生物学の基礎はことわざにあり カエルの子はカエル? トンビがタカを生む? (岩波ジュニア新書)

  • 岩波書店 (2018年3月23日発売)
3.26
  • (4)
  • (3)
  • (7)
  • (4)
  • (1)
本棚登録 : 76
感想 : 18
サイトに貼り付ける

本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

Amazon.co.jp ・本 (208ページ) / ISBN・EAN: 9784005008698

みんなの感想まとめ

生物の生態をことわざを通じて探求する本書は、ユニークなアプローチで知識を深める楽しさを提供します。小気味よい文章で構成されており、一つのことわざに対して生物に関する情報が適度に展開されるため、読みやす...

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • これはなかなか、面白い。

    小気味いい文章で、生物の生態について「ことわざ」をヒントに紐解いていきます。

    広げた瞬間「わっ、結構文字がある」と思うのですが、読み始めてみると一つのことわざや成句に対して紐解かれる生物に関する情報は、多すぎず少なすぎず、およそ1ページほどです。

    文章が非常にわかりやすく、リズム良いのでとても読みやすいです。一気に読む!という類のものではありませんが、ことわざの真偽を知りたい人、生き物雑学が好きな人にはおすすめ。

    それから、一般教養としての知識を得たい人にも良いかと思います。ことわざの意味がよく覚えられない人も、生き物の生態と共に読むとイメージが掴みやすくなる人もいるかもしれません。

  • 娘が読書感想文に選んだ本。久々に小説以外の本を読んだ。
    書きやすいテーマだと思う。おすすめ。

  • 杉本正信
    1943年東京生まれ。1966年東京大学薬学部卒。1971年東京大学大学院薬学系研究科博士課程修了。薬学博士。専門は免疫ウイルス学ならびに細胞生物学。国立予防衛生研究所(現国立感染症研究所)主任研究官、一般病理室長を経て、東燃(株)基礎研究所主席研究員。この間、米国ハーバード大学医学部研究員として免疫学およびウイルス学の研究に従事、長崎大学熱帯医学研究所客員助教授としてワクチン開発研究に関与する。その後、(株)エイジーン研究所、(株)ジーンケア研究所にて、老化の研究を行う(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
    『新型コロナワクチン 遺伝子ワクチンによるパンデミックの克服』より


    「犬も歩けば棒に当たる──イヌの五感  なにか行動すると意外な幸運にめぐり合うことのたとえですが、災難に出会うことがある、といった反対のたとえにも用いられました。  最近はペットブームで、日本で飼われているイヌの数は一〇〇〇万匹に近づいているそうで、ペットは若い人たちばかりでなく、高齢者にとっても大きないやしとなっています。  江戸時代には、五代将軍徳川綱吉の「生類憐みの令」でイヌをつなぐことが禁止された影響もあり、大部分のイヌは放し飼いだったでしょう。あっちこっち歩き回っては、思わぬエサにありついたり、あるいは悪さをして人に棒で追われたりした当時のイヌの生きざまが、このことわざからうかがえます。」

    —『生物学の基礎はことわざにあり カエルの子はカエル? トンビがタカを生む? (岩波ジュニア新書)』杉本 正信著



    「水清ければ魚棲まず──魚の生態  次に述べるように、魚にとって水は適度に汚れていた方がよいのですが、人についても、あまり潔癖すぎるとかえって敬遠されるたとえになっています。  実際に、水が清すぎると「貧栄養」という状態になり、栄養塩とよばれる、窒素、リン、ケイ素などがとぼしくなります。栄養塩のとぼしい、貧栄養化の状態では水は清くなりますが、魚のエサとなる植物プランクトン、動物プランクトンが増えません。海であれば、海藻も育たず、漁獲量も減り、養殖ノリの色が落ちるなど、困った状態になります。」

    —『生物学の基礎はことわざにあり カエルの子はカエル? トンビがタカを生む? (岩波ジュニア新書)』杉本 正信著

    「飛んで火に入る夏の虫──走光性  自分からわざわざ危険な目にあうことのたとえで、夏の夜、虫が灯火にどんどん集まってくることに由来します。  虫が灯火に集まるのは、走光性のためです。みなさんも、夜に虫が街灯や自動販売機の光に集まるところを見たことがあるでしょう。  『岩波生物学辞典』によれば、自由運動能力を持つ生物が外からの刺激に反応して起こす運動のうち、方向性が認められる運動を「走性」といいます。特に、その刺激が光であるときには「走光性」といいます。  走光性はミドリムシやカタツムリにも見られ、また、このことわざにあるように、羽アリ、ガ、ウンカ、セミなどの昆虫に典型的に見られます、また、この走光性は、光でイカをおびき寄せるイカ釣り船に応用されています(図 1-8)。」

