南北戦争の時代 19世紀 (岩波新書 新赤版 1771 シリーズアメリカ合衆国史 2)

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  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004317715

作品紹介・あらすじ

「帝国」化しつつあったアメリカを引き裂いた内戦.その実態をさまざまな対立軸とともに描き,再建のなかの国民の創造と「奴隷国家」から「移民国家」への変貌をたどる.一国史を越えて長い一九世紀を捉えなおす.

感想・レビュー・書評

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  •  南北戦争は合衆国史における最も大きな分水嶺として位置づけられ、建国来、その歴史は南北戦争に向けて流れ、南北戦争からすべてが流れ出したとも言われてきた。本書は、未曾有の内戦がもたらしたアメリカ社会の統合と分断、奴隷国家から移民国家への大転換を描く。

     南北戦争勃発まで、親奴隷制の連邦政治が南部奴隷主の政治家たちによって担われた。大統領職を例にしても、初期は"ヴァージニア王朝"であるし、第二代と第六代のアダムズ親子を除き、みな奴隷所有者であった。

     南北戦争に至るまでには、自由州と奴隷州との微妙な政治バランスが、版図拡大に伴う西部領土の連邦組入れを巡って揺さぶられ、対立が深刻化した経緯があった。当初は、南部奴隷制への不干渉で南部連合の連邦離脱を防ごうとしていたのが、戦況の推移で奴隷解放のための戦争に変質した、というのは、これまで知らなかった。

     北軍勝利で戦争は終結し、奴隷制度を廃止する憲法修正13 条も成立したが、黒人は経済的に自立することはできず、選挙権の制限により政治進出もままならず、差別はほとんどなくならなかった。そして時代は移民の急増期を迎える。

     南北戦争による奴隷解放から公民権運動までの100年に及び黒人差別が解消されなかったのは何故なのか、これまで良く分からなかったが、理由の一端がある程度理解できた。

  • 学生時代、アメリカの歴史はほとんど習った記憶がないので勉強になった。
    国の成り立ちが日本と全然違う。だから理解しにくいのかもしれない。
    奴隷、黒人のことや州の独立運動や国の買収などなど。

  • 第1章 西漸運動の展開―「西半球の帝国」へ(西漸運動の展開と市場革命;ナショナリズムと「好感情の時代」の政治;ジャクソン政治とデモクラシー;北部改革運動;奴隷制度と南部社会;「帝国」への胎動―テキサス併合とアメリカ・メキシコ戦争)
    第2章 南北戦争(連邦の分裂;南北戦争;南北戦争の変質)
    第3章 「再建の時代」―未完の革命(南北戦争と戦後改革―「アメリカ国民」の創造に向けて;リンカン大統領とジョンソン大統領の再建政策;共和党急進派による再建計画;再建下の南部社会―解放民の生活と失われた大義;再建政治の終焉)
    第4章 金ぴか時代―現代アメリカへの胎動(金ぴか時代の政治と社会;最後のフロンティア―西部開発と先住民の一九世紀史;労働者と農民の運動―「アメリカの夢」の陰影;アメリカの帝国主義のかたち)
    おわりに―南北戦争の「終わらない戦後」

    著者:貴堂嘉之(1966-、東京都、アメリカ史)

  • 2019年8月読了。全4巻の2巻目。

    7ページ
    「奴隷国家」から「移民国家」への変貌ということは、本質的にかの国は「奴隷状態の人」をベースに出来上がっているのかもしれない。というわけで次から次へと「奴隷状態の人」を生み出す仕組みをあちこちで(軍事で、産業で、行政で、その他の色々なレベルで)作っているのでは。

    45ページ
    「マニュフェスト・デスティニー=明白な運命」という発想の起こり。もともとはテキサス併合(1845年)を神意による国民の使命だと解するために使用された言葉。「民主党員のジャーナリスト、ジョン・L・オサリヴァンの「併合論」において最初に使われた」とのこと。帝国主義、拡張主義はこの国を捉えて止むことがない。

    52ページ
    帝国主義、拡張主義が国民的神話として必要とされ、西漸運動が是とされる。事程左様に人間の集団が動くときには巧拙に関わらずストーリーが必要とされる。

    66ページ
    1850年代のニューイングランドでの移民排斥、ネイティヴィズム運動の興隆が、40年代以降の移民の大量流入によって惹起されている点が、現代社会と殆ど相似形と言ってもいいくらいに同じ形態を取っているように見えてとても興味深い。元来人間は異質なものから自分を守るために、それを排除するということなのかもしれない。

    93ページ
    リンカーンの「奴隷解放宣言」の和訳。但しこの宣言で解放された奴隷は、当時奴隷状態と認められる人全てを解放しようとしたわけではない。

    109ページ
    「戦死者を語ることは、古今東西、大衆動員するための最も古典的な手段であり、愛国主義を鼓舞する政治家の政治的資源をなってきた」
    →最近、ウチの国でもよく聞く話。身近な人が急に「ご英霊が…」とか宣い始めたら、アイコクシャにお目覚めされたことの兆候。

