野生生物は「やさしさ」だけで守れるか? 命と向きあう現場から (岩波ジュニア新書 988)
- 岩波書店 (2024年7月22日発売)


- 本 ・本 (222ページ)
- / ISBN・EAN: 9784005009886
作品紹介・あらすじ
野生生物を守るのは簡単ではありません。複雑な生態系のバランスを保ち、多様な生きものがいる豊かな自然環境を維持するために、ときには外来生物などを駆除するという、つらい選択をしなければならないこともあります。日々悩みながら命と向きあう現場の人たちを取材し、人と生きものとの共生のあり方を問いかけます。
感想・レビュー・書評
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野生のクマが捕獲されると決まって殺到するのが、行政職員に対する「クマがかわいそう」というクレームだ。私は常に、この意見に違和感を覚えていた。
本書は「まえがき」でも述べている通り、いきものを守るにはどの道が正解かといったものはほとんどない、と断っている。だからクレームを入れる人の意見も、私のように違和感を覚える人も両方「正しい」のだろう。いきものの保全はそう単純なものではない。ただ、一番苦悩しているのはいきものの駆除や保全に直接携わる方々だ。本書は生き物の保全に対する例だけでなく、その専門家たちの肉声を読むことができる貴重な本だ。現場に居る方々の葛藤、苦悩、使命感がよく伝わる。
何にでも言える事だが、よくわからないのに一方の意見を押し付けるのはよくない事であり、反対意見に耳を傾けないということは議論にもならない。何より一番厄介なのは「かわいそう」と安易に口にする「中途半端な動物愛護精神」だ。自分の意見を押し付ける前に、今一度もう一方を「知る」「知ろうとすること」が、答えのないいきものの保全の道に必要なのではないだろうか。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
愛護だけでは守れない動植物の話。現在進行形の話題も多くスッキリとした答えをくれるわけではないので、それを期待して読むと肩透かしを食らうかも? 調査や保護、駆除をされている方々の苦労にはただただ頭が下がる。
奄美でのハイビスカス伐採の話で出てきた納得感というのは重要なキーワードだと思った。結局のところ、自分と、自分を含めたその土地がどうありたいのかを各々もっと考えていける社会にしていきたいね -
人気者が広げた波紋:
守られる・駆除されるシカ
憎い存在ではない
多くが絶滅危惧種
ウミガメ・島の人・島の外の人
専門家だって悩んでる―「かわいそう」の線引き:
白黒つけられないところに大事なもの
段階を踏む
心の痛み・関心の高さ
どんな道を選んでも苦しさあり
調べるのも守るのも簡単じゃない:
野生生物の死=自然からのメッセージ
もう増やせない生きものもいる
生きものたちのつながり:
人がもたらす多様な環境とリズム
命に向き合う責任:
泣きながらマングースにを手にかけた
見つけちゃったらどうしよう
あの日の自分に声をかけるなら
気持ちに正解なんてない -
野生生物と人間社会との関係、距離感を考えるヒントを提示した良書。
「新聞記者」というスタンスから書かれていることで、野生生物に肩入れしすぎず、当事者の方達の熱い想いや苦悩を押しつけることもなく、一般の私たちの感覚にも寄り添って問題を丁寧にひもといている。
ジュニア新書だが、子どもや学生はもちろん、あらゆる世代に手に取ってほしい一冊。
生物多様性保全の現場で悩みながら活動している当事者は、どうしても保全対象への思いが強く、活動の重要性を強く訴えがちになる。今、行動しなければ間に合わないから、どうか力を貸してほしい、力を貸してもらわないまでも、理解してほしい、邪魔しないでほしい。当事者が書くと一般の私たちはひいてしまうような拒絶されそうな話題でも、冷静であろうと表現を選んで伝えようとしているのがわかる。
野生生物との距離をどう取ったらいいのか、対立、排除ではなく、共存するにはどうしたらいいのか、そこに生業が絡んでくると一層難しい。そうした苦悩も丁寧に拾い上げて、読者自身が自分事として考えることを促してくれているようだ。
客観的でありながら、いきものへの愛情が溢れた一冊だった。 -
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生物を守る様々な立場の人の考え・想いを、中立な目線から紹介してくれる。
生き物が好きな人の中で、外来生物や有害鳥獣の駆除を、生態系や人の生活を守るためなら仕方ないと簡単に割り切れる人は意外と少ないのだろうか。自分が生き物好きにも関わらず、「割り切ろう」と意識せずとも手にかけられるタイプだったもので、それぞれの気持ちに寄り添うことも大切だなと。 -
480-A
閲覧新書 -
なかなか面白い切り口でした。
さらに色々な分野、例えば愛護派の方々の取材すると良いと思いました。 -
462/ア