フランス革命: 歴史における劇薬 (岩波ジュニア新書 295)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784005002955

作品紹介・あらすじ

「自由・平等・友愛」を合言葉に、近代史に最大の劇的転換をもたらしたフランス革命-。この事件は人間精神の偉大な達成である一方で、数知れぬ尊い命を断頭台へと葬った暗い影をもつ。なぜ革命はかくも多大な犠牲を必要としたのか。時代を生きた人々の苦悩と悲惨の歩みをたどりつつ、その歴史的な意味を考える。

感想・レビュー・書評

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  • ジュニア新書であり言葉遣いは平易ながら、非常に高度な内容で、歴史を学ぶとはどういうことなのか立ち返らせてくれる名著。ある程度、基礎的な知識を得た大人の読者の方がより深く学ぶことができる気がする。

    本書はフランス革命を時系列に並べたような、ありふれた概説書ではない。歴史学者である著者がフランス革命の意味をどう捉えているかを解説するものである。著者はフランス革命を「劇薬」と評する。すなわち、自由・平等・友愛という人類史に輝かしい前進をもたらしたことも、断頭台に代表される血生臭い恐怖政治をもたらしたことも、ともにその効果だというのだ。そして、それらは別々のものではなく、切り離して考えることはできないと説く。劇薬たる所以である。

    フランス革命を検証するにあたり、本書は他国との比較という、歴史学では極めてオーソドックスな方法をとる。対象はライバル英国の名誉革命、我が日本の明治維新である。そして、偶然や個人の意思とは別のところにある、歴史の「傾向」がフランス革命の火をつけたと考察していく。

    壮大な歴史の流れをうかがわせるが、一方でフランス革命といえば、貴族、ブルジョワ、大衆それぞれの階級の個人が大量に残した手記についても思わずにはいられない。そこには数々のドラマがあり、私などは歴史のうねりに抗う個人の思いにこそ惹かれてしまう。フランス革命は一国の歴史的事象にとどまらず、マクロな視点からもミクロな視点からも深掘りができる、人類史的なトピックだと思う。


  • フランス革命の大切なことについて絞ってわかりやすく説明されよく出来ている。
    ただ、章立てと内容が必ずしも一致しないところがあり理解するのに手間取ったことと、全体を理解するため私なりに以下のように整理してみた。

    フランス革命は、偉大であると同時に悲惨であるという2つの顔を持っていたのはなぜなのか?
    この難問についていくつかの仮説が立てられた。

    著者は副題にある通り、1つの劇薬だったのだと言う仮説を立てている。

    ここで言う劇薬とは、当時の社会を変革するための、作用の激しい、危険な薬剤ということである。

    Ⅰ 劇薬が用いられた原因

    原因その1
    古い体制の行き詰まりが深刻で、いわば病状がひどく悪化していたこと。

    原因その2
    古い体制の徹底的な変革を求めて劇薬の服用を要求する人々が改革の担い手になったこと。

    原因その1について
    18世紀末に、イギリスは世界貿易の覇権と植民地の争奪をめぐる戦いにおいて優位を占めた。そしてこの優位に支えられて、イギリスでは、1760年代頃から、産業革命が展開し、イギリス産業革命の展開は、フランスにとって大変な脅威だつた。
    なぜなら、この産業革命によって、対岸のイギリスの経済力がさらに増大することは、フランスが経済的に後進国の地位に転落することを意味していたからである。
    フランス革命は、このように転落の危機に追い詰められたフランスがその危機を克服するために、国内の古い体制の変革に踏み切ったものだと言ってよい。

    しからば、革命以前のフランスの体制はどのようなものであったのか。
    それはおよそ3つの特徴を持っていた。

    その第1は、国民の中に身分差別が存在していたこと(身分制)
    第2は、領主が様々な貢租を徴収していたこと(領主制)、

    そして第3は、国家を統治する権力が国王のもとに集中されていたこと(絶対王政)である。

    絶対王政は、貴族の平民に対する支配を基礎にして国内の秩序を維持しようとしたので、身分制と領主をそのままにしていた。つまり、中世の遺物が、根拠を失いながらも存続していた。
    そのため、平民にとっては、身分制と領主制に基づく貴族の諸権利は不当な「やらずぶったくり」であると思われた。

    旧体制のフランスで、貴族の諸権利が「不当な収奪」であるとみなされていても、それだけでいきなり革命が起こるわけではない。革命と言う劇薬を用いてでも旧体制を倒さなければならないと人々が革命に至るのは、人間としての誇りが傷つけられ、もう我慢ができないと感じた時である。まさに当時のフランスの社会はそのような状態であった。

