チェルノブイリから広島へ (岩波ジュニア新書 251)

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  • Amazon.co.jp ・本 (203ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784005002511

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  • 著者は、「DAYS JAPAN」編集長の広河隆一さん。原発事故後のチェルノブイリを報じてきた広河さんが、事故から9年目のチェルノブイリと、原爆投下から50年の広島とを、「放射線による被害」、「被曝調査」、「救援活動」を中心に書いたもの。

    この広河さんの本で、私は初めて「子どもの甲状腺ガンは世界でもまれな病気だ」ということを知る。子どもの発病率は、世界でも50万人に1人とか、100万人に1人と言われているくらい珍しいものだという。チェルノブイリの被災地で調査をおこない、「何も問題はない、事故が原因の病気は発生していない、具合が悪い人は精神的にやられているだけだ」と発表したのがIAEAで、その事故調査委員長だったのは、広島の学者・重松逸造という人だった。だが、その発表当時の1991年、すでに子どもの甲状腺ガンは異常なまでに多発していた。

    チェルノブイリに何度も出かけているという原医研(広島大学原爆放射線医科学研究所)の佐藤幸男さんは、「IAEAの調査団が知らなかったわけはない」という。現に、同じ1991年にベラルーシを訪れた佐藤さんは、ある医者から「小児甲状腺ガンが一年ぐらいの間に20~30例くらいでている」と聞いている。他の研究所や病院でも同じことを聞く。

    1991年、広島でひらかれたHICARE(放射線被曝者医療国際協力推進協議会)の公開報告会では、チェルノブイリ被災地では何も問題ないというIAEA側の学者と、それは誤りだとする学者の双方が報告をおこなう。子どもの甲状腺ガンが多発していると報告した学者たちは、IAEA支持派の学者たちから、異常なほど激烈な調子の批判を受けたという。

    その批判は「母集団が出てこないのはおかしい、分母がはっきりしていない、分子ばっかりでは調査とは言えない」というものだったそうだが、原医研の佐藤さんは「分母は州の子どもの数でも、病院の外来数でもいい、大事なのは分子だ」と言い、分母がなければパーセントが出せないという方こそ非科学的だと述べる。

    ▼小児甲状腺ガンは世界でもまれな病気だということは、だれでも分かっているのです。小児甲状腺ガンが何例でたかは、手術をして組織を調べて明らかなことですから、たとえベラルーシの人口を分母としても、世界の平均発症率よりもはるかに高くなるということは、考えればすぐ分かるはずです。だれしも、それを知ったら、大変だ、救援をしなくてはならないと考えるはずですが、この佐藤さんたちを攻撃した医学者たちは、因果関係の立証ができないと言って結果的に被曝者を放置してしまったのではないかと思えてなりません。(p.87)

    広島の被爆者を、ただ調べるだけで治療をしないと悪評高かったABCC(原爆傷害調査委員会)のことは、たしか『はだしのゲン』でも出てくるし、他の本でも被爆者が亡くなると有無を言わせず遺体を解剖したがると書かれているのを読んだことがある。ABCCの調査は、ただ「原爆の効果」が人間にどうあらわれるかを調べたいだけのもので、治療をしては「原爆の効果」が測れないからだということを、広河さんも書いているが、このABCCの後身である放射線影響研究所(放影研)の理事長を長くつとめた人が、チェルノブイリのIAEA調査医院長をつとめた重松逸造だと思うと、その調査はただ「低線量被曝が人体にどのような影響をおよぼすか」それを調べたかっただけではないのかと思えてくる。

    広島原爆のときも、占領下の報道統制で、原爆の被害について日本国内でさえも広くは知られなかった10年ほどの間、被爆者の健康診断と遺体解剖を一方的に進めたのは予算も潤沢にあったABCCばかりで、しかもその膨大な統計データから発表されるのはどの病気もどんな体調不良も「原爆と直接関係があるという結果は得られなかった」という報告ばかりだった。

    そのなかでも被爆者の治療に取り組んだ「土曜会」の医師たちがいたことを広河さんは書いている。

    福島でもこれから疫学調査はおこなわれるだろう。ただ、この広島やチェルノブイリの経験を読むと、その調査結果はいったいどう使われるだろうか、あるいは意図的に調査されなかったり、黙殺されたりするデータがあるのではないか、いちばんありそうなことは、重大な結果が公表されずに隠蔽されることだと感じられてならない。

  • 岩波ジュニア新書ではあるが。わかりやすくていい内容。これから何が起こるのかを考えるのにちょうどよかった。

  •  J539//  ジュニア  

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