タリバン台頭: 混迷のアフガニスタン現代史 (岩波新書 新赤版 1920)
- 岩波書店 (2022年3月22日発売)


- Amazon.co.jp ・本 (222ページ)
- / ISBN・EAN: 9784004319207
作品紹介・あらすじ
「テロとの戦い」において「敵」だったはずのタリバンが、再びアフガニスタンで政権を掌握した。なぜタリバンは民衆たちに支持されたのか。恐怖政治で知られたタリバンは変わったのか、変わっていないのか。アフガニスタンが生きた混迷の時代には、私たちが生きる現代世界が抱えた矛盾が集約されていた。
感想・レビュー・書評
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タリバン台頭についての歴史及びアフガニスタンの習慣からざっと記載したものである。何も知らない人向けなのかもしれない。中村医師の殺害とアフガニスタンパキスタン間の水争いは言及していないので、中村医師殺害以前に書かれたと思われる。
これを読んでもよくわからないことが多い気がする。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
著者が記すように、イスラームという縦糸と、民族という横糸がおりなすのがアフガニスタンという国である。
だがメディアでは、縦糸のみが強調されがちである。本書は縦糸と横糸、そしてその絡み合いを理解するために必要な基礎知識を得ることが出来る。
女性の教育や公の場でのヘジャーブ着用問題が深刻な問題なのだが、それだけで全ての問題が解決するわけではないこの国の問題の深刻の一端を、本書をきっかけに理解できるとおもう。 -
女子栄養大学図書館OPAC▼ https://opac.eiyo.ac.jp/detail?bbid=2000056495
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【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/771234 -
著者は、タリバン自体が多面的な存在だとし、本書においても多面的に見る。国を統治している現実や、タリバン以外に統治主体が見当たらない実状。他方で人権侵害、「テロリスト」との糾弾、その脅威から逃れようとする人々の国外退避支援。いずれも矛盾しているように見えない、という。王制や共産主義政権期の急進的な改革が失敗したことを背景に、変化には長時間かかるとする。
混乱の中、国民に歓迎される「世直し運動」としての出現。パシュトゥン人の部族慣習法とイスラム教のシャリーアが混然一体となった行動原理。単純に「イスラム過激派」と一括りにはできなさそうだ。しかし一方で、90年代末からはアラブ世界の過激派・戦闘員流入により変節。
他者との関係では、親自国勢力育成・確保のためタリバンを支援したパキスタンをはじめ、米とのドーハ合意、経済的利益やテロ対策を重視する中国、過激派対策中心の露など。またAQをはじめとする国内テロ組織。 -
東2法経図・6F開架:B1/4-3/1920/K
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広く深い地域研究の中身を、一般読者が或る程度理解出来るように、適当な分量で纏めるという、好い意味で新書らしい一冊だと思う。
本書は、最初の方にタリバンが政権をまた握ったという出来事の周辺が綴られ、少し過去、更に過去、そしてアフガニスタン社会の歴史の概略、最近の動向を改めて考察というような各章が積み上げられている。何かアフガニスタンを立体的に概観することが叶ったように思う。
アフガニスタンは様々な要素が重なって来た地域で、複雑な模様の織物のような社会であった。現在でもそういう要素は多く在る。しかし過去数十年間の経過で、複雑な模様の織物が解けて糸の集まりのような様相を呈してしまっているということが、本書では概観されている。
20年程前の「アフガニスタンを策源地とするテロリスト集団を駆逐…」という中で「タリバン」の名が出ている。何やら暴力的な集団なのか?イスラム教に関して変な誤解が生まれるような解釈を唱えて、何やら不可解なことをやってしまっている?個人的にはそういう観方もしないではなかった。
テロリスト集団の関係者との接近で「少し変わった?」というのも事実で、自身も含めた外国の人達が観て「何かよく判らない?」というように感じる社会政策が採られているのも事実である。が、それだけでもなく、「混迷の中から出て来た」ということで「人々の一定以上の支持」も在るようだ。
王制、共和制、共産主義系政権、軍閥の実効支配と社会が崩れて行くような状況を経験したアフガニスタンでは、1990年代辺りには「かなり酷い…」という様相が見受けられたそうだ。妙な譬えで御叱りも受けてしまうかもしれないが敢えて綴る。SF系の設定の漫画や映画で「荒廃した世界を無法者達が牛耳り、無辜の人達が虐げられ…」という感、「暴力が支配…」という状況を背景とする“バイオレンスアクション”という系譜の作品が見受けられるが、1990年代に入った頃のアフガニスタンは一部にそういう様相も呈してしまていたようだ。
そういう「暴力が支配…」という状況に「抗わなければならない」として登場し、勢力を拡大したのがタリバンだった訳だ。“無法者”を排し、古くからのイスラム教の教えを実践する秩序を確立しようとする運動を起こした訳だ。1994年に旗揚げとされるタリバンは1996年頃に実験を掌握したのだという。
本書はこのタリバンの動きを多彩な角度で追掛けている。各章毎にドンドン読み進めることが叶った。
アフガニスタンというのは、古くはモスクを中心とするような村落の共同体が形成され、その中に人々の穏やかな人生が在り、子ども達の歓声が沸き上がり、人々の笑顔が溢れるというような雰囲気であったようだ。それがである。もう「何世代か?」に亘って混乱が続き、「一家で〇〇に遊びに行った」とか「運動会が盛り上がった」というような「愉しい子ども時代の想い出」のようなモノと切り離されたままに成人しているような人達が多くなってしまっている様子も伺える。
20年程前に造られた政権の下でも人々の様々な活動が積み上げられた。それが否定されてしまうようなことも起こってしまっている。こうなると、何が善く、何が善くないのか判らなくなる。が、同時に「単純に善悪を二分出来るのでもない」ということでもあるであろうか。
「タリバン」というのも「アフガニスタン関係」という程度に判っても、「実を言えば内容に通じているのでもないのではないか?」という例ではないかと思われるが、昨今の少し急な動きを踏まえて、アフガニスタンの状況を立体的に概観出来る本書は、広く御薦めしたい。 -