    原因その2について
    都市の民衆と農村の貧しい農民は、いずれも旧体制のしわ寄せを一身に受ける立場にあった。
    そればかりではなく、彼らは、ブルジョアの担う資本主義が発展するにつれて、いよいよ貧しくなり、やがて労働者に転落する危険にさらされていた。それ故に、彼ら都市の民衆と農村の貧しい農民が旧体制を徹底的に破壊することを求めて革命の担い手となつた。

    Ⅱ 劇薬の効果

    1 1789年8月26日に旧体制の廃止を確認し、あわせて、新しい体制の原理を明らかにした人権宣言が議会で採択された。

    2 政治的デモクラシーの樹立
    政治についての人々の意識や態度は大きく変わった。一般の人々が、日常的に、政治(国の政治だけではなく、村や町の、広い意味での政治)にどのように関わるかという新しい政治文化が成長した。
    93年には、草の根のデモクラシーとも言える新しい政治文化が、全国的に広まった。
    この新しい政治文化は、その後のフランスに重要な遺産として残った。
    19世紀のフランスで、1830年の7月革命、1848年の2月革命、1870年のパリ・コミュコミューンと、大衆自身の手による政治的変革の試みがなされるのは、93年の劇薬の効果が継承されたものと言ってよいであろう。

    3 社会的デモクラシー
    自由と平等について、ブルジョワと民衆や農民の間には、大きな利害の対立があり、この利害の調整は試行錯誤の連続であった。その中でパンの問題、土地の問題、福祉の問題と言う3つの問題について見てみる。

    (1)パンの問題。
    大衆の最も強い要求の1つは、パンを始めとする生活必需品の価格を統制して生活の安定を図ることであつた。価格を統制すると言う事はブルジョアと利害が対立し解決するためには、大変難しい調整が必要とした。調整するために採用されたのが、ル・シャブリエ法を是正すると言う措置であつた。ル・シャブリエ法の欠陥は、劇薬の効果によって初めて是正された。

    (2)土地の問題。
    聖職者の財産を没収、国有化し、さらに国外に亡命したもの(ほとんど貴族)の財産『フランス革命』を没収しそれらを売却して戦争の費用に充てることにした。この大量の国有化された土地を一括して競売に付すことにしたが、競売では農民には手が出ないため、村人たちは、集団で競売場に乗り込み、ブルジョワの入札を排除して、共同で土地を購入し、後で、その土地をお互いに分配する、と言う共同購入方式を案出した。実力行使と言う劇薬よって部分的ながら、社会的デモクラシー(この場合には農民的デモクラシー)の実現に成功した。

    (3)福祉の問題
    93年憲法は、ロベスピエールの主張の1部を採用して、「社会の目的は、共同の幸福である」と定め、また、「公的扶助は神聖な義務である。社会は、不幸な市民に大たちに対して、仕事をさせることにより、または、仕事をなし得ない状態にある人々には、生存の手段を保障することによって、彼らの生活を保障する義務を負う」と定めた。
    93年憲法は、ついに実施されずに終わったが、公的扶助(公共機関による生活保護)は、社会の恩恵ではなく、「義務』だと規定し、生存権をいわば緩やかに表現したもので、今日の福祉国家の理念を先取りしたものに他ならない。

    (4) 劇薬の遺産

    劇薬は、どんな効果を後世に残したのか、劇薬の遺産をまとめると

    イ革命期にそのまま定着した効果。
    a旧体制の徹底的な破棄
    旧体制に変わって、最終的に資本主義の発展に適合した社会がもたらさた。

    b公正な自由競争のための独占や談合の禁止は、そのままナポレオンの刑法典に継承された。
    国有化された土地を獲得した農民の新しい所有地も、もはや奪われる事はなかった。

    ロ 革命から100年近く経ってから定着した効果
    93年の政治的デモクラシーの原理は、1875年以後、第3共和制のもとで初めて定着した。

    ハ20世紀の半ばになってようやく定着する効果
    「生存権の優位」と言う原理や、93年憲法に書き込まれた「公的扶助の義務」と言う原理は、第二次大戦の後になってから、現代の福祉国家の理想を示すものとして、世界中の人々の賛同を得るようになるでしょう。

