詩のこころを読む (岩波ジュニア新書 9)

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  • / ISBN・EAN: 9784005000098

感想・レビュー・書評

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  • 優れた評伝にせよ、詩論にせよ、人や作品を紹介するということは自らを論じることに自然となっていくのだろうということを私は改めて感じた。

    「自分の思いを深く掘り下げていくと、井戸を掘るように掘り下げていくと、地下を流れる共通の水脈にぶちあたるように、全体に通じる普遍性に達します。それができたとき、はじめて表現の名に値するといえましょう。」

    彼女は言葉に出したことは、例えばこのような言葉は、必ず自らに厳しく課している言葉だろうと思えます。また彼女はこんなことも書いています。

    「詩は感情の領分に属していて、感情の奥底から発したものでなければ他人の心に達することはできません。どんなに上手にソツなく作られていても「死んでいる詩」というのがあって、無残な屍をさらすのは、感情の耕しかたがたりず、生きた花を咲かせられなかったためでしょう。」

    これは読む分には、なるほどと思うのですが、作り手にとっては、とってもとっても厳しい言葉です。もう私なんか、詩を創るのは止めようかと思ったくらいです。けれどもそのくらい厳しくなくては、詩人にはなれないのでしょう(私は素人なので自分で自分を許します(^^;)。

    彼女の紹介してくれた詩は総べて素晴らしいのですが、やっぱり人には好き嫌いというのがあって、私が気に入った詩は、高橋睦郎「鳩」、坂田寛夫「練習問題」、黒田三郎「夕方の三十分」、石川逸子「風」、岸田衿子「一生おなじ歌を 歌い続けるのは」、吉野弘「生命は」、河上肇「老後無事」、永瀬清子「悲しめる友よ」でした。

    そうそう、終章にひとつ、彼女は素敵な言葉を書いていました。

    「 これから先、いろんなことが科学的に解明されていくでしょうが、死後の世界のことはついにわからずじまいで最後まで残るでしょう。どんな敏腕なルポライターも、あの世からのルポを送ることはできません。想像力を働かせ、それぞれが、ただふみ迷うばかりです。
     でも、どうやっても、たった一つだけ、わからないことがあるというのは、考えてみれば、素敵に素敵なことではないでしょうか。」

  • 詩はてんで疎くよくわからないものが大半な私ですが、こちらの本で詩の読み方、視点や視座を教えてもらった気がする。

    解釈を読んだあともう一度詩を読み返した時の、腑におちる感覚が心地よく、詩の苦手な私にはとても新鮮な体験ができました。

    詩の捉え方はおそらく人それぞれだと思うけれど、今の私には最適な1冊だった。

    楽しみ方がもうちょっと身に付いたら詩集なんかにも手を出したい。

    ちなみに好きな詩も出来てホクホク♪

  • 茨木のり子さんの心に残った詩が人生の流れに沿って編まれ、彼女の熱い解説つきで読める。

    岩波ジュニア新書が創刊された1979年に出版された本で、40周年を迎えた2019年には、歴代2位の人気書にランクインしたロングセラー。
    https://www.iwanami.co.jp/jr40th/

    茨木のり子の散文や詩は『言の葉』で結構網羅した気になっていたけど、↑のサイトのおかげで本書が毛色の違う本だということを理解し、手に取って本当に良かった。

    なんだか死の恐怖にとらわれてくよくよしていたとき、本書を読んで、生まれること・生きること・死ぬことを包括的に描いた詩たちと出会い、連綿と続く「生の営み」を俯瞰的に見ることによって恐怖がすっと抜けた。詩の浄化力ってすごい。

    茨木のり子さんが繰り出す詩の解説も生き生きとした活力に満ちていて、言葉自体がとても楽しい。これは何度でも折に触れて読み返したい本だと思いました。


    (仏語からの翻訳詩も載っていて、原文を調べてみたのでメモ。原文と比較しても和訳が全く違和感ない、名訳でした。)

    Fête - Jacques Prévert

    Dans les grandes eaux de ma mère
    je suis né en hiver
    une nuit de février
    Des mois avant
    en plein printemps
    il y a eu
    un feu d’artifice entre mes parents
    c’était le soleil de la vie
    et moi déjà j’étais dedans
    Ils m’ont versé le sang dans le corps
    c’était le vin d’une source
    et pas celui d’une cave

