グローバリゼーションの中の江戸 (岩波ジュニア新書 〈知の航海〉シリーズ)

著者 :
  • 岩波書店
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レビュー : 16
  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784005007172

作品紹介・あらすじ

「江戸時代」のイメージは?ちょんまげ?寺子屋?鎖国?実は、海外のものを巧みに取り入れながら、世界の波に流されることもなく、独自の発展をとげた時代でした。ファッション、絵画、本などから見える海外との関わりや、中国、朝鮮、琉球との関係をたどり、「本当にグローバルであることとは」を考えます。

感想・レビュー・書評

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  • 大変長い引用になるが、「おわりに」に、著者の想いが十二分に綴られているので、書き写したい。

    「おわりに」
    私はこの本を、2011年3月11日の東日本大震災のあとで書いています。1945年原子爆弾がアメリカに落とされたのは、皆知っていると思います。では原子力発電所はどうでしょう?これは爆弾ではないので「核の平和利用」と名づけられました。名づけたのは、アメリカのアイゼンハワー大統領です。

    アメリカは第二次世界大戦中に原子力の研究を行い、日本に落とすことを研究していました。落としたあとは情報を統制し、どのような被害が出たか調査しましたが、日本人には知らされませんでした。核爆弾は「実験」だったのです。それから9年後、1954年に太平洋ビキニ環礁でアメリカは水爆実験をしました。このとき太平洋に暮らす人々と日本の漁船「第5福竜丸」が被爆しました。日本はこのとき、女性たちが声をあげて「原水爆禁止運動」が始まりましたが、その背後で日本政府は、アメリカと原子力協定を結び、原子炉をアメリカから購入しました。

    その後日本はさまざまな技術を発展させ、高度経済成長を実現しました。その日本経済の発展を支えたのは、二度と戦争をしないという「憲法9条」でした。しかし一方で日本は、アメリカと朝鮮の戦争、アメリカとヴェトナムの戦争を支援し、またそれによって経済的に潤いました。さらに、経済成長に間に培われた価値観は、大量生産・大量消費、自由貿易、軍備の増強とその使用によってお金を循環させ、GDPを増やすことで人が幸せになる、という米国的な価値観でした。

    この日本の状態はグローバルでしょうか?

    沖縄は日本列島の中で唯一、「戦場」になりました。その後、アメリカ軍の統治下に置かれ、1972年に再び日本になりましたが、今でも統治時代と同じようにアメリカ軍基地がおかれています。

    この日本の状態はグローバルでしょうか?

    今まで見てきたように、江戸時代の日本は中国の政治思想を基準にしながらもヨーロッパの情報を集め、ものを各方面からある程度輸入してそれを国産化し、思想や医学も多方面から学びながら、それぞれの学者が日本の実情に沿った思想を築いて来ました。

    しかし一方で、外国の脅威や軍事力に晒されると、一挙に排外的になる弱点を持ち合わせていました。しかしこの弱点は庶民のものというより、幕藩体制が既得権益を守りたいがためのものでした。つまり、もっともグローバルな状態から遠いのは、自らの権力を守ろうとする人々とその組織です。足下を固めようとするこの姿勢は、江戸時代の初期には極めて重要で有効なものでした。それがあるからこそ、地球を被う植民地主義の波にさらわれることなく、この日本列島の特質にあった発展をする事が出来たのです。

    が、時間が経つと権力の固定化が起こり、それを守り通すことが目的になりました。商業の発展は幕藩体制に役立てることが出来ます。幕府主導の海外貿易も、幕藩体制に役立っていたはずです。しかしそれが幕府の手を離れることになったらどうでしょうか?欧米が求めてきた「自由貿易」「渡航の自由化」は、貿易の利益が幕府の手から離れることを意味していました。江戸時代の大半通じて幕府は、幕府のみの軍事力では国内をまとめ切れないことが分かっていました。貿易と渡航の自由化は、いったん幕府の手を離れれば諸藩及び商人(企業)にゆだねられます。外国船打ち払い令の様な極端な排外行動は幕府の既得権益守旧のための行動だったのであり、その様な権力の行動は、決して日本特有なものではありません。

    社会は進歩しているわけではなく、進化しているわけでもありません。社会は人間がつくっているのですから、放っておいて自然に良い方向に向かうことなど、あり得ないからです。しかし変化はしています。特に日本は、多くの断層の上に成り立っていますから、地震の多い国です。これは紛れもなく日本の特徴です。火山も多いです。しかし一方で、国土の70%が山地であり、川や水や地熱や多数の温泉に恵まれています。また海に囲まれていますので、津波にも襲われたり、台風の通り道に成ります。同時に豊かな海の資源をもっています。これらの風土的条件は、絶えず天変地異に出会う事を意味しています。さらに近頃では、地球温暖化による気候変動があります。

    そして15世紀末以降、日本はグローバルな変化のただなかにいます。つまり私たちは常に地球上で起こる事をよく観察し、自らの起こる変化を冷静に受け止め、それを社会をよくするチャンスに変えていかねばならないのです。それが「グローバルに生きる」ということです。

