戦争ミュージアム 記憶の回路をつなぐ (岩波新書 2024)

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  • 本 ・本 (220ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004320241

作品紹介・あらすじ

日本が当事国であった戦争を知る世代が少なくなるなか、忘れてはならない記録と記憶の継承を志す場があり、人がいる。戦争の時代を生きた人間を描くノンフィクションを多数ものしてきた作家が、各地の平和のための博物館を訪ね、そこで触れた土地の歴史と人びとの語りを伝える。未来への祈りをこめた、今と地続きの過去への旅。

感想・レビュー・書評

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  • 私の趣味は博物館めぐりである。大抵は考古学博物館ではあるが、戦争・平和博物館も多くまわっている。わりとたくさんまわっていると思っていたけれども、此処に紹介された14の博物館のうち、行ったことのあるのはたった3博物館だった。ショックなのはそこではなくて、行ったことがあるのに、書いていることのほとんどを、私は初めて「気がついた」のである。

    梯久美子(かけはしくみこ)さんは、私の尊敬する数少ないノンフィクション作家である。本書はミュージアムガイドではない。詳しいアクセスも入場料金も記載がない。ノンフィクションなのである。多くの遺物の中から、何を選びとって、どう記すか。それが作家の価値を決める。

    長崎原爆資料館は、入ったはずなのに、おそらく時間がなくてあっという間に出たのだろう、100%覚えていなかった。

    対馬丸記念館のことについては、昨年6月にガイドブックを取り上げてレビューした。遺された外間姉妹の2つのランドセルについて、私には全く記憶がなかった。別の疎開船にあった為に返ってきたランドセルを、母親は押し入れにしまい、33回忌が済むまで誰にも見せなかったという。沈没後も厳しい箝口令のために、親たちは長い間、子の生死を知ることも叶わず、霊を弔うこともできなかったという。「亡くなってなお、子供たちは国策の犠牲であり続けた」‥‥こういう視点は私にはなかった。

    舞鶴引揚記念館は、2009年の夏に行った。紙が入手できない中、白樺の皮をはがし、空き缶で作ったペン先を使って書いた白樺日誌は一応見ていたが、いかに苦労して書いたか、どんなに奇跡的に持って帰れたか、については本書で初めて想いを馳せた。その他、初めて知った遺物多数。記念館裏手の丘にある展望台からは、復元された出迎えのための桟橋が見下ろすことができるとは初めて知った。

    もちろん、ここで扱われなかった戦争ミュージアムも多い(広島平和祈念資料館さえない)。それは本書の瑕疵ではない。体験者や学芸員から聞き取りが出来れば真摯に聴くこと。一つの遺物から多くの物語を想像すること。戦争をもたらしたものへ怒り、犠牲になった人たちに寄り添うこと。そういう姿勢を培う本だと思う。

  • 時代の風:親世代の戦争体験 過去に目を開く回路に=梯久美子・ノンフィクション作家 | 毎日新聞(2021/8/8有料記事)
    https://mainichi.jp/articles/20210808/ddm/002/070/126000c

    訪ねてみよう 戦争を学ぶミュージアム/メモリアル - 岩波書店(ジュニア新書)
    https://www.iwanami.co.jp/book/b271247.html

    平和ミュージアム - 岩波書店
    https://www.iwanami.co.jp/book/b258003.html

    戦争博物館 - 岩波書店(ブックレット)
    https://www.iwanami.co.jp/book/b253867.html

    梯久美子さん「この父ありて」 田辺聖子・石垣りん・渡辺和子…昭和の女性作家9人が描いた父娘関係|好書好日(2023.01.11)
    https://book.asahi.com/article/14807760

    戦争ミュージアム - 岩波書店
    https://www.iwanami.co.jp/book/b648024.html
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    (yamanedoさん)本の やまね洞から

  • 梯久美子さんの著書を読むのはこれで4冊目。『カタログハウス』2020年盛夏号から2024年初春号に連載された「シリーズ 戦争を忘れない」を補筆し書籍化した本書。亡き両親を含め、自分は戦争の時代を偶然生きながらえたと知る世代が、何よりも望んでいたことは平和。子どもの頃はなぜそんなに当たり前のことをわざわざ願うのか?とさえ思っていたが、ひとの記憶は残さなければ消えてしまうのだ。私たちにできることは遺された記憶を次世代に繋ぐこと。本書はそのための素晴らしいガイドブック。

