女性のいない民主主義 (岩波新書 新赤版 1794)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004317944

作品紹介・あらすじ

日本では男性に政治権力が集中している.何が女性を政治から締め出してきたのか.そもそも女性が極端に少ない日本の政治は,民主主義と呼べるのか.客観性や中立性をうたってきた政治学は,実は男性にとって重要な問題を扱う「男性の政治学」に過ぎなかったのではないか.気鋭の政治学者が,男性支配からの脱却を模索する.

感想・レビュー・書評

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  • 「どうやら、筆者も含めた多くの政治学者は、女性がいない政治の世界になれきってしまっていた」ことへの反省から物された、テキスト的な新書。最近の議論がコンパクトに整理されていて、とても便利。

    日本の政治で女性の参加がとりわけ進まないのは、男性稼ぎ主モデルに依拠した福祉国家が構築されているため。そして、これがなかなかに崩れないのは、日本の政治過程が、男性を中心とする利益集団が男性を中心とする政治家・官僚に圧力をかける過程だからである。そこで解決策として、ジェンダー・クォータ制の導入が提唱される(ただし、ジェンダー・クォータ制が性的少数者を政治的に代表するために用いるには適さないことにも、目配りがなされている)。

    外側からの感想を記すと、男性稼ぎ主モデルの福祉国家は政治過程だけの産物ではなく、日本的雇用が男性正社員を中心とする構造であることの産物でもある。なので、正社員の長時間労働とか、女性に偏る非正規労働の不安定性とか、「働き方」が改善されないと、女性の政治参加もうまく進まないだろう(もちろん、「働き方」には、政治家の「働き方」も含まれる)。本書の経済学版もあったら便利と思う。

  • 「時給はいつでも最低賃金、これって私のせいですか」で紹介されていたので気になって買ってみた。

    女性のいない民主主義。一見してジェンダーと政治学の本であると分かるのはすごくいいし、とても鮮烈で印象に残るタイトルではある。

    内容に関しては、200ページと言う分量よりも多く感じた。それもそのはずで、この本はジェンダーに関する本と言うよりは、政治学と言う縦軸とジェンダーと言う横軸で展開される、面のような内容となっている。

    政治におけるジェンダーについて知るには、そもそも政治学のあり方や歴史に関して知る必要があるためだ。そうして、従来の政治や民主主義の中に存在している男女不平等が見えるようになってくる。

    男女平等が進展したスウェーデンにおいてさえも、女性主体の政党は存在しておらず、やはりジェンダークオーター制のような仕組みを導入することがマストだとよくわかった。

    面白かった。ジェンダーだけではなく政治に関しても勉強になるし、あとがきで分かる筆者の熱く深い優しさに触れたのも良い読書体験だった。

    (書評ブログもよろしくお願いします)
    https://www.everyday-book-reviews.com/entry/2022/01/08/%E3%80%90%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%A7%E3%82%82%E3%82%AF%E3%82%AA%E3%83%BC%E3%82%BF%E5%88%B6%E3%81%AE%E5%B0%8E%E5%85%A5%E3%82%92%E3%80%91%E5%A5%B3%E6%80%A7%E3%81%AE%E3%81%84%E3%81%AA%E3%81%84

  • 「マンスプレイニング」「マンタラクション」「ブロプロプリエイション」「クリティカル・マス現象」「コンドルセのパラドックス」「エコーチェンバー現象」

    レベッカ・ソルニットの著作をこの本の前に読んで、名付けがいかに大切かを実感したところだったから、この本に出てきた多くの新しい言葉を覚えようと思う。この言葉たちが存在することで、その現象も存在するようになるのだから。

    人口の半分を占めるのは女性、ということ。当たり前すぎて、この本で改めて指摘されて、こんなに重要なことを忘れてるなあと反省。半分なのだ。その半分の意見の反映されない政治が罷り通る不思議さ。
    なぜそうなってしまったか、研究者として解きほどいてみせてくれる。
    がんじがらめだ。よく女性自ら動かなければ世の中変わらないんだよ、と言われるが、たしかにそうなのだが、それだけでは解決できないシステム上の軛があるのだ。

    ジェンダークォーター制を取り入れてない国は少ないということ。野党から女性議員は増えていくということ。

    何から変えればいいのか途方に暮れているより、具体的にやるべきことが見えてくるのはいいことだ。

    女性のため、なんて姑息な(書いてみてすごい漢字だ…)ことを言ってるんでなくて、そうしなければ、男も女も関係なく、日本という国が衰退の一途を辿ることになるだろう。もう手遅れかもしれないが。

  • 男性からするとびっくりするようなことなのかもしれないが、女性から見ると、ああ、あのことね、ということを裏づけをもって書いてくれている。女性の議員が増えればジェンダーに配慮された社会になるかというと、そう簡単ではないということは初めて分かった。これからの社会はどうあればいいか考えるきっかけになる本。

  • 今まで読んできた政治学の本の中でトップレベルに読みやすく、そして新たな視点に気づかせてくれる新書でした。
    高校中学の社会の授業でやった方がいいんじゃないかな。
    今の日本は男性のための民主主義。女性活躍社会と名は打っても、実はそれは男性が働きやすい、または男性を助けるための政策でしかないということに気付きました。いやー、ほんと日本社会に絶望するわ

