陸海の交錯 明朝の興亡 (岩波新書 新赤版 1807 シリーズ 中国の歴史 4)
- 岩波書店 (2020年5月22日発売)
本棚登録 : 243人
感想 : 19件
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
Amazon.co.jp ・本 (266ページ) / ISBN・EAN: 9784004318071
作品紹介・あらすじ
中華と夷狄の抗争、華北と江南の対立、草原と海洋の相克——明の時代とは、このような混沌とした状況に対する解答であった。第四巻は、一四世紀の元末から清が台頭する一七世紀まで、三〇〇年にわたる明の興亡を描く。中国社会の多元性・多様性に対して、一元化・画一化の力学がどのように働いたのか、その顛末がここにある。
AIがまとめたこの本の要点
この本を表す言葉
みんなの感想まとめ
明の時代の混沌とした歴史を探求する本作では、中華と夷狄の抗争、華北と江南の南北対立、草原と海洋の相克といった複雑な要素が描かれています。著者は、14世紀の元末から清の台頭までの300年にわたる明の興亡...
感想・レビュー・書評
-
明朝というと、洪武帝が創業の功臣や臣下を何度もかつ大量に処罰し、皇帝専制体制を打ち立てたこと、甥建文帝から永楽帝が帝位を簒奪したこと、鄭和の大遠征、北虜南倭、前期倭寇・後期倭寇、秀吉の朝鮮出兵といった断片的なトピックとしての知識くらいしかなかった。
著者は本書において、明朝の歴史的意義を次のように説明する。①中華と夷狄の抗争、②中国史を貫く華北と江南の南北対立、③草原を含む大陸中国と東南沿海の海洋中国の相克、この3つのせめぎ合いが、14世紀の危機において飽和点に達し、元明革命の王朝交代となったこと、そしてこれらの課題に一定の解答として出されたのが明初体制だとする。
農業に基礎を置く社会と商業や経済的交流を追求する社会とは相当に違うのに、南北統一を成し遂げた明朝は何とか両者をまとめ上げようとした。そのために、郷村組織における里甲制の創出等、儒教による身分序列の固定化といった「固い体制」を作り、また、海禁=朝貢システムに基づく国際的秩序の構築を図った。
しかし、世の中は変わる。その変化に対応できたのかが、後半の展開になる。300年近く続いたのだから、改革も行われ一定の適応はできたのだろうが、しかし、出て来る皇帝、出てくる皇帝、みんな酷い。
史実の紹介も分かりやすく、皇帝の治世や施策に対する著者の評価や見解も適宜、コンパクトにまとめられていて、複雑な明朝の歴史を理解するのに、大いに助けとなった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
「儒教的秩序」というのがどういうことなのかについての理解を深められた。自分には朱元璋みたいな人が一番の理想家のようにも見える。
-
(後で書きます。略年表、参考文献リストあり)
-
第3巻は明代史。第1巻では中華と夷狄の抗争、第2巻では華北と江南の南北対立、第3巻では草原を含む大陸中国と東南沿岸の中国との相克を描く。筆者は、明初はこれらをなんとか統一王朝に整理・収斂され、多様化・多元化にも一元化・画一化の枠がはめられた時代と説く。この体制はやがて弛緩し、破綻して清朝の時代を迎えるわけだが、筆者はこの極度に統制を強めた明初体制が、中国社会の体制的帰結として表れているとも指摘している。強固に統治しないと、多様性・多元性が頭をもたげ体制をあやうくするのだ。現代中国の体制の要因を、歴史的見地から見事にひも解いてくれているように思う。
-
このシリーズの中でここにきて在来型の王朝史的なスタイル。背景はあとがきで補足されているものの、流動性の高かった中国社会が急に「固い」明初体制になるものの結局は元に戻っていく経緯の、通史の中での位置づけが見えにくいかも。
著者はこれまでのメンバーから比べると年配で、農本主義的(?)な語り口で少し路線が違う印象。 -
明初体制は「固い体制」 だった。それは里甲制、身分・職業・移動の規制、現物経済の維持、朝貢一元体制などあらゆる面で国家が社会に規制をかけるものだった。この体制はそれまでの①中華と夷狄の抗争、②華北と江南の対立、③大陸中国と海洋中国の相克、これらを克服するのに必要だったのである。それは「近代世界システム」と異なる「中華世界システム」を生み出した。この明代に一つの画期を求め1巻丸ごとその歴史に充てる。そして明初体制とその後の経済社会の変化や北虜南倭との関係、明朝崩壊との関係が背景を含め、わかりやすく説かれる。
-
中華王朝の特徴として本シリーズでは3つの対抗基軸があげられている。
①中華と夷狄、②華北と江南、③大陸中国と海洋中国
この3つにまがりなりにもケリをつけたのが明王朝というわけだ。北の権力で豊かな南方を支配する体制だけど、経済と流通の発展が国のあり方を変えていくことになる。そして最後の中華王朝になるわけだ。けど北による南方支配って現代にもつながる仕組みだよね。それは明から始まったんだね。 -
これまで詳しくなかった明朝について、見通しを得た。