  • 頁を繰る手が停め悪くなり、素早く読了に至った一冊である。程好い分量で方々の展示施設を核とした話題が展開する。各篇を興味深く読み進めながら、雑誌連載であると感じていたが、実際にそうであった。そしてその連載記事を下敷きに、幾分のコラムを加えているという構成だ。
    本書では戦争に纏わる記憶を伝えようとしている各地の展示施設を14箇所取り上げている。「こういう展示施設が在ったのか?!」と少し驚いた内容が多かった。地元である稚内の、樺太の経過を伝える施設も交じっていたが、これらに関しては既知の内容を確認する感ではあったのだが。
    14箇所に関しては、「戦争」に関する展示とでも言った場合に「最も有名」というような場所を取上げているということでもなく、「以外に知られていないかもしれない」を敢えて択んでいるようにも見える。
    各展示施設が択んでいる展示テーマは多岐に亘っていて興味深い。毒ガス、予科練、回天、松代の“大本営”、対馬丸、戦争マラリア、満蒙開拓団、樺太という辺りが少し変わっているかもしれない。長崎原爆や東京大空襲というようなテーマも在る。更に美術作品を展示している例も取り上げられている。
    何れも、色々な形で様々な世代の人達の命が損なわれる戦争の無惨な様を伝えるものである。同時に無惨な様を産出す「時代の狂気」というようなことを考える材料を提供しているとも言えると思う。そして紹介される、展示施設で伝えられている挿話の中には、気持ちに突き刺さる内容も少なくない。
    結局、「戦争を知らない」という意味では、昭和20年代に生まれた70代の人達も、凄く若い10代の人達も同じかもしれない。幅広い年代の人達に、「現在を生きる人達が想像することすら困難かもしれない状況」を伝えるべく、多くの展示施設で努力が続けられているということが本書では紹介されている。
    例えば、原爆で負傷者が溢れた状況下で「何故、病院へ行かない?」というように尋ねる人が在るのだという。病院のような医療機関も含めて、何もかも破壊され、当然のサービスが当然に受けられなくなり、破壊兵器の威力で負傷したような人達は途方に暮れる他無いような状態に陥ってしまうのが「原爆」というような状況なのだ。
    色々な想いで「伝えるべきこと」を伝える努力を続けている本書で紹介されている施設である。これらに関しては、「未だ世界から戦禍が途絶えた訳でもない」という中であるからこそ、多くの人達に顧みられるべきなのだと思う。
    本書で内容を知り、具体的な訪問方法等に関して少し調べて、各展示施設を訪ねてみたいと思うようになった。そういう意味でも、本書は好い内容であると思う。広く御薦めしたい。

