生きるための図書館: 一人ひとりのために (岩波新書 新赤版 1783)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004317838

作品紹介・あらすじ

子どもにも,大人にも図書館は多様な場であり,図書館員は本の魅力を伝える.各地での新しい動き,学校図書館の試み等とともに未来への可能性を,六〇年以上図書館に携わり九〇歳を超えた今も発言を続ける著者が語る.

感想・レビュー・書評

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  • 再読。
    卒寿を過ぎた著者が優しい語り口で語る図書館の役割と課題。
    公立図書館設立の歴史なども紹介し、未来に向けて何が必要かを考える。
    図書館とは何のためにあるのか。
    専門知識のない人にも分かるように、非常に分かりやすく教えてくれる。
    言われてみればなるほどの、頷くことだらけの内容だ。

    第一章:地域の図書館を訪ねて
    第二章:子どもたちに本を
    第三章:新しい図書館像を創る
      『コラム:図書館をめぐる、さまざまな団体』
    第四章:災害から学んだこと
      『コラム:図書館学の五法則』
    第五章:一人ひとり、みんなのために
    第六章:人と本とをつなぐ仕事

    それぞれの章の最後に課題点を掲げ、次の章でそれを考えるという大変流れの良い構成。

    石井桃子さんの「子どもの図書館」の出版が1966年。
    1950年初めて「図書館法」が制定され、戦前の「国家のための図書館」から「国民のための図書館」に180度方向転換して15年以上経ったときの話だ。
    大変な話題をよんだ本だったというが、公費で本を買い、みんなで分け合うという発想そのものが定着しなかったという。
    そんな風潮の中で熱意をもって取り組んできたひとたちの紹介がいくつもあり脱帽である。
    その先駆者的存在が石井桃子さんだ。

    行政の役割を問われそうだが、子どもたちが本を自由に手にする環境をつくり、子どもと本とを結びつける人を育てることに力を尽くしてほしいという。
    単なるハコモノではない。価値を知ってほしいという強い願いがある。
    読書とは、効果を数値化できるものではないからだ。

    というのは、行政的な「割り切り」により資料や人的資源への投入費用が削減され続けているという実態があるから。
    目に見える効果を測定できないのは「ムダ」と切り捨てる現代社会を見るようでもある。

    本とは、それを人と結びつける仕事をする人を必要とするもの。
    良き水先案内人を得てひとは良書にめぐり会う。
    そこで得た情報や知識を活用し、自立して生きる方向にすすむ。
    そのひとたちの努力で、地域も自治体も活力を生んでいく。
    そういう長い時間のかかる仕事を育てるのが、国や自治体の役割なのだ。
    もうひとつ。子どもに本を読めという前に、まずは大人が読むこと。図書館イコール文学ではないこともね。

    災害時にあって、自らも被災しながら一日も早い図書館サービス再会をと尽力した話も。
    図書館員たちの高い職業意識と、ボランティアの力に支えられてのことだ。
    「シリアの秘密図書館」や「戦地の図書館」でも明らかにされたことがある。
    非常時にあってこそ、ひとは潤いや知性を求めるものだ。

    一人ひとり、そしてみんなが生きるための図書館。
    私たちは[図書館は成長する有機体である]ことを理解し、良い読者であり続けたい。
    失ってから気がつくなどということがないように。
    図書館の存在意義を知るのに格好の一冊。本好きの皆さんにお勧めです。

  • 最近発刊された(2019年6月20日第1刷発行)ばかりの本ということと、題名に興味を惹かれ、図書館に予約を入れたが、読み始めて「選択ミス」だったかなと思った。

    「自分の知らない図書館の活用法なんかが紹介されているのかな」と期待して読み始めたが、どちらかというと、これまで図書館の発展や図書館サービスの充実に長年従事されてきた著者(なんと!90歳を超えて今も情熱を燃やし続けておられる)が語る図書館の歴史とこれからの期待であった。

    公共図書館が充実してくるまでの歴史、特に「こどもと読書」ということに視点を絞っての図書館サービスの発展の歴史が紹介されていた。日本図書館協会理事をつとめられた著者が、それまで見てこられた中で、特に基礎作りに貢献された3名の活動や苦労などが紹介されていた。

    ひとりは「ノンちゃん雲にのる」の著者石井桃子さん。次に「日本親子読書センター」を設立された斎藤尚吾さん、そして「親子読書地域文庫全国連絡会(「おやちれん」と略すらしい)」結成の中心者広瀬恒子さん。もちろん、自分は全く一市民であるので、作家の石井桃子さんの名前しか存じ上げなかった。

    ともかく何事もそうだが、活動の先駆者というのはいろいろな苦労がある。石井桃子さんは作家としての広い見地から、海外からの情報を日本に取り入れ、子どもの読書の振興に貢献されたということを知った。

    子どもたちへの本の読み聞かせ活動などが進んでくると、「学校の勉強に直接関係のない、読み聞かせや、子どもに本を読ませることなどは、時間の無駄だ、勉強の妨げになる」などと反対意見を述べる親が出てきたりする。今どきのモンペと呼ばれる人たちと変わらない親が、いつの時代もいるものだと少々不快感を感じながら、先駆の方々のご苦労に敬意を表したくなった。

