イスラーム主義――もう一つの近代を構想する (岩波新書)

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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004316985

作品紹介・あらすじ

「アラブの春」をきっかけに、長い封印から解き放たれた政治と宗教の関係という「古くて新しい問い」。その答えの一つが、イスラームの教えを政治に反映させようとするイスラーム主義だった。オスマン帝国崩壊後の「あるべき秩序」の模索が今も続く中東で、イスラーム主義が果たしてきた役割とは。その実像に迫る。

感想・レビュー・書評

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  • 「イスラーム主義」末近浩太著、岩波新書、2018.01.19
    234p ¥907 C0231 (2023.12.08読了)(2023.12.06借入)
    副題「もう一つの近代を構想する」
    近代化とは、基本的人権の尊重と民主政治などが含まれると思いますが、イスラームを信じる方々は、すべてを神にゆだねる生活を望んでいます。イスラームを信じるとは、生活のすべてを神の定めた掟に従うということのようです。
    イランでは、イスラームに基づいた政治が行われています。国民に支持されているのでしょう。アフガニスタンは、タリバンが主導していますが、国民に支持されてできた政権とは思えません。部族主体の寄り集まりなのでしょうから統一国家としては、難しい知己なのでしょう。エジプトは、イスラーム政権ができ掛かりましたが、つぶされてしまいました。イスラームを表に出さずに、国民に寄り添う政策で、じっくり実績を積んでゆくべきだったのでしょう。トルコのエルドアン大統領のように。

    【目次】
    はじめに
    第1章 イスラーム主義とは何か
    第2章 長い帝国崩壊の過程
    第3章 イスラーム主義の誕生
    第4章 イスラーム主義運動の登場
    第5章 イラン・イスラーム革命の衝撃
    第6章 ジハード主義者の系譜
    第7章 イスラーム主義政権の盛衰
    終章 もう一つの近代を構想する
    あとがき
    主要参考文献

    ●イスラーム主義(ⅲ頁)
    今日の中東では、イスラームを政治に反映させようとする声が高まっている。
    こうしたイスラームに立脚した社会変革や国家建設を求める政治的なイデオロギーを、「イスラーム主義」という。
    ●「法学者の統治」論(73頁)
    「法学者の統治」論とは、二十世紀の代表的なシーア派のウラマー(イスラーム法学者)に共通した政治思想であり、「ウラマーが自ら主導して社会を運営すべきである」とする理論のことである。これは、「ウラマーはあくまでイスラーム法の番人であり、統治者とは一線を画すべきである」としてきた伝統的なスンナ派のイスラーム政治思想とは異なる考え方であった。
    ●ハマース(117頁)
    ハマースは、1987年、パレスチナのヨルダン川西岸・ガザ地区で勃発した第一次インティファーダ(民衆蜂起)の際、ムスリム同胞団パレスチナ支部の軍事部門として創設された。その目的は、イスラエルによる占領に対する抵抗であった。ハマースとは、「パレスチナにおけるイスラーム抵抗運動」のアラビア語の各文字を拾って作られた略称であり、「熱情」を意味する。
    ●ジハード主義者(146頁)
    「過激」なイスラーム主義者、すなわち、ジハード主義者は、1960年代のエジプトで「第一世代」が誕生した後、中東諸国での激しい取り締まりと弾圧を避けるために、国外へと活動の場を移すことを余儀なくされた。そこで、彼ら彼女らは、暴力を用いて「近い敵」を打倒するという祖国の「世直し」ではなく、「遠い敵」、とりわけその象徴であるアメリカとの果てしない戦いへと踏み出していった。
    この「第二世代」は、ムスリム社会に「あるべき秩序」を創造するのではなく、非ムスリム社会の破壊に徹するようになった。その結果、欧米諸国では、ジハード主義だけではなく、イスラーム主義という宗教自体を危険なものとみなす風潮が拡大した。
    ●イスラームと民主主義(208頁)
    イスラームには民主主義に通底する考え方(例えば、シューラ―(合議)の教え)があるため、両者には矛盾はないと論じる立場が主流である。ただし、そのなかでも、それゆえに西洋的な民主主義を拒絶する立場と、イスラームとの折り合いをつけながら西洋的な民主主義との擦り合わせをすべきとする立場に分かれる。また、選挙に代表される民主主義の基本的な制度だけを取り入れるべきとする、限定的な立場もある。
    (イスラーム法学者は、ことの是非を「コーラン」と「ハディース(マホメットの言行録)」をもとにして決めるので、予め是としたいか、非としたいかで該当する箇所の探し方は変わってくるものと思われます。世の中の変化に従って、解釈を変えてゆくことは可能と思われます。)

