財政と民主主義 人間が信頼し合える社会へ (岩波新書 新赤版 2007)

  • 岩波書店 (2024年2月22日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (264ページ) / ISBN・EAN: 9784004320074

作品紹介・あらすじ

新自由主義の浸透によって格差や貧困、環境破壊が拡大し、人間の生きる場が崩されている。あらゆる決定を市場と為政者に委ねてよいのか。いまこそ人びとの共同意思決定のもと財政を有効に機能させ、危機を克服しなければならない。日本の経済と民主主義のありようを根源から問い直し、人間らしく生きられる社会を構想する。

感想・レビュー・書評

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  • 専門的知見を交えながら幅広い話題が提供されている「新書らしい」感じの一冊だった。興味深く読了したところだ。
    本書では、世の中の資金等の動きに大きく2つ在るとしている。民間企業等の活動による、利潤を追求する動きが在り、これに対して必ずしも利潤を追求するのでもない政府等が資金を動かすというモノが在る。後者を「財政」と呼ぶ。その「財政」を巡って様々な話題を展開しているのが本書である。
    所謂「パンデミック」という未だ記憶に新しい問題の故に色々な動きが世界の様々な国々で在った。日本もそれを免れてはおらず、色々な事が在った。本書の前半の方では、こうした事柄を巡っての話題が在る。
    要は「人々が生きる権利を如何に護る」ということで、医療のような公共的なサービスを如何に運営する、如何に機能を護るというような問題が「パンデミック」に際して顕在化していた。これに関して、日本国内の例や国外の事例を色々と検証するような内容が在る。
    所謂「新自由主義」というような経済関係の考え方が在る。これは米国や英国の流儀であるが、日本はこうした流れの中に在る。これらに対して、欧州諸国等の流儀が在る。そういった辺りが詳しく綴られている。
    米国、英国、更に日本では社会の様々な動きに関して「観客型」という立ち位置になる人達が多い。欧州諸国では「参加型」ということになって、常々そういうように在るべきだと社会の中で促されているようだ。
    こういう内容であれば「“出羽守”だ」と揶揄されてしまうことに終始するかもしれない。「でわのかみ(出羽守)」というのは「〇〇では」と国外事例のようなモノを列記するばかりという程の意味で時々言われる。が、本書はその「でわのかみ(出羽守)」に終始しているのでもない。
    日本国内にも、時代の変化で半ば潰えてしまったが、「大正デモクラシー」というような「参加型」で社会の様々なことを動かそうとした経験、歴史も在り、地域の人達が地域で生き生きと活動出来ることを目指した様々な経過というモノが在るのだ。そういうことが確りと取上げられている。
    著者は1946年生まれ(今年で78歳になる)ということだ。何か「後身達」や、より遠い未来を生きる世代に向けて、「人が人らしく在る未来を思い描きたい」という想いを遺し、伝えようとして本書を著したのかもしれないというような気もした。
    未だ記憶に新しいような事柄も含めた“問題”の解説も含めて、新しい明日に向けたヒントを示すような本書はなかなかに貴重だと思う。御薦めしたい。

  • 人間社会が原因の内在的危機と人間社会が原因ではない外在的危機とが有機的に関連する「根源的危機の時代」に置かれているという問題意識。

    民主主義に基づいた共同決定による財政で危機を乗り越えようとする提案。
    危機を乗り越えるために基礎自治体レベルの協働から始め、広域自治体、中央政府、中央政府どうしの協働へとつなげる提案がなされていた。地道に進めて行くしかないと思うが、残された時間との兼ね合いで、どこまで時間的余裕があるのか、そんなことが気になった。著者の理念を共有して、実現するにはどうすればいいかも気になるところ。

    現状の危機を生み出し解決しないままにしてきたのも民主主義に基づいた財政ではないのかと思ったりも。また高度経済成長期に財政が開発への財政支出を通じて環境破壊に加担したのではないか、それに対する批判的検討も必要な気もした。

    本書を読む中で著者の理念や熱い思いが伝わってきた。

  • 東2法経図・6F開架:B1/4-3/2007/K

  • 2025頻出
    2025 山形大学 後期 人文社会科学ー人文社会科学
    2025 福岡教育大学 前期 教育−中等教育(社会科)
    2025 佐賀大学 後期 経済

  • 2025頻出
    カテゴリ:法・政治
    タグ:民主主義 経済 社会 頻出

  • 財政の役割は公共財を提供することで、経済、政治、社会システムの橋渡しをすることである。政治経済が新自由的に流れる中で、社会の機能が崩壊しつつあることを著者は憂いており、民主主義によって、財政が有効に機能し、社会、環境問題に適切に資源を配分できるようなシステムに財政がサポートできるようになってほしい未来を渇望している。