    Et moi aussi un jour
    Comme eux je m’en irai

  •  あまり読んだことも書いたこともなかった詩ですが、何となく惹かれて読んでみました。

     茨木のり子さんが選んだ傑作ばかりが載っていて、どう読んだか、どこが良いのか、などをこれまた素晴らしい文章で教えてくれます。独特な漢字の使い方が、その言葉の意味を熟知して使っているんだなと感心させられることもありました。

     読みどころを教えてもらうと、一層その詩が唯一無二の、とても力を持ったものに感じられて、読むのが面白くなってきます。

     淡々と、情景描写や経験したことが書かれた後に、ふと最後の数行で、作者自身の中に入り込んでくる言葉があると、その詩は一気に飛翔して、作者の処から読み手の処へとやってきます。その瞬間、その詩がとても愛しく感じられるから不思議です。

     メモしていなかったので、正確な言葉を覚えてないのですが、「人間として上等でなければ、良い詩が描けない」といったことを茨木さんが書いていました。確かに心打たれる詩を読んでいると、作者の人間性に惹かれ、私もこんな風に生きてみたいと思うことが何度もありました。

    心に残った詩と、茨木さんの文章

    ※生命は
    その中に欠如を抱き
    それを他者から満たしてもらうのだ(吉野弘)


    ※「その夜」から 
    私を横に寝かせて起こさない
    重い病気が恋人のようだ。(石垣りん)

    ※自分の中に1人の一番厳しい教師を育てた時、教員はなれり、という気がします。

    ※浄化作用(カタルシス)を与えてくれるか、くれないか、そこが芸術か否かの分かれ目なのです。

     この他、特に好きだった詩は、
    石垣りんさんのものと、
    新しい刃 安西均
    助言 ラングストン・ヒューズ(木島 始訳)
    などがありました。

    詩が好きな人はもちろん楽しめますし、私のようにあまり触れてこなかった人は特に、詩を読む面白さを知ることができる、かなりの良書だと思います。この本に出会えて良かったです。

  •  詩、単体で「好き」と思うものと、茨木のり子さんの鑑賞により「おお、そうか」と思うものと。生まれて/恋唄/生きるじたばた/峠/別れ、という章の編み方も良い。
     また十年後に読みたい。

  •  高等学校とかで「国語」の時間に習う(?)詩というものがあるのですが、さて、どう読めばいいのでしょう。そんな疑問がわいたときに手にとられるのがいいのではないでしょうか。
     40年前に教室で高校生相手にすすめた本です。読み直して、古びてなさに感心しました。率直で、正直な茨木のり子さんが、ここにもいます。
     ブログにも書きました。覗いていただけると嬉しい。
      https://plaza.rakuten.co.jp/simakumakun/diary/202111030000/

  • 素晴らしい本でした。

    私の中では石垣りんの「くらし」が白眉の一編でした。

    詩のことはよくわからないからという理由であまり触れてこなかった。

    けれどこの本の中にある詩に一つひとつ触れ、解説を読む。

    少しだけわかったような気がする。詩にもう少し触れてみようかなと思う。

    私は宇多田ヒカルの歌詞が好きなのだけれど、(特にFantome以降)彼女の詩のどの部分に惹かれているのか、言葉のチョイスなのか、その飛躍なのか、とか自分なりに理解出来るかもしれない。

    音楽が好きなのでたくさんの詩に触れてきた、とも言えるのだ。

    歌詞も詩だと仮定する。私の世界はこれから途方もなく広がる。

    姪っ子柄中学生になったら、高校生になったら渡してあげたい。読むか読まないかは本人にお任せするけれど。

  • 詩はむかしから苦手で、ツルツルと読んでどう解釈したらいいのか、いつも分からずじまいだった。

    子どもが産まれて、工藤直子さんとか、岸田衿子さんの詩や絵本に接する機会があり、おふたりの世界が大好きになった。特に、詩は黙読するより、音読したり、読んでもらうのがいい。
    小学校で、読み聞かせをした時、時間が余ったので詩を読んだら、子どもたちが目をキラキラさせて聴いてくれたのが忘れられない。

    茨城のり子さんによるさまざまなテーマの詩を取り上げた本書、特に濱口國雄の「便所掃除」は衝撃だった。詩は何も美しいものばかりじゃなくて、こんな生々しい、ある意味グロテスクなものもあるのかと、ハッとさせられた。

