • 岩波書店
3.24
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感想 : 19
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004316879

作品紹介・あらすじ

会計-現代の必須スキルの一つと言われながらもついつい敬遠してしまう。本書は中世イタリアの商人たちの帳簿、近世オランダや近代イギリスの簿記書を紹介しながら、財務諸表の誕生とその本質を探る。複式簿記から、貸借対照表、損益計算書、キャッシュ・フロー計算書に至るまで、八〇〇年にわたる会計の世界。

感想・レビュー・書評

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  • 会計学の成り立ちについて。
    ある程度会計を知らないとつまらないと思う。

    前半は複式簿記の誕生からキャッシュフロー計算書に至るまでの歴史が詳しく説明される。

    終章は途端に著者の主張が強くなり、近年の未来志向の公正価値重視の財務会計への批判が繰り返し述べられる。
    信頼性から有用性へ財務諸表に求められることが変化してきている。普段我々の作っている財務諸表の数値というのは一体なんなのだろうという感じ。DCFとか包括利益とかやっているわけだけれど…

    「会計が経営の意思決定に役立つ情報をすべて提供できるという思い過ごしをしないことが大切」という言葉がとても印象的だった。

  • 東芝の会計不祥事等、会計の信頼性を揺るがす事件を目の当たりにし、今一度会計の役割とは何かを問うべく、複式簿記の生成・発展の歴史を辿った本書。

    本書では冒頭において複式簿記の本質を、
    “継続記録によるフローの側面からの損益計算と有高計算によるストックの側面からの損益計算の二重計算にあります。複式簿記が複式と呼ばれる最大の要因は、取引を単に借方と貸方の双方に分けて記帳するからでなく、企業損益を費用・収益の変動差額計算と資産・負債・資本の増減比較計算の二面から計算するところにあります”
    と定義している。

    では、何故それが本質と言えるのかというと、
    それは、複式簿記がその揺籃期にあたる13世紀イタリアを出発点として17世紀オランダ、19世紀イギリスを舞台に、経営の大規模化・複雑化に伴い、常に信頼性の確保という要求に従って、複式簿記が生成・発展していったためだ。

    信頼性を確保するためには誰でも閲覧でき、かつ検証可能な形で会計情報を提示する必要があった。
    簿記は「記録・計算・報告」を担い、
    会計は「識別・測定・伝達」を担い、
    簿記と会計を結ぶのが損益計算である、と。

    会計の役割を信頼性の確保と捉えた本書は、会計が近年その本来の職分に優先して情報の有用性を重んじ、不確実な未来予測に関する説明責任という負えるはずのない責任まで負おうとしているのではないか、という危惧を示して締めくくっている。

    門外漢にはかなり難しい内容でしたが、所々に示される定義は示唆に富んでおり、また、末尾の文献案内も充実しているのである程度学び直した上で読み返してみたいと思う。

    “減価償却の本質は、価値移転的減価と言われているように、毎日の使用によって生じる固定資産の減価部分を費用として定期的に配分していく先験的な費用配分法なのです。減価償却費の計上は、将来期間への人為的な費用配分法であり、時価評価によって一時的に資産の価値を減ずる方法とは、明確に分けて考えなければなりません”

  • 日本の会計制度は一貫して英米の影響の下にあったと解説されている。
    実際は大陸法の強い影響を受けた商法制定により、ドイツ・フランスの制度の影響を日本の会計制度は受けている。この結果、混乱が生じたことに対する言及がない。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/706085

  • 商業の発展に伴って財産や売買の記録の仕方も変化する必要が生じ、その要求から簿記が誕生・進化していく様子が記載されている。
    自分の資産や利益を知りたいと思ったとき、単純には棚卸しをして在庫(ストック)を計上すれば良いように思われるが、その結果の正しさ(途中で不正に商品が横流しとかされていないか?)を証明するために、売買の経過(フロー)を記録する手段として簿記が生まれてきた、とのこと。

    著者の専門が会計史ということもあってか、簿記の定義などについてはいささか専門的で細かい話が多く、一般読者としては少々退屈だった。読みにくいと感じる部分もあり、編集があまり入っていないのかな、と感じた。

  • 帳簿の世界史と一緒に読むのがいい。同じ題材を別の人が書いている。「本を読む本」で言及されている「シントピカル読書」である。

    ようやく読みきった。

  • f

  • 本書は中世イタリアの商人たちの帳簿、近世オランダや近代イギリスの簿記書を紹介しながら、財務諸表の誕生とその本質を探る。複式簿記から、貸借対照表、損益計算書、キャッシュ・フロー計算書まで、800年にわたる会計の世界

  • 岩波新書ならでは、ですっきりまとめてあるという印象。

  •  「会計学って学問なの?手段・ツールじゃないの?」という評者の固定観念を,根底から打ち破ってくれた本。本書の言葉を借用すると,「日々の取引を正確に記録し,利益を計算する行為」は簿記であり,会計は,「その結果を受けて,企業成果を外部の利害関係者である株主や債権者に報告するシステム」(126頁)である。すなわち,会計は,株式会社の登場によって,損益や資産状況を記した簿記の情報が株主に正確に開示されることを以て,初めて意味を成す。評者の固定観念には,簿記と会計の相違を理解していなかった点に大きな問題が存在していたわけである。
     本書の目的は,書名どおり「会計学の誕生」を辿ることにあるのだが,いきなり会計学は誕生したわけではない。まず,複式簿記のルーツを探るために,13世紀初頭のイタリア・ルネサンスにまで遡る。その後,100年の時間をかけて,損益を記録し,計算するための簿記が14世紀前半に完成する。さらに,用途に合わせた簿記が考案されながらも,19世紀半ばには複式簿記が定着する。この第1~3章までに,本書の前半が費やされている。後半になって,ようやく会計学は誕生し,キャッシュ・フロー計算書が作成される。
     終章の「会計学は,とりわけ情報提供を主たる役割とする財務会計は,事実を提供する学問であり,経済予測といった未来の予測計算の入る経済学とは異なる」(179頁)という主張は,実に示唆に富む。けっして「未来の予測計算」だけが経済学ではないと,評者は考えているが,いずれにしても,事実を計算したのか,予測を計算していくのかという分別は,これまでの経済史研究においても意識させられている。それと同時に,近年ほとんど試みられなくなった会計史という分野が,社会経済史の中でも再評価されるべき必要性を,強く認識させられた次第である。

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著者プロフィール

大阪経済大学名誉教授

「2023年 『会計と倫理』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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