スターリン言語学精読 (岩波現代文庫 学術 8)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (293ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784006000080

感想・レビュー・書評

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  • めったに聞かないスターリン言語学である。田中克彦の書きぶりはわかりやすい。時枝がこれを批評して広めたということも初めて聞いたが、大学の言語学の授業では習ったことがなかったので、今でもあまり教えないのかもしれない。
    米原万里の紹介本である。



  • 岩波現代文庫
    田中克彦 スターリン 言語学精読

    スターリンの論文「マルクス経済と言語学の諸問題」の解説本

    言語と民族の関係を紐解いている。スターリンの社会主義思想を軸に、言語とは 民族にとって何か、言語を扱う上で 国家と民族の違いは 何かを明らかにしている


    スターリンの革命は、共通の民族、言語、宗教 により 中央政府を作ろうとしたのではなく、民族主権や民族平等により 社会主義体制を作ろうとしたように読める


    スターリンの民族の定義は 現代にも通ずる。単一言語・単一民族が 一つの国家を構成する日本にいると、民族と国家の定義の違いに気づかないと感じた


    スターリンの「民族」の特徴
    *言語、地域、経済生活、文化の共通性のうちに現れる心理状態
    *すべての特徴が同時に存在する場合 民族となる
    *歴史的に構成された、人々の堅固な共同体
    *心理状態=民族特有の変わらぬ心理構造


    言語は上部構造ではない
    *言語は土台であって、社会の変化に対応するような上部構造ではない
    *土台は、与えられた発展段階における社会の経済制度
    *上部構造は、社会の政治的・法律的・宗教的・芸術的・哲学的な見解とこれに照応した政治的・法律的その他の機関
    *あらゆる土台は、それに照応する特有の上部構造を持っている


    言語は階級的ではない
    言語は階級的でなく 民族的〜言語は民族のものである


    「スターリンは、言語の階級性を否定して、単一民族の共通語の強調をマルクス主義的な立場とした」

    「民族は、人種的、種族的な共同体ではなく、歴史的に構成された共同体である」

    「民族は、共通の言語なしには考えられないが、国家は共通の言語は必ずしも必要ない」

    「社会主義的革命は、言語の数を増加させている〜新しい民族を新しい生活へと目覚めさせているから」






  • 同著者の本を読んで、むしろこれを読まねばならないなと感じ、読んでみた。

    まず本書を読んで、ソビエト言語学とスターリン言語学は同じものと思っていたが、全く違う、ソビエト言語学を批判したのがスターリン言語学であるというのがわかった。著者も指摘している通り、一国家指導者が言語学について論文を発表したことは注目に値するだろう。

    そもそも本書を手に取った理由として、ソビエト言語学たるニコライ・マルの理論を知りたかったのだが、同氏の理論は所々に散りばめられているので、全部読めばたしかに分かるのだが、手っ取り早く知るにはwikiが1番よくまとまっていると感じた(wikiの引用元は本書なので、本書の内容をうまくまとめているという感じ)。

    本書あとがきにある、ソビエト体制の自由の始まりは1953年のスターリンの死とされているが、スターリンのソビエト言語学への批判が始まりではないかという話は言い得て妙である。

    スターリンの説明が、一種伝統言語学への回帰であり、一見したところはむしろ凡庸な話になるのだが、その中でも、「批判の自由がないなら、科学の発展はない」とスターリンが述べているところ等、「おまえが言うなよ!」みたい箇所がいくつかあって個人的に面白かった。

  • 2000年刊。著者は一橋大学名誉教授。


     ロシア人による他地域の植民行動を推奨・遂行し、民族と言語とを混沌の中に陥れたスターリン。ところが、1950年に発表した言語学関連の「スターリン論文」は、先の政治的行動とは真逆の、民族内の言語自決権を強く擁護するものだった。当該論文の意味を記述やスの言動から解読することを企図するのが本書である。

     が、正直、政策抜きでスの発想を須らく解読する方法は誤りだと思う。つまり政治的行動と該論文を照合して矛盾や合致を分析する必要があり、それがないとスの政策論を検討したとは言えないだろう。
     そういう意味で、スターリンがかような論文を書いた政治的意図は何かという点に踏み込まないと、余り面白くはない。

     また、言語の意義・役割、そしてその変遷要因につき単純な関係性を措定しているようで、この点も?だ。
     そもそも言語は交流のある集団間で作用する以上、仮に該集団が階級差等で交流途絶しているならば、言語に違いが生まれ、通有性が減弱するだろう。
     あるいは、新制度ができればそれに即した語彙・単語が生み出され、逆に制度廃止によって、これまでは通用していた言語は消滅する。
     つまり著者の言う「土台」からも、言語は影響があるのだ。

     あるいは交通機関の発達・高速化、通信の質的・量的範囲の拡大が集団間の交流拡大を生み、それは通用言語の統一性を要請する。かようなことでも言語は変わり、また、情報交換・伝達・交流の手段(テレビ・ラジオ・ネット)の変化によっても変わるだろう。
     さらにいえば、国語教育や出版物での言語の使い方の変化でも変わるはず。

     等々、そもそも一元的要因を措定するのが不自然なのだ。つまり多様な要因で言語は変わり、その要因の特定は容易でない、としか言えないのではなかろうか。
     これに非整合的なの著者の叙述がどうも腑に落ちぬ。そんな読後感である。

  • 「言語は上部構造ではない」このスターリンによる発言により、それまで公認とされてきたマルを代表とするソビエト言語学は崩壊する。学問と政治体制の癒着、崩壊をめぐるドラマは劇的で、20世紀という時代の一側面を見せてくれる。スターリンによる「マルクス主義と言語学の諸問題」も収録されている!!
    難い詰まらない本のように見受けられるでしょうが、こんなドラマチックな面白い本はありません!!荒削りながら、隠れ名著ですよ!!嘘じゃないから!!

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著者プロフィール

一橋大学名誉教授

「2021年 『ことばは国家を超える』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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