広島長崎修学旅行案内 新版: 原爆の跡をたずねる (岩波ジュニア新書 300)

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  • Amazon.co.jp ・本 (217ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784005003006

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  •  著者は元広島大学の英文学の先生で、戦時中も従軍し、母親を原爆で亡くしたという経験を持つ。「修学旅行案内」と書かれている通り、ここを訪れる中高生に向けて書かれているが、大人にとっても分かりやすい解説書として読むことができる。
     まず「一見、平和で楽しそうに見える街の表面をひと皮むいたところには、このかわらのように、まだ原爆の悲惨がなまなましくひそんでいることを、想像力によって心に思い描き、その意味を考えてほしい」(p.12)、「それから、今度は以上のことの逆を言うように聞こえるかもしれませんが、たとえば原爆資料館で被災の悲惨さを示す遺品や模型を見、あるいは被爆者の経験談を聞いたりして、そのあまりの凄まじさ、恐ろしさに、反射的に原爆反対、戦争反対の感情を燃え上がらせるのはいいのですが、それで終りということにならないようにしてほしい」(pp.12-3)、「人間は忘れっぽい動物ですから、一時的感情などすぐに忘れてしまいます。そうならないために、私は皆さんに、それを感情の段階に放っておかないで、それを出発点として考え始めてほしいと思うのです。」(p.13)といったように、単に声高に平和を訴え、戦争の恐ろしさを伝えるといった本ではないという点で好感が持てるし、言わずもがなだが教育的な本だと思った。
     同じような流れで、「広島の被害について、ときに、無抵抗な市民を残虐な爆弾で無差別に殺傷するとは非人道極まりないという非難がアメリカ軍に向けられますが、この爆撃が、目標である第二総軍司令部を中心とする軍事施設からわずか数百メートル外れたところに投下されていることを、私たちは認めておかなくてはなりません。」(p.31)といった部分、ただ感情のぶつけ合いだけでは解決しないということを、教えてくれる。さらに「『ヒロシマ』という言葉には、たえずそのような単純化を誘うところがある」(p.40)として、広島を含めた当時の日本の加害部分を全く無視して「単に罪のない市民が虐殺された」という構図を作り出す合言葉としての「ヒロシマ」には注意するよう、説いている。
     長崎については、著者自身の長崎紀行として書かれており、原爆やその被害、その後の平和運動についての広島との対比が興味深く示されている。「戦後の平和運動のなかで、『怒りの広島』にたいして『祈りの長崎』といわれる」(p.179)らしい。
     まず廣島から広島、ヒロシマへ、という流れが分かりやすく示されている。それまで全く注目される都市でもなければ、何か広島の地に住む人々に特別な気質があった訳ではないことが分かる。「広島が近畿と九州という二つの重要地域を結ぶ回廊地帯のちょうど中間に位置したことが、広島に軍事的重要性をもたせることになった」(p.26)という部分が印象的だった。そして明治時代、「広島は一時、日本の臨時首都になりました」(p.28)なんて、知らなかった。
     そして最後に、平和がどうやって構築されるか、こういう種の本では珍しいことに、一つの回答が示されている。「たえず自分たちより不幸な状態にある人々のことを思いやるという人間の基本的感情」(p.191)を戦争中の極限状態の中でも持ち続けた人がいることを「地球上のすべての人々のなかにいきいきと自覚されるようになって、人間を不幸にしかしない戦争を拒むことができるようになったときに、人類のうえにはじめて真の平和が訪れるのではないでしょうか」(同)と述べられている。「現在の日本は、一見、何事もなく文字通りの『平和』のなかにあるようにみえますが、そのなかで、かえって他人を疑い敵視するような考え方ばかりが強調されて、このような基本的な人間感情が逆に押しつぶされようとしているように感じられます。」(同)とあるが、これが書かれた98年から様変わりして、ネット時代に突入して久しい現在は、この傾向がもっと進んでいっているのではないかと思った。(17/10/29)

  • [ 内容 ]
    人類最初の被爆地広島・長崎への旅は、世界から核や戦争をなくすための第一歩です。
    原爆資料館の遺品や写真にふれ、遺跡や記念碑を訪ねるなかから、広島・長崎が人類の歴史にもつ意味や、被爆体験の継承とは何かを学びとって下さい。
    旧版から16年、戦後50年を経た状況の変化をふまえて大幅改訂、待望の新版。

    [ 目次 ]
    1 出発の前に
    2 ヒロシマを見る(現在の広島;三つのひろしま;平和公園 ほか)
    3 ナガサキへの旅(長崎と広島;ナガサキを見る;長崎の被爆者)
    4 終りに(スミソニアンの実現しなかった「原爆展」;旅をふり返って)

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