    市民から作り上げられたネットワークも発展してくると、だんだん「子どものため」という視点など本来の趣旨が忘れ去られていき、運営者の自己満足化に発展したり、上から目線の活動に流されていったりと、どんな組織にもありがちな問題に陥っていく様子も記されていた。

    きっとこの問題は、こういうネットワーク運営の問題だとか、図書館運営の問題の前に、家庭の中での親子の関係の問題なのだろうなと感じた。

    後半では、これからの図書館像や、東日本大震災など震災時に図書館が果たした役割の大きさなどの紹介、そしてこれからの図書館サービス、とくに図書館サービスに関わる司書や図書館員の役割などについて述べられていた。

    本書はどちらかという運営者側の方々が中心読者ではないかと思う。そういう意味では「選択ミス」であったが、日ごろ図書館を利用させていただく一市民としては、どういう思いで図書館サービスを運営されているのかを知ることができて良かった。

    目に見える貸出サービスなどの裏側では、「選書」という見えない重要な仕事があるのだと初めて意識した。どんな本を選ぶかは各図書館の顔であり、「選書」には図書館に関わる人たちで選書会議などを開いて検討されているとのこと。逆に考えれば、市民の意見をたくさん発信していけば、よりよい「選書」につなげていくことができるのだなとも感じた。

    データとして面白かったのは、日本の公立図書館数が2017年現在で3273館あるとのこと。そしてその資料費総額は292億8174万円だそうだ。つまり人口費でいうと一人当たりの費用は229円ということになるそうだ。

    単純に考えれば、自分自身に1年に229円の本を配給してもらっていることになる。日頃多く図書館を利用しているので、平均以上の利用をさせてもらえているお得感を感じることができた(笑)。

    資料費の予算は現在削減傾向にあり(1999年は367億円もあったそうだ)、どんな本が図書館に並べられるかも貴重であるなと感じた。

    それともう一つは、司書という方の存在を意識したことがあまりなかった。運営者側では、司書という専門的な知識を持つ人の必要性が強調されていた。利用者としては、その専門性をもっと利用させて頂くべきなのだなということを直感的に感じた。

    予定外の本を読んでみるのもよいなと感じた一冊であった。

  • 読みたいなぁと思っていて一年経っていた。
    図書館で借りました。

    60年以上にわたり図書館に携わってきた著者が、学校図書館と公立図書館の試みを、未来に向けて語った本。

    素敵な本でした。
    声高に指定管理者制度の問題を論じているわけではないのですが、とても自然に公務員の専門職の司書の重要性を理解できます。
    石井桃子さんが全国に広がる文庫活動に複雑な思いを持っていたらしいことを初めて知りました。
    それと地域の文庫が高齢化で活動を停止していることを併せて考えると、一つの時代が過ぎたということなのかもしれません。

    【感じ入ったところ】
    ・「図書館員が作り上げるコレクションは、子どもから若者へ、若者から成人へ、さらにそれぞれの境目にいる人たちに役立つことを考えて構成する。」(P31)
    児童書、YA、一般書、と括りたがるけれど、繋がっているものだと意識が改まりました。

    ・「その『教育』の中で、『教』とは集団教育のイメージが強いのですが、図書館は一人ひとりへの支援が仕事ですから、『育』を担当するといえます。この二つを総合して『教育』が成り立つのです。」(P109)
    ・学校図書館について「教科書は、読者の知識を深めるためにその知識の世界を解説する。その働きを一人ひとりに適切な本によって補い、理解を助けるのが図書館の仕事。」(P165-166)
    生涯学習と社会教育の尊さ。
    人が学びを深めていく場所。
    図書館は、書斎というより「基地」のイメージです。

    自由の森学園の図書館、とってもうらやましくて涙が出てきました。
    瀬戸内市民図書館にもいつか行ってみたい。
    考えるばかりでなく感じて状況をみてやっていこうと思います。

  • 映画「ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス」を見て、「未来をつくる図書館」でそのNYPLを更に知り、そこから、では日本は?と思い手に取った。
    著者は日本の学校図書館の運営にも深く関わった著者が公立図書館の設立と振興の歴史、それを支援した人々、活動などを紹介している。
    NYPLの活動が日本人にとって図書館というイメージの枠を外れて飛び出している感が強いのに対し、日本の図書館の活動は確かに地味に見えるが、NYPLと同様に地域に寄り添い、その助けとなる図書館を目指してきたことが同じであることはわかった。
    こちらも改めて、日本の図書館も色々取り組みをしているのだなという発見と驚きだった。
    ただ、子どもと読書の結びつきに重きが置かれているので、子どもと大人も含めた市民一般に対して支援する取り組みについてももっと語って欲しかった。

  • 読書離れが進んでいると耳にするが、このようなタイトルの本が認知して広まると良いな、と思った一方、文章が真面目で堅すぎるため、途中で読むの辞めちゃう人もいるのでは?

