虐待死 なぜ起きるのか,どう防ぐか (岩波新書)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (222ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004317845

作品紹介・あらすじ

二〇〇〇年に児童虐待防止法が施行され,行政の虐待対応が本格化した.しかし,それ以降も,虐待で子どもの命が奪われる事件は後を絶たない.長年,児童相談所で虐待問題に取り組んできた著者が,多くの実例を検証し,様々な態様,発生の要因を考察.変容する家族や社会のあり様に着目し,問題の克服へ向けて具体的に提言する.

感想・レビュー・書評

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  • 著者は32年間にわたって児童相談所に勤務し、その後は児童虐待問題の研究・研修を行う「子どもの虹情報研修センター」で働いている人物(現在は同センター長)。

    つまり、一貫して児童虐待問題の最前線に身を置き、その防止に尽力しつづけてきた当事者なのだ。

    本書は、その著者が児童虐待の究極――「虐待死」問題の全体像を示すべく書いた概説書である。
    センセーショナルな一つの虐待死事件を深く掘り下げた書は多い一方で、「虐待死の全体を視野に入れて論じた書物は意外に少ない」(「まえがき」)ものだ。

    ゆえに、「通読することで、虐待死の問題に関する歴史、現状、取り組むべき課題のエッセンスがつかめるよう」(「あとがき」)に書かれた本書の意義は大きい。
    また、児童相談所の現場を知り尽くした人だけに、隅々にまで豊富な蓄積が感じられる好著になっている。

    虐待死についてのノンフィクションの中には、いたずらにドギツい場面を強調する、過度に煽情的なものが少なくない。
    「感動ポルノ」という言葉があるが、その手の煽情的ノンフィクションも、ある意味で「感動ポルノ」だろう。

    それに対し、本書は一貫して抑制的な筆致を保っており、煽情性を注意深く避けて書かれている。
    (その美点を裏返せば、「お役所文書的」な堅苦しさが随所に感じられるという欠点にもなるのだが、それはさておき)
    多くの現場を目の当たりにしてきた著者は、もっと感情を込めようと思えば込められたはずだが、あえて冷静に書いているのだ。

    以下、印象に残った一節を引用。

    《援助を求めること自体が、実は一つの能力であり、そうした力を持たない人がいることを援助者は知っておく必要があろう。》(93ページ)

    《三歳女児を三畳の和室で生活させたところ、調味料をこぼすなどしたため両手両足をひもで縛り、段ボール箱に入れて出さず死亡させた事例もあった。本来同一空間で過ごすのが家族だとしたら、この子どもたちは、養育放棄どころか、いつの間にか家族の一員から除外されていたと言っても過言ではあるまい。》(98ページ)

    《嬰児殺について考えるために、戦国時代から説き起こしてここまで見てきたが、こうして歴史を追っていくと、まるで人権意識の発展をたどるような感覚が生じてくる。換言すれば、生まれたばかりの命を一個の人格をもった人間として認めるために、私たちの社会は長い時間を要したのかもしれない。》(123ページ)

    《二◯◯◯年度ですら、児童福祉司等の人員不足が大きな問題となっていたのに、それから二◯年近くを経て、いまや一人の児童福祉司が抱える虐待相談件数は、当時と比べても三倍以上に膨らんでいる。そのため、一日五件もの安全確認を求められることがあると、期せずして複数の県の職員から聞かされた。》(193~194ページ)

    テーマがテーマだけにヘビーな内容だが、児童虐待について知りたい人が、まず全体像をつかむため1冊目に読むべき本だ。

  • ◯直近の虐待事案や、児童虐待防止に関する政府の取り組みなどがしっかり盛り込まれており、日本の児童虐待に関する最先端がここにある。内容としても論理立てて記載されており、非常に分かりやすい。
    ◯とはいえ、虐待死という、児童虐待の中でも最も重篤なケースをテーマとした本書、前回の著書と比較しても、筆者の思いや感情が(冷静な筆致を心がけたとあれども)、本の構成から滲み出てくるようである。
    ◯こういった本が、関係者、さらには一般の方の手に渡り、広く啓蒙されることが必要だと感じた。

  • 児童虐待による死亡を類型化し、特徴、課題を分析する本。児童虐待に関わる方なら知らない人はいないほど著名な方の本。
    素人でもわかりやすく学ぶことができた。読んでいても辛くなるが、自分事として考えていきたい。

  • SDGs|目標16 平和と公正をすべての人に|

    【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/729452

  • 改めてこんなに悲しく憤る事実があったことに向き合う機会をもらえた。
    こんなひどいことを人間できるものか?と突き放すことができれば楽なのだが、自分の中にもこのような残虐性があるのかと考えるのが妥当だろう…

    一方が相手の意思や感情に反して力を行使し、他方の意思や感じを押しつけコントロールする関係性が生じていれば、そこには「暴力」が存在すると考える必要がある。

    この一文で私は暴力者にも、被暴力者にもなっていると考えられる。

    ソーシャルワーカーでいることとは という詩がしみる。

  • 学術書と言った感じ。
    児童福祉施設とかその道を選ぶ人には良い本かも知れない。
    もう少し生々しい実態を入れた方が一般読者は興味そそられるかな。

  • 山田詠美の「つみびと」(フィクション)を読み 実際に世の中で起きている虐待事件に関心をもつというところから自分の意識を変えようと思った

    虐待死と言っても様々な実例があり「しつけのつもりによる暴行死」「ネグレクト死」「嬰児殺」「親子心中」「精神疾患の影響によるもの」など それぞれの背景事情も異なる

    自分が思っていたよりも身近に起きていることであり「虐待」は社会全体の問題であるという意識をもち周囲の気づきも不可欠であると再認識した
    幼い命が救われる世の中になることを切に願う

  • 読んでいて何度も暗い気持ちになったが
    最後まで読まずにはいられなかった。

    印象深いのは、親子心中は、美しくない。
    子どもへの虐待であるという部分。

    そして数々の虐待死させられてきた子どもたちをおもい、
    つらいです。

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著者プロフィール

子どもの虹情報研修センター研究部長。京都大学文学部哲学科卒業。児童相談所で32年間勤務し、京都府宇治児童相談所相談判定課長を経て、2007年度より現職。
おもな著書に「子どものためのソーシャルワーク」シリーズ(全4巻)『虐待』『非行』『家族危機』『障害』(明石書店)、『児童虐待――現場からの提言』(岩波新書)、編著書に『日本の児童相談――先達に学ぶ援助の技』(明石書店)などがある。

「2010年 『子ども虐待ソーシャルワーク』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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