チャリティの帝国――もうひとつのイギリス近現代史 (岩波新書, 新赤版 1880)

著者 :
  • 岩波書店
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本棚登録 : 135
感想 : 10
  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004318804

作品紹介・あらすじ

イギリス独自の重層的なセーフティネットの中で、社会の「錨」のように今日まで働き続けてきたチャリティ。自由主義の時代から、帝国主義と二度の大戦をへて、現代へ。「弱者を助けることは善い」という人びとの感情の発露と、それが長い歴史のなかでイギリスにもたらした個性を、様々な実践のなかに探る。

感想・レビュー・書評

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  • 歴史を違った角度から見てみるという本が個人的には好きなのだが、これもまたそのような本かもしれない。副題になる通り、チャリティという視点からイギリス史を見るという内容で、チャリティの「段階」に応じて、3つの視点で継続的に分析を加えているのは興味深いと感じた。現代人の感覚からは眉を顰めるようなことが堂々と行われていて、かつ当事者たちは善行と信じていた、というような記載をみると、今の我々の「常識」も後世の人から見ると後進的なものに映るのかもしれない。

  • 3.3

  • 東2法経図・6F開架:B1/4-3/1880/K

  • チャリティの帝国―もうひとつのイギリス近現代史

    チャリティという側面でイギリス近現代史を描いた一風変わった歴史解説書。個人的に、速水融先生の『イギリス 繁栄のあとさき』というイギリス史の解説書が好きで、中でもイギリスの産業革命を支えたのは、名誉心から私財を投げうってインフラ開発を手掛けたジェントルマンであるという記述が気に入っていた(これをジェントルマン資本主義と呼ぶ)。資本主義社会で他を圧倒するには、効率化という資本主義マインドとは別のマインドが必要である。そうした逆説的なテーゼにいたく感動したことを記憶している。本書を最初に見たとき、チャリティという言葉もまた、イギリスの資本主義社会における成長を支えた、資本主義マインドとは別のものなのではないかと期待した。
    全体として、古代からのチャリティという概念がキリスト教によって担われていた部分から、近代にかけてイギリスでは公的な領域や私的な領域が担う形に変遷していく点が興味深かった。18世紀に発展する互助団体や友愛団体も象徴的であろう。友愛団体は会員からの寄付によって、会員が不幸にあったときに支援する互助的な団体である。一方、会員の中で、一定以上の拠出を行った人物は名誉会員として表彰される仕組みがあった。そのため、実態としては名誉会員である富裕層が労働者層に対してチャリティを行うような形式となっていた。この組合内でのチャリティによる再分配の仕組みによって、税金によって支えている公的救貧への過大な負担を防いでいた。資本主義社会と勤勉主義が結びつくと、貧富の差を個人の勤勉さに起因するものであるとする風潮が高まる。貧困に対しての自己責任論が蔓延すれば、貧民を救う手立ては公的制度しかなくなる。しかしながら、公的制度を充実させるためには税収の拡大が必要であり、結果として富裕層への課税は免れない。人は求められて払うよりも、自分から率先して払う方が、個人の名誉心に響く。イギリスでは、結果としての富裕層からの再分配ではなく、過程として富裕層自らがチャリティとして再分配を行っている。このような仕組みは、社会保障制度の行き詰まりを予見される日本社会に大いに学ぶべきところであろう。
    なお、本書の後半では、チャリティの担い手が必ずしも聖人ではないことが述べられる。奴隷商人であるコルストンや武器商人のアームストロングもまた、イギリス史に名を残す有数のチャリティの担い手であった。かれらの行動を手放しに褒め称えることはできないし、彼らはチャリティによって贖罪されるわけではない。しかしながら、人間の多面性を考えるうえで、現代では人道的に問題のある人物もまた、チャリティの担い手としては影響力のある人物であったことは示唆に富むであろう。日本では、前澤氏のお金配りに賛否両論ある。反対者は、偽善者と前澤氏を非難するが、完全な善人など存在しない。であれば、チャリティの部分については、そのお金に対してしっかりと名誉を与え、当人のそれまでの行動とは別枠で考えるべきであろうと思う。その点、イギリスは社会を安定させる手段、再分配の機能としてのチャリティをクールに使いこなしていると感じる。
    上記のように、チャリティはイギリス社会をこれまで支えるうえで運用されてきた一つのカルチャーである。日本でも資本主義社会をこのまま続けていくのであれば、チャリティのカルチャーは不可欠な要素になるであろう。

  • 369.1||Ka

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著者プロフィール

*2020年2月現在
京都大学大学院文学研究科教授

「2020年 『論点・西洋史学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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