    全部の章、箇所がガチガチに説明されてるため、良いことがたくさん書かれても、ポイントがどこかが読みとりづらい。

    新書は心に響く箇所がどこかのページにはあると読んでいたが、タイトルと内容から響く箇所があまりなかった。

    面白くない。

  •  図書館にはお世話になっている。
     学生のころ毎日のように通って本を読みまくったのはいい思い出だ。

     図書館法や今の図書館の課題について書かれているが、気になったのは、最近話題によく上がる司書の勤務形態が異常に不安定であることについてはあまりページがさかれていない。あと業務委託についても。

     結局は働く人の環境のような気もするのだが、そこのあたりをどう考えているんだろう。もう運営側ではないからこうならざるを得ないのかな。
     誰向けの本なんだろう。これ。

  • 自分の知らない世界の宝探しをしているみたいで昔から図書館が好きだった。

    それと同じ感覚を持ったのはインターネットを始めた時。

    「図書館が家の中に出来た!」と狂喜乱舞しました。

    インターネットの世界は便利だけど図書館通いは今でもやっぱり続けている。

    「検索する」という点においてはネットに勝るものはないですが「本との出会いを楽しむ」という点では図書館の方が圧倒的に面白い。

    ネット社会の広がりだけでなく活字離れと言われる現在多くの書店がつぶれていっています。

    ノー図書館 ノーライフ

    図書館がんばれ!

  • 私自身は司書さんにお世話になったことはなく、よくわからないなと思いました。が、レポートを提出するのに、この本を読めとアドバイスしてくれるなら、ぜひ居て欲しい。
    子供の本も多すぎて何を読めばいいかわからなかった。これも司書さんを活用したらよかったのかしら。
    でも言葉の発達を促す本とか、賢くなる本、読解力がつく本って言ったら教えてくれたのかな。
    あと、筆者の嫌いなTSUTAYA図書館は結構いいです。やっぱり利用しやすいって大事。

  • 図書館は人と本を繋ぐ……その「手助け」が司書。この考えが広まればいいと思った。本はいいぞ。

  • ふむ

  • 図書館の歴史等が著者の視点をもって書かれている。
    ざっと把握するには良いと思った。

    子どもや教育、つまり学校的な見解は色々書かれているが、社会人一般という兼ね合いは相対的にあまり書かれてない印象。あえていえば、司書がどう働きかけるか、図書館がどうとなるが、おそらく行政サービス=税金投入があるため、なかなかそこは見出しづらいのだろうとも思う。

    期待値は社会と図書館の兼ね合いだったので、そこを期待しすぎると厳しいかも。
    とはいえ、著者はもっとやれることや図書館の可能性を産まんとしているはずで、そういう意味ではもっとやりたいなあと。

  • 2020.06.22

  • 信州大学の所蔵はこちらです☆
    https://www-lib.shinshu-u.ac.jp/opc/recordID/catalog.bib/BB28388002

  • 1950年代から、図書館学を修め、図書館にかかわり続けてきた、レジェンド司書さんによる本。
    私は『書店ガール』で初めて知った、家庭文庫運動のことも出てくる。

    図書館を巡る60年近い歳月の中で、各地に図書館が作られたり、司書の養成課程ができたりと、成果も少なくない。
    でも、出版不況や、世の中の不景気、図書館の予算削減など、明るい話ばかりでない。

    一章が災害と図書館の関わりに費やされている。
    建物や本の傷みを修復する話ばかりかと思ったら、そうではない。
    アーカイブとして、災害の資料を残していく役割があるという。
    これにははっとさせられた。
    保存して、活用する。
    それは、次の世代の役目だよ、と言われた気がしたからだ。

    それにしても、押し付けるのではなく、人が、自分が求めている本を見つける手助けをする。
    読者が本に出会うことを待つ。
    大事なことだと思うのだけど、どうやってこれを実現するのだろう。
    それがわかる本があればなあ。

  • 第1章 地域の図書館を訪ねて
    第2章 子どもたちに本を
    第3章 新しい図書館像を創る
    第4章 災害から学んだこと
    第5章 一人ひとり、みんなのために
    第6章 人と本とをつなぐ仕事

    竹内悊(1927-、東京、図書館学)

  • 長年図書館学に携わり人材育成に尽力してきた筆者が、戦後間もない頃からの公立図書館を紐解き、その原動力となった文庫運動や特に子どもに本を届けることの専門性、学校図書館での取り組みなどを現場の視点で語る。

  • 子どもの本の選び方、渡し方について特に考えさせられた…と言っても、それは別に業務のためではなく、家庭内での話なんだけれども。
    3.11のときは被災地の図書館支援はできていなかったのだけれども、今後MLAKが被災したときに動ける人でありたい、と改めて思った。
    いま読んでる洋書(「米国人一家、おいしい東京を食べ尽くす 」の原書)読み終わったら、ランガナタン読もうかな…kindle出てるんだろうか。

  • 日本の図書館の今。

    非正規職員についてや、指定管理制度についてももう少し語ってほしかった。

  • 2019年7月7日に紹介されました!

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