- Amazon.co.jp ・本 (341ページ)
- / ISBN・EAN: 9784006000219
作品紹介・あらすじ
チンパンジーは道具を使い、利他的行動をし、仲間同士で駆け引きや欺くこともする。ことばを習得させると、物の形や色、数などに深い認識をもつことも明らかになった。長期の観察からチンパンジーの心と認識の世界を考察し、もっともヒトに近い存在の探究を通して、人間の理解をも深める比較認知科学の試み。
感想・レビュー・書評
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おなじ著者による『進化の隣人―ヒトとチンパンジー』(岩波新書)と同様、チンパンジーの知性について、さまざまな実験のエピソードを紹介しながらわかりやすく解説している本です。
野生のチンパンジーによる道具の使用や、ヒトとおなじようにさまざまな駆け引きをおこなう社会的な知性についての実験、さらにチンパンジーのアイにことばを教える試みとその結果明らかになったことなど、だれにも理解できるような興味深いエピソードを通して、チンパンジーと人間の知性のあり方に迫っています。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
「アイは「天才」というラベルを貼り、例外として処理するのではなく、実際にチンパンジーはヒトに比肩しうる知的能力を備えている、ということをすなおに認めればよい。単なる「黒くて大きなサル」 だと思い込む束縛から解き放たれ、その能力に瞠目するところから、この「進化の隣人」に対する真の理解が始まるだろう。」この第4章の最後の言葉が本書を通して著者が訴えたかったことのすべてだろう。著者はチンパンジーを何人と数える。ヒト以外の動物はふつう何匹、何頭などと数える。ヒトをそれ以外の動物と区別している。中にはヒトを動物というと変な顔をする人もいる。でも、ヒトはれっきとした動物の一種だ。そして遺伝子を調べるとチンパンジーとはもっとも近しい存在であることが分かる。(シマウマとウマより近い仲らしい。)ヒトとチンパンジーが本当によく似ているということは本書を読むとよく分かる。特に3章でヒトの乳幼児と比較しているところは、私が現在2才男児、2ヶ月女児の子育て中ということもあって、とても興味深い。下の子に舌をべろべろ出して見せたりもする。ちゃんと模倣してくれる。(上の子まで一緒になってやっている。)今、アイは人工授精によってできた子どもアユムの子育て中だ。人の中で育ち、いろいろなことを学んできたアイが、いったい自分の子どもにどんなふうに自分の学んだことを伝えていくのだろう。その研究結果が楽しみだ。それにしてもなんと息の長い研究なんだろう。著者の松沢さんの講演を一度聴きに行ったことがある。ビデオも見せてもらった。わくわくする内容だった。ビデオの中でアイがタッチパネルにふれるとき、指の背で触れていた。それはなぜかと、私は質問をした。何となくその質問がうれしそうで(私にはそう見えた。そういうとき質問をした自分が得意になってしまう。)、ナックルウオークとの関係で答えて下さった。少し専門的な内容に及ぶこともあるが、写真を見ながら、実験の様子を想像したり、いろんなエピソードを読むのは楽しい。ぜひ本書を通して、我々の隣人チンパンジーのことを少しでもみなさんに知ってもらえるとうれしい。
ちょっと難しそうと思った方は、同じ著者の「チンパンジーはちんぱんじん」(岩波ジュニア新書)がおすすめです。 -
母校の先生が書いた本ということで手に取ってみた。人間以外の動物の社会構造に興味がある人にはきっと面白い本でしょう。道具の使用や鏡像の認識等、チンパンジーが見ている世界が、我々の世界とシームレスにつながっていることが想像できるので、個人的には非常に興味深かったです。