    戦争をうたった石川逸子さんの「風」も、ウクライナで戦争が起きている今読むと、共感が深い。
    「わけもわからず、憎んでもいないよその国の人々と殺し合いの羽目に至るよりは、ぐうたらでも、ちんたらでも、なまけものでも卑怯者でも、そのほうがはるかにましです」

    「寂しさの釣り出し」に合わないように気をつけて生きよう。

  • 詩は、感情や感性のもの。
    散文は論理を積み重ねていきますが、
    そうやって分析することができないものを、
    詩人は、詩として表現する。

    だから、
    読んでみて浮かぶ感想ははっきりした言葉にならず、
    大かたは、
    「ああっ」
    だとか
    「はああっ」
    だとか、
    「そうなんだよ!」
    だとかの感嘆や納得の気持ちが多い。

    あるいは、詩は自分の内部に埋もれている感覚や感情や記憶を
    呼び起こすトリガーになったりもするでしょう。

    詩でこそ開いていける、というところがある。
    社会に対してだってそうだし、
    人間理解だってそうだし、
    世の中そのものだって、過去や未来や宇宙にだってそうなんだなと
    今回、本書を読んでそう思いました。

    繊細だけれど力強くもあり、
    まあるくなってそうで、とがってもいる。
    体内を流れる血であり、流れ出た血でもある。

    何を書いているかはっきりはからないから苦手、という人は多くいそうです。
    僕だって、ずっとそうでした。
    言葉の遊戯、言葉のパズル、言葉のコラージュなんだろう、
    と決めつけたこともあります。
    そういった面は、技術としてあるのでしょうが、
    詩が発現してくる源に目を凝らしてみると、
    また考えが改まります。

    本書は、著者・茨木のり子さんの解きほぐし方が、
    丁寧だし、いろいろと察してもいるし、
    大事に詩を扱っているし、
    言葉がわかりやすいしで、
    詩にひたる経験がしたい! 
    という人にはうってつけの本でした。

  • 鈴木敏夫(スタジオジブリ)の著書の中で紹介されていたので読んだ。

    鈴木が宮崎駿・高畑勲コンビと知り合って間もないころ、2人の教養に追いついて対等に会話できるようになりたい一心から、彼らの愛読書を片っ端から濫読したという。そのうちの一冊がこれで、高畑勲が愛する本の一つだとか。

    1979年刊で、私が買ったものは2010年の第70刷。ロングセラーなのである。

    詩人茨木のり子が、若い読者(岩波ジュニア新書の主要読者層である10代後半)に向けて自分の愛する詩の数々を紹介し、そのどこが素晴らしいのかを綴っていく本。詩の味わい方入門であり、名詩ガイドでもあるのだが、教科書的な無味乾燥や「上から目線」とは無縁である。文章も平明。

    セレクトされている詩の大半は戦後日本の詩であり、若者にとってもとくに身構えずに読めるものばかりだろう。

    あたりまえだが、著者による地の文自体が詩的香気に満ちたものなので、上質の詩集を読むように味わうことができる。

    私が傍線を引いた一節を挙げる。

    《詩は感情の領分に属していて、感情の奥底から発したものでなければ他人の心に達することはできません。どんなに上手にソツなく作られていても「死んでいる詩」というのがあって、無惨な屍をさらすのは、感情の耕しかたが足らず、生きた花を咲かせられなかったためでしょう》

    《汚いものでも十分詩になり、詩語という特別のものは何もなく、ふだんの言葉が昇格するだけで、詩の美しさは結局それを書いた人間が上等かどうかが、極秘の鍵を握っているらしい……そんなこともいろいろ教えられます(濱口國雄の詩「便所掃除」に触れて)》

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著者プロフィール

1926年、大阪生まれ。詩人、エッセイスト。1950年代より詩作を始め、53年に川崎洋とともに同人雑誌「櫂」を創刊。日本を代表する現代詩人として活躍。76年から韓国語を学び始め、韓国現代詩の紹介に尽力した。90年に本書『韓国現代詩選』を発表し、読売文学賞を受賞。2006年死去。著書として『対話』『見えない配達夫』『鎮魂歌』『倚りかからず』『歳月』などの詩集、『詩のこころを読む』『ハングルへの旅』などのエッセイ集がある。

「2022年 『韓国現代詩選〈新版〉』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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