アルベール・カミュ 生きることへの愛 (岩波新書 新赤版 2035)

  • 岩波書店 (2024年9月24日発売)
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本 ・本 (240ページ) / ISBN・EAN: 9784004320357

作品紹介・あらすじ

世界の美しさと、人間の苦しみと――双方に忠実であろうとしつつ、生きる意味を探求し続けた作家、カミュ。『異邦人』『ペスト』をはじめとする作品は、時をこえて私たち自身の生をも映し出している。アルジェリアでの出生から不慮の死まで、生涯に沿ってテクストをよみとく。「不条理」の先に作家は何を見ていたのか?

感想・レビュー・書評

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  • カミュの生涯と、それぞれの作品についてとても詳しく学ぶことができる本です。

    きちんと作品を読んだことはないけれども、カミュの経験した計り知れない個人的な経験に基づいてすべての言葉、ストーリーが生み出されていることを知る。

    いくつか著者がキーワードを出されているので、作品の意味するところについて辿る際の道しるべになりそうです。

    印象としては、殺人と潔白、潔白な殺人者、について、とても突き詰めて小説を書き続けられているように思いました。

    ・・・

    カミュは自身の作品を、『異邦人』に代表される第一の系列「不条理」(1942年)、そして『ペスト』に代表される第二の系列「反抗」(1947年)の二つに分け、遺作『最初の人間』で見据えていた第三の系列として「愛」があるとのことです。

    不条理の主題は、絶対価値の失われた時代にあって、資の定めのもとにある人間の姿。

    反抗の主題は、歴史の名のもとになされる抑圧と殺人の拒否。

    愛の主題は、未完のため断片にとどまっているものの、家族の会い、故郷への愛、民族共存を可能にする愛などが素描されている、とのことです。

    ・・・

    『ドイツ人の友への手紙』(1945年)では、1943年からカミュがレジスタンス派新聞社に送った手紙3通と未発表の第4信が載せられているそうです。第一次世界大戦前は平和主義者だったカミュがレジスタンス活動家に変貌したことを明らかにするものだと論じられています。第4の手紙では、ニーチェ思想から出発しながら、ニヒリズムではない、人間界の意味を確信しています。

    「私は、いまでもこの世界には上位の意味はないと信じ続けている。しかし、世界には意味のある何かが存在すること、それが人間であることを知っている。なぜなら唯一人間だけが意味をもつことを要求するからだ」

    また、ここで用いられた架空の対話の形式は、のちにノーベル文学賞を受賞するきっかけともなる『転落』でも用いられているとのこと。

    とにかく、人間への愛が強く、それが正義感と行動の原動力になっているように感じました。

  • 高校生で初めて『異邦人』を読んだ時から、カミュの乾いた文体に、「文学っぽさ」を感じてずっと憧れてきた
    そのカミュが、激動のアルジェリアをどう生きてきたのかがなんとなくわかっておもしろかった
    主題を定めて小説、評論、戯曲の3作を書くところに、なんとなくカミュの性格が感じられて、近しさを感じるようになった
    もう少し色々な作品を読んで、また色々考えたい

  • そもそも不条理からスタートしているカミュの哲学は、不条理に抵抗するマインドを、私達に教えてくれると思う。今を汲み取り、岩の重みに抗い、光へと向かう幸福、その美しさへの触れ方を学べた気がします。不条理な死から逃げずに、しっかりと向き合い、生への愛を活性化し、生を解放するという死生観、そして肯定と否定の間で揺れ動く緊張感の哲学は、沈鬱な気分の時、よく生と死の狭間を行ったり来たりする私の思考と共鳴しました。そして、どっちつかずの立場を貫くことを肯定する彼の言葉は、私にとってはとても衝撃的でした。

  • 主要作品の概要(といくらか実際に流し読んだ)程度の親しみ具合にあって、人物像の肉付けとしては新書の紙幅の中で広く触れることができる内容であったが、どこかカミュ自身についての関心が薄い部分もあって、内容の充実度に比して自身の感性に響かない部分が残念でもある。

  • 二項の間で緊張関係を保とうとする姿勢が今求められているものである。カミュを通じ、愛を持って世界を見つめることが必要なのかもしれない。

  • 女子栄養大学図書館OPAC▼https://opac.eiyo.ac.jp/detail?bbid=2000072276

  • 東2法経図・6F開架:B1/4-3/2035/K

  • 第一章 アルジェリアの青春――「節度なく愛する権利」
     1 貧民街の少年
     2 習作から最初の出版へ
     3 地中海の霊感

    第二章 不条理の時代――「世界の優しい無関心」
     1 『異邦人』――戦時下パリ文壇への登場
     2 パリの劇作家

    第三章 反抗の時代――「われ反抗す、ゆえにわれらあり」
     1 レジスタンスから解放へ
     2 『ペスト』――長い労苦の果ての成功作
     3 反抗と正義の戯曲
     4 冷戦時代の論争

    第四章 再生へ向けて――「孤独と読むか、連帯と読むか」
     1 失意の時代とアルジェリア戦争
     2 『転落』――周囲を驚かせた傑作
     3 ノーベル文学賞

    第五章 愛の時代――「私の夢見る作品」
     1 不慮の死と遺作
     2 『最初の人間』――未完の自伝的小説

     コラム カミュと日本

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著者プロフィール

1949年京都生まれ。京都大学卒業。クレルモン=フェラン大学博士課程修了。大阪市立大学助教授を経て、現在、奈良女子大学教授。著訳書、共編著:『カミュ「異邦人」を読むーその謎と魅力』(三野博司著、彩流社、2002年)、「文芸批評を学ぶ人のために」、「小説のナラトロジー」(ともに世界思想社)、「フランス名句辞典」(大修館書店)ほかに『カミュ沈黙の誘惑』(三野博司著、彩流社、2003年)、『星の王子さま』(サン・テグジュペリ著、三野博司 訳、論創社 2005年)、『「星の王子さま」の謎』(三野博司著、論創社 、2005年)、『「星の王子さま」を学ぶ人のために』(マリーズ・ブリュモン著、三野博司訳、世界思想社教学社、2007年)、『「星の王子さま」で学ぶフランス語文法 』(三野博司著、大修館書店、2007年)、『「星の王子さま」事典』(三野博司 著、大修館書店、2010年)等。

「2011年 『カミュ『異邦人』を読む その謎と魅力』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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