クマゼミから温暖化を考える (岩波ジュニア新書)

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レビュー : 3
  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784005008339

感想・レビュー・書評

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  • 子供の頃、クマゼミは蝉の王様だと思っていた。アブラゼミは、名前からしても姿からしても貧乏くさいし、ミンミンゼミはさらにその子分だと思っていた。クマゼミは姿が美しくて、第一滅多に見つかることがないから、たまたま採ったときには興奮して、友達に見せびらかしたものだ。それが1970年ぐらいまでの、岡山県倉敷市の片田舎の雑木林の出来事であった。


    2009年福井に小旅行したときに、お寺の参道でクマゼミの弱った個体を見つけたときに、写真にとってわざわざブログにアップしている。私はその時までに、クマゼミが北陸の町に生息しているとなど想像もしていなかったことが影響している。クマゼミは熊本発祥の暖かい地での昆虫だと根拠なくずっと思ってきたようだ(実際は昔から福井がクマゼミの北限だったらしい)。しかし、その時からふと倉敷市の周りを見ると、夏になればクマゼミしか飛んでいないのに気がついた(大阪の街中も現在はクマゼミが圧倒しているらしい)。朝になれば、いつの間にかジージーという声は聞かれず、シャンシャンシャンシャンという「やかましい声」しか聞こえなくなっていた。ミンミンゼミの声さえいなくなっていた(ツクツクボウシだけは、夏の終わりに未だによく聞こえる)。

    これが、温暖化ということか。

    私はそう思っていたが、その因果関係の科学的根拠はわからないから、クマゼミの「侵略」に何か不安を覚えるだけだった。それを解消しようと思い、たまたま見つけたこの書名に飛びついた。

    結果、温暖化は半分当たり、半分当たっていなかった。地球温暖化と都市化、二つの要因がクマゼミの増加に貢献していたのである(詳しくは本書参照のこと)。

    科学的根拠を持つことは、どういうことか。モノの考え方の一つのお手本がここにあると思う。

    2017年7月30日読了

  • ただの環境に関する本、というだけでなく、
    研究とはどういう風に進めるのか、
    ということが具体例を通してわかる一冊。
    高校生にオススメしたい。

  • あれは忘れもしない、今から41年前の出来事、東京から神戸に引っ越して初めて過ごした夏のことでした。あの、「シャーシャー」という、東京では聞いたことのない「蝉しぐれ」を体験しました。

    その鳴き声がこの本の主題である「クマゼミ」であると知ったのは、数年経過してからのことでしょうか。その姿を知った時には、関西には随分大きなセミがいるものだな、と思ったものです。

    この本によれば、特に著者の住まわれている大阪では、最近、クマゼミの割合が以前にも増して増えてきている様で、その原因を調査したものです。

    結論から言えば、冬の温暖化や、乾燥により地面が硬くなってクマゼミの幼虫が地面に安全に潜りやすい等の理由があるようです。私の住んでいる関東エリアでは、鳴き声を聞く限りでは、依然として、ミンミンゼミやアブラゼミ・ツクツクオーシ等がまだ主流の様です。長年に亘り、同じ日本において、どうして蝉の分布が違っているのだろうを不思議に思っていましたが、それを解決してくれた本でした。

    以下は気になったポイントです。

    ・大阪では、ここ数十年の間にクマゼミが著しく増加し、他のセミが少なくなったっことは間違いない。この現象は西日本の多くの大都市で起こったと思われる(p11)

    ・クマゼミのかつての北限は、太平洋側では神奈川県、日本海側では福井県であった。その間にある、長野県などの山岳地域には分布していない(p11)

    ・クマゼミの場合、カメムシやチョウが自分で移動して分布を北に広げているのとは少し違うように思える(p17)

    ・植物の液体成分を吸う昆虫の多くが光合成で得られた栄養の通り道である師管の液体を吸うのに対して、セミは根から吸い上げた水の通り道である道官の液体を吸うから、樹木に顕著な害が見られない(p21)

    ・地質学では、地上のどこかが氷床でおおわれている冷涼な時代を氷河時代と呼ぶ、縄文時代には日本の平野部のかなりの部分が海水下にあった(温暖化)が、約2000年前の縄文時代の終わりから弥生時代にかけて寒冷化が進んだ(p33)

    ・もし大気がなかったら地球の表面温度の平均はマイナス19度程度、現在の14度との差は33度にもなる(p36)

    ・ヒートアイランド(人口排熱)よりも都市に暑さをもたらす要因は、地表面が人工化した(道路がアスファルト化、コンクリートの建物)したことによる(p39)

    ・水1グラムが水蒸気になる際には、0℃でも暑い30度でも、580カロリーの熱を奪い、環境温度に大きく左右されない。暑い環境でも水の気化熱を利用すると効率よく熱を放出できる(p40)

    ・都市化が進んで地表面がアスファルトやコンクリートで覆われた結果、雨水はしみこまずに直接下水道へと排出されて、晴れると地表面はすぐに乾くので、水の気化熱として奪われる熱が少なくなった。さらに建物によって空気の流れ(風)が妨げられることで暑い空気が停滞してヒートアイランドとなる(p41)

    ・COP21(パリ協定)では、1997年の京都議定書と異なり、全ての国で温室効果ガスの排出量の削減が約束された(p69)

    ・社会から要請のある、経済的な利益に直接つながる研究だけをしているのでは科学全体は発展しない、理由として、何が人類の役に立つかは長い年月がたって初めてわかるもの。電磁誘導がその例で発明者のファラデーは答えていない。発電は全て電磁誘導の応用である(p98)

    ・クマゼミは冬の寒さに弱くて、かつての大阪では冬の間に多くが死んでいた、という考え方は間違っていたと結論された(p121)

    ・大阪でも場所(大阪市内公園、大阪城公園、大阪市立大学、牧岡山(下・上)、箕面山)によって、セミの抜け殻の種類が異なる(p136)

    ・土の硬さが最も、クマゼミの割合と関係性が高かった。他のセミの一齢幼虫が土に潜りにくい状況にあり、硬い土にも潜れるクマゼミが増加した(p137、141)

    ・温暖化によってクマゼミの卵の発生が速くなり、一齢幼虫の生存に好適な梅雨の時期に孵化できるようになり、一齢幼虫の生存率が上昇したこともクマゼミの増加の要因である(p158)

    ・アブラゼミの死骸の98%が鳥に食べられたものであったが、クマゼミの半分以上が他の死因であった(p163)

    ・結論として、都市の温暖化・乾燥化・そして土が硬くなったことが、クマゼミ増加の大きな要因であると考えられる(p164)

    ・東京では、大阪と異なり、ライバルとして、アブラゼミに加えてミンミンゼミがいるので、同じ結果になるとは限らない(p166)

    2016年9月4日作成

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