    ☆関連図書(既読)
    「ヨーロッパとイスラーム」内藤正典著、岩波新書、2004.08.20
    「イスラームからヨーロッパをみる」内藤正典著、岩波新書、2020.07.17
    「トルコ 建国100年の自画像」内藤正典著、岩波新書、2023.08.18
    「グローバル化とイスラム」八木久美子著、世界思想社、2011.09.30
    「イスラム国の正体」国枝昌樹著、朝日新書、2015.01.30
    「ルポ 難民追跡――バルカンルートを行く」坂口裕彦著、岩波新書、2016.10.21
    「シリア情勢――終わらない人道危機」青山弘之著、岩波新書、2017.03.23
    「ロヒンギャ危機」中西嘉宏著、中公新書、2021.01.25
    「イスラーム原理主義の「道しるべ」」サイイド・クトゥブ著・岡島稔訳、第三書館、2008.08.15
    「コーラン(上)」マホメット談・井筒俊彦訳、岩波文庫、1957.11.25
    「コーラン(中)」マホメット談・井筒俊彦訳、岩波文庫、1958.02.25
    「コーラン(下)」マホメット談・井筒俊彦訳、岩波文庫、1958.06.25
    「コーランを知っていますか」阿刀田高著、新潮文庫、2006.01.01
    (「BOOK」データベースより)amazon
    「アラブの春」をきっかけに、長い封印から解き放たれた政治と宗教の関係という「古くて新しい問い」。その答えの一つが、イスラームの教えを政治に反映させようとするイスラーム主義だった。オスマン帝国崩壊後の「あるべき秩序」の模索が今も続く中東で、イスラーム主義が果たしてきた役割とは。その実像に迫る。

  • 20190527-0618 バランスよく解説された良書。2010年の「アラブの春」をきっかけに。長い封印から解き放たれた政治と宗教の関係、という古くて新しい問いに、イスラム諸国(主に中東・北アフリカか)は向き合っている。その問いに対する答えの一つが、イスラームの教えを政治に反映させるという「イスラーム主義」だった。と筆者は説く。オスマン帝国崩壊後、「あるべき秩序」の模索が今も続く中東で、イスラム主義が果たしてきた役割について、社会科学・人文科学双方のアプローチから、わかりやすく解説している。「イスラーム主義」について、前近代的なものと切り捨てるのではなく現代思想の一つとして読み解いていきたいな、と思った。

  •  イスラームに依拠した社会変革や国家建設を目指すイデオロギー。本書では、西洋的近代化との単純な二分法を避け、また相対化しつつ、これを見ていく。共感するかは別としても新鮮な視点だった。
     オスマン帝国崩壊の過程で、19世紀後半以降に植民地化、そして国民国家創出の中、汎国家的なイスラームは後景に退き、世俗化が進んでいく。
     一方、近代西洋が生んだ思想や科学を単純に拒絶しないイスラーム改革、伝統的な社会制度の解体と教育の大衆化に伴うイスラーム改革の拡大、近代政党の組織構造を取り入れたシーア派ダアワ党結成と勢力拡大。更には、そもそもの「非イスラーム的」との対比の中での「イスラーム的」の再構成。著者はこれらを、近代の所産としてのイスラーム主義と呼ぶ。
     中東各地では、1960年代末までにはナショナリズムやそれに伴う近代化論の揺らぎが見られるようになり、イスラーム復興が起きる。その中で国民国家の枠組み自体の相対化。そして、「アラブの春」後にはイスラーム政党が結成され躍進。中東の民主化、又はイスラームと民主主義の関係について、先述の二分法を排した可能性を著者は問題提起している。
     なお著者は、ジハード主義者はイスラーム主義の一部分に過ぎないとし、イスラーム自体への安易な敵視を戒める。また、イスラーム内での他宗派への謀略な不寛容という宗派主義については、そもそも歴史的に忌避されてきたのに、2003年のイラク戦争とその後の国内政治混乱の中で、宗派や民族を単位に利権配分や治安部門の創設がなされたことが契機だったとする。

  • 【「もう1つ」の解答と見なされて】近代に入り中東世界が揺さぶられる中で芽吹き,政治にイスラームを反映させることを試みてきたイスラーム主義。この考え方を様々な形を取るものとして捉え,その変遷をたどった作品です。著者は,比較政治学についての共著作品も手がけている末近浩太。

    著者自身も記していますが,イスラームまたは中東政治についての日本語の書籍が数多くある一方,イスラーム主義については手に取ることができる作品の数が限られていたため,その入門として非常に魅力的な一冊でした。聞き知った歴史や出来事も,イスラーム主義の窓を通して見ると,また異なった意味合いが浮かび上がることが再確認できるかと。

    〜中東の民主化,あるいはイスラームと民主主義の関係をめぐる「最適解」は最初から決まっているわけではなく,そこで暮らす人びとが主体となって時間と労力をかけて見つけていく必要がある。〜

    抵抗感なく読める分量も魅力的☆5つ

  • わかりやすい。

  • 日経新聞20180303掲載

  • 東2法経図・開架 B1/4-3/1698/K

  • 新書で手軽に分かりやすく、中東の政治・社会状況を適切な視角でおさらいしてくれる。タイトルを見た時は、普通過ぎて訴求力に乏しいかなぁと思ったが、後書きまで読むと、著者とその師匠との深く複雑な関係が見えてくる。すなわち、「イスラーム復興」から「イスラーム主義」へのパラダイム転換が含意されており、つまり、ウェーバー的な宗教社会学から、一般社会学への脱皮、言い換えれば、宗教を社会に再埋め込みする過程が感じられた。

  • イスラーム主義とは、「イスラームの声を政治に反映させよう」とするイデオロギーのこと。混沌の続く中東で、イスラーム主義が果たしてきた役割とは何か。歴史を追いながら、その実像に迫る。

    第1章 イスラーム主義とは何か
    第2章 長い帝国崩壊の過程
    第3章 イスラーム主義の誕生
    第4章 イスラーム主義運動の登場
    第5章 イラン・イスラーム革命の衝撃
    第6章 ジハード主義者の系譜
    第7章 イスラーム主義政権の盛衰
    終章 もう一つの近代を構想する

  • 167||Su

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著者プロフィール

立命館大学教授

「2016年 『比較政治学の考え方』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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