    そのために私たちは、良い方向への変化を押しとどめようとする既得権益を持つ人々の守旧的な行動を見抜かねばなりません。最近の出来事で言えば、世界で最も地震の多い国のひとつであるこの国に原子力発電所を建てることは、絶望的な政策であることを、世界の多くの人が理解しました。そしてその絶望の中から、新しい国をつくろうとする希望を持つ人々も現れています。にもかかわらず、その動きを押しとどめようとする勢力もあります。これは既得権益ゆえなのですが、それを「日本の経済が衰退する」という理由で説得しようとします。

    新しい社会への希望もなく経済が発展するわけはありません。そしてそもそも「経済」という言葉は、江戸時代では「経世済民」、つまりこの世を営むことで全ての人々を救済することでした。GDPの数字を上げることでなく、全ての人々が救われることなのです。

    グローバルに考えグローバルに生きるということは、どこかの大国を見習ってその通りに生きることではありません。自分が生きている地域が、そこにふさわしい発展をするように、世界の中にあるさまざまな可能性を取捨選択することです。

    あなたも、他人の真似をして生きることは出来ませんよね?素晴らしい人がいれば見習うこともあり、また反面教師として観察しながら「あの人のようにならないようにしよう」と思うこともあるでしょう。たくさんの人の生き方を見ることで、自分なりの生き方を、その能力と変化に沿って探り、自分で考えながら組み立ててゆくのが「自立」です。しかし自立は孤独でも孤立でもありません。

    日本にはかつて「自前で生きる」という言葉がありました。「自立」は孤立を感じさせる言葉ですので、むしろ「自前でやってゆこう!」と表現した方がいいかもしれません。多くの人と関わり助け合いながら、それでも「自分なりに」あることが「自前」なのです。グローバルに考えグローバルに生きるということは、「自前で生きていく」ということなのです。(182p)

    もしかしたら、これは古典に入るべき書物なのかもしれない。読み進むうちに、私はそう思った。

    時代に対する鋭い批判的認識があるのである。特に、読んでお分かりのように、アメリカ言うなりに進めてきたTTPと原発問題に対して、深い憂慮を持っていることは明らかである。深く時代にメスを入れる本は、深く時代を超える条件も持っているだろう。

    グローバリズムを否定しているわけではない。この一書はむしろ、グローバリゼーションを高らかに讃えている本なのである。江戸を代表するファッションかすり文様は、インドから来ていた。瀬戸物という磁器は朝鮮半島から来ている。江戸時代のガラス、顕微鏡、眼鏡、印刷技術等々は全て外来のものである。それらのモノを取り入れながら、日本文化を作りあげる「内発的発展」を著者はグローバリゼーションがもたらす長所だと強調しているのである。少年少女向けの本であるが、大人にもお勧めします。
    2012年9月30日読了

  • 【抜き書き】
    86頁。
    “「ほにほろ! ほにほろ!」と呼びかけながら飴を売っている飴屋があったそうです。「ほにほろ」という魔法のような言葉はいったい何で
    しょう? じつはわかっていません。”


    【目次】
    はじめに――グローバリゼションって何? [iii-xvii]
    目次 [xix-xxi]

    1  江戸の西洋ファッション 001
    ボタンとズボン/水玉とフリル/江戸のインド/ファッションで見るグローバリゼーションの意味/着物は巡る

    2 江戸の茶碗とコップ 033
    お茶碗でご飯を食べました?/日本人と磁器/漆の時代から陶磁器の時代へ/様々な修理人たち/お茶碗の中身――ご飯/コップ――和ガラスの世界

    3 江戸の視覚の七不思議 065
    一不思議め レンズ/二不思議め 眼鏡をかけた江戸人たち/三不思議め 遠近法と陰影法が描いた江戸/四不思議め 中国版画とカラー浮世絵/五不思議め 大首絵――クローズアップの迫力/六不思議め 風景が動く/七不思議め 五感で感じる本の世界/そして循環

    4  江戸時代が出現したグローバルな理由 117
    コロンブス日本到着?/国際海賊集団「倭寇」が鉄砲を持ってきた/いよいよ朝鮮侵略へ/朝鮮通信使がやってくる!/琉球国とアイヌ民族をめぐって/江戸時代に日本はアジアからの自立した/教科書に「鎖国」と書かれる理由

    参考文献 [175-176]
    おわりに――どうやってグローバルになればいい? [177-182]

  • 新書文庫

  • 前半は目からウロコの連続。縞模様の語源は「島=インド」の模様だとか、八重洲の由来はヤン・ヨーステンだとか、人に話したくなるウンチクが満載で。
    後半はいまいち読むのがつらかったな。「鎖国」という言い方がいかに的をはずしているのかはよくわかったけど、秀吉への評価は一方的で一面的だと思うし、朝鮮出兵への断罪の仕方も近視眼的であるように感じた。いや断罪はいいんだけど、あれを断罪するなら、元寇はどうなんだとか、もうちょっと広い視野からの批判が必要であるように思う。
    あと明らかに経済を敵視しちゃってるところも引いちゃう。経済を重視するってのは「贅沢を尊ぶ」みたいなのとは別次元のはずなんだけど、その辺の批判の仕方が荒い。

    ま、とはいうものの、全体的には「読んでよかったな」と思います。レンズの語源はレンズマメってことが知れたし。

  •  田中優子著『グローバリゼーションの中の江戸』.
     大航海時代を経て、我が国は世界史と接触をもつ時代がはじまる.
     科学技術の発展は、航海術など諸科学の機能のうえに、アジアとヨーロッパが<海洋>でつながる時代にはいる.


