パスタでたどるイタリア史 (岩波ジュニア新書)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (228ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784005006991

作品紹介・あらすじ

「パスタを食べることでイタリア人はイタリア人であることを自覚する」-。地域色の強いイタリアで、人々の心を結ぶ力をもつパスタ。この国民食は、いつ、どのように成立したのでしょう。古代ローマのパスタの原型から、アラブ人が伝えた乾燥パスタ、大航海時代の舶来種トマト、国家統一に一役買った料理書まで。パスタをたどると、イタリアの歴史が見えてきます。

感想・レビュー・書評

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  • ヴァレンティーノ公チェーザレ・ボルジアは1475年9月13日にローマで生まれた。大司教や枢機卿を歴任し、イタリア統一を目指したと言われる。 - 日本食糧新聞電子版
    https://news.nissyoku.co.jp/today/587593

    パスタでたどるイタリア史 - 岩波書店
    https://www.iwanami.co.jp/book/b223738.html

  • モノからたどる世界史シリーズ、イタリア編。
    お隣フランスからイタリアへ。
    個人的に古代の話が好きなので、古代ローマとかの話はワクワクする。
    小麦の起源は何だろうとか、トマトが持ち込まれる前のパスタは何だろうとか、興味深い話が多かった。

    自分でパン作りしたり、調味料に興味が出てくるほど料理をするようになった今だから読んで面白いけど、高校生の課題図書としては、食に興味があるか、よほど好奇心が強くないと面白いとは思わないかも。
    作ってみるのもいいかも。

    以下まとめ

    ○日本のパスタ
     明治40年代(1907~)に大使館用にマカロニ製造機を新潟の製麺業者が開発
     1955~(昭和30年代)オーマイブランド、日本マカロニ(株)

     1970~(昭和):ファミレスがオープン。ナポレオン、ミートソースが普及。
     1980~(昭和55~):イタリアで修業を積んだコックがイタリアンレストランを次々オープン。生パスタが普及。
     1990~(平成2~):フレンチからイタリア料理が人気に。イタ飯という言葉が生まれる。

    ※日本の麺文化
     鎌倉時代:切り麦~うどん →きしめんへ進化
     1200年代にはそうめんがあったそうな
     江戸時代:屋台の6割がそば、うどん
     
     ・そば…朝鮮の僧より東大寺へ伝わる
     ・ラーメン…昭和に北海道に働きに来ていた中国の麺よりヒント。日本人が開発。ドラマ「まんぷく」

    ○パスタの種類
     小麦…乾燥パスタ(デュラム、セモリナ粉)は卵を使わない
        生パスタ(普通小麦)は卵を使う

     じゃがいも…ニョッキ
     粟、雑穀

    ○小麦のルーツ
     紀元前9000~7000年頃、東地中海に自生していたと言われ、メソポタミアで栽培され、のちエジプト、ギリシャ、ローマの諸文化を支える主食になる。

    ○古代ローマ…ギリシャより、パンとしての小麦が伝来し、主食に。
     ※エルトリア人のお墓にパスタの練り粉を作る器具が描かれていた。ギリシャからパン製法がもたらされ、パン職人の学校を作り、特許制の組合組織を定める。
     bc30にはローマ帝国には329の精製パン所がギリシャ人によって経営されていたそうな。
     まだパスタは生まれておらず、ラザーニャと呼ばれるワンタンっぽい小麦粉の生地をスープで煮たもの。

    ○古代から中世へ
     ゲルマン人の侵入→狩りと肉を好むため農業があまり発展せず。東ゴート族、東方ビザンツ、ランゴバルト、フランク王国と支配勢力が入れ代わり立ち代わり替わる。オリーブ油や小麦は中世ヨーロッパではあまり食用としては貴族内で用いられなかった。

    ○ルネサンス、パスタの復活
     レシピ集に書かれたラザーニャはこの時点でチーズを使ったり、スープで煮る製法が多く、水と結合していた。14世紀トスカーナ地方で発見された「料理の書」
     北イタリアでは軟質小麦しか手に入らなかったため、生パスタが発展。乾燥パスタはアラブ人より伝わり、シチリアが一大産地となる。運搬しやすく商業に適しているため、輸出用としても活躍。

