ネルソン・マンデラ: 分断を超える現実主義者 (岩波新書 新赤版 1888)

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  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (194ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004318880

作品紹介・あらすじ

二七年間の牢獄生活の後、アパルトヘイト撤廃に尽力、一九九四年に南アフリカ共和国黒人初の大統領となったマンデラ。不屈の生涯ゆえ「聖人」視されることも多いが、実際は冷静なプラグマティストだった。偏狭な国家主義と分断が再び広がる時代に、想像を超える「和解」を成し遂げた類まれな政治家の人生を改めて振り返る。

感想・レビュー・書評

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  • すでにマンデラの関連書籍が数多く存在するなかにあって、本書は「マンデラのハンディな評伝」であること、そして「聖人」ではなく「現実主義者」のマンデラを描くことを特色として掲げる。本文は150ページほどで、新書のなかでもページ数は少ないうえに掲載写真も多く、著者自身が宣言するとおりコンパクトに仕上げられている。

    マンデラにとっての時代の節目ごとに全6章で構成される。首長の息子として生を受けた生い立ちに始まり、父の死、家出、はじめの結婚と弁護士としての就職、そして黒人差別に反対する政治活動に携わるまでに2章が割かれる。以降は1963年に国家反逆罪による終身刑を受けて過ごした27年間の獄中生活を描いたもっとも長い第5章を含めて、運動家・政治家としてのマンデラの足跡を順にたどる。

    大統領就任以降のにこやかな好々爺としての外見と、ノーベル平和賞を受賞した事実から博愛主義的な人物を思い浮かべやすいが、若き日のマンデラの姿は脂ぎっている。もともとボクシングをはじめとしたスポーツ好きで鳴らし、弁護士として一時は経済的に裕福な生活も送り、最初の妻とは浮気が原因で別れ、反差別組織内でも武装闘争もいとわない急進的なグループに属していた。終身刑を宣告されるにいたった理由も、マンデラが司令官となった軍事組織MKによる破壊活動によるものであり、温厚なイメージは見事に剥ぎとられる。

    しかしそれ以上に重要なマンデラの性質は、目的のためには相反する要素も併せ呑む融通無下さにある。本来は資本主義寄りな立場でありながらも活動にとって有利であれば共産党と手を組み、非暴力主義を用いた活動の直後には武装闘争を準備し、表向きには信仰を捨てることまでも厭わない。反差別というような正義の旗印を掲げやすい活動においては、どうしても原理主義的な言動に陥りやすいいのではないかと思うのだが、その点でマンデラが非常に柔軟に立ち回ったことを知る。このように本書は、個々の信条や主義ではなく実用性を重んじるリアリストとしてのマンデラの姿を印象付ける役割を果たす。逆に意地悪い見方をすればオポチュニストといえなくもない気がする。

    ありがちな喩えだが、マンデラを戦国時代にトップに登りつめた三人の武将、信長・秀吉・家康の誰に似ているかを考えてしまった。27年の刑に服した忍耐強さからは家康に近しい印象も受けるが、本書を通してみたマンデラはむしろ秀吉に近い人物のようにみえる。敵対する立場の人間とも「人たらし」の才能によって心に入り込み、目的のために手段を選ばない姿勢や、子供たちに対して見せた明確な出世主義の価値観からは、秀吉のイメージと重なる。マンデラが仮に反アパルトヘイト運動に身を投じるような立場になければ、その巧妙な対人能力とこだわりのなさから大きな富を築いていたのではないかと想像が膨らむ。有名人に囲まれて派手に過ごすことを好んだ晩年や、経済政策の不十分さによってのちの南アフリカに大きな分断を残す一因となったあたりにも類似が見られる。本来はもっと功利的な生き方に適正のある人物が反差別に立ち向かった結果、その能力を意外なかたちで発揮したといったほうが真相に近いのかもしれない。

    はしがきに掲げられた「コンパクトな評伝」「リアリスト・マンデラを伝える」という目標は十分に達成されている。そのコンセプト通りではあるのだがページ数が少ないこともあって、人間らしいエピソードの肉付けがあればさらに面白く読めたのではないか思わなくもない。巻末には補足としてマンデラの関連書籍が紹介されている。

  • 客観的に事実を中心にマンデラについて書かれているので、ストーリー的な面白さはないけれども、理解しやすい。

  • 女子栄養大学図書館OPAC▼ https://opac.eiyo.ac.jp/detail?bbid=2000053603

  • 東2法経図・6F開架:B1/4-3/1888/K

  • 289.3||Ma

  • ネルソン・マンデラ(1918~2013年)は、南アフリカのアパルトヘイト撤廃に尽力し、黒人初の大統領となった、現代第三世界を代表する政治家である。
    マンデラは、若くして反アパルトヘイト運動に参加し、国家反逆罪で終身刑の判決を受けて27年間に及ぶ獄中生活を送った後、1990年に釈放され、1991年にアフリカ民族会議(ANC)の議長に就任、白人大統領のデクラークと共にアパルトヘイト撤廃の活動を行い、1993年にノーベル平和賞を受賞した。更に、1994年に南アフリカ初の全人種が参加した普通選挙を経て大統領に就任し、民族和解・協調政策を進め、経済の復興にも努めた。
    著者の堀内隆行(1976年~)氏は、京大文学部卒、京大大学院文学研究科博士課程修了、新潟大学人文社会・教育科学系准教授を経て、金沢大学歴史言語文化学系准教授。専攻は南アフリカ史、イギリス帝国史。
    私は、現代世界の国際問題、特に南北問題や人種・民族・宗教による対立・紛争には強い関心を持っており、これまでそうしたテーマを扱った本を多数読んできた。その中には、マンデラが一時期自らの活動の目標としたチェ・ゲバラやカストロを扱ったものもある。南アフリカのアパルトヘイトは、今や歴史の一部といえるものなのかも知れないが、その撤廃運動の中心にいたマンデラの生涯については知っておきたいとかねがね思っていたので、本書を手に取った。
    マンデラの一生を扱った本は、『自由への長い道~ネルソン・マンデラ自伝』(1996年)など多数ある(本書の巻末では「読書案内」としてそれらの本も紹介されている)中で、著者は本書について「マンデラのハンディな評伝を目指す。今われわれは、偏狭なナショナリズムが跋扈する世界に生きている。他方マンデラは、そのような分断を超え、誰もが想像し得なかった「和解」を成し遂げた人だった。・・・マンデラは、一貫した思想を説きつづけたわけでは決してなかった。人種差別と対決する姿勢は終生変わらなかったものの、それを実現する方法は時々に変化した。こうした「現実主義者」マンデラを描くことが本書の課題である。」と書いているのだが、第三者が、バイアスに捕らわれずに、マンデラの生涯を評したものとして、本書は意義がある。また、アパルトヘイトに焦点を当てた南アフリカの近現代史として読むこともできる。(ただ、この種の伝記・評伝としてはかなり淡々と書かれており、少々物足りなさが残るのも事実だが。。。)
    現代世界が解決しなくてはならない最大の問題の一つ「人種差別問題」に一つの道筋をつけた男・マンデラを知るためのコンパクトな一冊である。
    (2021年7月了)

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