近代日本一五〇年――科学技術総力戦体制の破綻 (岩波新書)

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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004316954

感想・レビュー・書評

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  • 明治維新から150年。日本的近代化を一貫した流れとして捉え、惹起した歪みを必然と論証する労作。戦後社会も国家総動員体制を引きずっているという指摘は重要。山本氏が問題の柱に据える科学技術なる言葉も近代特有の概念です。科学は元来、自然の真理を探究していましたが、技術という言葉が付き資本主義の道具と成り果てました。限りなき成長を神話とする近代は限界を見せています。今こそ、歪んだ富の偏在を正すポスト近代たる理念の確立が待たれます。

  • 502-Y
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  • 日本の技術開発の経緯がどのような積み重ねや研究土台・開発環境の下で今日に至っているのかをまとめてくれており、過去から現在に至るまで研究開発の成果が実際に戦争、政治、搾取等に利用されている現実に対して強く問題提起している一冊である。
    技術開発は恩恵を生み出したその一方、兵器、原子力問題、自然破壊、利権等、多くの損害を生み出していることに言われてみればなかなか気づかない気がする。。。
    産業革命からたった150年でこの技術進化だから、自分は死んでるけど、100年後の地球とかちょっと心配な感じ少しあるかな。。。

  • 黒船到来から始まった近代日本は2018年に150年を迎えた。本書はその歴史と2011年の福島第一原発事故での科学技術幻想の終焉を描く。日本がこれから取るべき方向はどこなのか。

  • 明治から現代にかけて、科学研究体制がどのように・誰に担われてきたのかを史料や関連著作から読み解く本。科学と広い語が使われているけど、工学、物理学を中心に、重工業系の産業との関係性がメイン。医学・生物学は本書の範囲外。
    経済発展のちに戦時の富国強兵を目的に、政府主導で作られてきた体制が、福島原発事故などをきっかけに破綻しつつあるとの指摘がされている。
    「科学盲信」という表現がされているのだけど、科学を発展させることで国富がかなうと、「国富」とはなんなのかを省みなかった。それが公害や原発事故につながっていると。
    だからといって科学研究の推進を否定するものではないと思うのだけど、研究倫理やリベラルアーツに目が向けられるべき時代になっているということなのかと解釈しました。重工業産業からの切り口がメインなので、もう少し別の角度からも見てみたいかも。

  • 評価が難しい本。戦時中までは概ね肯ける内容だが、戦後それも最近になるほどイデオロギー色が強く、プロパガンダになる。
    戦前戦中の話は初めて知ったが興味深い。科学者が戦中が最も良かったと評価しているのは有名だが、科学振興体制がその頃に出ていたとは知らなかった。
    著者の評価軸は二つあり、戦争⇔平和、合理的⇔封建的となっているが、戦争までは戦争平和を問わず封建的で人民を搾取、戦中は合理的な面はあるが戦争しているとして、兎に角否定している。
    一方、戦争中に科学や工業が進んだこと、平等化合理化が進んだこと事実はしっかり書かれている。特に平等、各個人の尊重が進んだことは、戦争という非常時でなければ起こらないのではないのかということを考えさせる。
    いずれにせよ、戦争の効果意味をもっと深堀りしてもらえれば面白いものになったと思う。

  • 戦後の高度経済成長の核となるものが「戦時中」にある、というのが一番インパクトが大きかったかな。具体的には1942年の食糧管理制度、1938年の国民健康保険法。戦争するには合理的な編成が必要となり、貧富の格差は是正され平等化・一元化される。これが戦時動員体制であるが、実はこの体制と福祉国家体制は類似しているのだ。


    士族を由来とする技術エリートは、江戸時代から続く「職人」とは別格におかれ、軍事技術の必要性から特権的立場を得るようになる。学徒出陣で文系の学生は戦地に送られたが、理系の学生の多くは出陣を免除されていた。敗戦直後、科学者の内部からその反省は語られず、「科学戦で敗北した」という戦争指導者による口実から、敗戦の受け入れをすり抜けているのである。


    平時とは来るべき戦争の準備期間であり、敗戦により軍隊はなくなったものの、総力戦思想は継続し科学研究や技術開発を推し進めることになった。そしてその契機となったのが、朝鮮戦争やベトナム戦争による特需(沖縄への米軍基地の押しつけなど、またしてもアジア人を踏み台にしている)であり、総力戦体制を維持することになった。その最たるものが「原子力」である。