    —『生物学の基礎はことわざにあり カエルの子はカエル? トンビがタカを生む? (岩波ジュニア新書)』杉本 正信著

    「藪蛇──ヘビの生態  やらなくてもよいのに余計なことをして、かえって災いを受けることのたとえです。わざわざやぶをつつきまわして、ひそんでいたヘビに襲撃される、ということに由来します。  ヘビは有鱗目ヘビ亜目に含まれる、四肢の退化した爬虫類の総称です。ヘビ類とトカゲ類は互いに類縁関係にあって、有鱗目を構成します。動きは、体を左右に波動させるヘビ特有の蛇行運動によりますが、また、肋骨を地面などにおしつけながら起伏させることでもおこなわれます。腹板はキャタピラのような役割を果たしています。ヘビの視覚は劣り、聴覚もほとんどないのですが、嗅覚は鋭敏です。  モグラやネズミを食べるために土のなかにひそむ必要があるので、「無用の長物」と化した四肢が退化したようです。いずれにしてもヘビはじっとひそんで獲物をとるので、やぶをつつきまわしたりしなければ、人を襲うことはないはずで、このことわざはヘビのこのような生態を反映しているわけです。」

    —『生物学の基礎はことわざにあり カエルの子はカエル? トンビがタカを生む? (岩波ジュニア新書)』杉本 正信著

    「腹八分に医者いらず──健康と医療  これは、食べすぎないように腹八分目の食物をとっていれば、健康でいられるということです。  江戸時代の本草学者(薬用に重点を置いた植物などの自然物の学者)で儒学者でもあった貝原益軒(一六三〇〜一七一四年)が八三歳で著した『養生訓』(全現代語訳、伊藤友信訳、講談社学術文庫、一九八二年)には、次のような「満腹をさける」という項目があります。「珍美な食べ物にむかってもほどほどでやめるのがよい。(中略)とくに飲食は満腹することをさけなければならない。また最初から慎しめば、あとの禍はないのである」」

    —『生物学の基礎はことわざにあり カエルの子はカエル? トンビがタカを生む? (岩波ジュニア新書)』杉本 正信著

    「病は口から入り、禍は口から出る──全身への影響  このことわざの意は、病気は食べ物を通してかかり、災難は自分の話す言葉によって起こるものだということです。失言が命取りになることがある政治家にとっては、とくに心にとどめなければならないでしょう。中国・晋王朝時代(二六五〜四二〇年)の『傅子』(付録)に出典が求められ、日本にも古くからあった、最も長く生き続けたことわざのひとつです。」

    —『生物学の基礎はことわざにあり カエルの子はカエル? トンビがタカを生む? (岩波ジュニア新書)』杉本 正信著

    「毒薬変じて薬となる──薬と毒  害をなすものが一変して役立つものに変わることがあり、毒薬も使い方によっては有益なものに変わる、というたとえです。  アマゾンの奥深いジャングルの先住民であるヒバロ族の狩人は、サルを狩る目的で、毒物をぬりつけた吹き矢を使いました。矢が突き刺さるとサルは木から落ちて、五分もたたないうちに呼吸をしなくなりました。矢の先にぬりつけられていたのは、有名な猛毒のクラーレです。  ところが、やがて、精製されたクラーレは外科医の手術を助けることになりました。これを注射することで、患者の不随意筋のけいれんを抑えることができ、手術をスムーズにおこなうことができるようになったのです。まさに「毒薬変じて薬となる」だったのです。  このように、科学的に考えても毒と薬の間には密接な関連があります。」

    —『生物学の基礎はことわざにあり カエルの子はカエル? トンビがタカを生む? (岩波ジュニア新書)』杉本 正信著

    「毒を以て毒を制す──抗がん剤  悪人を使って、悪人を退治したり悪を排除したりすることです。このことわざは、科学的に見ても薬にそのまま当てはまります。  がんの治療は、手術、抗がん剤による化学療法、そして放射線療法が中心となっています。このなかで、抗がん剤と放射線はいずれも体にとって本来「毒」であり、したがってこれらによる療法は「毒を以て毒(がん)を制す」る方法である、ということができます。」