モンゴル(元朝)の退潮後、どのように立て直すか?が課題だった明初。中国の秦に発する国家が社会をコントロールする流れ、それは見た目は儒家で、やっていることは国家の支配論理(法家)。これはおそらく現代の中国でも流れている、西洋の近代思想とは違う流れ。中間団体の存在を許さず、支配者と被支配者が直接対面する。
気候の冷涼が終わり、社会全体が「銀」の世界的繋がり、貨幣経済の興隆を受け、社会の要請と、明朝の仕組みが不適合を起こし、対応できないまま、滅んでいく。
大きな世界史的視点で言えば、モンゴルの時代=大陸の時代から、大航海時代=海の時代に力点が切り替わるタイミングだった。西洋は海に乗り出し、中国は内に閉じこもった。社会の発展具合から行けば、世界の先端を走っていた中国がこれ以降、近代への対応に苦労する原因となった。
「内閣」という言葉がここで登場する。官の論理ではなく、皇帝の直属の私的部下という意味だったと知り、今の日本の内閣総理大臣の意味が違って感じられた。 -
明の儒教国家や海禁といった要素は、後年の日本の江戸期に似たところがあり、自ずから長期間の安定と停滞という点も共通している。そしてどちらも今日の中国と日本の、ある程度の原型になった。鄭和の大航海以外、あまり面白みを感じない明朝を知る意義がそこにある気がする。日本や南米から膨大な銀が流出し、好況の中国で出版ブームが起きた結果、士人は大衆小説を読み、庶人が実用(または教養)書を読んで、両者の境目が曖昧になったというくだりは、グローバル化と情報化がもたらす現象の嚆矢のようで興味深かった。
-
東2法経図・6F開架:B1/4-3/1807/K
-
14世紀後半に成立した明朝は、多様性・流動性の高い中国社会が一元化・固定化され、社会の隅々まで国家が統制した時代です。そのシステムが崩れる要因のひとつが「銀」。明初は銀の使用が禁止されていましたが、15世紀半ばから税の銀納化が認められました。現物経済から銀経済に移行し、それを後押しするのが16世紀後半以降の日本銀やメキシコ銀の大量流入です。銀経済の発展は社会の流動化を促し、国家の統制力の低下を招きます。他律的な社会を自ら作り上げ、それが溶解することで滅ぶという、この時代独自のプロセスが興味深かった。
-
明という時代の重みが伝わるコンパクトだが考えさせられる良書。
明が何を背景に生まれ、何を重荷として滅亡に至るのかを考える重要性を学んだ。 -
本書では、中華と夷狄、華北と江南、大陸中国と海洋中国という3つの対立軸を置く。本書で扱う明のみならず、宋以降の「近世」を特徴づける主要な与件だという。
ただ本書を読むと、単なる二元対立よりも複雑だとの印象だ。中原の伝統である西安への朱元璋の遷都構想と、華夷統合のための永楽帝の北京遷都は一見対照的だが、著者は両者の政策の間に大きな断絶はないとする。この明初の華夷統合も、明後半の辺境での華夷混淆とは異なる概念のようだ。また、著者のいう海禁=朝貢システムは単なる内向きでも開放政策でもない。民間貿易の禁止も鄭和の遠征も、共にこのシステムの枠内だ。
初期には3つの対立軸を横串に挿して儒教の論理の下で社会統制が強まったが、末期にはこの統制が崩れていくのが明の過程、と後書きで著者は述べる。士庶の混淆、華夷の混淆、社会の流動化。これまであまり知らなかった明末の社会状況に面白さを感じた。 -
岩波新書の「シリーズ中国の歴史④」は、「陸海の交錯ー明朝の興亡」と題された1冊。これまでの3冊とは異なり、単一の明朝300年の歴史叙述にフォーカスされる。
①中華と夷狄の抗争、②華北と江南の南北の対立、③草原を含む大陸中国と東南沿海の海洋中国との相克、以上の3つの対抗軸が「明初体制」によっていったんは一元化・画一化される。
この明初の「絶対帝制」は、儒教の論理に裏打ちされていた(本書でしばしば参照されるp.34の図8)。国家の側からの「支配の論理」と社会の側からの「被支配の論理」が、儒教の理想世界と現実世界への適用、これが明初に厳格な体制として確立し、海外を含む「中華世界システム」も朝貢一元体制として成立した。著者は近代世界システムが誕生する以前に「東アジアにはまったく異質で完璧なまでの世界システムが存在した意味は限りなく重い」(p.222)と述べる。
明朝300年の歴史はこの「明初体制」が現実の社会の変化(銀の流入、商業の発展などなど)に揺さぶられ、弛緩していく「固い体制」から「柔らかい体制」への移行期であり、その流れは清朝にも引き継がれていく。 -
明というのは混迷を窮めた時代であったことが痛切に描かれている。
特に、時の権力者たちについては手厳しい論評が目立つ。
経済の発展、社会階層の融和。現代の感覚でいうと是であるこれらの要素が国家衰亡の一因であるというのには不思議な感覚をおぼえるが、こと民主的な社会においては治世の巧拙が命綱ということなのだろう。
儒教思想により中華世界を描き出そうとしつつ、時の権力者たちは私利私欲にまみれ、結果として失脚と破局を招く。なんと因果なことであろうか。 -
-
明朝300年の歴史を扱う一冊。明だけ単独での本というのは実は珍しい(たいてい清とセット)。かんそうはブログにて。
https://historia-bookreport.hatenablog.jp/entry/2020/05/24/112352
著者プロフィール
檀上寛の作品
