江南の発展 南宋まで (岩波新書 岩波新書〈シリーズ 中国の歴史〉)

  • 岩波書店 (2020年1月23日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (234ページ) / ISBN・EAN: 9784004318057

作品紹介・あらすじ

ユーラシアを見わたせば,中国は,北は遊牧世界,南は海域世界へと開かれている.第二巻は,長江流域に諸文化が展開する先秦から,モンゴルによる大統一を迎える南宋末までの長いスパンで「海の中国」を通観.中原と対峙・統合を重ねながら,この地域が経済・文化の中心として栄えゆく姿を,社会の重層性にも着目しつつダイナミックに描く.

感想・レビュー・書評

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  • 中国の通史をあつかうシリーズの一冊として宋代までの江南史を担当しているのだが、単なる地域史にとどまらず、中国という国の成り立ちにせまるようなスケールの大きい論考。新書でこういうのが読めるのは嬉しい。

    あとがきによれば、士大夫、農民、アウトローのいずれにも共通する「人つなぎの論理」を表す言葉がなかったので「幇の関係」なる造語を提起したそう。そんなに大胆に要約していいのかちょっと心配になるところもあったが、やはり複雑に絡まった事象をスパッと切り分ける補助線を示すのが学問の力というものだろう。読んでみて腹に落ちた。

    しかし、ここで描かれる国家と社会が乖離していて、社会的流動性が高い中国の姿は、ほぼほぼ現代社会と同じものである。ポスト近代社会での議会制の機能不全は中国史研究者には既視感があるとのことで大変に興味深い。

  •  〈シリーズ中国の歴史〉の第二巻。
     
     本シリーズは、巨大な中国、多元多様な中国の歴史を、グローバル化の現代にふさわしい形で叙述していくことを目指している。
     本書の射程は、古代から南宋末に至る、揚子江周辺の江南地域を巡る歴史である。

     これだけ長期にわたる時間軸なので、どういったところにフォーカスを当てるかがポイントとなるが、魏晋南北朝時代から、隋唐の統一王朝を経て、五代から北宋、南宋へと至る政治史上の主要な出来事には触れつつも、古典国制の受容と変容、南北朝時代の貴族制、宋代の科挙官僚の登場の意義、江南の農業、商業の発展状況等が、分かりやすくまとめられている。

     特に、中国における中間団体の不存在が社会的流動性を高め、人つなぎの論理として、個人間の信頼関係の連鎖=「幇の関係」を作ってきた、そしてそれは日本やヨーロッパとは大分異なるものである、との指摘はなるほどと思った。それが、歴史の進み方から、社会構成の違いにも影響しているのかもしれないと思われるからである。

     現在、中国においては、発掘等による出土資料の増加に伴い、中国史が盛況を来し、歴史の書換えも進んでいるという。そうした最新の成果にも一部触れることもできて、大変ありがたい。

  • ふむ

  • 三国志を読んでいて、江南には何となく「しぶとい」イメージがあった。その理由を少し理解できたと思う。江南は中原とは地形や気候が異なり、交通の仕組みも異なる。孫呉の時代には海を通って朝鮮と交易していたというのが印象的だった。難しくて、読むのに時間がかかった。

  • [評価]
    ★★★★☆ 星4つ

    [感想]
    2巻は1巻と時代が重なるが対象が江南地域となっている。
    春秋戦国、秦漢の時代は中華の範囲からは少し外れた地域である江南であるが三国志の呉が生まれた時代から中華として扱われ始め、徐々に拡大・発展していった事がわかる。
    特に北方の遊牧民からの侵入を受けた普が南に退避したことで南北の対立がおこり、以降も同じようなことが繰り返し発生している。
    また、皇帝が人民を直接的に従え、間に介在するものが存在しないことを理想とするが現実的には官僚が存在し、官僚同士の横のつながりが皇帝と人民の縦の繋がりと対立していたということも面白い。
    また、横のつながりは官僚だけではなく、一般社会に広く浸透しており、様々な繋がりがあり、相互に補完しあっていたということも印象に残った。

  • このシリーズ面白い。王朝というより、地域で分けてる。今までの視点とは異なって新鮮な解釈

  • シリーズ中国の歴史の第2巻。第1巻では先史時代から中唐までの時代を扱っているが、本巻は南に目を向け、長江流域の古代文明から南宋に至る経済発展のあらましを語る。一元的な君臣関係を社会の末端まで貫く「国づくりの論理」と、同質的な集団が郷党や朋党、あるいは任侠集団など「人つなぎの論理」という2つの旋律をとおして、中国の歴史に新たな視点を与えてくれている。