    このように89年から93年にかけて、フランスの人々が勇気をふるって飲み込んだ劇薬の効果は、今なお、我々の身近に生きている。

    Ⅲ 劇薬の痛み
    劇薬の作用が、一方で、社会を変革する偉大な効果を発揮すると同時に、他方で、独裁と恐怖政治の悲惨な痛みをもたらした。

    1 独裁
    フランス革命では、なぜ、1党派が他の党派を排除して、独裁を樹立するような事態が生じたのか。
    (原因その1)
    革命期の諸党派対立の背後に、貴族とブルジョアと大衆と言う3つの社会層間の鋭い利害の対立あり、その対立に折り合いをつけることが極めて困難だった。
    (原因その2)
    相手を排除して独裁を樹立するためには、排除を正当化する論理(議論の立て方)が必要である。排除を正当化する論理の展開が、山岳派の独裁と言う事態をもたらした。
    (原因その3)
    議会内の党派が大衆運動と連動しており、主として、山岳派が議会外の大衆運動を利用した。

    2 恐怖政治
    (1)政治的、社会的デモクラシーに関する政策の多くは、山岳派が独裁のもとで制定したが、反対派に対しては容赦ない弾圧を加えた。
    無統制な大衆運動を先導する左派(エベール派)も、ブルジョアの利益を考慮して、恐怖政治の緩和を止める右派(ダントン派)も、ともに「個別的利害」にこだわる徒党として排除されなければならなかった。こうして左右両派が処刑された。

    (2)恐怖政治の犠牲
    犠牲者は、どのくらいの人数だったであろうか。
    まず、93年3月から94年8月までに、各地の革命裁判所で死刑を宣告されて、処刑されたものは、合計16,594人だった。その他に、裁判なしで処刑されたり、獄死したりした人を加えると、恐怖政治の犠牲者の総数は35,000から40,000人に達した。


  •  岩波ジュニア新書の中でも良書と評判の高いことは聞いていたので、読んでみることに。

     フランス革命は、人権宣言に代表される近代の幕開けとする評価の一方、多くの犠牲者を出した恐怖政治のマイナスを無視することもできない、今なお評価の難しい出来事である。
     そうした革命の偉大と悲惨をどうして持つことになったのか、著者は“劇薬としてのフランス革命"との仮説を元に、革命の原因、効果、影響について考えていく。

  • 遅塚忠躬(1932~2010年)氏は、東大文学部卒、東大大学院中退、北大文学部助教授、東京都立大学人文学部教授等を経て、元東大文学部教授、お茶の水女子大学名誉教授。専門は西洋史学。
    フランス革命は、世界で最も有名な市民(ブルジョワ)革命のひとつで、「自由・平等・友愛」というスローガンのもと、民衆の力で絶対君主制・封建体制を倒し、新たな近代国家体制を築くきっかけとなった一方で、独裁と恐怖政治により多くの犠牲者を出したことから、革命はフランス人にとってプラス面よりもマイナス面が大きかったと主張する人さえあり、フランスの人々の中に今も修復できない亀裂を残しているという。
    本書は、そのフランス革命を、偉大と悲惨の両面を持たざるを得なかった(独裁と恐怖政治は不可避であった)劇薬になぞらえ、考察したものである。必ずしも時系列とはなっていないが、劇薬の効果と痛みという視点から整理・説明されており、フランス革命のポイントを掴むのに有用である。
    大まかな論旨、私が印象に残った点は以下である。
    ◆仏革命の解釈には、前半は良かったが後半に悪くなったとする「革命二分説」と、ひとつの塊と考える「革命ブロック説」があるが、著者は後者を採用する。
    ◆仏革命に劇薬が用いられた背景は、①古い体制(身分制、領主制、絶対王政)の行き詰まりが深刻で、対外的にはイギリスに劣位になっていたこと、②徹底的に変革を求めて、劇薬の使用を要求する人々が革命の担い手になったことである。
    ◆仏革命は、貴族、ブルジョワ、大衆(民衆と農民)という3つの社会層の担った3つの革命の複合体である。1787年を始まりとする革命は、貴族寄りのブルジョワ(+貴族)vs大衆寄りのブルジョワ(+大衆)、大衆寄りのブルジョワの中のジャコバン派(左翼・急進派)vsジロンド派(右翼・穏健派)、ジャコバン派の中の左派(エベール派)vs右派(ダントン派)という、いくつもの対立(その結果の追放・処刑)を経て、勝ち残ったロベスピエールも94年にクーデターで処刑され、混乱の中で99年にナポレオン独裁政権が生まれて終わりを告げた。
    ◆革命の中で制定された93年憲法では、直接民主制、人民の蜂起の権利の容認、生存権の優位などの原理が取り入れられた。同憲法はその後の混乱で実施されることはなかった(実施・定着したのは第三共和政下の1875年以降)が、人々の意識の変化により新しい政治文化が成長し、それはフランスの重要な遺産となった。また、この過程で、穀物価格の談合の禁止、領主的諸権利の無償廃棄などが実現した。
    ◆他国との比較では、仏革命は、大衆が主役となり、デモクラティックな(平等を目指す)変革であった代わりに、恐怖政治に苦しんだ。イギリス革命(17世紀のピューリタン革命と名誉革命)は、大衆は脇役であり、リベラルな(自由を目指す)変革であった代わりに、デモクラシーの達成を先延ばしにした。日本の明治維新(19世紀)では、ブルジョワも大衆も成熟しておらず、武士による「上から」の改革が行われ、殖産興業と富国強兵の影で、基本的人権の保障がなおざりにされた。
    ◆仏革命は、指導者も大衆も含めて、偉大でもあり悲惨でもある人間たちがあげた魂の叫びであり、巨大な熱情の噴出であったといえる。人間が(個人でも集団でも)その全人格を傾けて、ある目的のために身を捧げるという情念がなければ、世界史ではどんな偉大な事業も成し遂げることはできない。
    フランス革命を劇薬になぞらえ、その効果と痛み、偉大と悲惨を考察した好著である。
    (2021年10月了)