    170ページ
    フロンティア開発は実にしばしば「西部開拓史」の美談として語られ、「フリーランドを自力で開拓していくマッチョイムズ」が古典的で強いアメリカ男性の表現だと思うが、こういった「定説」の発生は1893年のアメリカ歴史学会でのターナーによる「アメリカ史におけるフロンティアの意義」という発表にまで淵源を遡る。さらにはこんなことまで紹介されている。
    「ターナー史観の西部開拓美化を修正するために、別の視点から西部開発を絶賛した人物、アドルフ・ヒトラーの評価をここでは紹介しておこう。近年の研究では、ヒトラーが、「数百万ものインディアン銃で撃ち殺して数十万人にまで減らし、現在はわずかな生き残りを囲いに入れて監視している」米国の西部開発の手法をモデルに、「生存圏=レーベンスラウム」の構想練ったことが明らかになっている。」
    レーベンスラウムの発想が時系列的には後に来るわけだが、「麗しい西部劇の時代」とヒトラーの発想が同根であることに脅威を覚える。

    188ページ
    アメリカける富の偏在は何も今に始まったことではない。ヴァンダービルド、カーネギー、ロックフェラー、スタンフォード。一部の才覚ある若者が、濡れ手に粟で富を掴んでやがて独占していく様は、何もアメリカの金ぴか時代にだけ特有の現象ではない。

  • 本書は一番知りたかったアメリカという国の歴史の部分かも知れない。
    世界の抑圧された民衆の新天地として
    移民を受け入れ開拓されて行く大陸。
    そこは移民、先住民、奴隷民が暮らす
    大地となった。
    理想を掲げる者の中に、人権の自由、経済の自由、宗教の自由、置かれている状況で、
    いろいろ求めているものが異なる。
    この人たちを満足させる国づくりの過程は
    困難なことなのは、想像できる。
    結果、求める体制が異なる南と北で戦争に至る。
    これを舞台にした映画が「風と共に去りぬ」ということなので、この作品を観ておくことにした。
    この時の大統領がリンカンで、
    「人民の人民のための・・・」の名文句の
    至った経緯を知ることができた。
    先住民のことは、深く触れていないが
    自分たちの道徳や論理を押し付けて
    野蛮人と決めつけ、抹殺に近い状況に
    陥れて、大陸の無用の土地へ移住させられる。
    この事実を知っておかないといけない。
    アメリカの抱える一つの黒歴史である。
    そもそもこのことが、今も敵対する国々が
    反発する理由の一つにも思える。
    その他ゴールドラッシュ、未完の革命、
    労働問題、資本主義社会、白人至上主義
    これらのことを少し知ることができてよかった。
    現代のアメリカを悩ます問題がここにあった。

  • 南北戦争とその前後のアメリカ政治を概観することができた。

    19世紀は、アメリカにとって戦争の世紀であったといえるが、別の視点からいえば、排外主義の時代であったともいえる。イギリス系アメリカ人としてのナショナリズムは高揚したが、ネイティブアメリカン、黒人、アジア系移民に対する排斥運動も盛んになり、大統領すら当たり前のように排外政策に取り組んでいた。

    今やアメリカは自由民主主義の国として台頭しているが、その歴史の中にはそうした理念とは程遠い迫害の過去があったことを知っておくべきである。

    ヒトラーの生存圏構想がアメリカの西部開拓に倣っていたというのは初めて知った。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/729449

  • 既知の大統領はリンカンだけだったが、アメリカの宿痾ともいえる奴隷制度が深くかかわっており、彼の当選も奴隷に関しての民主党の南北分裂が勝因となっている."戦後"というタームが日本でも頻出するが、アメリカも同様で未だに南北戦争の影響が残っている由.リンカンの次のアンドリュー・ジョンソンが弾劾裁判にかけられたことは知らなかった.それほど物議をかもした人物だったのだろう.このようなまとめ文書は非常に役立つと感じている.

  • アメリカって19世紀の頃から実力行使で勢力を拡大していくオラついている国家(普通に言えば帝国主義か)だったのだなと再認識。米墨戦争、先住民との戦争、米西戦争。そのオラつきが奴隷制の是非を火種として内に向かってしまったのが南北戦争とも言える。

    奴隷制廃止を唱えた急進派は、現代で動物の権利を主張している人たちとかぶって見える。ラディカルな主張に見えてもそのうち力を持っていくものとして。

  • なるほど…改めて、南北戦争前後の歴史を知らずして、アメリカという国は全く語れないな…と再認識。よく南北戦争は「奴隷制の存否」を巡っての戦いであった、と言われますが、ではなぜ「奴隷制廃止」を主張した北軍、リンカン・共和党側が勝利したにも関わらず、真の黒人への差別撤廃(少なくとも法的な)までにはさらに100年もの時間が必要だったのか…?という、アメリカ史の表面を学ぶと生じる問いや、トランプ支持者はなぜ南軍旗を掲げていたのか…?等々、まさに本書の著者が「おわりに」で書かれているように、「アメリカは建国以来、南北戦争に向けて流れ、南北戦争から(現在まで)すべてが流れ出している」というのは言い得て妙と感じた次第。

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著者プロフィール

1966年、東京生まれ。一橋大学大学院社会学研究科教授。博士(学術)。専門はアメリカ合衆国史、人種・エスニシティ・ジェンダー研究、移民研究。著書に『アメリカ合衆国史② 南北戦争の時代 19世紀』(岩波新書、2019年)、『移民国家アメリカの時代』(岩波新書、2018年)、『アメリカ合衆国と中国人移民――歴史のなかの「移民国家」アメリカ』(名古屋大学出版会、2012年)。共編著に『「ヘイト」の時代のアメリカ史――人種・民族・国籍を考える』(彩流社、2017年)、『「ヘイト」に抗するアメリカ史――マジョリティを問い直す』(彩流社、2022年)など。

「2023年 『大学生がレイシズムに向き合って考えてみた』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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