    —『生物学の基礎はことわざにあり カエルの子はカエル? トンビがタカを生む? (岩波ジュニア新書)』杉本 正信著

    「毒にも薬にもならぬ──あってもなくてもよい存在  これは、「毒薬変じて薬となる」とは対照的なことわざで、これといった害悪もないが有益でもない、どうでもよいことのたとえです。人にこのたとえを使ったならば、それにはむしろ軽蔑の念が含まれているでしょう。  現在、世には多くのサプリメントが出回っています。そのなかには有益なものも多いこととは思いますが、なかには副作用もないが効き目も疑わしい、「毒にも薬にもならぬ」ものが含まれていることも、否めないのではないでしょうか。  なお、肉、魚、野菜などの多くの食品は毒にも薬にもならなくても、栄養としてなくてはならないものです。多くの庶民も、悪人でもなければ偉人でもない「毒にも薬にもならぬ」存在ではありますが、食品のようになくてはならない役割を担っていることもまた確かでしょう。」

    —『生物学の基礎はことわざにあり カエルの子はカエル? トンビがタカを生む? (岩波ジュニア新書)』杉本 正信著



    「信じられないような話ですが、筆者は、ミミズのようなカイチュウが口からでてきたという、忘れることのできない強烈な体験があります。  生物界は、お互いに利用し利用される関係にあります。自らは寄生しなくとも、何らかの生物に寄生されているのが一般的であり、寄生に無関係な生物など存在しないでしょう。  そういう意味では、地球上のすべての生物は多かれ少なかれ他力本願であるということもできます。人間を例にとっても、すでに述べたように腸内には常在する大量の腸内細菌が存在し、我々の健康の維持にも寄与しています。  ウイルスは「他力本願」で生きている病原体です。「備えあれば憂いなし」の項でも述べたように、ウイルスは細胞に寄生することでしか増殖できません。食塩のように結晶化もしますので、生物と無生物の中間のような存在と考えられています。  たとえば、インフルエンザウイルスは空気中に浮遊していますが、鼻やのどの粘膜に付着すると、やがて粘膜細胞に侵入し、ウイルスはそこで増殖します。そのために、鼻水やせきがでます。感染がひどいと、ウイルスは周囲のリンパ節に達し、リンパ節がはれたりして、発熱します。」

    —『生物学の基礎はことわざにあり カエルの子はカエル? トンビがタカを生む? (岩波ジュニア新書)』杉本 正信著

    「泣き面に蜂──日和見感染症  悪いことが、続けざまに起こるたとえです。  災いの連鎖は、ひとつの病気をきっかけとしてよく起こります。たとえば病気になって体力がおとろえると免疫力が低下し、いろいろな感染症にかかりやすくなります。とくに問題になるのは次に紹介する、日和見感染症です。  細菌は皮膚や粘膜の外側に常在菌として存在しますが、体内に侵入することはありません。その種類は約一〇〇〇、その数は人の体を構成している細胞の数(約三七兆個)の一〇数倍の一〇〇〇兆個にのぼります。」

    —『生物学の基礎はことわざにあり カエルの子はカエル? トンビがタカを生む? (岩波ジュニア新書)』杉本 正信著

    「人は百病の器もの──体は病原体の培養装置  このことわざの意味は、人間はあらゆる病気にかかり、まるで病気を入れる容器のようだということです。江戸時代にでてくることわざで、ここにでてくる「百病」とは、大部分が感染症であったと思われます。  事実、私たちの体は本来ほとんどあらゆる病原体が増殖可能な、培養容器のようなものです。なによりも栄養分に富んでいます。  そうならないのは、本章で紹介したような、自然免疫と適応免疫といった生体防御機構が備わっているからです。病気になって免疫機構がおとろえると、常在菌が頭をもたげ、日和見感染症にかかることはすでに述べた通りです。」

    —『生物学の基礎はことわざにあり カエルの子はカエル? トンビがタカを生む? (岩波ジュニア新書)』杉本 正信著

    「流れる水は腐らず──新陳代謝  常に活動し新陳代謝をしているものは、腐ったり停滞したりしないということ。「流水腐らず」ともいいます。  表皮細胞は活発な新陳代謝をしており、垢は古くなって死んだ表皮細胞です。  血液細胞も新陳代謝の激しい組織で、骨髄では毎日二〇〇〇億個もの赤血球が作られ、毎日同じ数だけの古くなった赤血球が体から除かれています。赤血球の平均寿命は一二〇日ほどで、古くなった赤血球は脾臓などでマクロファージという細胞によって破壊され、除去されます。  胃や腸などの粘膜の細胞も、消化酵素や食物と直接接触するために傷つきやすく、活発に新陳代謝され、古い細胞は新しい細胞に置きかわっています。」

