生きづらい明治社会 不安と競争の時代 (岩波ジュニア新書 883)

  • 岩波書店 (2018年9月22日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (192ページ) / ISBN・EAN: 9784005008834

みんなの感想まとめ

明治時代の社会構造とその生きづらさを深く掘り下げた本書は、現代にも通じる問題を浮き彫りにしています。特に「通俗道徳」と「自己責任」の観念が、貧困層に対して厳しい視線を向ける様子が描かれています。著者は...

感想・レビュー・書評

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  • 明治社会が生きづらくないわけがない。家電もなければコンビニもスマホもないし。というレベルの低い話ではなくて、本書で特に勉強になったのは先ずは「生きづらさを測る指標」について。

    明治の時代には、都市に下層市民の貧民窟があったというが、所謂、失業者のような存在で実入りがない。食べていけない。こうした存在に対するセーフティネットの有り様から、明治社会の暮らしを覗き見たのが本書。

    現代でいう「生活保護」のような制度だが、それ以外の法整備も未熟である中、まだまだ弱者救済にまで行き届かない。それでも、恤救規則という1874年に制定された法令にたどりつく。現在の生活保護法に類似した役割を果たしていたのが、この恤救規則のようだ。

    ただ、貧弱な内容しかもたない恤救規則はその後も中々改善されない。通俗道徳という、「自己責任論」が根強かった。これは今でも生活保護受給者への視点として残っていると思う。ズルい、怠け者、人のお金で楽している、という考え方。弱者に対して厳しいのは今も昔も一緒。いや、庶民の生活にも余裕がない分、当時の方が更に弱者には厳しい。より、生きづらい社会というわけだ。

    時代は、日本政府に対して、戦争に備えて軍備を増強することを最優先とさせ、次には軍事力をささえる産業や交通・通信網の整備。日清戦争の賠結局いつまで経っても中々政府のカネは潤沢にはならず、貧者に金は回せず。

    現代の生活保護制度にも見直す点はまだあると思うが、その誕生や歴史を学ぶにも良い一冊だった。他者に厳しい時代。再来せねば良いが。

  • 生きづらい明治社会が現代にも通ずるところがたくさんあるというのが驚きでした。著者が一貫して主張していたことは明治の人たちが陥っていた「通俗道徳のわな」というものです。それは「貧困とは怠けてるお前が悪い/努力が足りない/自業自得だ」です。成功した人はもちろん努力をした人なのでしょうが、貧困層は努力をしなかったかというとそうではない。色んな要因があってそこから抜け出せないほどの環境下にいることもあるんだよということ。今のSNSやネットでも同じような光景が垣間見えます。(例えば就職氷河期世代に対する考えとか)

    人間なんて数十年しか生きないのだから150年前と同じような考えを持つ人が多くてもなんら不思議ないのだけれど、じゃあ僕らはいつまでも変わらないままなのかと言われるとそれも虚しいなと感じました。若い世代はぜひ読んでみてほしい一冊だと思いました。

  • 本書は、明治社会がいかにして「通俗道徳(努力は報われるという信仰)」と「自己責任」の檻を築き上げてきたかを、緻密な史料批評を通して描き出している。
    「病気にかからないのは、精神力があるからだ」 。明治の実業家・大倉喜八郎のこの言葉に対し、歴史学者である著者は「年中かぜをひいたり寝込んだりするので、うんざりしました」と漏らす。私もそう思う。

    「からだが弱い人」と、「資本主義・小さな政府」の相性は最悪である。「体力」というリソースが制限されている者にとって、立身出世や自助努力を煽る社会は、偶然の不幸や身体の限界を「自己責任」として切り捨てる。そして、体力の有り余った「強者」が主導する構造が、支配者側に都合の悪い存在にしわ寄せを強いている……。
    繰り返される歴史に、驚きと呆れを感じた。

    また、興味深いのは、当時の貧困層の若者たちが、あえて貯蓄せず、あえて無茶をするという「対抗文化(カウンターカルチャー)」で抵抗した点だ。しかし、その熱狂も加齢(体力の低下?)とともに「どうせ変わらない」という虚無へと沈んでいく。この構造は、昭和の学生運動や、現代のSNSで過激な言説に走る人々の閉塞感とも地続きに見える。

    だが、ここで無理に土俵に乗らないのも、ある種の生存戦略だと思う。そもそも、体力がない者は、限られた資源をどこに投下すべきか常に「最適配分」を考えざるをえない。その切実な工夫こそが、構造の欠陥を見抜くメタな思考パターンを育む。執着を捨て、システムから一歩身を引くことで、はじめて見える景色がある。