     
     グローバリゼーション.地理的空間を圧縮する.そのために異なる文化、利用不可能が活用可能となる.
     資することもあればと利点をあげ、かえす論理で競争、不幸、植民地化、アメリカ化と不平等を示す.

     グローバリゼーションは、生活・文化・習慣にも変革をもたらし、受容のうえに<主体性>を試される.

     変革と受容に政権と庶民.どちらが利点の恩恵に浴し、どちらが利益を提供する役割を担うか.
     そこを緻密に問い直そうとするかの感が、行間にうかがわれる.

     グローバリゼーションは必然.その時代に生きることを否応なく求められている若者に、試金石を示すということのようだ.(岩波書店 2012年)

  • 岩波ジュニアー文庫という洗脳教科書では
    見ることのできない角度から
    若者に向けた世界史の中のニホンを浮き彫りにする

    特に《鎖国》と呼ばれている江戸前後を解剖する
    鎖国はむしろ江戸以前であって
    江戸は自主的に管理しながら
    海外情報と貿易を庶民の目線で広めていることを
    独特の視点から解き明かしている

    その証拠として現代のお祭りでも
    ポルトガル人や挑戦や琉球からの使節団に扮した
    仮装行列がアチラコチラで行われているというし
    浮世絵やファッションや食器やメガネなどの技術を通して
    あるいは政治や経済や侵略戦争を通して
    人間の悪行と成長を紐解いて行く

    経済を江戸では《経世済民》と呼び
    世を営むことで全ての人や自然を救済することを
    意味したという
    GDPとは無関係に暮らしを過不足なく豊かにする
    グローバルに生きるということは
    力尽くの大国に従って真似することでなく
    地域ごとの特色を活かしながらも
    世界の中から可能性を選び出して補い合うということだと

  • グローバリゼーションの功罪を問う。
    リサイクル時代江戸を賛美しすぎるきらいはあるが世界中が消費社会と化した現代に一言物申した本であり青少年のみならず大人も読むべきである。

  • 江戸時代、日本はみずから「鎖国」の道を選び、長崎の出島でのみ細々とオランダ、中国と貿易を行っていたとするのが、従来一般の江戸幕府に対する外交観だろう。1492年にコロンブスがアメリカに到達し、その後の南アメリカでの銀山開発、鉄砲の伝来と国内生産、秀吉の朝鮮侵略、そして家康の江戸幕府。こうした一連の流れの中で、16世紀以降の日本はグローバリゼーションに巻き込まれ、やがてそのことを自覚し、転換していった歴史だと捉え直す。しかも、本書の目的は現代の日本が真にグローバルであることの意味を問いかけることにあった。

  • 江戸時代は鎖国の時代?

    なぜ、「鎖国をしていた」「開国した」ということになったのか。教科書で習ったことを、疑わないまま、それを常識として知識にしている。それが危険だな、と思った。学校で習ったことが、すべて本当ではない。江戸の文化についても、なかなか面白かったけど、それに加えて、「鎖国」「開国」「日本」などのことばをどういう立場で使うのか、という視点でも面白かった。

    グローバル、ということばを、世界均質化、と捉えてはいけない。どこか大きくて強い(と思われる)国を真似すればいいってもんじゃない。

  •  本書は、少年・少女向けの「ジュニア新書」であるが、ブクログの他の方のレビューを読んで興味を持ち、手にとってみた。
     「グローバル経済」とは、現在よく語られている言葉だが、その概念についてあらためて深く考える機会はあまりないように思うが、本書は、「江戸時代」という切り口でその「グローバル経済」をわかりやすく考察している。
     本書は、「グローバル経済」とは最近になってからいきなり始まったわけではなく、「大航海時代と言われる15世紀末から、世界はグローバリーゼーションに突入」し、「江戸時代は1603年に始まり、まさにその中で成立した」という。
     その具体的影響の実例としてあげられている「ボタンとズボン」や「インド更紗」「文様」などの話は興味深く読めた。
     また、江戸時代の「陶磁器」や「風景画」などの文化の話は、「グローバル」と結びつけるにはちょっと違和感があったが、日本が外国文化を取り込んで換骨奪胎することが当時からすでに行われていたことがよくわかる。これは日本の文化的特性なのだろうか。
     しかし、「江戸時代が出現したグローバルな理由」を読むと、豊臣秀吉や山田長政をまったく評価しないなど、どうも視点に独自のイデオロギーの裏打ちというか偏りががあるようにも感じる。
     著者は本書の内容以上に語りたいことがもっとあるのではないかと、読後にちょっと違和感をもった。

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