     南イタリア:ビザンツ帝国→9世紀以降はアラブの支配を受ける。シチリアやブーツ底部分は異文化交流が盛んだった。1130年、キリスト教ノルマン人が両シチリア王国を建国。→イスラムとキリストが共存していた。」

     北イタリア:ジェノヴァがヴェネチアとともに海洋交易で栄えていた。シチリアからの交易を独占していたため、ジェノヴァでも乾燥パスタが手に入りやすかった。ジェノヴェーゼの原型

    ○都市国家としてのイタリア
     フランク王国の滅亡以降ローマ教皇と皇帝の勢力争い
     →そこをついて、それぞれの都市の有力者が自治都市(コムーネ)を成立
     →それぞれ領域国家として周辺を支配していた。

    ○中世のパスタ
     アーモンドミルクや鶏のブロードでゆでたパスタにチーズを振りかけるシンプルな食べ方。

     ※ブロード:日本のだし、フランスのブイヨン、イギリスのスープストックのようなもの。野菜、魚介、肉、鶏の4種類がメイン。

    ○大航海時代のイタリア
     植民地がなく、スペインに支配を受けていたイタリア地域。大陸との地中海交易をおこなっていたが、スペインが海洋ルートを独占したためジェノヴァやナポリが衰退。ただし、スペイン経由で新大陸の食べ物も入ってきた。

     ・唐辛子:育てやすく、胡椒の代替品として南イタリアで早くに栽培が始まる。
     ・トマト:赤い実が毒草マンドラゴラに似ているため、しばらくは観賞用として食用ではなかった。17世紀末「スペイン風トマトソース」アントニオ・ラティーニのレシピが出版。
     完熟トマトを炭火であぶり、皮を向いて細切れに。玉ねぎ、胡椒、イブキジャコウソウ、ピーマンを混ぜ、塩、酢、油で整える。

     ・かぼちゃ:砂糖が高価だった当時の貴重な甘味となる。16世紀にはかぼちゃのトルテッリ(詰め物)が流行。
     ・ジャガイモ:蕪や栗同様、下々庶民の食べ物と認識されて、18世紀の大飢饉が来るまで家畜に与えられる程度だった。ニョッキの材料として認知されてから浸透していく。
     ・トウモロコシ:休閑地の二毛作など雑穀扱いで家畜のえさ用だった。こちらも庶民が雑穀として食べていたくらい。

    ○イタリアのマッケローニ(パスタ)食いになるまで
     スペイン支配化のイタリア人は葉物野菜(ブロッコリー、キャベツ)を多食。
    →ペストや飢饉で人口が半減したが、ナポリの人口が17.5万(15世紀)→40万(17世紀)へ激増。都市人口の急増と栄養不足への対応として肉の代わりにパスタが台頭。

     ※セモリナ粉のグルテン(植物性たんぱく「質)が豊富で、それにチーズ(動物性たんぱく質+脂質)をかければ完璧に

     ※グルテンフリーって??
      高GI食品なので、血糖値上昇対策としては多食は避けたほういいかもしれないがダイエット効果は不明。ジョコビッチが提唱。
      小麦アレルギーやグルテン不耐性症対策に有効。
      健康目的にグルテンを避ける食生活とのことだが、
      調子がいいと感じるのは添加物を取らなくなっただけとの話も。
      
    ○近世のパスタ
     庶民のミネストラ:中世の納品は領地を耕作する賦役あり。粉をひく臼の使用料なども払う必要があった。また、北ゲルマン時代の支配時代に畑が荒廃して小麦の収穫量が上がらないため、雑穀が庶民の食卓のメインだった。雑穀のごった煮スープミネストラ。
    当時はパスタをたらふく食べるのが庶民の夢。

     イタリアは都市国家(コムーネ)を領主が納めるスタイル→15、16世紀はシニョリーア(君主国)として、領主が皇帝または教皇から称号をもらい君主国となる。

     フィレンツェのメディチ家、ミラノのヴィスコンティ家、フェッラーラのエステ家、マントヴァのゴンザガ家など、各君主がパトロンとして学者や芸術家を保護することで人文主義が台頭→ルネサンス文化が先駆ける。

     18世紀のヨーロッパの啓蒙思想よりイタリア近代化、独立の機運が高まる。
     →1891年、アルトゥージ「料理の化学と美味しく食べる技法」が出版
     →イタリアを代表するレシピとして、さまざまな地方のパスタ料理が記載され、家庭に1冊といわれる。
     →「イタリア」国文化としての意識の浸透。方言色が強かったイタリア語を標準的な言葉で記述し、言語の統一も少なからず果たす。

