- Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
- / ISBN・EAN: 9784004317029
作品紹介・あらすじ
「現地」を訪ね、「現物」に触り、「現場」の人と議論する。この「3現」をモットーに半世紀、著者は全国のさまざまな生産現場を訪ね歩いてきた。技術力は高いにもかかわらず、苦境に立たされる日本の技術。八方ふさがりの状況に活路を見出し、生き残る道をさぐる、ハタムラ版「街道をゆく」である。
感想・レビュー・書評
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背ラベル:502.1-ハ
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【目次】(「BOOK」データベースより)
第1章 鉄の道をゆく/第2章 たたらの里をゆく/第3章 津波の跡をゆく/第4章 ミクロの世界をのぞきに行く/第5章 技術の系譜をたどる/第6章 道なき道をゆく/付録 考えを作るー思考展開法とは何か -
書名のとおり、技術の現場を巡りながら
技術がいかにして受け継がれ、かつ変容してきたかということを見せてくれるエッセイだ。
ただ、正直に言うと話のネタはそれぞれ面白いのだが
本の全体の方向性はあまりうまく作れなかったのではないだろうか。
おそらく最終章の「思考の展開法」がひとつの解答のようにしたかったはずだが
それより多くのものを事例が示していると思うので、
ここは別の本も出していることだから、あえて書かなくてよかった。
筆致は非常に饒舌であるから、編集者はそれに負けてしまったのだろう。
著者の責任よりは僕は編集者の責任と思う。
しかし、取材はしっかりどの場合も現場に赴いたうえでの考察であり、
技術者としての視点は確かなものがあるし、好奇心の広さと鋭さもよい。
もう少し範囲をしぼってこの人が探求したものがあれば面白いのではないか。
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たたら製鉄の反応速度は遅く、現代製鉄の反応速度は速い。現代製鉄が短時間に大量の銑鉄を作れるのは、この反応速度の速さによる。しかし、高温のためにリンやケイ素などが不純物として混ざってしまう。それを第2段階のプロセスである転炉で取り除き、鋼に変えるのである。ただし、完全に取り除くことはできない。成分量で見ると、たたら製鉄による鋼と比べて不純物が1ケタ多い。(p.38)
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ほほう。というところだが、このたたら製鉄は一度完全に立ち消えたものを改めて立ち上げたとのことで、著者がこのように取り上げることはその立ち上がった火を残すことに貢献するだろう。
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地元の消防団の人は「電気が来ないと閉められないような扉ではいけないのです」と話してくれた。まずは人力、もしもの時は駆動装置の力を借りて閉める。駆動装置は電動ではなくガソリン駆動であった。電気をむやみに信用してはいけないと指摘されて、ハッとしたことを今でも覚えている。(p.58)
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岩手県宮古市の田老の防潮扉についての記述であり、先のセリフは大震災の前であった。
誰かを助けた様々な仕組みや知恵は確かにあったのだ。
足りなかったかもしれないが、何もなかったなどということは当然なかった。 -
失敗学の畑村洋太郎の技術エッセイ。司馬遼太郎の「街道をゆく」に似せて、技術の観点から様々な人工物の歴史を読み解く。事例として挙げているのは、たたら製鉄の村下の仕事。ここでは、伝えることについて考察している。
伝えるとは、相手の知識経験・価値観等のテンプレートを見抜き、知りたい欲求に対して対処すること。「して見せて、言って聞かせて、やらせてみる」ということが、技術の伝授につながる。伝えることは、伝わるとは違う積極的な行動であること。他にも、津波、ダムのコンクリート、ホンダのベトナム戦略等の事例を取り上げる。
自分の職場でも知識や経験、技術の伝授には大変苦労している。伝える側のベテランは、相手の事はお構いなしに自分の知識経験(場合によっては自分の手柄も)を話すが、受ける側には知りたい事と違っているので、何を聞いたのか判らない。仮に聞いただけでは、行動に移せない。職場ではそういう事例が多々発生していて、「伝える」事の難しさを感じている。この本はそういった問題解決の参考になりそうだ。 -
20190107読了
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p.160 直列の並列化こそ生き残る道。これは、全体のビジョンや考え方の共有ができていないと空中分解する。
思考展開法:種出し(黄色のポストイット、番号つけて、A4に順番に並べる)。くくり図(A3,.A2に関連有る種を種群。ピンクのポストイットでラベルをつける。70%縮小。種群を囲む。切り抜く)。思考関連図(描く。台紙の外から内へ、下位概念から上位概念へ。線で結ぶ。結線にピンクのポストイット)。作る途中で問題点をメモする。解決すべき課題群をつくる。課題の分析・分解し、要素に対しての解決方法を考える。
詳しくは『技術の創造と設計』 け -
東大名誉教授である工学博士による、日本の技術と技術者について書かれた本。長年、創造学、失敗学、加工学について研究してきた経験を基に、説得力ある主張をしている。納得できる面白い内容だった。