    歴史を学び、長い時間軸で物事を眺めることは、「世の中のわけのわからなさ」と向き合うための「理屈」を豊かにするため。資本主義の暴走を食い止めるストッパーは、案外、「生きづらさを抱え、考えざるをえない人間」の視点にあるのかもしれない。

  • 「社会が大きく変化し、先行き不透明で、不安な現代社会は明治時代とよく似ている」と言われますが、明治時代の社会不安の原因や仕組みや問題点を丁寧に解説してある本書は、私達にとって、とても参考になるものだと思いました。
    ぜひぜひ読んでみて下さい。

  • 明治はなんでも自己責任のリバタリアニズムばりばりの時代で、とても生きづらかったという視点で歴史を振り返った論考。
    確かに列強大国の植民地になるのを恐れ、食べていくには通俗道徳を内面化し、必死に働かざるを得ない状況であっただろうし、余力などなかったのだと思う。
    一周回って150年後の現在、また近い状況が繰り返されているのがただの皮肉であることを願う。

  • この本は正直驚きました。
    なぜなら、約150年前と今の問題がほとんど変わってない事に驚きです。
    さらにはこの当時の政治家達のセリフも今のほとんど変わってない。
    通俗道徳がいかに思考停止させてるのがよくわかる。
    150年前とくらべて、ものが進歩したのに、日本人が進歩してないのは笑えるし、アホくさくなる。
    社会が進歩してなくて、技術だけが進歩する。
    それは社会が歪みますわ!
    ぜひ、読んで、このアホくさを感じで欲しい。

    #読書
    #読書記録
    #読書好きな人とつながりたい
    #明治社会

  • 日本の近代の始まりはこんな感じかという面白さと現代の社会問題に通じていく何かを感じました。

  • 「貧しいのは努力が足りないから」「辛いのはお前だけじゃない」「日本にそんな余裕はない」と生活に行き詰まった人を批判するのは現代だけではなかった。明治時代もまた、そうであった。
    明治政府はクーデターを起こした士族の政府で、実際カネはなかったのであるが、投票も一定以上の税金を納めた男子のみ、議員も金持ちばかりだから、当然自分の所属している階層が得するような社会を作る。そうするとますます貧しい人は救われない。
    現在は、18歳以上なら投票できるし、被選挙権も収入とは関係なくある。しかし、国会を見たら二世三世議員ばっかり。小学校から私立で、お金の苦労なんかしたこともない人が政治のトップにいて、自分の所属する階層が儲かるような社会を作っている。
    ということで、明治時代を専門にしている歴史研究者が明治の社会を解説する本ではあるが、現代はじゃあ、どうなの?という問題提起が実はメインテーマである。
    まあ、暗澹たる思いがしますね。

    勤勉、倹約、努力はそれ自体悪くはない。しかし、そうしたからって、成功や幸福が約束されているわけではない。これを信じ込みすぎると、極端な自己責任論に走りやすい。実際に歴史を見れば、個人の努力とは関係なく、マネーゲームや政治家の判断でインフレやデフレが起こり、突然職を失ったり、資産の価値が無くなったりすることが起きるのは明らか。これを自己責任にすれば、一部政治家、資本家の思うつぼじゃないか、とこれを読んで私も思った。
    明治期の生きづらさの理由を解き明かすことによって、現代を生きる私たちの生き方を考えよう、という内容で、明治社会から今に続く「通俗道徳」に縛られる危うさは、知っておいて損はない。就職氷河期の人なんか、真剣に怒っていいと思う。

  • 百年以上前なのに、明治と令和の世の中がなんと似ていること!
    この本は明治時代の生きづらさ、敗者への冷たさを見ていくことで、現代社会の「自己責任論」に疑問を投げかけている。歴史学者が今でいう自己責任論の源泉を「通俗道徳」という言葉で発見していたとは知らなかった。
    筆者と同じように臆病な人間である私は、本当に何度も頷きながら読んだ。貧困に陥る人は怠けているからじゃない、頑張っていないからじゃない。生まれや運など自分ではどうしようもないことが身に降りかかってきて、穴に落ちてしまう人はたくさんいる。大きな政府を望みます。

  • とても面白かった!
    通俗道徳という言葉を知らなかったので大変勉強になった。日本の社会福祉はどうして発展しないのか、日本のどの時代の政府にも弱者救済の視点が欠けているのはなぜなのか、その発端を知ることができたように思う。時間があれば参考図書もあたってみたい。