  • __いま生きている人だけの声を聞き、今日と明日のことのみを考えるとき、国も人も判断を誤ることがある。つねに過去をかえりみながら進むことが必要なのだ。

    戦争の歴史というと、

    広島の平和記念資料館と、沖縄のひめゆりの塔、が、修学旅行などで行ったこともあったりで身近でしたが、それ以上知る機会や知ろうという考えが及んでいませんでした。

    それぞれの地で、それぞれの戦争の経験があることを改めて思い知らされました。

    知らない歴史、というよりは、ちょっと知っている、聴いたことあるけれども、知ろうとしない事実。

    像山地下壕は初耳でした。なんだか架空のお話みたいだと思いました。

    あとは、初めの毒ガス資料館。

    化学兵器の廃棄などへの予算が今も計上されているということは、現代の私たちにも無関係ではないお話。

    核兵器関連は、長崎の資料館、戦後ではあるけれども水爆関連の第五福竜丸。

    若者、子どもへの戦争の生々しい被害に心が痛む、周南市回天記念館、対馬丸記念館。

    そのほか民間人と他国との関わり合いが印象的だった、稚内市樺太記念館。

    戦後にも尾を引く戦争の悲惨さ、舞鶴引揚記念館。

    すべてに一喜一憂していたら気持ちが持たない、ということもありますが、

    自分たちの社会、未来をつくっていく責任を果たすためにも、過去の教訓は知らないふりはできないな、と。

    負の遺産はもういらない。増やすべきでなない。

    来年には終戦から80年となり、戦争体験者の高齢化と次世代にどう教訓を伝え続けていくか、という課題が多く取り上げられていますが、

    たくさんの資料、思いは、収集され、編纂され続けている。

    それを今に生きる一人一人が今の時代のなか、社会のなかで自分なりに受け取り続けていくしかないのだろうと思う。

    その一つの実践として、著者の文章があるようにも思いました。ありがとうございます。

  •  日本各地の14の戦争関連史跡や博物館の訪問記と解説。箱モノ、と冷めた目で見がちだが、戦争関連の著作が多い著者でも、かつて取り上げた人物が書いた手紙文に胸を打たれたり、ずいぶん調べたはずの焼夷弾の再現模型の重さに驚いたり。また原爆の図の米国での展示で、時間をかけて絵を見ていた退役軍人。戦争の惨禍は散々語り尽くされてきたと思っても、やはり博物館や史跡には価値があるのだろう。
     なお松代大本営跡は、自分自身も訪れた時にまさに壮大な「無駄」とは感じた。ただ著者も指摘するように、昭和天皇がその言葉を口にするのはどうなのだろう。

  • 戦争の時代を生きた人々の群像を描き出してきたノンフィクションの名手が、各地に残される戦争の記憶を紡ぐ記念館、博物館、美術館などを探訪する一冊。どの一章も読み応えがありますが、予科練平和記念館、戦没学生慰霊美術館、周南市回天記念館、原爆の図丸木美術館、長崎原爆資料館の旅の記録が圧巻。特攻隊、回天など、太平洋戦争の最中、この日本という国は、兵士を消耗品、それも極めて安価に見積もった消耗品として扱っていたことが改めてわかる。なぜだったのか?どういう精神状態だったのか?
    戦争は人を殺すことだ、戦闘員も戦闘員以外も大量に。
    世界が右傾化し、ウクライナ、ガザなどで戦火が絶えない今、油断すれば、また若者が命を失う悲劇が訪れかねない。重苦しさを残す一冊でした。

  • なぜ残すことが重要なのかをよく理解できた。歴史との繋がりを感じるためにもぜひ足を運びたいと思う。

  • 貴重な本ではあるが、各ミュージアムの説明が簡潔過ぎる気がします。また、私もそれほど知ってるわけではないですが、広島平和記念資料館がなく、まあそれでも、あとがきで言い訳めいたものが書かれてありましたので、まあ良しとしても、丸木位里と俊さんの原爆の図があって、何故?沖縄戦の図はないのか、疑問を抱きました。なんか物足りなさが残る読後感でした。

  • 書店で気になって、いくつかの書評を目にし、入手・読了。これはしかし、素通りしてしまわなくて良かった。取り上げられる施設は14と多くはないんだけど、その分、それぞれの背景への言及が十二分になされていて、追体験できる度も抜群。松代地下壕とか戦争マラリアとか稚内堤防とか、あらためて戦争の無知を自覚し、襟を正された次第。かなり新しい施設もいくつかあり、時を経ても尚、戦争を風化させないでおくべく動く人たちに頭が下がる。戦争反対。

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著者プロフィール

ノンフィクション作家。1961(昭和36)年、熊本市生まれ。北海道大学文学部卒業後、編集者を経て文筆業に。2005年のデビュー作『散るぞ悲しき 硫黄島総指揮官・栗林忠道』で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。同書は米、英、仏、伊など世界8か国で翻訳出版されている。著書に『昭和二十年夏、僕は兵士だった』、『狂うひと 「死の棘」の妻・島尾ミホ』(読売文学賞、芸術選奨文部科学大臣賞、講談社ノンフィクション賞受賞)、『原民喜 死と愛と孤独の肖像』、『この父ありて 娘たちの歳月』などがある。

「2023年 『サガレン 樺太/サハリン 境界を旅する』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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