  • 政治はよくわからないし、政治学なんてもっとよくわからない。だから本書にとりかかるのもエネルギーが必要だった。
    でも、読み始めてしまえば多少難しい言葉はあっても、書かれていることは(良いのか悪いのか)実感を持って理解できることが多く、これまでもやもやとしていた物事に輪郭が与えられたというか、よく見える眼鏡を与えられた気分になった。

    「政治」も「民主主義」も「政策」も、みんな男性が男性のために築き上げてきたものだった。

    以下、一部端折りながらの抜き書き。

    ---

    女性は、ジェンダー規範に従えば組織規範に従うことはできない。ダブルバインドは大きなジレンマになる。『保守系の女性政治家がフェミニズムに対する厳しい批判を展開するのは自らのジェンダー規範からの逸脱を埋め合わせるための戦略の一環であると考えられる』。『組織の男女比が、組織規範のシグナルになる』。

    公的領域は政治介入する、私的領域は政治介入しないものとされてきた。この公私区分が女性を抑圧してきた。女性は私的領域である家庭に閉じ込められ、家庭で起きていること(DVや偏ったケア労働など)は政治の争点にはならない。ケア労働を担う女性は自律した主体とはみなされず、二級市民として扱われる。公私二元論が守っているのは男性の自由に過ぎない。
    これは「個人的なことは政治的なことである」
    というフェミニズムの標語に集約される。

    女性を適切に代表するには、一定以上の女性議員が必要とされる。にもかかわらず衆議院における女性議員の割合は1946年とそれほど変わらない。

    ピル導入の遅れや配偶者控除は誰のための政策なのか?どういう意図で定められているのか?

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    公的領域私的領域からのフェミニズムの標語の流れはそういうことか、と腑に落ちた。『上野先生、フェミニズムについてゼロから教えてください!』を思い出した。
    また、政策を検討するときに必要な視点を初めて知った。目が覚めた感覚だった。

    これまでクォーター制には懐疑的だったけどこの本を読んで、とにかくまずは数が必要なんだとわかった。女性だけクォーター制を設けるのは不公平だと言うなら、男性にもクォーター制を設けてもいいのかもしれない。(意味があるかわからないけど)




    これは余談だけど、今週末、金曜ロードショーで『タイタニック』を放送していた。救命ボートには女性と子どもが優先的に乗せられていたけど、確かこの時代の女性って参政権がなく、男性から守られる存在としての女性だったんだよね、ということをぼんやり思い出しながら観ていた。(間違っていたらごめんなさい)

  • めちゃくちゃわかりやすい!どうして日本では女性政治家が少ないのかもわかった。これからの政治の見方にジェンダーの観点は欠かせないので選挙権あるひと必読にしてほしい

  • まず、政治過程論の導入書として非常に素晴らしい。一つの政治イシューがどのような経路を辿ってある政策に結びついていくのか、政治の力学を学びたい人にはオススメ。
    その上で、ジェンダーがどのように社会に、政治に影響を与えているのか、深い考察がなされている。
    東大教授の本ながら、新書として読みやすく、それでいて深みがある。
    興味を持った方は是非手に取ってみてほしい。(T.I)

  • 読了。タイトルだけでハッとさせられる一冊。これまでの民主主義論や政治の中で何が忘れられてきた、あるいは考えられないで来たのかというと、やはりそれはジェンダーの問題がとても大きいと思う。能力主義だから性差は関係ないという論調も、そもそも男性優位社会を土台にした主張であることがほとんどだし、「女性活躍!」と政治家や企業が言う背景には、「(ただし男性の既得権益を侵害しない限りで)」というカッコ書きが潜在している。
    包摂や協働を掲げる政治や思想や政策が、何を「包摂“していない”のか」を考えるところから、これからの民主主義は始まると言っても過言ではないのではないか。
    政治や思想の表舞台に出てくる「包摂」「平等」等は、その過程で絶対に何かを切り捨てている。そのことの重要性をこれでもかと教えてくれる貴重な一冊だった。

    「一方には、積極性があり、競争的な、『男らしい』行動を求める組織規範があり、他方には優しく、包容力のある、『女らしい』行動を求めるジェンダー規範がある。例えば、会社で出世競争に勝ち抜くには、他人を押しのけてでも積極的に行動しなければならないとする。だが、そのような『男らしい』行動をとる女性は、『女らしくない』と言われてしまう。男性であれば『リーダーシップがある』と評価される行為は、女性であれば『偉そうだ』とみなされる。 つまり、組織の構成員が直面する規範は、実際には二重構造になっている。その基底には男性と女性に異なる振る舞いを命じるジェンダー規範があり、それを補う形で、組織の構成員に一定の振る舞いを命じる組織規範がある。この組織規範が表面上はジェンダー中立的であるからこそ、それ自体は批判の対象になりにくい。組織の構成員も、自分は男女差別をしているつもりはなくても、無意識のバイアス(unconscious bias)の働きによって男性と女性に対して異なる基準を当てはめてしまう。こうして、男女を差別しないはずの組織において、大きな男女の不平等が生まれることになる。」(p28)

  • 政治にジェンダーの視点を持って論じており勉強になった。
    男性優位の政策がなされているのはなぜか?なぜ女性の候補者は増えないのか?等、他国との違いや歴史的な背景を知ることができた。

    組織内の女性比率として、30%以上いないと本領が発揮できない。政治家もそうだが企業でも女性リーダーを増やしていかないと感じた。

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著者プロフィール

東京大学教授

「2023年 『権力を読み解く政治学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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