    —『生物学の基礎はことわざにあり カエルの子はカエル? トンビがタカを生む? (岩波ジュニア新書)』杉本 正信著

    「年寄りは家の宝──おばあちゃん効果  このことわざの意は、長い人生を生きぬいた高齢者は経験豊富で、なんでもよく知っているから、家の宝として大事にしなければならないということです。次に述べますように、このことを科学的に証明した研究があります。」

    —『生物学の基礎はことわざにあり カエルの子はカエル? トンビがタカを生む? (岩波ジュニア新書)』杉本 正信著

    「蓼食う虫も好き好き──救い  人によって好みとするものは違っていて、人それぞれだというたとえ。蓼は茎や葉に辛味の成分があります。甘い花の蜜にいろいろな虫が寄ってくるのは理解できますが、なかには辛い蓼を食う虫もいる、というように、人の好みも千差万別である例に引いているのです。  オーストラリアに棲息するコアラは、ほかの生物が食べない毒のあるユーカリの葉を食べて生きのびてきました(図 5-1)。これは、他の動物と食物を争う必要がなかったという点で有利でした。」

    —『生物学の基礎はことわざにあり カエルの子はカエル? トンビがタカを生む? (岩波ジュニア新書)』杉本 正信著

    「事実は小説より奇なり──利己的な遺伝子  この世界で実際に起きる出来事は、作り話である小説よりも複雑で不思議であるという意味です。生物の世界は、動物の行動から分子生物学の世界にいたるまで、じつに「小説より奇なり」です。  行動生物学者のリチャード・ドーキンスが書いた、『利己的な遺伝子』(日高敏隆他訳、紀伊國屋書店、一九九一年)という本の、一九七六年版のまえがきの一節を紹介しましょう。  いささか陳腐かもしれないが、「小説よりも奇なり」ということばは、私が真実について感じていることをまさに正確に表現している。われわれは生存機械──遺伝子という名の利己的な分子を保存するべく盲目的にプログラムされたロボット機械なのだ。この事実に私は今なおただ驚きつづけている。私は何年も前からこのことを知っていたが、到底それに完全に慣れてしまえそうにはない。私の願いの一つは、他の人たちをなんとかして驚かせてみることである。」

    —『生物学の基礎はことわざにあり カエルの子はカエル? トンビがタカを生む? (岩波ジュニア新書)』杉本 正信著

    「氏より育ち──環境へのシフト  人の性格や人格を形成してゆくうえでは、血筋や家柄の良さよりは、教育や環境が重要だという意味で、「血は水よりも濃し」とは対照的な意味を持つことわざです。似たようなことわざに、「朱に交われば赤くなる」があり、これは、人はつきあう仲間によって、良くも悪くもなるというたとえです。」

    —『生物学の基礎はことわざにあり カエルの子はカエル? トンビがタカを生む? (岩波ジュニア新書)』杉本 正信著

    「子どもを育てるうえでも、また、若い人にとっても、早熟であるか晩成であるかというのは気になるところでしょう。ピアニストやバイオリニスト、あるいは将棋や囲碁の棋士になるためには、小さいときから才能を見極め、それに合った環境づくりが必要で、この場合には遺伝と環境の二つが大切であるということになります。」

    —『生物学の基礎はことわざにあり カエルの子はカエル? トンビがタカを生む? (岩波ジュニア新書)』杉本 正信著

    「天は自ら助くる者を助く──生物界のおきて  これは、他人を頼りとせずに自立して努力するものには、天の神が味方となるということわざで、自助努力の大切さを言っています。  この思想を最もよく実践してきたのは、地球上の生物でしょう。すべての生物にとって生き残ることができたのは、自助努力以外のなにものでもありません。ですから、このことわざは生物界のおきてでもあるのです。  むろん他の生物の助けを借りて生き残ってきた寄生虫のような、一見「他力本願」とも思えるような生物も存在しますが、それでも、自らの努力で利用できる宿主を選んできたわけです。ですから、自助努力と寄生は矛盾する概念ではありません。」