「日本の技術はいま苦境に立たされている。なぜか。それは、日本の技術者が、技術とはどこかに良いお手本があり、それを見つけてきてきちんと学べば獲得できるものだ、さらに発展させられるものだ、という見方をしてきたからである。(日本では)明治の昔からこのかた、新しく技術を生み出す苦しさや大変さを経ずに、ただ要領よく技術を取り入れることばかりに長けた技術者が育つことになった。現在の日本の苦境は、出来上がったものを手に入れることに慣れてしまった、技術者自身の弱さに発している。筆者にはそう思われるのである」ii
「技術革新にもとづく成長は、やがて物量に基づく成長に乗り越えられる(同じものを安く大量に生産される)」p13
「「良い技術」というだけで生き残れるほど、技術の世界は甘くない」p14
「日本の製造業の多くはこれまで「良い物」を作ることに心血を注いできた。端的に言えば、今の日本の製造業の苦境は、「良い物」が「良い物」というだけでは価値が生まれず、売れなくなったためである。しかし、もしもその「良い物」すら作らなくなってしまうならば、日本の技術にはもう未来はないであろう」p15
「(現代製鉄は)たたら製鉄の鋼と比べて不純物が1ケタ多い」p38
「(防潮堤は津波を押しとどめるものという見当違い)防潮堤は侵入してくる水の量をできる限り少なくし、住民が避難する時間を稼ぐための構造物(新しかった防潮堤は、津波を押しとどめようと作られたため、津波で木端微塵に崩壊した)」p55
「人間は自分自身が経験したことでしか考えられない。人間の記憶はせいぜい100年くらいの間に起こったことしか思い浮かばないのである」p74
「日本の技術者の最大の欠点は、技術者の作る製品が顧客の求めている製品になっているかどうかを、技術者自身が考えたり確かめようとしないことである」p126
「技術者はとかく「物の世界」に閉じこもりがちである。なぜか。「物の世界」は楽しいからである。目の前の技術的課題をどうやって解決するか。あれこれ知恵を絞って解決し、「良い物」が出来上がった時の喜びは大きい。その喜びが、技術者を細部へ細部へと向かわせる。そうして細部の作り込みに専念し、「物の世界」に閉じこもっているうちに、人々が「欲しい」と思う製品からどんどん離れていってしまうのである」p127
「一昔前の携帯電話を思い出してほしい。あれもこれもと余分な機能をくっつけて、結局、誰も使わない機能だらけの製品が作られてゆく。これを「付加設計の弊害」という」p127
「Howとは、誰かのお手本を見習って、それをどうやって作ろうかと考えるやり方である。ところが、ビジネスと結びついた技術の世界では、お手本と肩を並べた後は、Howのままではいけない。お手本とは全く違う、自分たち独自の「新しい価値」を生み出す製品を作らなくては、生き残れなくなるからである」p128
「開発目標を自ら考える能力のない技術者は、身の回りにころがっているさまざまな機能を手あたり次第に取り込んだ、いりもしない機能満載の製品を市場に出すことになる。結果は「チットモ売れない」になるのである」p128
「(後進国でのコマツの重機)世に出るイミテーション(製品)は、形自体を見れば、正規の部品とほとんど同じである。したがって、みな安いイミテーションを買っていく。「それじゃあ、商売あがったりだよね」と聞くと、意外にも「いえ、大丈夫です」という答えが返ってきた。「どうせ、すぐ摩耗して駄目になりますから。結局はオリジナルを買いたくなるんです。宣伝なんか全然いりません」」p138
「これからの日本の技術者は、お手本のない世界で、利益の源泉を自分で探してくる必要がある。それには、Howだけで考えるのではなく、Whatでも考えなくてはいけない、ということである。つまり「物を作る」より前に、「考えを作る」必要があるのである」p140 -
技術者視点で徒然なるままに残される示唆に富んだコメント。特に価値を考えることの重要性を理解するための技術者向けマーケティング啓発本とも言える。
津波石は、次のベネチアビエンナーレ日本館の題材として関心を持っていたので、本書で技術面の解説を知り、満足。 -
【Business】技術の街道をゆく / 畑村洋太郎 / 20180628 (38/706)<180/98041>
◆きっかけ
輪読会
◆感想
・失敗、ということで、エジソンの名言、「失敗ではない。うまくいかない方法を一万通り発見しただけだ」を思い出す。このくらい開き直れればいい。
ただ、自分自身の開き直りというよりも、周囲がそういう姿勢でいてくれないと困る。
◆引用
・日本の技術は苦境に立たされている。それは日本の技術者が、技術とはどこかに良いお手本があり、それを見つけてきちんと学べば獲得できるものだ、発展させられるものだ、という見方をしてきたからである。
・Sカーブ:ある技術の発展と成長と衰退を時間軸に沿ってたどると、S字カーブ、どのような技術も30年でピーク。
・技術は伝えようとしても伝わらない。上手に伝えれば伝わるは誤解。伝えたいことを構造と要素に分析・分解し、伝え、受け取った側が再度それを組み立てて、一致して、はじめて分かったとなる。
・人間は3日、3月、3年、30年、という周期で失敗を繰り返す。
・危険に蓋をする、さらに別の大きな危険を呼び込む。六本木回転ドア事故。
・新興国訪問:まず、その人達が使っている移動手段のチェック。一人当たりGDP3000ドル超なら自転車からオートバイへ。1万ドル超なら自動車。
・良いものをつくれば売れるはずという信念。顧客の求めている製品になっているかどうかを、技術者が考えたり確かめたりしようとしない。開発目標を自分で設定する努力をしない。良いものというのは単なる逃げ口上
・価値を生み出すWhat思考。何をを考える必要がある。Iphoneだけでなく、インドの鍵付冷蔵庫。
・サムスンの地域専門家。商品を売り込む現地に移り住み、人々が日々の生活で何に困っているか観察、
===@輪読会===
・失敗を恐れない、失敗を活用することが大前提
・質の高いインフラを連想させる
・帰納法的思考(A=B=C)⇔演繹法的(仮説)
・失敗のコストが下がっている。デジタル化で
・新しいものを肯定する、否定から入らない