  • 財政は国家の血液であり民主主義はその循環を司る心臓である。神野直彦は「財政と民主主義」の中で両者の結びつきの深さを説いた。財政が弱者を顧みず富を偏らせれば社会の絆はほどけ民主主義は形骸化する。逆に市民の声を反映し税と支出を公正に配分すれば財政は民主主義を支える礎となる。だが現代の日本では「財政健全化」の名の下に負担は庶民へ恩恵は一部へと偏る傾向がある。財政は数字の均衡ではなく人々の暮らしを支えるためにある。その原点を忘れれば民主主義の根もまた枯れてしまうのではないか。

  • はじめの章は抽象的でわかりにくかったですが、後半の章は具体的になってきてわかりやすくなってました。(それでも、かなり難しかっったです)
    日本の財政は、税金と社会保険から成り立っているけれど、この二つのバランスが悪いようです。
    困難な立場にある人たちへの支援が、現在の日本の財政では上手く届かないのかな、とこの本を読んで思いました。
    おそらく、今の財政を根本的に変えなければこれからの日本はうまくいかないと思いましたが、今の政治家たちは国民から信頼されていないから、そういう改革はできないと思いました。
    そうなると、私個人では、将来のために少しでも節約して蓄財しないといけないのかな、と思いました。

  • 342/ジ

  • 342-J
    進路・小論文コーナー

  • 前半でギブアップしそうになるも、後半は圧巻。思想の領域、とも感じました。反復して噛みしめたい、自身にしみこませたい言葉が多発です。

    日本の課題も新鮮な角度から見つめ直すことができました。「新しい資本主義」「全世代型社会保障の構築」。もっと深めていくことが重要ですね。
    変容というより転回。創造・革新。大正デモクラシーならぬ令和デモクラシー。未来が楽しみになりました。

    読後感は「税は国家なり」です。
    ことあるごとに北欧国家と比べていますが、規模感やら歴史風土やら、日本のマッチするのかはよくわかりません。けれども、目指すべき国家観というか、ビジョンを輪郭明解に示していくことは急務である、ということはよくわかりました。ここらへんの漠然とした課題意識を、うっすらと自覚しながら本に助けを求めていた自分も見えてきたので、その意味ではこの本はしっかりと未来を示してくれていると思いました。コロナ以降、こういう未来の話をしてくれる本が増えてきているような気がするには私だけでしょうか。時代が変わってきていることを実感します。遅ればせながら、ようやく私のアンテナがそっちに向いているだけなのかもしれませんけどね。

  • 女子栄養大学図書館OPAC▼https://opac.eiyo.ac.jp/detail?bbid=2000070182

  • 我々が暮らす社会を作っている大きな仕組みには、経済の領域における市場経済と政治の領域における民主主義がある。市場経済と民主主義はそれぞれ異なる原理によって働く社会システムであり、財政がその2つをつなぐ役割を果たしている。

    財政の機能を分類すると、公共財の「資源再配分機能」、公平な社会を作る「所得再配分機能」、さらに景気の変動に対する「経済安定化機能」という3つの機能があり、まさにこれらの機能を通じて市場経済と民主主義をつないでいる。

    これらの機能は、市場経済のメカニズムがうまく働かないところで、民主主義による意思決定を経てその機能不全を是正する役割を果たす。そして、社会が外在的、内在的な様々な危機に晒されている時にこそ、この財政の役割はより重要になってくる。

    筆者は、環境問題や新型コロナウイルスによるパンデミックなど、現在の社会が根源的危機の時代にあると認識しており、このような時代における財政のあり方を本書で探究している。


    日本の社会が根源的危機の時代に直面している中、現在の財政の仕組みは、その対処に向けて十分に機能しているとはいえない。その要因には、人間の生存に必要な公共的対人サービスの提供を市場に委ね、政府や財政を通じてその価格統制や費用保障をするというシステムになっているという点が挙げられるという。

    具体的な例として、新型コロナウイルスのパンデミックへの対応に見るように、日本においては公営の医療機関は限られており、民間主体の医療システムに対して政府が強制的に動員をかけることはできなかった。そのため、病床数は決して少なくないにもかかわらず、治療に当たることができる病床のひっ迫が生じ、感染者数の拡大を抑制するための行動制限などの社会的な負担が多く課せられることとなった。

    このような例は、介護サービスや子育て支援等、その他の領域においても多くみられる。そして、そのような姿からは、あくまで市場経済が主であり、財政はその一部を是正するための存在として後景に退いてしまっている姿が浮かび上がってくる。


    根源的危機の時代においては、市場経済と民主主義を通じた財政の機能のどちらかが後景になるのではなく、必要な役割をそれぞれが担う社会のあり方に転換していくことが求められている。筆者は、スウェーデンの社会システム等を紹介しながら、今後の転換の方向性について論じている。