    —『生物学の基礎はことわざにあり カエルの子はカエル? トンビがタカを生む? (岩波ジュニア新書)』杉本 正信著

    「時は金なり──進化における時間の重み  このことわざの意には、時間を有効に使って物事にはげめば成功するということ、また、時間は貴重なものだからむだに過ごしてはならないということの、二つがあります。このことわざは、英語の「 Time is money」の翻訳で、わが国にも古くから、「一寸の光陰軽んずべからず」「一寸の光陰は沙裏の金」など、類似のことわざがありました。」

    —『生物学の基礎はことわざにあり カエルの子はカエル? トンビがタカを生む? (岩波ジュニア新書)』杉本 正信著

    「無用の用──生物に役立たないものはない?  このことわざは、何の役にも立たないと思われていたものがじつは大事な役割を果たしているという意であり、また、役に立たないことがかえって有用であることという意でも使われます。  生物の器官や組織などには、一見役に立ちそうもないものがありますが、実際には役立っていることが明らかになったものもかなりあります。もし本当に無用であれば退化したはずです。  たとえば、胸腺は人間にもある心臓の上に存在する白い臓器です。胸腺は思春期前後に最大となり、その後しだいに委縮します。このようなこともあり、この臓器は、以前はあまり役に立っていないのではないかと考えられていました。」

    —『生物学の基礎はことわざにあり カエルの子はカエル? トンビがタカを生む? (岩波ジュニア新書)』杉本 正信著



    「セレンディピティー──偶然の発見  セレンディピティー( serendipity)は、「 Serendip(現在のスリランカ)の三人の王子」という寓話に由来するもので、イギリスの政治家・小説家であるホレス・ウォルポール(一七一七〜九七年)の造語だということです。その意味は、意図的に捜し求めないで価値あるものを見つけることです。  「セレンディピティー」で有名なのはイギリスの細菌学者、アレキサンダー・フレミング(一八八一〜一九五五年)による、代表的な抗生物質ペニシリンの発見です。フレミングはブドウ球菌の培養実験をおこなっている際にあやまってアオカビを混入させてしまったのですが、そこで思いがけない発見をしました。アオカビの周りには、ブドウ球菌が増殖できなかったのです。これがきっかけでペニシリンが発見されました。」

    —『生物学の基礎はことわざにあり カエルの子はカエル? トンビがタカを生む? (岩波ジュニア新書)』杉本 正信著

    「また、このとき筆者が「若い人に言いたいことはなんですか?」と質問したところ「 Be independent and ask questions(独立心を持ち、疑問を持ちなさい)」という回答が返ってきましたが、これはそのままこのインタビュー記事のタイトルになっています。これまでの定説や権威に従うのではなく、自分の頭で考えることの大切さを彼は強調したのです。セレンディピティーは準備のある感受性を持っている人にのみ発見をもたらすのです。  近代の細菌学の父と言われるフランスの生化学者、ルイ・パスツール(一八二二〜九五年)は、「観察の領域において、偶然は構えのある心にしか恵みをあたえない」と言っています。」

    —『生物学の基礎はことわざにあり カエルの子はカエル? トンビがタカを生む? (岩波ジュニア新書)』杉本 正信著

  • 〇岩波ジュニア新書で「学校生活」を読む⑧

    杉本正信『生物学の基礎はことわざにあり』(岩波ジュニア新書、2020[第2刷])

    ・分 野:「学校生活」×「理科」
    ・目 次:
     まえがき
     第1章 犬は人につき、猫は家につく――動物の生態
     第2章 腹八分に医者いらず――健康と医療
     第3章 備えあれば憂いなし――体を守るしくみ
     第4章 諸行無常――老化とがん
     第5章 十人十色――生物多様性と生殖・性
     第6章 蛙の子は蛙――遺伝か環境か
     第7章 鶏が先か卵が先か――生命の誕生と進化
     あとがき

    ・総 評
     本書は、生物学の基礎知識を“ことわざ”をキーワードにして解説していくというユニークな本です。著者は、国立予防衛生研究所(現国立感染症研究所)など多くの研究所で免疫ウイルス学や細胞生物学を研究していた人物です。
     これまで皆さんが覚えてきた“ことわざ”を振り返ってみると、生物に関するものが意外に多いことに気付くでしょう。それは、昔から多くの人たちが生命という神秘に接する中で、様々な興味と疑問を抱いてきた結果だと言います。本書ではたくさんの“ことわざ”が取り上げられていますが、その中でも面白いと思ったものを以下の3点でまとめます。

