教育は何を評価してきたのか (岩波新書 新赤版 1829)

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  • Amazon.co.jp ・本 (264ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004318293

作品紹介・あらすじ

なぜ日本はこんなにも息苦しいのか。その原因は教育をめぐる磁場にあった。教育が私たちに求めてきたのは、学歴なのか、「生きる力」なのか、それとも「人間力」なのか――能力・資質・態度という言葉に注目し、戦前から現在までの日本の教育言説を分析することで、格差と不安に満ちた社会構造から脱却する道筋を示す。

感想・レビュー・書評

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  • タイトルからして、面白そうと思った一冊。

    私たちが思う「能力」や「資質」「態度」とは一体何だったのか。
    筆者は、こうした「言葉」の多用がある種のベクトルを発生させ、その基準をクリアーしなければならないという垂直的序列化を促進してきたと述べている。

    言い替えると、日本社会にとって都合の良い「能力」を持ち、学校システムに従順な「態度」の人間だけが、「資質」ありと見なされるということなのだろう。

    言いたいことは分かるんです。
    でも、他国と比べて、日本人はこんなにマナー良いでしょうとか、ロックダウンなんかしなくても日本人は大人しく家にいますよ、って言いながら、他方で、不謹慎不謹慎と個人も会社もボコボコにしちゃう「同調圧力」の国は、そもそもこの美徳の呪縛から正しく抜け出せるんだろうかと思う。

    普通科高校が設立され過ぎて、この構造が断ち切れないのだから、水平的多様化を目指して各学校毎の特色づくりをしましょう!
    と言われる内容も面白いのです。

    でも、個人的にはこの三つの言葉の呪縛が解けたとして、安心して(または肯定的に)働ける環境ってどういう場所なんだろうかと考えている。
    そういう所で行き詰まってる時点で、呪縛に捕われているんだろうな(笑)

  • 【今週の労務書】教育は何を評価してきたのか 本田由紀著 | レビュー | Book Bang -ブックバン-
    https://www.bookbang.jp/review/article/628290

    教育は何を評価してきたのか - 岩波書店
    https://www.iwanami.co.jp/book/b498677.html

  • 今までもやもやとしていたことを資料も使ってはっきりと示してもらえた感じ。特に、教育基本法にもあった「能力に応じて」のくだりは納得。やはり教育の目的は人格の完成にあるのだから、評価をしてはいけないと強く思った。
    それぞれの子どもの良いところを見て伸ばし、社会性を育んでいければいい。
    さらに巻末の提言があり、未来へ向けた指標になる。
    ここで示された「垂直的序列化」と「水平的画一化」という概念はとてもわかりやすく、納得のいくものだった。

  • 私たち日本人が受けた学校教育が誰によってどのような人間になるように作られたものなのかを明らかにし、それが現在の日本の停滞感と閉塞感を生んでいると明らかにする大著。
    2020年現在はコロナ禍の中、貧困と格差拡大が社会問題として大きくスポットライトを当てられており、現状に対する一つの解答を提示していることはまさに今だからこそ読むべき一冊。
    特に漫然の学校教育の中で使われてきた「能力」「態度」「資質」などという抽象的な語の意味を読み解く良書。
    現役教員はもとより、教員を目指す学生や教育行政に携わる方々、目指す学生にとって示唆に富む一冊になるだろう。

    ・日本の低成長、停滞感の原因は教育にある。
    ・日本型教育の中心である垂直序列化(日本型メリトクラシー、ハイパーメリトクラシー)と、水平画一化が日本人の均一性を生み、イノベーションを生み出す妨げになっている。

  • なぜ日本社会はこんなに息苦しいのか

    に対する一つの説明と、解決策の提案。

  • 「能力」という言葉が何を指すのか、歴史的経緯を丁寧に紐解き、現代の日本の教育制度が抱える問題に鋭く切り込む1冊。新書、しかもKindle Unlimitedとは思えないボリュームで、随所に本田先生らしさが散りばめられている。

  • 日本における人間の「望ましさ」とは何なのかを他国との比較や戦前期から近年までの日本の制度や政策を「能力」「態度」「資質」の言葉の用法に踏み込んで論じている。その中で、垂直的序列化は格差を生み、水平的画一化はふるまい方や考え方を強要(同調圧力)してきた背景があり、これからの時代には水平的多様化が必要であると著者は述べている。
    個人的にも格差や貧困、マイノリティ、少子高齢化や人口減少等を考える上でも、多様性や柔軟性は必須と考えるため、排除の仕組みを変えていくことや誰ひとり取り残さない政策は国としても、小集団のグループにしても必要と思う。そして、能力だけで人を判断するのではなく、多様な生き方を受け入れる社会が求められるのだと思う。自戒も込めて。

  • 「能力」「資質」「態度」という3つの言葉に着目し、教育勅語から新教育基本法までの政府のスタンスの変遷を整理している。

    ⚪︎政府のスタンスは、以下のように変遷してきている。
    ・戦前から戦中は、国民国家化が進むのと比例して水平的画一化が強まっていった。
    ・戦後は「能力」をベースとした垂直的序列化の傾向が強かったが、ゆとり〜脱ゆとりの流れの中で、新教育基本法にあるように、水平的画一化が再び強まっている。
    ⚪︎現在の社会的な要請は以下である
    ・属性や状況を問わずあらゆる人々の存在が尊重され、基礎的な生活を保障されるとともに、それぞれのアイディアや得意なことを存分に伸ばしたり発揮したりすることができて、適正な報酬を得て、社会全体の基盤整備と再分配や福祉のための公的財源に寄与するような社会状況を、従来の固定観念や差別的な意識を超えて作り出して行くことが不可欠である
    ⚪︎現在生じているギャップ
    ・垂直的序列化は、生まれながらの格差や不平等を再生産し、正当化する
    ・水平的画一化は、上から与えられた価値観や規範への同調を強いえ、異なる考え方や感じ方を持つものを排除する

  • 学術的なところが多くい一般書としてはハードルが高い(汗)

  • 感想メモ

    ①日本の若者は、高い一般的スキルを誇る一方、ウェルビーイングからは程遠く、その背景には日本の「垂直的序列化」と「水平的画一化」という独特なシステム構造がある。
    ②「能力」「資質」「態度」といった言葉は、歴史の中でその意味合いが変遷しており、その言葉の磁力が「呪い」として社会と個人に独特な影響力を及ぼしている。
    ③現状のシステム構造のオルタナティブとなるのは、「水平的多様化」であり、イエナプランはその参考となり得る。

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著者プロフィール

本田 由紀(ほんだ・ゆき):東京大学大学院教育学研究科教授。専攻は教育社会学。著書に『教育の職業的意義』『もじれる社会』(ちくま新書)、『教育は何を評価してきたのか』(岩波新書)、『社会を結びなおす』(岩波ブックレット)、『軋む社会』(河出文庫)、『多元化する「能力」と日本社会 』(NTT出版)、『「家庭教育」の隘路』(勁草書房)、『若者と仕事』(東京大学出版会)、『学校の「空気」』(岩波書店)などがある。

「2021年 『「日本」ってどんな国?』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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