    なぜ1億総中流時代となったのだろう?と思っていたが、実は「戦後」の性質ではなく「戦時中」  をどんどん膨らませていったものだったのだ。

  • 知識量がすごい。本書では特に、各章のまとめ方が予備校講師だけあってうまい。
    「福沢(諭吉)自身、その過大な科学技術幻想にとらわれていたのであり、その幻想は以降150年にわたって日本を呪縛することになる」
    「(滝川事件や天皇機関説論争を経て、)天皇や国体を盾にとれば、どんな不条理もまかり通る時代になっていったのである」
    「科学技術の急速な振興と、それによる急ピッチの生産拡大は、その背後でつねに弱者に対する犠牲をもたらしてきたのである」
    「憲法改正が日本を戦争の出来る国に導くのに加えて、軍需産業の重視は、それをこえて日本を戦争を望む国へと誘うことになる」
    自由世界で米国に次ぎGNP2位になったのが1968年、その後の日本丸のかじ取りを冷静に分析して、評価&反省することにも意味がある。

    著者プロフィール:
    1941年、大阪に生まれる。1964年東京大学理学部物理学科卒業。同大学大学院博士課程中退。現在 学校法人駿台予備学校勤務。
    著書『知性の叛乱』『重力と力学的世界』『演習詳解 力学』(共著)『新・物理入門』『熱学思想の史的展開』『古典力学の形成』『解析力学』(共著)『磁力と重力の発見』(パピルス賞・毎日出版文化賞・大佛次郎賞)『一六世紀文化革命』『福島の原発事故をめぐって』『世界の見方の転換』『幾何光学の正準理論』『原子・原子核・原子力』『私の1960年代』『近代日本一五〇年』(科学ジャーナリスト賞)『小数と対数の発見』(日本数学会出版賞)。
    編訳書『ニールス・ボーア論文集(1)(2)』『物理学者ランダウ』(共編訳)。
    訳書 カッシーラー『アインシュタインの相対性理論』『実体概念と関数概念』『現代物理学における決定論と非決定論』『認識問題(4)ヘーゲルの死から現代まで』(共訳)ほか。
    監修 デヴレーゼ/ファンデン ベルヘ『科学革命の先駆者 シモン・ステヴィン』中澤聡訳ほか。

  •  もうそろそろエネルギー政策をはじめとして無批判に科学技術を享受するだけではいけないとぶっといメッセージが伝わって来る。

     日本は、明治維新以後、西欧の科学技術を輸入し、帝国主義を背景に軍事力を高め、日清戦争や日露戦争を通じて自らの科学技術に自身を深めた。
     その後日本は、大陸の植民地化を推進し、さらに無謀な太平洋戦争へと突き進み、2発の原子爆弾で降伏を選択した。
     この間、西洋の科学技術を取り入れるため、多くの科学者や理系の技術者を育成するとともに、軍事産業につながる産業の育成にも尽力していた。
     産官学の総力戦は戦後になっても、経済戦争にとって変わっただけであり、戦前戦中に育成した技術者等が自己批判のないまま民間会社に流れ、さらに公害が織り込み済みの経済戦略が押し進められ、朝鮮戦争やベトナム戦争の特需を背景として、奇跡の高度経済成長を成し遂げてきた。公害においては高尚とされる専門家の根拠のない見解が行く手をはばんだ。
     さらに、自身を深めた日本は、安全根拠のない原子力政策を押し進め、さらにフクシマその他の事故を発生させてもなお、その方針を変えようとしない。

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著者プロフィール

1941年、大阪生まれ。学校法人駿台予備学校勤務。科学史家。著書に、『重力と力学的世界』(現代数学社、1981、ちくま学芸文庫、全2巻、2021)、『熱学思想の史的展開』(現代数学社、1987、新版、ちくま学芸文庫、全3巻、2008-2009)、『古典力学の形成』(日本評論社、1997)、『磁力と重力の発見』全3巻(みすず書房、2003、パピルス賞・毎日出版文化賞・大佛次郎賞受賞)、『一六世紀文化革命』全2巻(みすず書房、2007)、『世界の見方の転換』全3巻(みすず書房、2014)、『近代日本一五〇年』(岩波新書、2018、科学ジャーナリスト賞受賞)、『小数と対数の発見』(日本評論社、2018、日本数学会出版賞受賞)、『リニア中央新幹線をめぐって』(みすず書房、2021)、ほか。訳書・編訳書に、カッシーラー『現代物理学における決定論と非決定論』(学術書房、1994、改訳新版、みすず書房、2019)、『ニールス・ボーア論文集(1)因果性と相補性』『ニールス・ボーア論文集(2)量子力学の誕生』(山本義隆編訳、岩波文庫、1999-2000)、ほか。

「2022年 『ボーアとアインシュタインに量子を読む』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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