    【POINT①】「腸の煮え返る」――現代科学を先取りした、先人たちの知恵
     激しい怒りを抑えられない様子を「腸の煮え返る」と言います。ここで疑問なのが、なぜ「腸」なのでしょうか?実は、ある海外の研究では「脳に存在しているセロトニンという物質は腸にも存在し、しかも体内のセロトニンの九五%が小腸の粘膜にあるクローム親和性細胞にある」と報告されています。即ち、腸は脳と深い関係性をもつ、いわば「第二の脳」とも呼べる存在だと言います。もちろん、この“ことわざ”が登場した当時は、こうした知識を持つ人はいなかったはずです。先人たちは、日常の経験と知恵から、現代科学がようやく明らかにした成果を“先取り”していたと言えるでしょう。

    【POINT②】「攻撃は最大の防御」――なぜ、エイズウイルスは根絶できないのか?
     人類は様々なウイルスの脅威にさらされていますが、中でも「エイズウイルス」は強力です。このウイルスが厄介なのは「攻撃は最大の防御」を実践していることです。即ち、エイズウイルスが侵入すると、ウイルスを撃退する免疫システムの“主役”を担う「ヘルパーT細胞」を真っ先に攻撃します。いわば、敵の軍隊の中枢を真っ先につぶすことで、自らの生き残りを図っているのです。しかも、このウイルスは不安定で容易に変異を起こすため、有効なワクチンを開発することが非常に難しいと言います。このように、“ことわざ”でイメージをつかむことで、難解なウイルスの仕組みも理解できるのではないでしょうか。

    【POINT③】「鶏が先か卵が先か」――“ことわざ”を生物学的に考える
     物事の因果関係や順序が分からない時に「鶏が先か卵が先か」という表現を用います。ただ、この“ことわざ”は、まさに「生命の誕生」を考える上で重要な問いかけとなります。生物学を専門とする著者の見解では、地球上における最初の生命体は「自己増殖が可能な分子」から成り立っていたと言います。こうした単細胞生物が多細胞生物への進化する中で、やがて有性生殖をおこなう生物が誕生し、その受精卵から新たな個体が生まれることになります。即ち、生物学的な視点から見れば「卵より鶏が先」という結論になるそうです。このように“ことざわ”を理科の視点から分析してみるのも面白いのではないでしょうか。

     本書が面白いのは、国語で学習する“ことわざ”と理科で学習する“生物”を組み合わせたという点にあります。不思議な組み合わせにも見えますが、複雑な生物の仕組みを理解する上で“ことわざ”は分かりやすいイメージを与えてくれますし、生物学的な視点から“ことわざ”を考えることで、実は非常に理に適った表現であることが分かったりします。国語あるいは理科が好き!という人は、是非、手に取ってほしい一冊です。
    (1397字)

  • 生物学の観点から諺の本質を捉えるという面白いコンセプトではあった。

  • むかーし授業でやったことと、はたらく細胞で読んだを思い出しながら。でもちょいちょい難しいところもあって、そこは飛ばしました。抗原提示細胞とか、前線には出ないけど必要不可欠なモブって感じで好きです。

  • 興味がある人でなければ最後まで読むのは結構きついかもしれない。YA世代だと途中で投げ出す子がいそう。

  • ことわざが切り口になっているから文系にもとっつきやすい!当たり前のように理解してたことわざが生物学に裏打ちされてると思うと、なんとも味わい深くて言葉の厚みが増したように感じました

  • 企画の勝利。これ、大変だったと思うよ。一つ一つことわざと基礎的な生物の講義を結びつけるのは。
    執筆の際の苦労がよくわかる力作。良い企画だし、著者の力量も高い。

  • 著者は老化や免疫学を長く研究してきた研究者の方
    それらに関連した項目はかなり先端のことも詳しく
    しかもわかりやすく書かれています
    テロメアが短くなる構造など
    うっすらとTVなどで聞いていた話は
    こういう事か~とか 遺伝子とDNAの違いとか
    多分 高校生物学程度のお話かと思います

  • ことわざと生物学の両方が同時に学べる便利な内容でした。どちらの内容もおおよそどこかで聞いたことのあるような内容でしてたが、その分読みやすく、生命の進化だとか現代生物学でどの辺まで分かっているかも概要を把握できるので便利な一冊だと思う。ことわざとの対応は多分にこじつけなところも多い気がしますが。

全13件中 1 - 13件を表示

この本が好きな人におすすめの本

杉本正信の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×