    中でも筆者の提言の中心にあるのが、「社会保険国家」から「社会サービス国家」へという点であると感じた。

    社会保障の提供を現物(サービス)給付と現金給付に分類すると、日本の社会保障制度は現金給付である年金と医療(医療保険)に極端に偏ったかたちになっているという。年金は所得保障であり、医療保険は費用保障である。

    一方、介護や子育てに関する現物(サービス)給付の提供は、スウェーデンと比較すると1桁、ドイツやフランスと比べても約半分低い水準になっている。これらのサービスは欧州の各国においては公的な仕組みの中で提供されるものも多く、子育てや老後の生活にまつわる不安や格差を取り除くために大きな役割を果たしている。

    日本でも欧州やアメリカでも、近代以前にはこれらのサービスに提供に地域コミュニティや教会、寺院などの組織が大きな役割を果たしていた。しかし、近代社会ではいずれの国でもそれらの組織の力が弱まっており、それに対応した社会的な仕組みを、財政を通じて構築していくことが求められていると言える。


    当然ながらこのような現物給付を実現するためには、財政の規模を拡大する必要があり、それはとりもなおさず税負担の増につながる。日本はOECDの中でも国民所得に占める租税負担率が低く、また社会保険料収入の割合も低い。このような社会から、現物給付による子育てや介護への不安の少ない社会に移行していくためには、社会的な意思決定が必要となる。

    社会的な意思決定を行うためには、社会保障が透明な仕組みの中で運営されている必要がある。この透明性の確保には、全ての情報が公開されているということも重要であるが、さらに仕組み自体が分かりやすいということも大きなポイントになる。

    日本の社会保障の仕組みは負担の段階において税と社会保険料に分かれているだけでなく、それが国から地方への交付金や特別会計、保険組合などの様々な組織に複雑に流れ、さらに給付の段階でも公的扶助と社会保険という形で年金、医療、介護などに支給されている。この仕組みは、負担と給付の関係を分かりにくくし、社会保障の改革に対する国民的な議論が行いにくい状況を生み出している。

    筆者は、国家全体に関わる行政を行う国と、地方に則した行政を行う地方自治体から、社会保障に関わる社会保障基金政府を独立して設けるという提案を行っている。これは、ドイツ、フランス、スウェーデンなどの欧米諸国では見られる組織形態であり、社会保障の負担と給付の関係の透明性を高め、社会保障に対する財政民主主義を機能させることに寄与する。

    このような発想は興味深いものであると感じた。日本においては、道路などの社会基盤整備など、当初は目的税や特別国債をベースにした制度が構築されていながら、徐々に他の税からの交付金や制度の拡大解釈による資金の利用といった形で、本来取り組むべき事業の費用と負担の関係が曖昧になる傾向があるように思う。

    既に非常に複雑な制度になっている社会保障制度においてこのような大規模な制度改正を行うことは大変難しいことであるとは思うが、健康保険や介護など一つひとつのテーマに対して、我々が負担している保険料がどのような形で給付に繋がっているのかをなるべく独立性の高い形で検証できるような仕組みを作っていくことは、大切なのではないか。


    人間の社会は市場経済だけで機能するものではなく、社会的な相互扶助の仕組みが不可欠である。そして市場経済と社会システムをつなぐのが財政であり、この財政のあり方は社会的な合意という民主主義に支えられている必要がある。

    本書は、日本の社会保障と財政の問題点について分かりやすく論じているとともに、財政が本来の役割を果たすためには民主主義が機能することが大切であるという、筆者からの強いメッセージが込められている本であると感じた。

  • 【配架場所、貸出状況はこちらから確認できます】
    https://libipu.iwate-pu.ac.jp/opac/volume/571861

  • ふむ

  • 【本学OPACへのリンク☟】
    https://opac123.tsuda.ac.jp/opac/volume/713181

  • 311.7||Ji

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著者プロフィール

神野直彦(じんの・なおひこ)
日本社会事業大学学長、東京大学名誉教授(財政学・地方財政論)
『システム改革の政治経済学』(岩波書店、1998年、1999年度エコノミスト賞受賞)、『地域再生の経済学』(中央公論新社、2002年、2003年度石橋湛山賞受賞)、『「分かち合い」の経済学』(岩波書店、2010年)、『「人間国家」への改革 参加保障型の福祉社会をつくる』(NHK出版、2015年)、『経済学は悲しみを分かち合うために―私の原点』(岩波書店、2018年)
1946年、東京大学大学院経済学研究科博士課程単位取得満期退学



「2019年 『貧困プログラム 行財政計画の視点から』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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