  • Twitterで見かけたこの本、読みやすい良書だった。
    不景気、大きな社会構造の変化期ゆえに肥大化する大衆の不安、家に搾取される女性たち、貧困者への冷たさ、競争社会、若い男性たちの暴動など。
    切り口もわかりやすく、小学校高学年からでもわかるだろう。
    作者の視線は、明治以降の、成功者=特別努力した者、という思想に嵌まる罠について集中して警句を発してくれる。
    昨今の考えにもおおいに通じるこの感覚は、確かに怖いものだ。
    この罠の背景にある物を見れば、日本社会が、自分は苦労しているのに、のうのうとして怠けている(ように見える)のに生活をみんなのお金から補填してもらうヤツへの冷たさがなにによって起こるのかわかってしまう。
    狭い価値観、余裕のない社会、いずれも多様性の裏側に、弱く声のない誰かを追い詰めていく。

    (近年、自己責任論を声高に口にした為政者といえば小泉純一郎だが、それ以降の社会の歪みのなかで一体誰が得をしていたのか?
    よく見なくてもわかる社会の一端に、私たちが声をあげるべきは自分より下の階層へのうらみ・ひがみ・ねたみ・そねみではなく(田中芳樹)、上つ方への毅然とした意見でしょ。)

  • 作者の断定しない姿勢が素晴らしいと感じた。
    構造的に明治時代を理解したい方には非常におすすめの本。なぜ生きづらいか。成功者の理論を押し付けている人は現代でも多いと思う。そんな人はハッとすることも多いのではないか。通俗風俗。努力できることも運。

  • 通俗道徳いわゆる自己責任論。
    生きづらさ報われなさを抱える下層と、"自己努力"により勝ち上がり指揮を振るう上層。
    まさに資本主義社会のど真ん中にあり、現代のような制度も醸成されていない格差社会とみえた。
    現代も法整備がされつつあるが骨格は変わらない。良い悪いではなく、難しいのだと思った。

  • う、裏『坂の上の雲』……。『歴史学はこう考える』といいたいへん勉強になりました。

  • 高校生時代は日本史が大好きだったが故に、勉強にもそれなりに精を出していたので、当時を思い出しながら楽しく読むことができた。現役時代に読んでいたら、教科書で読むだけだった用語や事件もより解像度をあげて理解することができたんじゃないかと後悔。日本史選択だった人、ぜひ読んで。

  • 明治時代と現代は、「がんばれば成功する」という「通俗道徳のわな」に陥っている点が共通とする。その要因は、社会が変革する中で、不安を受け止める仕組みがないこと。

  • 文字通り、明治時代の庶民の生きづらさについて書かれた本。わかりやすく書かれていて一気に読めた。
    都市の下層社会や、様々な競争の中で淘汰された人々の様子
    などを描きつつ、そういった明治社会の背景に通俗道徳があり、様々な影響を与えていたことに触れる。
    普段自分の見ている明治時代の世界はそれなり以上に裕福な層のものだと改めて感じさせられた。

  • 明治時代に関しては江戸時代が終わって、鎖国が終わり、産業革命で日本は近代化が進んだと教科書どおりの知識しかなかった。
    大河ドラマや時代小説の影響で幕末のアグレッシブでエネルギーに満ちた時代から明治時代に移るあの時代は日本は凄く元気も未来もあって、現代より良いとさえ思っていた。当時の普通の人々の生活について、ちゃんと思いを馳せた事がなかったので、この本を読む事で視点が変わった。今までの社会システムがガラッと変わってしまうのだから、当時の普通に生きている大多数の人たちはとても不安もあっただろうなと思う。そして今と何だか凄く似ているな、と思う。明治時代から脈々と続いてきた資本主義社会が段々と限界を迎えている気がするし、AIの発達も世界を大きく変えている。歴史は繰り返すというけれど、今もまた江戸時代から明治時代のような歴史の展開点のような時代のような気がする。

  • 『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』を読了した人におすすめの一冊。
    立身出世を煽り田舎の若者が東京にやってくるが、日々の糧を得るために仕事に押し潰れされて貧民に堕ちる所などぞわりとする。
    競争社会の能力主義とコインの裏表としての結果を出せない人間を切り捨てる社会の恐ろしさがひしひしと伝わる。

  • 読みやすかった。江戸時代からの変貌は大きいものがあるのは分かっていたけどそれ故に大変だった事も多かったのだと知ることができた。

    努力すれば必ず報われる精神が広まったのはこの頃だったのか

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著者プロフィール

慶應義塾大学教授

「2025年 『福祉の世界史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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