  • 備忘録メモ

    中国の歴史を、①国家が垂直的・一元的な君臣関係を社会の末端まで貫き、横つながりを断ち切ろうとする中華帝国の「国づくりの論理」と、②それに対する、民衆が広げていった、いざという時に頼りに出来る仲間との間に横つながりの連携、「人つなぎの論理(幇の関係)」という2つの軸で読み解く。

    「規制もしないが保護もしない」という中華帝国の王朝のあり方は、なかなか面白いし、「上に政策あれば、下に対策あり」という中国民衆のしたたかさも、今につながる。

    相続のあり方が、家族のあり方、ひいては、社会のあり方につながっているというのも面白い。トッドの話にも通じるものがある。

    今の中国を理解するうえでも、参考になりそうな軸を得た感じ。

  • 中国って、ヨーロッパよりも国土も人口も多い。歴史の叙述はどうしても統治機構の特徴や推移になりがちだけど、本シリーズは、中国の多様性にフォーカスする。日本の教育現場で示される中国って。実は彼の国の1/4の領域でしか語られていない。本書は統一国家はあまり出していないけど、文化と産業を形成してきた江南地区を中心に中国史をみていく。とっても新鮮。

  • 東2法経図・6F開架:B1/4-3/1805/K

  • 江南が発展するプロセスを主に政治的・経済的な面からまとめており、中国史における江南の役割を知ることができます。東晋における経済発展や中華王朝の正統性を確立する制度設計、それらの北魏への影響、そして隋唐への統合に至る過程は、南の意味がいかに大きいかを感じられます。また、唐後期から五代十国時代を経て北宋に至る過程で、中原の国家が江南の経済力を求めることで、「江南経済を基盤にして北方遊牧国家に対抗する」という政権の構造が確立したという点も興味深い。

  • 時系列ではない切り取り方で読む中国の歴史、第2弾。
    そもそも中国史をよく知らない自分にとっては学ぶところが多く、かつマージナルな領域についても掴むことができるありがたいシリーズだ。

    この第2弾は目まぐるしい政権交代による変遷を軸としながらも、市井におけるボトムアップ的な変化について語られる。
    強烈なトップダウン、という印象のある中国だが、ここで見られるのは実に自由主義的な国民のありかただ。
    歴史というものをおさえておくことで、現在の中国を読み解く際の目線も変わってくるだろう。

  • 中原の正史ばかりに目を奪われていたので、長江以南の歴史を新鮮に読めるところが多い。

  • 江南と聞けば中国の南半分というイメージだが、地理的には東南アジアの北方でもあり、政治的には古代中華の辺境だった。長江に隔てられたこのエリアが「中国」に取り込まれたのが、歴史の必然だったのかどうか、本書のテーマとは別だが、そんな思いに囚われた。遊牧民政権のプレゼンスが目立つ華北に比べ、豊かな生産力、絢爛な文化、海上交易と外界とのアクセスなど、江南の位置づけと役割は、今日の中国の母体のようで、南宋はその象徴。本書もそこまでを範囲としている。人が流動し、専制と放任が併存する社会で、寄る辺として幇が成立した話は、中国をより知る上でも重要で、別書でまた読みたい。

  •  書名どおりの江南の発展にとどまらず、在野士大夫の位置づけ、専制と放任の併存、幇の関係(個人間の信頼関係)など、「著者なりの創意」に関連する部分もある。
     ただ本書全体としては、やはり江南に関連して、六朝と宋、特に南宋の記述が充実。六朝期は「中朝に遊牧系の政権ができるなか、江南の人びとが中華文化の継承者を自認」と端的に表されている。また宋・南宋では江南で生産と流通が共に発展し、巨大な経済成長を遂げたことや、泉州や寧波を例に海上交易も盛んだったことが指摘されている。唐宋変革論がここでも顔を出す。
     なお、都を長安に置いたその間の中原の王朝でさえ、漢では当初東半分では封建制が布かれたこと、隋では煬帝による運河建設や江南文化の導入、そして唐での南朝の制度導入や一定の海上展開など、中国東部・江南と中原との違いや前者の後者への影響が指摘されている。

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