  • 歴史を学ぶ意味を、歴史の傾向(必然とよくいわれている言葉を変えて)、個人の意思と偶然との関わりなど劇薬という言葉の通りの革命のエネルギーの正体なども踏まえて、これから生きていく人々に熱くエールを送っている。
    大きな歴史の中の人も、そうでない人も名のある人も名も無い人も、自分の信じるところに従って生きる人たちの生き様を見ること、後に続け!と後押ししてくれるのでした。

  • コテンラジオがきっかけでフランス革命について深く知りたくなり、参考文献リストの中から選んだ一冊。大当たり。
    岩波ということでとっつき難いかとも思ったけどさすがジュニア新書と謳っているだけあって、フランス革命については年号くらいしか知識のなかった自分でもスラスラと読めた。

    著者の遅塚忠躬さんはフランス革命一筋の研究者だそうで,本人はこの本について「フランス革命の概説書ではなく、フランス革命の捉え方としての一つの意見を書いた」とおっしゃっている。だが、内容は大きく①フランス革命が起きた原因と背景②フランス革命がもたらした偉大さ③偉大さの影にある悲惨さと極めて論理的に構成されていて、最後には歴史を学ぶ意義にまでその射程を広げている。

    ロジカルかつ、フランス革命を知る上での学習の現在地を見失わない程度に詳細に踏み込んでいて、最初の一冊としては素晴らしくよくできた本だと思う。本文中や巻末に参考文献や読書案内が付されており、この書を入り口に深く知る機会も十分に用意されている。

    ---

    読み終わらないうちに,すでに遅塚さんの他の著作「ビジュアル版 ヨーロッパの革命」と「1789年 フランス革命序論」をAmazonにて購入。楽しみ。

  • 中高生向けにフランス革命という歴史上の大事件をわかりやすく解説した一冊。著者の遅塚先生は、フランス革命には人間の栄光と愚かしさが凝縮されていると言います。自らの主張を正しいと信じて疑わない時、人はどこまでも残酷になれる、という遅塚先生の一文の重みが、この本を読んだ人には必ず伝わると思います。

  • ジュニア新書という言葉に惑わされてはいけない。この本は単なるフランス革命の入門書ではない。フランス革命の本質を読み解いた平易にして真に優れた著作である。著者の遅塚先生は私の尊敬してやまないフランス史家である。2010/11/13に逝去。残念で悔しい。謹んでご冥福をお祈りします。

  • やっとこフランス革命がどんなものかわかった。
    ブルジョワと「パンと土地」を求める農民との関係は今を考える上でも大いに参考になる。
    作者の語り口もとてもなめらかで、フランス革命に限らず、あらためて歴史を学ぶ大切さや人間というものについて向き合うことができた。
    ほんとうに高校生やジュニア世代に限らず、多くの人に読んでほしい一冊。

  • 革命の功罪
     小谷野敦が名著といってゐたので。
     冒頭に、岩倉具視と明治天皇の絵画、そしてユゴーの『ラ・マルセイエーズ』内の会話が引かれてゐて目頭が熱くなった。
     フランス革命は、真に人間の尊厳を恢復するリベラルな価値観のもと、行なはれたのだと再認識した。しかし、同時にそれは多大な犧牲をももたらした。コインのやうに表裏一体だった……

     これを読めば、大江健三郎が『フランス ルネサンス断章』を読んで衝撃を受け、渡辺一夫に師事して戦後民主主義者を名乗った理由が理解できる。大江は左翼といってもマルクス主義者ではなく、リベラルな価値観に根ざした人間愛を持っていたのだ。

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