    ○マンマの味
     イタリアではカトリック系、マリア崇拝が盛ん。
      →マザコン気質、楽観的、無条件の母性愛信仰、親離れ、子離れできないイタリア人の原型
      ※とあるが、著者のイタリア男性のイメージが若干きつめに書いてあるような…。

     男女の役割が日本と同じくはっきりしていた。
     料理=女性が当たり前。カトリックの保守的な教えも影響している?
     あり合わせで安い食材を工夫して美味しくする想像力=創造力が求められる。
     南部カラブリア地方では嫁入り条件が15種類のパスタを作れること、らしい…。
     裁縫などと同じくパスタ作りも女性のリーダー職だったが、近代化してからパスタ生産も工業化が進み、女性の立場は低く待遇も悪くなる…。

     ※カトリック教会と国家の思惑により、男女平等をうたいながら、女性の家庭外での活躍をよしとしない風潮が根強く残る。ファシスト政権時代、ムッソリーニの家政政策。男を戦争で使う→その他の家の問題は女性が責任者としてうまく回すような役割を与えた。

    ○戦後のイタリア
     日本も同様だが、自由、モダン、平等理念など、アメリカナイズすることがかっこいい、いいことというイメージがあったが、自国の停滞ムードを打破するための夢想…。
    実際にアメリカに移民したイタリア人はかなり差別され、パスタ料理もなかなかアメリカで受け入れられなかった。
     肉消費量が増えている中、肉食により栄養バランスが崩れている。1960年以前と以降でアメリカナイズの食事をするようになった世代の健康状態が悪化したため、くしくもスローフードとしてのパスタ料理が見直される。
     (パスタと野菜中心のメニュー)

  • パスタの歴史を軸にして、イタリアの歴史(政治/経済/社会/文化/宗教)がまなべるわくわくするような一冊。
    食の変遷には農業・産業から家族のあり方、政治的事情、外交関係までいろいろな要素がからんでいるのだな、と序章「日本のパスタ事情」でのみこんだところで、本題へ。小麦の生産、トマトやじゃがいもなど外来野菜とのであい、製法の進化、調理法の変化、郷土料理と国民食の2つの路線、イタリアの小咄や小説に出てくるパスタ、おふくろの味への思い・・・パスタを中心としたイタリアの食卓の変遷の概略を学びつつ、イタリア半島の歴史もおおざっぱにつかめて、かつ、食べ物のような身近な視点から社会システムなどの大きな仕組みを語る学問の醍醐味を教えてくれる、1+1=2以上になったテーマ設定が絶妙。

  • 2012年の高校生の課題図書。タイトルに惹かれて読んでみたけれど、やっぱり課題図書って不思議。なぜわざわざこの本が選ばれなければならなかったんだろう?
    岩波ジュニア新書だし、あとがきを読んでも一応読者は高校生が想定されているみたいだけれど、決してそんなことはない。岩波ジュニア新書と課題図書の選考委員(そんなものがあるのかどうか知らないけれど)は何か勘違いしているんじゃないだろうか。優しい言葉づかいで書かれていたら、本は読めるってものではないぞ。
    たとえば本書には次のような一節がある。
    「1960年代以降のの飛躍、いわゆる『イタリアの奇跡』が国民の収入と食事のレベルを高め」云々。
    ここでは明らかに「イタリアの奇跡」を知っている者が想定されている。言い換えれば、それを知らない者(たとえば僕ね)は、なんか疎外されているような気分になるのだ。
    他のレビューにもある通り、パスタの歴史を概観する前半部には、高校時代世界史を選択した者でも知らないような人名、国名、条約名が頻出する。
    どう考えてもこれは、なんて言うか、課題図書として「一般的な高校生」に薦めやすい本ではないぞ。
    もちろん、「イタリアの奇跡」を知らなくたって、国名なんていい加減に読み飛ばしたって読めるのは読める。でも、自分が読者として想定されているような本を読むことは、けっこう苦痛なことだ。
    パスタの種類も、ソースの種類もたくさん出てくるけれど、説明が簡略にすぎてイメージが沸きにくいにもイマイチ。

