天皇制の文化人類学 (岩波現代文庫―学術)

著者 : 山口昌男
  • 岩波書店 (2000年1月14日発売)
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784006000035

天皇制の文化人類学 (岩波現代文庫―学術)の感想・レビュー・書評

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  • 中学生の頃に細野晴臣を介して知った中沢新一を、予備校時代に代ゼミ現国講師の菅野朋哉先生を介して読み知ることとなり、いつしか文化人類学や民俗学の方向に舵取りしてしまっていた矢先に、文化人類学の学術的なテキストとして手にしたのが山口昌男の「文化人類学の招待」だった。この本を読んでおいたおかげで大学時代の講義に少なからずの糧となったと思う。中沢新一の漠然とした論説ではなく学問としての体系的な論考は文化人類学という学問を初めて触れる初心者にはうってつけの入門書であった。

    そんな山口昌男が中沢新一も当時所属していた東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所の所長であったという話はすこし後で知ることになるのだが、ぼくの中では吉本隆明や河合隼雄などと並ぶ権威者である。

    そんな山口昌男の「天皇制の文化人類学」もまた中沢新一などのテキストの中の引用で知ったのかもしれないが、この刺激的なタイトルに個人的に呼応しないはずはない。この本で山口昌男はタイトルどおり文化人類学的に天皇制を紐解いていくのだが、例えば謡曲「蝉丸」を題材に能や歌舞伎などの芸能を通して天皇制の深層に迫ったり、「源氏物語」を題材に天皇制の神話性に踏み込んでいったりとダイナミックな論考が目白押しである。

    後半は権力や政治の問題を人類学的に考察しているが、おもしろいのは天皇制や王権の演劇的な側面を人類学的に考察しているところだ。その中から、「野兎」や「ミクロコスモス」など中沢新一で見知ったセンテンスが出てきてワクワクする。まあ同じ分野の論考なので当たり前だが山口昌男はそこを学術的に潔くさらには勇ましく纏め上げているのに好感が持てるのだ。

    ここからは蛇足でしかないが、この本の中で個人的に印象的だったのは、第二部のIV項「天皇制の象徴的空間」の4項「天皇制と歌舞伎」の章において、山口昌男が引用した渡辺保の「女形の運命」からの以下の文章だ。

    『私にとって天皇は一つの危険な罠のようにみえる。現実の市民生活の中で多少とも戦前の怖ろしい記憶をもつ人間にとっては、天皇が今日存在すること自体がたえられぬ痛みである。』

    ここでは天皇制に宿る闇を歌舞伎の演劇との関係で引用しているが、先の戦争における天皇の存在が道化(スケープゴート)的な空間であるなら、その受け皿におさまろうとしたのは日本人の闇であったと想像できる。そしてその仕組みが日本における天皇制の歴史的事実であるのなら、昭和天皇はその超越的な最終形態にまで達したのではないかとも思えるのである。そういう意味ではあの70数年前の歴史的事実は日本人にとっての必然的な不幸でしかなかったのかもしれない。

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