    パスタの来歴とその影響がコンパクトにまとめられている内容そのものは評価できるんだけれど、これでは「課題図書はおもしろくない」って言われても仕方ないなあ。

  • 北部では生パスタ、南部ではトマトソースが発展し手で食べていた庶民の料理から徐々に洗練されてゆくマンマの味パスタ。パスタを食べることでイタリア人はイタリア人であることを自覚する、各都市国家による地域色強かったイタリアを統一するにあたってはパスタは大いに貢献したようです。

  • 「砂糖」とか「茶」とか「コーヒー」とか「チョコレート」とかとかと違って、「パスタ」なんで、あまり世界史的な広がりがない。ま、その分深堀りができている、のかな。

    実はイタリア史はツマみたいなもんで、とにかく「パスタ食べたい」と思わせる「パスタ史」の本だと感じた。

  • とても面白かった。高校生の課題図書だったようだが、世界史選択でないと読む気しないかも。大人のほうが楽しめるという意見に同感。

    もともとのパスタは甘い料理だったそうだ。突然思い出したのは「友の会」のおやつ。茹でたマカロニに黄な粉をかける。砂糖か黒蜜もかける。奥の深いおやつだったのね。さすが自由学園。

    日本のパスタ事情の段階でナポリタンが食べたくてたまらなくなり、昔ながらの喫茶店に行ったり、子どものころの外食はマカロニグラタンだったと作って食べたり、去年「ヌードルの文化史」を読んだ時同様、読了するのに時間がかかり、体重も増えた。でも楽しかったな。

    ヴィットリオ・エマヌエル二世がサルディーニャの王様だったとは知りませんでした。サルディーニャ島がそういう場所だったとも。映画「山猫」を思い出した。

    イタリアの統一に料理書が大きな役割を果たしたというところが一番ぐっときました。国語の教科書とかではなく、農民や庶民の言葉を使って整えたレシピによって国民の胃袋と心と言葉を統一したとは民度が高いね。

    野菜と穀物、オリーブ油中心の伝統的なスローフード運動がこれからのイタリアを救うであろうという終わりですが、それは日本料理にも言えることですね。面倒だけれど気をつけなくては。

  • 個人的には傑作新書の一つ。

    パスタというイタリアの国民食を通してイタリア史を語るという試みは面白いと思った。冒頭に、日本でのパスタの受け入れられかたが書かれているので、興味も持ちやすいし、なによりも最初の写真が美味しそうで良かった。

    イタリアではパスタが昔から食べられていたわけではなく、最初はミネストローネを庶民は食べていて、パスタは王侯貴族の食べ物(小麦粉で作るから当たり前か)だったのが、都市経済の発展によってどんどん庶民の、母が作る家庭料理になっていく様子が書かれている。もちろん、技術の発展や、新大陸発見によるトマトの流入などが、パスタに進化と洗練をもたらした。

    こういう質の高い新書が「ジュニア向け」というのは、ちょっとどうかと思うほどだった。誰が読んでも楽しくなるし、パスタを食べようという気にさせてくれる良書だと思う。

  • 日本のそば・うどん同様、パスタもイタリアの地方ごとに特色があり、日本のレストランで食べられるのはほんの一部しかないことがわかる。読んでいると、イタリアにいって食べ比べたくなる。

    パスタの歴史をたどりながら、イタリア中世以後の歴史について語っており、こうした切り口でのイタリア史は読んだことがなく、面白く読み通せた。

  • イタリアの国民食であるパスタの歴史を通じて、小麦やトマト、アラブ世界との断絶と交流、都市国家の分立とイタリア統一の流れをつかむことができる。乾燥パスタはイタリア発ではなかった、色んな形状のパスタが生まれた背景にも土地柄や歴史があると。こういうアプローチは歴史を身近にしてくれてとてもよい。

    19世紀に統一したからこそ隣町との違いが浮き彫りになりローカル色が意識され始めた、というのは確かに。
    しかも紹介に限らない。現代イタリアが抱えているもパスタを通じて浮かび上がるのがよかった。革新的?イタリア人が否定しようとしてできなかった件は笑える。ただ、お母さんが家でつくるものという伝統的な形態が崩れるのは止められない。パスタの過去、現在、未来を感じ、考え、では日本人の米食との類似点は?相違点はと考えると眠れなくなった。

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著者プロフィール

東京大学名誉教授

「2022年 『歴史学の作法』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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